執筆のアドバイス
私は早速ノートパソコンを取り出して電源を入れた。起動するまで待っている間、東雲さんのほうを見ると、なぜか頬杖を突きながらニヤリと笑っていて……。なんだろう? 何か面白いことでもあったのだろうか? 疑問を抱きつつ、しばらく待つとパソコンが立ち上がってきた。パスワードを入力する画面が表示される。私は『yuki』と入力してログインボタンを押した。すると、デスクトップ画面にいくつかのアイコンが表示された。その中にテキストエディタがある。私はそれをクリックして新しいウィンドウを開いた。
「それで、まずはどうすればいいですか?」
「そうだね……」
東雲さんは腕組みをして考え込んだ。どうやら真剣に考えてくれているらしい。その様子はとても頼もしく見えた。
「最初は登場人物の設定を決めてみるのがいいんじゃない?」
「なるほど。登場人物ですね」
私はメモ帳を開いて書き込んでいった。
「ちなみにだけど、主人公の名前は決まってるの?」
「いいえ、まだ決めていません」
「そっか。じゃあ、先に名前を決めちゃおうよ」
「分かりました。主人公の名前は……」
私はそこで言葉を止めて考えた。主人公は女の子だ。年齢は十代半ばで、中学生という設定である。身長は百五十センチ弱くらいだろうか。髪の長さは肩にかかる程度で、色は黒。顔立ちはやや幼く見えるものの、可愛らしさもある。服装は動きやすい格好を好んでいる。趣味はお菓子作りと読書。家族構成は両親と妹がいる。そして、この物語の主人公には好きな人がいた。名前は……何と言っただろう? 確か、『ユウキ君』という名前だったと思うのだが。
「あの、主人公の名前が思いつかないんですけど……」
私は素直に相談した。
「え? そうなの?」
「はい。すいません」
「いや、謝ることないって。むしろ、そんなすぐに思いつくほうがおかしいし」
東雲さんは笑っていた。
「そうですかね?」
「そうだって。それに、そんなに気にすることないって。これから決めるんだし」
「そうですよね」
「うんうん。とりあえず、名前を考えてみようよ」
「そうします」
しかし、そう言われてもすぐに思いつかない。困ったなぁ……などと考えているうちに、ふと頭に一つの名前が浮かんできた。
「あ、そういえば」
「ん? 思いついた?」
「はい。主人公の名前は……『ユカ』でいきます」
「ユカちゃんかぁ。いいんじゃないかな」
「よかった。これで決まりです」
私はホッとした。なんとかなりそうである。
「じゃあ、次は恋人の設定かな」
「そうですね」
私は再びキーボードを叩き始めた。そして、しばらくしてから顔を上げた。
「あの、恋人ってどんな子にしましょうか?」
「うーん、どういう子がいいかな?」
「例えば、性格とか容姿の好みっていうか」
「そうだねぇ」
東雲さんは少しだけ考える素振りを見せた後、ゆっくりと話し始めた。
「主人公のことを好きになってくれる子だったら何でもいいんだけど」
「え? そうなんですか?」
「うん」
「でも、恋愛小説を書くなら、やっぱり恋愛対象として意識してくれるようなキャラクターにした方がいいんじゃ」
「まぁ、確かにそうなんだよね」
「……」
「でも、それなら最初から恋愛小説だって言っておけばいいんだよ」
「そういうものですか?」
「うん。恋愛小説を書いてます。だから、恋愛対象になる男性をお願いします。こう言えば、みんな真面目に考えてくれるはず」
「なるほど」
「それに、恋愛小説だからといって、必ずしも恋愛をするとは限らないでしょ?」
「たしかに」
「だから、そこはあんまりこだわらなくて大丈夫だよ」
「分かりました。じゃあ、そういうことにしておきます」
「うん」
東雲さんはにっこりと微笑んでいた。それから、私は主人公の名前、恋人役の名前を入力した。恋人役の設定だが、特に理由を決めなかった。強いて言うならば、なんとなくである。
「よし、それじゃあ書いてみよう!」
東雲さんの掛け声に合わせて、私はキーボードを打ち始めた。




