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林田力 短編小説集  作者: 林田力
東雲さん
17/103

小説家になりたい

「……そうですね」

私が答えるのと同時に店員さんが注文したラーメンを持ってやってきた。

「お待たせしましたー!」

私はラーメンを一口すすった。

「美味しいです」

「でしょ? ここのラーメンは本当に美味しいんよ」

「はい」

「次も一緒に食べに来ようね」

「え?」

「ん?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。いや、言葉の意味は分かるのだが、どうしてそんなことを言われるのか理解できなかったのだ。だって、そんなことってあるだろうか。

「いいんですか?」

「うん。いいよ」

彼女は当たり前のように言った。

「はい……」

私は彼女の顔を見ることができなくて、視線を落としたまま答えた。この店には彼女と二人きりというわけではない。他にも客がいるのだ。その人たちから見れば、私達の姿はどう映るだろう。まるで恋人同士みたいに見えるかもしれない。実際、カップルも多いようだ。もし誰かに見られていたら……。いや、きっと大丈夫だ。見られていないはずだ。そうだよね? そう信じて顔を上げると、彼女がこちらを見つめていた。目が合った瞬間、心臓が大きく跳ねた気がした。

「どうしたの?」

「いえ……なんでもないです」

動揺している場合ではない。私は慌ててラーメンを食べ始めた。そして、すぐに完食してしまった。スープまで飲み干すと、身体の奥底から温かくなってきたような感じがして、心なしか元気になったような気もする。

「ごちそうさまでした」

私は手を合わせた。すると、彼女はくすりと笑った。

「大げさだよ」

「でも、美味しかったんで」

「まぁ、そう言ってもらえるなら、店を案内した甲斐があったかな」

「はい」

私はうなずいた。それから、ふと思いついて尋ねてみた。

「あの、よかったらこの後少し時間ありますか?」

「うん、あるけど。どうかしたの?」

「いえ……ちょっと話したいことがあるというか」

私は迷っていた。言うべきか言わざるべきか。しかし、黙っているわけにもいかないだろう。それに、これは私にとって大きな転機になるかもしれないのだ。私は決心して切り出した。

「実は、小説家になりたいと思っているんです」

「えっ!?」

彼女は驚いて目を丸くしていた。当然の反応だと思う。私自身でさえ驚いたのだから。こんなことを言うなんて予想外だった。

「そうなんだ! すごいね!」

彼女は興奮気味に言った。

「ありがとうございます」

褒められたことが嬉しくて、つい笑顔になってしまう。

「どんな小説書いてるの?」

「今は恋愛小説を書いてます」

「へぇー、恋愛小説なんだ!」

「はい。一応、新人賞に応募しているんですけど、一次選考すら通らない状況で……」

私はため息混じりに答えた。すると、彼女は少し考える素振りを見せてから言った。

「それじゃあさ、私にアドバイスさせてくれない?」

「え?」

「私が書くの手伝ってあげるよ!」

「そ、それはありがたいですけど……いいんですか?」

「もちろん!」

「あ、ありがとうございます!」

まさかの展開だ。こんなことになるとは思ってもみなかった。だが、正直なところ、一人で悩んでいるよりはずっといい。彼女の助言があれば、突破口が見えてくるかもしれないからだ。それに、彼女ともっと話をする機会ができるというのも嬉しいことだ。こうして私は彼女――東雲杏里さんに執筆を手伝ってもらうことになった。


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