小説家になりたい
「……そうですね」
私が答えるのと同時に店員さんが注文したラーメンを持ってやってきた。
「お待たせしましたー!」
私はラーメンを一口すすった。
「美味しいです」
「でしょ? ここのラーメンは本当に美味しいんよ」
「はい」
「次も一緒に食べに来ようね」
「え?」
「ん?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。いや、言葉の意味は分かるのだが、どうしてそんなことを言われるのか理解できなかったのだ。だって、そんなことってあるだろうか。
「いいんですか?」
「うん。いいよ」
彼女は当たり前のように言った。
「はい……」
私は彼女の顔を見ることができなくて、視線を落としたまま答えた。この店には彼女と二人きりというわけではない。他にも客がいるのだ。その人たちから見れば、私達の姿はどう映るだろう。まるで恋人同士みたいに見えるかもしれない。実際、カップルも多いようだ。もし誰かに見られていたら……。いや、きっと大丈夫だ。見られていないはずだ。そうだよね? そう信じて顔を上げると、彼女がこちらを見つめていた。目が合った瞬間、心臓が大きく跳ねた気がした。
「どうしたの?」
「いえ……なんでもないです」
動揺している場合ではない。私は慌ててラーメンを食べ始めた。そして、すぐに完食してしまった。スープまで飲み干すと、身体の奥底から温かくなってきたような感じがして、心なしか元気になったような気もする。
「ごちそうさまでした」
私は手を合わせた。すると、彼女はくすりと笑った。
「大げさだよ」
「でも、美味しかったんで」
「まぁ、そう言ってもらえるなら、店を案内した甲斐があったかな」
「はい」
私はうなずいた。それから、ふと思いついて尋ねてみた。
「あの、よかったらこの後少し時間ありますか?」
「うん、あるけど。どうかしたの?」
「いえ……ちょっと話したいことがあるというか」
私は迷っていた。言うべきか言わざるべきか。しかし、黙っているわけにもいかないだろう。それに、これは私にとって大きな転機になるかもしれないのだ。私は決心して切り出した。
「実は、小説家になりたいと思っているんです」
「えっ!?」
彼女は驚いて目を丸くしていた。当然の反応だと思う。私自身でさえ驚いたのだから。こんなことを言うなんて予想外だった。
「そうなんだ! すごいね!」
彼女は興奮気味に言った。
「ありがとうございます」
褒められたことが嬉しくて、つい笑顔になってしまう。
「どんな小説書いてるの?」
「今は恋愛小説を書いてます」
「へぇー、恋愛小説なんだ!」
「はい。一応、新人賞に応募しているんですけど、一次選考すら通らない状況で……」
私はため息混じりに答えた。すると、彼女は少し考える素振りを見せてから言った。
「それじゃあさ、私にアドバイスさせてくれない?」
「え?」
「私が書くの手伝ってあげるよ!」
「そ、それはありがたいですけど……いいんですか?」
「もちろん!」
「あ、ありがとうございます!」
まさかの展開だ。こんなことになるとは思ってもみなかった。だが、正直なところ、一人で悩んでいるよりはずっといい。彼女の助言があれば、突破口が見えてくるかもしれないからだ。それに、彼女ともっと話をする機会ができるというのも嬉しいことだ。こうして私は彼女――東雲杏里さんに執筆を手伝ってもらうことになった。




