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林田力 短編小説集  作者: 林田力
短編
15/103

ポチと狼

むかし、あるところに一匹の子犬がいました。名前はポチと言います。ある日、お母さんから頼まれごとをされた子犬は、おばあさんの家に向かう事にしました。森の中を歩いていると、途中で狼に出会いました。しかし、その事に気が付いたのは子犬だけでした。なぜなら、狼は全身真っ黒で、とても大きかったからです。

(怖い。でも、ここで逃げちゃダメだ)

勇気を振り絞った子犬は、震えながらも立ち向かって行きました。すると、その様子を見ていた狼は、優しい声で話しかけてきたのです。

「お前、俺と勝負しようぜ」

「えっ?どうして?」

「ただの暇つぶしさ。嫌か?」

「うぅ……やるよ」

「よしきた。ルールを説明するぞ。俺はこの森を抜けようとする。お前は追いかけてくる。以上だ」

「それだけなの?簡単過ぎない?」

「そう思うか?だがな、これが意外と難しいんだぜ」

「ふーん。まあいいや。とにかく僕は行くね」

「おう。せいぜい頑張れや」

そう言って走り出した子犬は、すぐに狼の姿を見失ってしまいました。それでも諦めずに必死になって追い続けましたが、とうとう見つける事は出来ませんでした。

「はぁ……はぁ……やっと見つけた」

「よく来たな。それで、どこまで追ってきたんだ?」

「ここだよ。ここまでしか来れなかったんだ」

「なるほどな。つまり、まだまだ修行が足りないという事だ」

「そうなんだ……」

「そこで、特訓をしてみるか?」

「やった!する!」

「いい返事だ。では今から始めるが、準備は良いか?」

「いつでも良いよ」

「それじゃあ、いくぜ」

こうして始まった地獄の鬼ごっこ。それは、想像を絶するほど厳しいものでしたが、子犬は決して弱音を吐きませんでした。

「ほら、どうした。もっと早く走らないと捕まるぞ」

「くっ……」

「遅い。遅すぎる。そんなんじゃ一生かかっても無理だ。もっと本気で走れ」

「分かってるけど……」

「口答えをする余裕があるのか。だったらもう少しペースを上げるか」

「ちょ、ちょっと待って。これ以上速く走ったら死んじゃうよ」

「安心しろ。死ぬ前に助けてやる」

「そんな無茶苦茶な」

「文句を言う暇があったら、少しでも足を動かせ」

「もう限界だってばぁ」

「情けない奴め。仕方が無いな。少しだけ休憩するか」

「助かったぁ」

「おい、何を寝ている。まだ終わっていないぞ」

「えぇ!?」

「当たり前だろう。さぁ立て。続きを始めるぞ」

「もう勘弁してぇぇぇ!!」

こうして子犬は毎日毎日、休む間もなく鍛えられていきました。

「はぁ……はぁ……」

「どうした。もう終わりか?」

「そんな事無いもん……」

「ほう。なら、もう一回行ってみようか」

「うん……」

「そうだ。その調子でどんどん走っていけ」

「はぁ……はぁ……」

「どうした。息が上がっているじゃないか」

「だって……」

「言い訳は聞かない。ほら、さっきよりもペースが遅くなっているぞ」

「もうダメぇ……疲れたぁ……」

「まったくしょうがないな。今日はこれぐらいにしておいてやる」

「ありがとうございますぅ」

「礼は要らん。それよりも約束を忘れていないだろうな?」

「もちろん覚えてるよ。でも、本当にこんな事で強くなれると思えないんだけど」

「心配はいらないさ。お前には素質がある。だから必ず強くなる」

「本当かな?」

「あぁ、保証してやるとも」

「分かった。じゃあ、これからよろしくね」

こうして子犬は、狼の弟子になりました。それからというもの、子犬は今まで以上に厳しく指導されるようになりました。

「こっちに来い」

「はい師匠」

「違う。俺の名前は狼だ」

「ごめんなさい。つい癖で」

「まあ、いいだろう。それより、次は腕立て伏せだ。やってみろ」

「はい」

言われた通りに実行していくと、次第に身体が重くなっていくのを感じました

「よし、そこまでで良い。今日はここまでだ」

「え?でも、全然足りませんよ?」

「焦っても無駄だ。それに、お前はまだまだ成長途中なんだ。今は基礎を固めていく事が重要だ」

「分かりました」

「よし。それじゃあ、また明日な」

「はい。おやすみなさい」

こうして一日が終わると、子犬は眠りにつきます。そして、夢の中で狼と会うのです。

「おはよう」

「おう、起きたか」

「あれ?どうしてここに?」

「お前の夢の中に入り込んだのさ。そうすれば、いつでも会えるからな」

「そっか。僕に会いたかったんだね」

「ま、そういう事になるな」

狼は照れくさそうにしていましたが、子犬は気付きませんでした。

「ところで、今日は何を教えてくれるんですか?楽しみだなぁ」

「そうだな。まずは腹筋から始めるか」

こうして、二人の特訓が始まりました。

「ほら、頑張れ」

「うぐっ……」

「もっとだ。まだまだ出来るはずだ」

「む、無理だよぉ」

「弱音を吐くな。やればできる」

「あう……」

「どうだ。少しは楽になったか?」

「はい。なんとか動けるようになりました」

「上出来だ。それじゃあ、次に行くぞ」

こうして、特訓は続いていきました。子犬は日に日に強くなっていきましたが、それでも狼に追いつく事はできませんでした。

「はぁ……はぁ……」

「どうした。もう限界か」

「そんな事無い……」

「強情を張るな。無理をしても意味は無いぞ」

「嫌だ。僕は絶対に諦めない!」

「そうか……。なら、もう少しだけ頑張ってみるんだな」

「うん!見ててください師匠」

「あぁ、しっかり見ているぜ」

こうして、二人は更に厳しい修行を続けていきました。


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