ポチと狼
むかし、あるところに一匹の子犬がいました。名前はポチと言います。ある日、お母さんから頼まれごとをされた子犬は、おばあさんの家に向かう事にしました。森の中を歩いていると、途中で狼に出会いました。しかし、その事に気が付いたのは子犬だけでした。なぜなら、狼は全身真っ黒で、とても大きかったからです。
(怖い。でも、ここで逃げちゃダメだ)
勇気を振り絞った子犬は、震えながらも立ち向かって行きました。すると、その様子を見ていた狼は、優しい声で話しかけてきたのです。
「お前、俺と勝負しようぜ」
「えっ?どうして?」
「ただの暇つぶしさ。嫌か?」
「うぅ……やるよ」
「よしきた。ルールを説明するぞ。俺はこの森を抜けようとする。お前は追いかけてくる。以上だ」
「それだけなの?簡単過ぎない?」
「そう思うか?だがな、これが意外と難しいんだぜ」
「ふーん。まあいいや。とにかく僕は行くね」
「おう。せいぜい頑張れや」
そう言って走り出した子犬は、すぐに狼の姿を見失ってしまいました。それでも諦めずに必死になって追い続けましたが、とうとう見つける事は出来ませんでした。
「はぁ……はぁ……やっと見つけた」
「よく来たな。それで、どこまで追ってきたんだ?」
「ここだよ。ここまでしか来れなかったんだ」
「なるほどな。つまり、まだまだ修行が足りないという事だ」
「そうなんだ……」
「そこで、特訓をしてみるか?」
「やった!する!」
「いい返事だ。では今から始めるが、準備は良いか?」
「いつでも良いよ」
「それじゃあ、いくぜ」
こうして始まった地獄の鬼ごっこ。それは、想像を絶するほど厳しいものでしたが、子犬は決して弱音を吐きませんでした。
「ほら、どうした。もっと早く走らないと捕まるぞ」
「くっ……」
「遅い。遅すぎる。そんなんじゃ一生かかっても無理だ。もっと本気で走れ」
「分かってるけど……」
「口答えをする余裕があるのか。だったらもう少しペースを上げるか」
「ちょ、ちょっと待って。これ以上速く走ったら死んじゃうよ」
「安心しろ。死ぬ前に助けてやる」
「そんな無茶苦茶な」
「文句を言う暇があったら、少しでも足を動かせ」
「もう限界だってばぁ」
「情けない奴め。仕方が無いな。少しだけ休憩するか」
「助かったぁ」
「おい、何を寝ている。まだ終わっていないぞ」
「えぇ!?」
「当たり前だろう。さぁ立て。続きを始めるぞ」
「もう勘弁してぇぇぇ!!」
こうして子犬は毎日毎日、休む間もなく鍛えられていきました。
「はぁ……はぁ……」
「どうした。もう終わりか?」
「そんな事無いもん……」
「ほう。なら、もう一回行ってみようか」
「うん……」
「そうだ。その調子でどんどん走っていけ」
「はぁ……はぁ……」
「どうした。息が上がっているじゃないか」
「だって……」
「言い訳は聞かない。ほら、さっきよりもペースが遅くなっているぞ」
「もうダメぇ……疲れたぁ……」
「まったくしょうがないな。今日はこれぐらいにしておいてやる」
「ありがとうございますぅ」
「礼は要らん。それよりも約束を忘れていないだろうな?」
「もちろん覚えてるよ。でも、本当にこんな事で強くなれると思えないんだけど」
「心配はいらないさ。お前には素質がある。だから必ず強くなる」
「本当かな?」
「あぁ、保証してやるとも」
「分かった。じゃあ、これからよろしくね」
こうして子犬は、狼の弟子になりました。それからというもの、子犬は今まで以上に厳しく指導されるようになりました。
「こっちに来い」
「はい師匠」
「違う。俺の名前は狼だ」
「ごめんなさい。つい癖で」
「まあ、いいだろう。それより、次は腕立て伏せだ。やってみろ」
「はい」
言われた通りに実行していくと、次第に身体が重くなっていくのを感じました
「よし、そこまでで良い。今日はここまでだ」
「え?でも、全然足りませんよ?」
「焦っても無駄だ。それに、お前はまだまだ成長途中なんだ。今は基礎を固めていく事が重要だ」
「分かりました」
「よし。それじゃあ、また明日な」
「はい。おやすみなさい」
こうして一日が終わると、子犬は眠りにつきます。そして、夢の中で狼と会うのです。
「おはよう」
「おう、起きたか」
「あれ?どうしてここに?」
「お前の夢の中に入り込んだのさ。そうすれば、いつでも会えるからな」
「そっか。僕に会いたかったんだね」
「ま、そういう事になるな」
狼は照れくさそうにしていましたが、子犬は気付きませんでした。
「ところで、今日は何を教えてくれるんですか?楽しみだなぁ」
「そうだな。まずは腹筋から始めるか」
こうして、二人の特訓が始まりました。
「ほら、頑張れ」
「うぐっ……」
「もっとだ。まだまだ出来るはずだ」
「む、無理だよぉ」
「弱音を吐くな。やればできる」
「あう……」
「どうだ。少しは楽になったか?」
「はい。なんとか動けるようになりました」
「上出来だ。それじゃあ、次に行くぞ」
こうして、特訓は続いていきました。子犬は日に日に強くなっていきましたが、それでも狼に追いつく事はできませんでした。
「はぁ……はぁ……」
「どうした。もう限界か」
「そんな事無い……」
「強情を張るな。無理をしても意味は無いぞ」
「嫌だ。僕は絶対に諦めない!」
「そうか……。なら、もう少しだけ頑張ってみるんだな」
「うん!見ててください師匠」
「あぁ、しっかり見ているぜ」
こうして、二人は更に厳しい修行を続けていきました。




