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林田力 短編小説集  作者: 林田力
短編
13/103

ただいま

その日の夜。私は家で一人、彼女の帰りを待っていた。

「ただいま」

玄関の方から声が聞こえたので行ってみると、そこには疲れ切った様子の彼女が立っていました。

「おかえりなさい。随分とお疲れみたいですね。何かあったんですか?」

「実は、ちょっと面倒なことに巻き込まれちゃって」

「巻き込まれた? どういうことです?」

「実は、今日の夕方頃、私がバイトをしている喫茶店に強盗が入ったの」

「ええっ! 大丈夫なんですか?」

「幸い怪我人は出なかったんだけど」

「そうですか。それは大変でしたね」

「うん。それで、どうしたらいいかな?」

「うーん。そうですねぇ。とりあえず、しばらくは様子を見てみてもいいかもしれませんね」

「そうよね。でも、このまま何もしないってわけにもいかないし……」

「でも、下手に手を出すと、かえって相手の思うつぼかもしれないですよ」

「じゃあ、どうすれば──」

「そんなに深く考えなくても大丈夫です。いざとなったら、また私が何とかしますから」

「ええっと、そうじゃなくて──」

「それに、あまり一人で抱え込まないでください。もしも、どうしても困ったことがあったら、いつでも相談に乗りますから」

「……ありがとう」

「いえいえ。それより、ご飯にしましょうか」

「そうね。そうしましょ」

私はそう言って台所に向かいました。そして、料理を作り始めたのですが、その時、ふとあることを思い出しました。

「あれっ?」

「どうかしたの?」

「いえ、何でもないんですけど……そういえば、この前、一緒に映画を見に行く約束をしたような気がするんですが、私の勘違いでしょうか?」

「えっ? 映画?」

「はい。今度一緒に見に行きたいなって思ってたんです。それで、確か電話をしてみたんですけど、繋がらなかったので、それで諦めたんです」

「そっか。ごめんね。最近忙しくて、なかなか電話に出られなかったの」

「そうなんですか。それは仕方がないです。でも、どうして急に?」

「うーん。まあ、色々とね」

「そうなんですか」

「うん」

「……」

「……」

「あの」

「ん?」

「もしかして、何か隠していませんか?」

「別に隠していることはないよ」

「本当に?」

「本当だよ」

「……」

「……」

「……わかりました。それなら、これ以上は何も言いません」

「ありがとう」

「でも、一つだけ教えてください。どうしてそんなに頑張れるんですか?」

「どうして?」

「だって、いつも一生懸命で、とてもすごい人なんですよ。それなのに、どうしてそこまでできるのか不思議でならないんです」

「私が頑張っているのは、自分がやりたいことをやっているだけだからだよ」

「自分のしたいこと?」

「そう。私は昔からずっと、誰かのために役に立ちたいと願ってきた。でも、私には何の才能もない。だから、せめて誰かの役に立てる人間になろうと思って、今まで必死にやってきたんだ」

「それが、今の自分なのですね」

「そう。だから、私はこれからも、誰かの手助けができる人間であり続けるつもりだ」

「そうだったんですね」

彼女は笑顔を浮かべていた。でも、それはどこか寂しげなもののように思えた。

「あのさ、もし良かったら、今度は二人で出かけようよ」

「二人?」

「うん。ほら、前にも言っただろ。君さえ良ければ、温泉に行きたいって」

「……」

「でも、無理にとは言わないよ。君には君の予定があるだろうから」

「……行きます」

「えっ?」

「私も温泉に行ってみたいです」

「……ありがとう」

私は彼女にお礼を言った。すると、彼女は嬉しそうにはしゃぎ始めた。

「やったぁ! これで温泉に入れる! 楽しみだな。どんなお湯なんでしょうね?」

「はははっ。期待して待っていてくれ」

私は彼女の頭を撫でた。彼女はくすぐったそうにして、私から離れた。

「もう、子供扱いしないでくださいよ」

「悪い。つい癖でね」

「まったく。ところで、今日は何を食べさせてくれるんですか?」

「そうだね。今日はハンバーグを作ろうと思っているんだけど、どうかな?」

「わあっ、いいじゃないですか。大好きですよ、そういうの!」

「そうか。じゃあ、腕によりをかけて作らないとね」

「お願いしますね」

「ああ」

それからしばらくして、私たちは夕食を済ませ、順番に入浴した。


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