ただいま
その日の夜。私は家で一人、彼女の帰りを待っていた。
「ただいま」
玄関の方から声が聞こえたので行ってみると、そこには疲れ切った様子の彼女が立っていました。
「おかえりなさい。随分とお疲れみたいですね。何かあったんですか?」
「実は、ちょっと面倒なことに巻き込まれちゃって」
「巻き込まれた? どういうことです?」
「実は、今日の夕方頃、私がバイトをしている喫茶店に強盗が入ったの」
「ええっ! 大丈夫なんですか?」
「幸い怪我人は出なかったんだけど」
「そうですか。それは大変でしたね」
「うん。それで、どうしたらいいかな?」
「うーん。そうですねぇ。とりあえず、しばらくは様子を見てみてもいいかもしれませんね」
「そうよね。でも、このまま何もしないってわけにもいかないし……」
「でも、下手に手を出すと、かえって相手の思うつぼかもしれないですよ」
「じゃあ、どうすれば──」
「そんなに深く考えなくても大丈夫です。いざとなったら、また私が何とかしますから」
「ええっと、そうじゃなくて──」
「それに、あまり一人で抱え込まないでください。もしも、どうしても困ったことがあったら、いつでも相談に乗りますから」
「……ありがとう」
「いえいえ。それより、ご飯にしましょうか」
「そうね。そうしましょ」
私はそう言って台所に向かいました。そして、料理を作り始めたのですが、その時、ふとあることを思い出しました。
「あれっ?」
「どうかしたの?」
「いえ、何でもないんですけど……そういえば、この前、一緒に映画を見に行く約束をしたような気がするんですが、私の勘違いでしょうか?」
「えっ? 映画?」
「はい。今度一緒に見に行きたいなって思ってたんです。それで、確か電話をしてみたんですけど、繋がらなかったので、それで諦めたんです」
「そっか。ごめんね。最近忙しくて、なかなか電話に出られなかったの」
「そうなんですか。それは仕方がないです。でも、どうして急に?」
「うーん。まあ、色々とね」
「そうなんですか」
「うん」
「……」
「……」
「あの」
「ん?」
「もしかして、何か隠していませんか?」
「別に隠していることはないよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「……」
「……」
「……わかりました。それなら、これ以上は何も言いません」
「ありがとう」
「でも、一つだけ教えてください。どうしてそんなに頑張れるんですか?」
「どうして?」
「だって、いつも一生懸命で、とてもすごい人なんですよ。それなのに、どうしてそこまでできるのか不思議でならないんです」
「私が頑張っているのは、自分がやりたいことをやっているだけだからだよ」
「自分のしたいこと?」
「そう。私は昔からずっと、誰かのために役に立ちたいと願ってきた。でも、私には何の才能もない。だから、せめて誰かの役に立てる人間になろうと思って、今まで必死にやってきたんだ」
「それが、今の自分なのですね」
「そう。だから、私はこれからも、誰かの手助けができる人間であり続けるつもりだ」
「そうだったんですね」
彼女は笑顔を浮かべていた。でも、それはどこか寂しげなもののように思えた。
「あのさ、もし良かったら、今度は二人で出かけようよ」
「二人?」
「うん。ほら、前にも言っただろ。君さえ良ければ、温泉に行きたいって」
「……」
「でも、無理にとは言わないよ。君には君の予定があるだろうから」
「……行きます」
「えっ?」
「私も温泉に行ってみたいです」
「……ありがとう」
私は彼女にお礼を言った。すると、彼女は嬉しそうにはしゃぎ始めた。
「やったぁ! これで温泉に入れる! 楽しみだな。どんなお湯なんでしょうね?」
「はははっ。期待して待っていてくれ」
私は彼女の頭を撫でた。彼女はくすぐったそうにして、私から離れた。
「もう、子供扱いしないでくださいよ」
「悪い。つい癖でね」
「まったく。ところで、今日は何を食べさせてくれるんですか?」
「そうだね。今日はハンバーグを作ろうと思っているんだけど、どうかな?」
「わあっ、いいじゃないですか。大好きですよ、そういうの!」
「そうか。じゃあ、腕によりをかけて作らないとね」
「お願いしますね」
「ああ」
それからしばらくして、私たちは夕食を済ませ、順番に入浴した。




