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林田力 短編小説集  作者: 林田力
短編
11/103

銅山銅吉どこにいる

「銅山銅吉どこにいる」

「ここにいる」

「何か用かい」

「用じゃない」

「用がないなら呼ぶんじゃない」

「ああ!?」

「こっちは忙しいんだからね」

「そうかいそうかい。忙しけりゃいいさ。じゃあなさよなら」

「そうですわね。あなたも少しはお考えなさいませ」

「何を考えろとおっしゃるのかしら?」

「二人で話したいことがある」

私は静かに言った。

「では、応接間で待っていてください。すぐに戻ります」

銅吉は渋々席を立った。

「誰が誰の娘だあ?」

「ごめんなさい。あなたを騙していたわけではないんです。ただ──」

そこで言葉を切る。それから銅吉は何か言い繕おうとしたのだが、私の方こそ言葉を失っていたのだ。私は何も言うことができなかった。

沈黙を誤解して取ったのだろう。

「こんなことになるなんて思ってなくて……ほんとうに残念だわ」

「私こそ、変な話に付き合わせてすみませんでした」

銅吉は俯いたままで言った。

「あの、もしよかったらこれから一緒に食事でもどうですか? もちろん私が奢らせていただきますよ」

「ありがとうございます。でも今日はちょっと都合が悪いんです」

「そうですか。それは残念ですね。それじゃまた今度」

「はい、ぜひ」

銅吉が部屋を出ていくまで、私は銅吉の後ろ姿を眺めていた。その背中にはどこか寂しげな雰囲気があった。私は一人になった後、しばらくぼんやりとしていた。やがて我に帰ると、自分の行動について考えた。なぜあんなことを言ってしまったのか自分でもよくわからない。だが、とにかく銅吉に謝っておきたかった。そしてできればもう一度話をしたかった。しかし、もう遅いかもしれない。私はため息をつくと、椅子に深く腰掛けて目を閉じた。


「おい、起きろ!」

誰かの声とともに肩を強く揺すられた。目を開けると、目の前に見覚えのある顔がある。

「あれ……ここはどこだっけ?」

「寝ぼけてる場合か! 早く逃げるぞ!」

「逃げるって何を言ってるんだ君は……うわぁーッ!!」

私は思わず悲鳴を上げた。なぜなら、目の前にいる男がいきなり服を脱ぎ始めたからだ。しかも上半身裸である。

「ちょ、ちょっと君! 一体何やってんだよ!?」

「うるさい黙れ! お前だって脱げばわかる!」

「だからどうしてそうなるんだ!?」

「そんなことより時間がない! 急ぐぞ!」

彼は強引に私の上着を引っ張った。

「分かったから引っ張らないでくれ! 自分でやるから!」

私は慌ててシャツに手をかけた。その時になって初めて気がついたのだが、彼の体には無数の傷跡があった。まるで刃物で切りつけたような生々しい痕だった。私はそれ以上考えるのをやめた。

「よし、行くぞ!」

「あ、ああ」

私達は廊下を走り出した。

「こっちだ!」

彼が手招きする方に走る。階段を駆け下りると、そこには見慣れない光景が広がっていた。そこは薄暗い地下道のような場所であり、壁や天井からは太いパイプのようなものが何本も突き出ている。そして床には大小様々な機械類が置かれており、それらはすべてケーブルによって接続されていた。

「なんだこれ……どういうことだ?」

「説明はあとだ! 今は逃げないと殺されるぞ!」

「殺され……え?」

振り返ると、そこに人影があった。

「やっと見つけたぜぇ」

男は不気味に笑っていた。男はゆっくりと近づいてくる。私は反射的に身構えたが、すぐにそれが無駄なことだと悟った。相手は明らかに素人ではない。おそらく武術の心得もあるはずだ。それにこちらの手札を知られている以上、下手な小細工は通用しないだろう。つまり、正面からぶつかるしかないというわけだ。

「さあ、おとなしくそいつを渡してもらおうか」

「断ると言ったらどうなる?」

「別にどうにもならねえよ」

「そうかい」

「ただし、痛い目に合うことになるけどな」

「それは困るな」

「ならさっさと渡せ」

「悪いがそういう訳にいかない」

「そうか」

次の瞬間、男の姿は私の視界から消えていた。

「くっ……」

かろうじて反応できたものの、完全には避けきれなかった。相手の蹴りをまともに受けてしまい、そのまま壁に叩きつけられる。衝撃で肺の中の空気がすべて吐き出された。一瞬意識を失いかける。だが、ここで倒れるわけにはいかない。

「へえ、今のを避けるとは大したものだな」

「お褒めの言葉どうもありがとう」

私は口元の血を拭いながら立ち上がった。

「しかし、どうやらあんまり余裕はなさそうだな」

「そうでもないよ」

「強がりを言うな。どう見ても限界だろう」

「確かにね。でも、君を倒すくらいの力はあるつもりだよ」

「面白い冗談だな。俺を倒したければ、最低でもレベル50以上の装備が必要だ」

「残念ながら、私はそこまで強くはないんでね」

「まあいい。どちらにせよお前の命運はここまでってことだ」

そう言うと、男は懐から何かを取り出した。それは手の平に乗るほどの大きさをした黒い箱状の物体であった。

「それは……まさか」

「ご名答。こいつは爆弾さ」

「なぜ君がそんなものを持っている?」

「俺は何でも持っている」

「君の目的は何だい?」

「簡単な話だ。お前がそれを起動させる前に殺す」

「どうして私がそんなことをすると──」

「そんなことは知らん。ただ、お前がそれを手に取った時点で、俺達は終わりだということは確かだ」

「…………」

私は無言のまま、男の手元にある装置を見つめた。

「わかったようだな。じゃあ大人しくそいつを渡すんだ。そうしたら命だけは助けてやる」

「残念だけど、それだけはできない相談だ」

「そうか。じゃあ仕方ない」

「ああ」

「死ね」

男がボタンを押すと、突然、背後の壁が崩れ落ちた。

「しまった!」

私は慌ててその場を離れた。その直後、壁の向こう側から爆発音が聞こえてくる。

「ちっ、外したか。おい、逃げるぞ! 早く来い!」

男たちは慌ただしく走り去っていった。残された私はしばらく呆然としていた。

「とりあえず助かったみたいだな」

呟いた後で大きく息を吐いた。そして、先ほどの出来事について考えた。あの時、私は間違いなく死ぬはずだった。にもかかわらず、こうして生きているということは、誰かに助けられたということだろうか。

「いったい誰が……」

その時になって初めて、自分が何者かに抱えられていることに気づいた。顔を上げると、そこには見覚えのある少女の顔があった。

「君は……」

「大丈夫ですか、先輩」

彼女は心配そうな表情で私を見ていた。


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