表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第七話「勘違い勇者」

ゴクン、ゴクンとハルトを丸呑みした尻尾が鼓動して精力を吸い取っていく。



「ふふ、あはは!!

少し吸い取っただけでこの力! さすがは召喚勇者ね!」



力がみなぎっていく感覚にエリスは笑いが止まらない様子。

エリスの尻尾がさらに大きく肥大化していくのが目に見てわかる。



「すさまじい力だわ……! 力がみなぎっていくのが直にわかる!」

「……今なら私一人で国を落とせそうねぇ!」



怯える私に向かってニヤリと笑うエリス。



「さて、あなたはどうするのかしら?

勇者を喰らった今、もうあなたに用はないわ。今なら見逃してあげない事もないわよ」

「………」

「王宮に戻って国王に無様に報告する事ね!

私は誰も救えなかったってね!!」



目の前でハルトを失った私を嘲笑っているエリス。

心が押し潰されそうな絶望感に苛まれる。

ーーーそれでも。



「……逃げない」

「はぁ?」

「……私は逃げない!!」



私は折れた左足を無理矢理動かし立ち上がり

精一杯の去勢を張った。



「もうこんな思いはごめんだ」



私は思い出す。

魔王軍に連れ去られた時のオリビア姉さんの笑顔を。

オリビア姉さんのように笑ったハルトの笑顔を。



「見ているだけの私に戻りたくないから。

ここで逃げたら、私は私を許せなくなる!

なりたい私になるために! それが私が命をかける理由だ!!」



私は全身の力を振り絞り、杖を構える。



「あ、そう。

じゃああなたで、勇者を喰らったこの力を試させてもらおうかしら!!」



エリスが私に向かって襲いかかろうとしたその瞬間。

……!!

エリスが尻尾に違和感を感じ、立ち止まった。


「?!」

「(おかしい、彼の精力はもうほとんど吸い切ったはず! それどころかさっきより膨大な量が流れ込んできている?!)」

「ぐっ?!」



体内に違和感を感じて倒れ込むエリス。

私は何が起こっているのか把握出来ずにいる。



「(まさか、私の許容量が?!)」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」



一度に吸収できるエネルギーの限界を超え、エリスの尻尾が破裂した。

大きな破壊音と共に爆風によって部屋中のホコリが部屋を覆う。



「?! 一体なにが起こってるの」



視界が遮ぎられ、目の前で何が起こっているか分からない私。

それでも、懸命に目を凝らしてみると、煙の中から人影が見えてきた。





「……まったく、服がダメになっちまった」





盛り上がった大胸筋に、メロンのように丸みを帯びた三角筋、そして板チョコのように6つに割れた腹筋。


見事な逆三角形の体型をした全裸のハルトが現れた。

先程とは比べ物にならないほど、マッチョである。



フッ!とハルトが指で弧を描くと、

粘液まみれだった体は、輝く光で粘液が蒸発していく。

そして、服がダメになったと落ちていたシーツを下半身にまいたハルト。



「くっ…! 急に体格が変化した?! あなた一体何者なの?!」

「ん? 俺? 俺はあなたをオトす男だ」



そういい、ハルトはエリスを指さして決めポーズを決めた。

何だコイツの自信は。

さっきまでただの童貞だったくせに。

ムキムキな体を手に入れて、ちょっと気が大きくなってるのだろうか。


私が呆気にとられていると、ハルトはこちらを向いて「すぐに終わらせる」と、私にウインクを飛ばしてきた。

どうやら気持ち悪いところは変わってないらしい。



「終わらせる? さっきまでまるで私に歯が立たなかった男が何を言ってるのかしらね!」



エリスは吸収したハルトの力を使い、体を巨大化させ、魔物のような禍々しい姿に変身した。

サキュバスのナイスバディは見る影もない。


巨大化したエリスはハルトめがけて大きな腕を存分にふるい、殴りかかってくる。

ドコォォォォ!!!!

エリスのパンチの衝撃で地下室が大きく揺れた。



「くっ!なんて、威力……!!」



私もパンチの衝撃に巻き込まれて、体勢を崩す。



「ふは! 口ほどにもないわね!」



エリスは大きく裂けた口で豪快に笑う。

徐々に煙がはれ、抉れた床を見るとそこにはハルトの姿はなかった。



「いない?!」

「こっちだよ」



ハルトはエリスの背後に回って、ニヤリと笑って腕組みをしていた。



「なっ?!」



驚き、振り返るエリス。



「くっ!!(あれをかわしただと?!)」



エリスは動揺しつつも、一気にラッシュを仕掛ける。

目を閉じて拳の雨を避けまくるハルト。

ものすごく余裕の様子だ。

そして、ハルトは一瞬で私の前に現れる。



「少し、この杖借りるぞ……」



私が落としていた杖を持っていき、エリスの頭上に瞬間移動して呪文を唱え始める。



「ーーー?! いつのまに!?」



エリスが頭上のハルトに気がついた頃にはすでに遅く、ハルトの周りに無数の稲妻が収束し、魔法が放たれんとしていた。



「……テラボルト!!」



ハルトから発せられた呪文と共に、無数の稲妻がエリスに向かって降り注く。



「ぎゃああああ!!!」



無数の稲妻に当てられたエリスは断末魔のような悲鳴を上げた。



「嘘でしょ……あのエリスを圧倒している?!」



私は信じられなかった。いくら召喚勇者だからといっても最上位の雷魔法を放てるようになるまでの急激な変化はそうありえない。



「……そうか! ユニークスキル!」



私は自身の「鑑定スキル」でハルトのステータスを確認してみる。



固有スキル:『童貞』



そこに書かれていたのは『童貞』という見たことないスキルだった。

スキル説明欄にはこう書かれていた。




『全てのノーマルスキル、レアスキル、スペシャルスキルを取得することは出来ない。

しかし、ある条件をクリアすると一時的にジョブ(職業)が賢者にジョブチェンジする。』




スキルの説明文を確認して、私はハルトの職業を確認してみる。

すると旅立ちの時、国王から授けられていた『勇者』の職業が『賢者』に変化していた。


ハルトはユニークスキルを授けられていなかったわけではなかったんだ!

本人も自覚してないだけで発動条件がある特殊なスキル!

死の淵まで追い込まれた事により、ユニークスキル『童貞』が何かの拍子に発動した?!



「くそ!! なんで当たらない!?」



エリスの一発一発が致命傷になり得るパンチの雨を掻い潜って懐に入るハルト。



「その姿はあなたには似合わない」



ハルトは光を宿した杖先からエリスの腹部に向かって光球を繰り出す。



「ぐふっ!!」



ハルトの魔法を食らったエリスは、腹部を押さえてうずくまる。



「ぐっ! この程度の攻撃ーーーー!!?」



体に異変を感じたエリスが、口から精気を吐き出し、みるみる体が小さく縮み始めて元のサキュバスの姿に戻った。



「……ハァ、ハァ」



荒い呼吸でうずくまるエリス。

あっという間に、完全に形勢は逆転していた。



ーーーもしかしたら、私は勘違いしていたのかもしれない。



「……これでわかっただろう」

「くそっ……!」

「あんたじゃ俺には勝てない」



腕組みをしてエリスを見下ろすハルト。



ーーー私が勇者だと認めなかったアイツは

本物の、世界を救う勇者だということを。

ご覧頂きありがとうございました。


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

作品の感想やコメントもお待ちしております!

ぜひよろしくお願いします!


次回、第八話「勘違い勇者②」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ