第四話:冒険の終わり
翌日
「変態勇者〜! そろそろ次の街に出発しますよ〜」
酒場の寝室を借りて一泊していた私は私達。
私は冒険の支度を終えて、上階からあくびをしながら酒場まで降りる。
次の街へ旅立つためにハルトを探していた。
するとハルトは営業前の静かな酒場に一人黙ってカウンターの席に座っている。
「……ねぇ?聞いてるー?」
「……」
黙ったままのハルト。
いつになく真面目な様子のハルトを見て少し戸惑う。
「……座ってくれ。大事な話がある」
隣の椅子を勧められて、そこに私は座る。
普段見ないハルトの雰囲気に少し居心地が悪く感じてしまう。
「俺たちは魔王討伐という目的のためあつまり、こんなところまできた……」
「いや、まだ最初の村なんだけど」
「……」
沈黙があたりをつつむ。
「しかし!! 俺たちの冒険はここまでのようだ。 俺は勇者を辞めようと思う!!」
……ん?
一瞬、私の頭が思考することをやめた。
そして冷静になり、言葉の意味を理解してもそれでも何を言ってるかわからない。
「……は、はぁ?! 何言ってんの?」
「オリビア姉さんを助けてお嫁さんにするんじゃなかったの?!」
冗談だろうと私は聞き返してみる。
「まさか、童貞卒業するのが怖くなったとか?」
「……本当に申し訳ないと思ってる」
いつもなら喧嘩になりそうな憎まれ口を叩いても
ハルトは申し訳なさそうに下を向いたまま様子。
なんだコイツの反応は。割とマジっぽい。
「国はどうするの?! お父さんの期待は?!」
「いやだから本当に申し訳ないって……」
「お父さんだけじゃないよ! 送り出してくれた国民みんなの期待は?! あなたはみんなの期待を背負ってるんだよ!」
「……」
「……本当にごめん。俺はこの村を離れられない」
私はヒートアップした気持ちを一度、抑える。
「……ねぇ、せめて理由を聞かせてよ。理由がないと私も納得出来ない」
「……」
私の言い分に納得したのかポツリとハルトが話し始める。
「……ったんだ」
「え?」
上手く聞き取れなくて聞き返してみる。
「エリスさんのことが好きになってしまったんだぁ!!!」
大声で叫ぶハルト。
「はぁ〜〜??!!」
ハルトよりも大きな声で私も叫ぶ。
「そう、俺はエリスさんと恋に落ちてしまった!!」
目をとじ、心臓を押さえて鼓動を感じているハルト。
「ちょっとまって何言ってるかほんとにわかんない!」
頭の理解が追いつかず私は頭を抑える。
「あの人は俺がいないとダメなんだ!!」
「いや、怖い怖い怖い!!」
本気で言っているハルトに軽い恐怖すら感じる。
「俺がそばで支えてあげなきゃ、このまま彼女は自分自身を大切にしないままなんだよ!」
「ど、どういうこと?」
「見ただろ、彼女の状況を! 心も体もボロボロなんだよ。あんな状態のエリスさんをお前はほっておけるのか!?」
私も彼女が置かれている状況に納得したわけではない。
でも……
「俺がそばにいれば、店を手伝ってあげられるし、襲ってくる男を追い払ってやれるんだ!」
それはもしかしたらそうかもしれない。
でも……
「だからっ!」
「いい加減にしてよ!!」
ハルトに向かって私は怒鳴る。
今までにないほどに、感情がぐちゃぐちゃだった。
「あんたは私が召喚した勇者でしょ?
一体何のために召喚したと思ってるのよ!」
「……………。ごめん」
さっきから誤ってばかり。コイツは言い合いをする気さえない。
もう答えが決まっているから。なんて勝手なやつなんだ。
「もういい!勝手にすれば!!」
私は感情を抑えきれられずに、荷物を背負って酒場を出ようとする。
「……やっぱり思った通り。
あんたが勇者なわけない! 私はあんたなんか認めない!」
そう捨て台詞をはいて私は酒場を飛び出した。
「……」
ハルトは一人静かな酒場に取り残された。
「ぐっ……えぐっ」
私は街の大通りを走っていた。
悔しくて涙が止まらない。
あんなやつのために涙なんて流したくないのに。期待なんてしていなかったはずなのに何故か、涙は止まらなかった。
人の目が気になり、私は気持ちを落ち着かせるために路地裏に身を隠す。
「何よ、あのバカ勇者!
あんなの召喚なんかするんじゃなかった!」
立つ気力さえ、失せた私は路地の壁にへたり込み、足を抱えて座り込む。
「……オリビア姉さん、会いたいよ」
思い出したのは拐われたオリビア姉さんとの記憶だった。
半年前ーー。
「何が魔法使いだ!!」
国王の怒鳴り声が王の間にひびく。
私はまただと耳を塞いで聞かないふりをしていた。
「やっと王宮に戻ってきたと思ったら魔法使いになりたいだと? ふざけるな!
お前はもっと一国の姫らしくしなさい!」
何度も聞いてきたセリフだった。
「私は魔法使いになりたいの!!
魔法学院だってお父さんに言われた通り首席で卒業した!」
「私はずっと王宮のなかで閉じ込められているようなお姫様になんかなりたくない!」
「なに〜!!
ソフィアを部屋に閉じ込めておけ! しばらくは外出禁止だ!!」
私が魔法使いになりたいと言い出した時から毎度のやりとりだった。
父は私が魔法使いになる事に反対していた。
自室のベットの上で膝を抱えて私は泣いていた。
そこにノックがして、「入ってもいい?」という美しい声が響く。オリビア姉さんだった。
私が泣いて部屋に塞ぎ込んでいる時は決まって
オリビア姉さんは来てくれた。
オリビア姉さんの声は、聞くだけでどこか安心できるような。そんな不思議な魅力を持つ人だった。
「また派手にケンカしたわね」
オリビア姉さんは私の隣に座って、「あなたに涙は似合わないわ」とハンカチで涙を拭ってくれる。
「だってお父さんが……」
「あなたのことが心配なのよ」
「そんな事ない! お父さんはきっと私のこと嫌いなんだ!」
「ふふ、そんな事あるわけないわよ」
オリビア姉さんは優しい笑顔で微笑む。
わかっている。それでもオリビア姉さんから聞く事でいつも安心できた。
「大丈夫。あなたはちゃんと愛されてる。
だから心配しないであなたの好きなようにやってみなさい」
「そうすれば、きっといつかお父様も認めてくださるわ」
「……オリビア姉さん」
優しく私の頭を撫でてくれる。
「それに家のことは心配しないでいい。私がいるんだから。だからあなたはなりたいものを目指しなさい」
「……うん、ありがとう、オリビア姉さん」
「ちゃんとすごい魔法使いになるのよ?
私が女王に即位したらあなたに守ってもらう予定なんだから」
「うん!任せといて! 私が姉さんを絶対守るよ!」
私達は笑い、そして誓い合った。
オリビア姉さんはいつも私を助けてくれた。自分のことを犠牲にしてでも、誰かを助けられる人だった。
だからあの時もーー。
私は断片的に思い出す。
オリビア姉さんが魔王軍に連れ去られたあの日を。
燃える王宮。
城下には人々の悲鳴が鳴り響いていた。
目の前で魔族にオリビア姉さんが連れ去られていくのを私はクローゼットの隙間から眺めることしか出来なかった。
「あなたは私が守るわ」
そういい、私に心配をかけないように笑顔を向けてオリビア姉さんは連れ去られていった。
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第五話:「エリスの秘密」