第三話:出会い
国をあげて国民達から見送られ、リア王国を旅立った私達は、始まりの村「トータスの村」にたどり着いていた。
「ふうー!やっと着いたか!
へぇ〜、これが異世界の村かー!」
周りを見渡すハルト。
この村は街というほどの規模はないが
王都から旅立つ冒険者が多く立ち寄るため、賑わいを見せていた。
「えへへ、可愛い子がいっぱいだぁぁ。さすが異世界」
とニヤニヤしながらハルトは冒険者であろう女性達を目で追いかける。
「ねぇ!目的を忘れてないでしょうね!
まずは魔王軍の情報を村人や冒険者に聞きこみするんだからね!」
変態勇者のアホ面を見かねた私は、親切にも目的をもう一度教えてあげた。
すると、はいはい、わかってるよと相槌をうち
それでもまた冒険者の女の子に目移りするハルト。
……こんの、童貞がぁ。
「ああ!? 聞こえてんぞ!!」
どうやら心で思っていた事が口に出ていたようだ。
はぁ、なんでこんな奴と旅をする事になっちゃったのだろうか……。
「先に言っておくけど、泊まる宿屋は別々の部屋だから! 万が一でも私に手を出してみなさい、磔にして大衆の面前に晒してやる!!」
私は杖の先をハルトの首元まで突き出して忠告する。
「バ、バカやろう!! そ、そういうことはまず、結婚してからだなっ……」
ハルトは照れて口籠る。
やっぱりコイツは重度の童貞だと再認識する私。
「てか、誰がお前みたいなクライミング技術必須系女子を襲うかよ!!
「はぁぁ?! 女の子を襲う度胸もないこの腐れ童貞のくせに!!」
「ーーー!」
すでに定番と化した言い合いをしているとハルトが、何かを感じとったように周りを見渡しはじめた。
「! ど、どうしたのよ?」
「どこからか、助けを求める女性の声がした!」
ハルトは、声の出どころを見つけたのか、突然走り出す。しかし、近くに事件が起こっている様子も助けを求めているそんな女性も見つからない。
それでも迷いなく走っていくハルトを私は後から追いかける。
「え?! ちょっとまってよー!」
「ん…んんっ!」
私たちは薄暗い路地裏にたどり着いていた。
そこには体を押さえつけられている大人の女性と
今にも女性に襲い掛かろうとしている、あきらかに正気の様子じゃない、目の血走った男がいた。
男は、女性の被服を破り、今にも女性の体を貪ろうと襲いかかろうとしている。
しかし、間一髪。ハルトの拳が間に合い、男を殴り飛ばした。
殴り飛ばされた男は、意外とあっさりと意識を失い
地面に横たわったまま、気絶した。
「なんだあいつ!」
状況がのみこめない棒立ちの私達を傍目に、安心したのかへたりこむ女性。
「大丈夫ですか!?」
私は女性の元に駆け寄る。
近づいてみると、ビリビリに破られた服の間から豊満なバストがチラリと見え、中々きわどい状態の女性。
大人の色気溢れた艶感ある肌に、思わず私達も喉を鳴らす。
私は自分のローブを女性に急いでかけてあげる。
女性はありがとうと震えた声で私にお礼を言ってくれた。
「一体何があったんです?」
私は少し落ち着いてきた様子の女性に聞いてみるとする。すると、
「気にしないで。よくある事だから」
何事も無かったかのように立ち上がる女性。
……え、よくある?
と私達は衝撃的な女性の発言に軽く引く。
「それより助けてくれてありがとう。
私はエリスといいます。近くで酒場を経営してるの。ぜひ、そこでお礼をさせてちょうだい」
ありがたい申し出だったが、私達は急いでいる身。
早くオリビア姉さんを助けに行くために甘えるわけにはいかない。
私が断ろうと躊躇している少しの間にハルトが割り込んでくる。
「もちろん行きます! あなたのためならどこまでも!」
エリスの手をとり、目を輝かせているハルト。
はぁ……。
私は深くため息をつく。
先程助けたエリスの酒場に着いた私達。
カウンターに私達は招かれる。
「さっきは本当にありがとうね。助かっちゃたわ」
「当然ですよ!」
エリスが出してくれたドリンクを片手に無駄にテンションの高いハルト。
「……さっきのよくあるって一体、、」
私は意を決してエリスさんに聞いてみる。
「あはは、血気盛んな冒険者の男の人が酒場に来るんだけどね、我慢できないって襲われることがたまにあるのよ」
「アナタを襲いたくなる気持ち……わかります!」
アホな相槌を打つ変態勇者ハルト。
私にはそんな気持ちはわからない。
「そんなのつっぱねたらいいじゃないですか!」
「……そうだけど〜、大切なお客様だからね」
困った様子で苦笑いするエリス。
「さぁ、さぁ! そんなことより!
いっぱい飲んで食べて! 今日はもちろんお金取らないから! ゆっくりしていってくださいね〜」
エリスは他のお客さんに呼ばれて行ってしまう。
彼女は忙しなく店の中を走り回って、店に訪れてくる
冒険者や村人の接客をしている。
見たところ、一人で酒場を切り盛りしているようだった。
「彼女はなぁ、苦労してんだよ」
隣で酒を一杯煽っていた豪快そうな見た目のおじさんが話に入ってくる。
「この酒場はな、結婚していた亡くなった夫と一緒に経営してたのさ。けど、5年前に出先で夫が魔物にやられちまってな。それ以来一人でこの酒場を切り盛りしてんだよ」
「……」
「一人じゃこの店は大変だろうに……。まだきっとあの男のこと忘れられねぇんだろうなぁ」
悲しそうに手に持っていた一升瓶をグイッと煽るおじさん。
「……そんな事が」
私は思わず聞き入ってしまうが、私の隣で涙を流して呻き声を上げて号泣しているハルトを見て、私の涙はすぐに引っ込んだ。
「こうしちゃいられない! 俺手伝います!!」
ハルトはエリスの元に駆け寄っていった。
「……はぁ、また遠回り」
また私はため息をつく。
そんな私の様子を見て、隣のおじさんが私の空いていたグラスにお酒を注いでくれた。
人一倍誰よりも働くハルトのおかげか店は大盛況。
いつもより賑わいを見せていたようだった。
そして数時間後ーー。
店は閉店し、ハルトとエリスは酒場の後片付けをしていた。台所で皿洗いをしている二人。
「…ありがとね、すごく助かったわ。お客さんもとても喜んでくれてたみたい」
「いえ、エリスさんの話を聞いたら、いてもたってもいられなくて……」
「……やだ! もしかして私の昔話きいたの?
本当バカよね、死んだ昔の男引きずっていつまでも……」
そんなことない!と否定するハルト。
少しの間、二人の間に沈黙が流れる。
「……この酒場はあの人の形見なようなものだから。
適当な男の人には入ってほしくなかったの。……でも」
洗っている手を止め、ハルトを見つめるエリス。
「……え」
ハルトがエリスの顔を伺う。
「……あなたなら」
ぼそっと呟き、エリスはハルトの口元に優しくキスをした。
静かな空間に蛇口から水滴が垂れる音だけが響きわたる。
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次回、第四話:冒険の終わり