第二話:Hカップ
「いや〜まさか、自分が異世界召喚されると思わなかったよね、まったく。え? 部屋で全裸でなにしてたって? それはもちろんナニだよ!」
渡された服を着ながら、平然と語るこの男。
どうやら名前はハルトというらしい。
まったく、私はなんてものを見せられたんだ。
勇者ハルトの第一印象はとにかく最悪だった。
「ゴホン、さっき説明した通りだ。ハルト殿。
勇者として姫を救い出し、この国を救ってはくれぬか?」
カオスと成り果てていたこの場を取りまとめた国王はこれまでの状況を簡潔にまとめてハルトに説明した。
「……」
しっかり服装を整えながら聞いていたハルトは俯き黙ったまま。
「も、もちろん! 恩賞は与えよう!
この国で一生の生活、地位、名誉を保証しよう! お主を称える銅像をつくり、後世に語りつがせようじゃないか!」
芳しくないハルトの表情を見て、国王は今、出来るだけの報酬を伝える。
それでもハルトは黙ったまま、何も話さない。
「……まったく、安く見られたもんだな
この俺がそんなもので動くとでも?」
ハルトの凄みに王の間全体が緊張に包まれる。
とてつもない力を宿している事が肌をつたって伝わってくる。
私は背筋がヒヤッとした。
そうだった。彼は私が召喚したとはいえ、強力なユニークスキルを持った勇者なのだ。
どんな変態だろうと気に入らなければ私達になんかに協力しない。私達は今、圧倒的に弱い立場にいる。
「こ、この国にはこれ以上のものはないはずだが……」
「フン。地位や名誉に固執する人間はつまらない人生を送るもんだ」
「……な、なるほど」
先程、下半身丸出しだった変態から出た言葉とは思えないほどまともで、あろうことか、深みのある言葉に虚をつかれた私達。
この男は思ったよりもしっかりと勇者なのかもしれない。
第一印象がアレだっただけに、私達は変な先入観であいつを見ていたのかもしれないと思わされる。
「……俺が欲しいもの、それは一つしかない」
ハルトが静かに話し始めると空気が重く感じ
場が緊張感に包まれる。
「……申してみよ」
国王が絞り出した言葉だけが部屋の中に響き渡る。
するとゆっくりとハルトは口を開いた。
「……童貞を卒業したいです」
……は?
私達は言葉の真意を理解出来ない。
コイツは一体何を言っているんだ?
私は初めてみんなと心を通わせる事が出来たんじゃないかと思った。
「ど、どうてい?」
念のため私は聞き返す。
「童貞だよ、おれの童貞! 童貞を卒業したいの!」
そんなにいばって言うことだろうか。
「…ふ、ふざけないでください! あなたのくだらない冗談に付き合っている余裕はないんですよ!」
「ふざけてないぞ!
俺は童貞を捨てるため今まで様々な努力をしてきた! 例えばーー」
「だぁー!! 言わんでいい!!」
デリカシーのかけらもないバカ勇者の言葉を私は遮る。
どんな言葉が出てくるかわかったもんじゃない。
「で、では、今すぐに童貞卒業の手配を!!」
おかしくなったのか、従者にバカな命令を下す国王。
「ふ、バカにされちゃ困るぜ。 誰でもいいわけじゃないのさ」
「……?」
ハルトは指を左右に振り、ちがうちがうと合図してくる。
「俺はちゃんと恋愛をして童貞を卒業したい!」
「めんどくさ!」
王の間にいた全員からツッコミを入れられるハルト。
「童貞のくせに変なプライド持ってんじゃないですよ! だから童貞なんですよ!」
「うるせぇ! 2回も言うな!」
……呆れた。この勇者は思っていた以上にめんどくさい。
「……なるほど、勇者殿。では、こういうのはいかがだろう。魔王を討伐したあかつきには、ソフィアをお主に嫁がせ、王族として迎え入れるというのは」
王の言葉に周りはざわつく。
「はぁ?!何いってるのですか?!」
もちろん私も黙ってはいない。
たとえ、すごい力を秘めた勇者だからと言って
こんな奴と結婚するくらいなら、世界が滅亡した方がマシだ!
「あ、ペチャパイはちょっと……」
ハルトは私の胸元を横目に見て、ため息をついた。
「はぁ?! 誰がペチャパイよ!! 私だってあるわよ! 谷間が!!」
聞き捨てならない言葉に私はすかさず反論し、少し胸元を強調する。
「谷っていうか、お前の場合は崖だろ」
「はぁぁあ?! 誰の胸元が崖よ!! 言っていい事と悪い事があるでしょうがぁぁぁ!!!」
「本当の事なんだから仕方ねぇだろうが!! 俺には崖を駆け上がる趣味はねぇぇ!! 俺は年上の巨乳お姉さんが大好きなんだぁぁ!!」
「知らんわぁぁぁ!!」
白熱する私とハルトの言い合いを傍目に国王はため息をつく。
「で、では、第一王女のオリビアに嫁いでもらうとしよう」
代替案を出す国王。
「だから誰でもいいってわけじゃ…」
流石のハルトも首をかしげるが、そんなハルトに向かって国王は呟く。
「……Hカップ」
「え?」
王の言葉に私達は理解が追いつかない。
「我が娘オリビアはHカップなんだぁあ!!!」
国王はハルトにオリビア姫の写真を見せた。
豊満なバストを持ち、美しい顔立ちをしている私の姉を見てHカップと絶句している変態勇者。
「しかも、めっちゃ美人じゃねぇか」
「そうだ。この国一の美女だ!」
自慢げな表情の国王。
娘の胸の大きさを当然のように知っていることにはこの際、触れないでおく。
「オリビア姫を救ったのならば、オリビア姫はお主のもの。その後何をしようと私は目をつむろうではないか」
「へへへ。まぁ、結婚するんならいいか……」
いかがわしい表情で妄想に耽っている様子のハルト。
「お父さん! 何勝手に決めてるのですか!」
あの清純なオリビアをこんなゲス野郎に渡してはいけないと思った私は、国王に意義を唱える。
「これも助けに行ってもらうためだ! 一刻も早く助けに行く事が重要だろう? それにこれはただの口約束。婚姻の事は全て解決した後に考えればいい」
ぐぬぬ……と上手く言いくるめられた私は腑に落ちないまま引き下がる。
やったー!と大喜びしている変態勇者、ハルト。
国王はハルトの方へ向き直り、手をかざした。
「では、ハルト殿には、勇者のジョブ(職業)を与えよう」
国王が念じると、ハルトの頭上に『勇者』という表記が現れた。
「ゴホン、あらためて、勇者ハルト殿。
オリビア姫を助け、世界を救ってくれるか?」
「ああ、約束しよう。姫様のHカップに誓って!」
「ここに、世界を救う勇者が誕生したのだ!!」
「おおお!!!」
国王の叫びに騎士達も歓声をあげて盛り上がる。
Hカップ!Hカップ!というコールが王の間に鳴り響く。
一体これはどういう状況だろう。
「……なにこの茶番」
騎士達が騒ぐ中心に高々と拳を掲げてカッコつけているハルトを見て私は思う。
「……こんなやつ私は認めない!」
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次回第三話:「出会い」