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5.婚約

「なんでダメなんですか?」

 

「なんでって、可愛いマーガレットが変な男に絡まれたりしたら大変だろう」


 シスコンお兄様にも困ったもんだわ。

 今夜行われるダリルの騎士団長就任祝パーティーに参加したい私と行かせたくないお兄様。就任式見物から戻って、ずっとこんな感じだ。


「お兄様がご一緒してくださるんですから、大丈夫ですよ」


「それでもどこで悪い男が狙っているか分かったものじゃないからね」


 大丈夫なんだけどなぁ。だって私はお兄様が思ってるほどモテたりしないから。


 基本的に私は夜会や舞踏会に出席することはない。それは私の家族が過保護で、危険だからと私を人が集まる場所から遠ざけているためだ。


 アーサーの婚約者になってからも、結婚するまでは我が家の娘だと父が主張し、ほとんどアーサーに同伴することはなかった。


「でもお兄様、私、パーティーに出席してダリルをお祝いしたいの」


 上目遣いでお願いをしても、兄は首を横に振るだけだ。


 うーん。私は今ダリルの事が好きってことになってるんだし、お祝いのためって言えば出席を許されると思ってたんだけどなぁ。甘かったか。


 ただ一人、侍女のアネットだけは

「ダリル様もお嬢様に来ていただきたいのではありませんか」

 と、私の援護をしてくれる。


「ダリルからもマーガレットをパーティーに来させるなと言われてるんだよ」


 なぬ? 


「今日はアーサー殿下もいるからね。殿下が可愛いマーガレットを好きになってしまったら困るだろう」


 いや、そんな事絶対ありえないから。なんでアネットも、納得ですみたいな顔してるのよ。本当に皆私に対する評価がおかしいでしょ。


 だいたいアーサーが私を好きになる事なんてないもの。もしパーティーで会ったくらいで惚れられるなら、婚約してた時に好きになってもらえたはずだもん。


 でも9回婚約しても、アーサーは一度も私の事を好きになってはくれなかった。アーサーが好きだったのは、美人のクラリッサ。これは本人に聞いた事もあるから間違いはない。まぁ私も別にアーサーの事を好きだったわけじゃないから、とやかく言える立場じゃないんだけど。 


 どんなにお願いしてもお兄様を説得することができなかった私は一人悶々とした夜を過ごすことになる。結局、どうせ皆帰るの遅いんだからさっさと寝ちゃえとふて寝してしまった。


 朝になってびっくり!!


「おはよう、マーガレット。昨夜マーガレットとダリルの婚約が成立したよ」


 お父様今なんて言いました?

 昨日の朝は婚約の話なんて、誰も何にも言ってなかったじゃない。私が寝ている間に何があったの? 


 話を聞くと、昨夜のパーティーでダリルは若い令嬢達に取り囲まれて大変だったらしい。そりゃそうよね。若くして騎士団長になるほどの能力があって、しかもイケメンなんだから。


 でも誰にもいい顔する事なく、

「自分がここまで頑張れたのは、マーガレット嬢の支えがあったからです」

 的な事を言ったもんだから、私に対する皆の評価が鰻登りだったらしい。


 私の事を大好きな父、母、兄は私の事を大勢から褒められて大喜び。ダリルがそんな風に言ってくれるんなら、喜んでマーガレットを差し上げますということになり、昨夜のうちに婚約成立させちゃったらしい。


 お父様ってば……私の事が大好きで超過保護なくせに、そんなに簡単に私の事差し出しちゃっていいの? 


 王太子であるアーサーと婚約が決まった時には見た事がないほど上機嫌な父と母に驚きを隠せない。よっぽどダリルの事を気にいってるんだろう。


 それで……当のダリルはどこに行ったのかしら? 姿が見えないけれど……


「あぁ、ダリルなら、今日は城だよ。団長としての初日だからね。張り切ってるんじゃないかな」


 じゃあ帰って来たら話ができるかなっと思ってたのに、その日ダリルは帰って来なかった。その次の日も、また次の日もダリルは帰ってこない。


「婚約したばかりなのに、ダリルに会えないのはつらいでしょう」


 お母様があんまりにも気の毒がるもんだから、つい「はい」って答えてしまった。正直言うと、「今日も帰れないんだ。ふーん」くらいにしか思ってなかったのに。だって今忙しいって知ってるし。


 ダリルが帰れないのは数日後に城で行われる夜会のためだ。この夜会、表向きは美しい夜の庭園を楽しもうという趣旨で催されるらしく、警備がいつもより大変らしい。


 表向きということは裏もあるということ。この夜会の真の目的は、未だ空席のままになっている王太子の婚約者を決めるというものだ。


 アーサーが誰と婚約するのか、とっても興味があるのよね。


「ねぇ、お父様……今度の」

「ダメだ」

  

 最後まで言わせてもくれないなんて。


「少しだけでいいんです。ずっとダリルに会えてないし、顔だけでも見たいんです」


 本当はダリルより、夜の庭園に興味があるんだけどね。夜の庭園はとっても幻想的だろうし、行ってみたい。


 何回頼んでも「いいよ」とは言わない父を動かす方法はたった一つ。


「お父様……」


 瞳を閉じて、今までに私が殺されてきた状況を次々に思い出す。うーん。何回思い出しても辛いし苦しい……よし、瞳が熱くなってきた。


「お父様……私ダリルに会えなくてとっても寂しい……」


 必殺泣き落とし大作戦。

 涙を流す私に、父がノーと言えるわけはない。ほとんど使うことのない手だが、効果は抜群だ。もちろん今回も、「言っていいよ」という言葉を引き出せた。


 よっしゃぁ。

 久しぶりの夜会への許可に興奮して、心の中でガッツポーズをした。





     ☆      ☆      ☆





「いいかい、マーガレット。絶対に私から離れてはダメだよ」


「お兄様ったら、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」


「ダリルの顔を見たらすぐ帰るんだよ。いいね?」


 馬車に乗る前も、乗ってからもお兄様の注意はダラダラと続いている。


 もう。本当に心配性なんだから。そんなに心配しなくても、問題なんておきないわよ。

 

 私が来ると分かっていたのか、ダリルが私が馬車からおりるのを待ち構えていた。


「じゃあダリル、マーガレットを頼むよ」


「任せておいてくれ」


 お兄様にはにこやかな顔をしてたくせに、私と二人きりになるとダリルは急に冷めた顔つきになった。


「何でこんな所に来るんだ? そんなにアーサーに会いたかったのかよ?」


 はぁ? 一言目がそれなの?

 私達は婚約してから今日初めて、しかも久しぶりに会ったのよ。もっと他に言うことがあるでしょ。


「『会えて嬉しいよ』とか、『よく来たね』とか言ってくれないの?」


「思ってもない事を言えるわけないだろう」

 

 何その言い方。婚約者に対してひどくない!?

 とにかく早く帰れみたいなダリルの態度が腹立たしい。


「じゃあ帰るわ」


 ダリルがいたら庭園も見れないし、もういいや。乗って来た馬車に再び乗り込んだ。


 あー、つまんない。つまんない。

 ダリルってば、私を自分の物にするとか言ってるくせに、私に対して冷たすぎると思うのよね。もっと優しくして甘やかしてくれたら、もっと気持ちよくダリルの物になるって言えるのに。


 きっと、ダリルに対してムカついていたからだろう。油断した……

 あんなにお兄様達に「大丈夫」だって言い続けたのにも関わらず、私は誘拐されてしまった。

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