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4.騎士団長になる

 その日の夜遅く、ダリルを招き入れるとアネットはそそくさと部屋を出て行ってしまった。私がダリルの事を好きだと思ってるから、気を利かせてくれたんだろう。


「遅くなって悪かったな」


 そう言って出迎えた私の頭をポンポンっと叩いたダリルから、爽やかなシャンプーの香りがする。少し濡れた髪に、胸元のあいたシャツ……なんだかセクシーでドキドキしちゃう。


 小さい頃から同じ屋敷内で暮らしているけど、風呂上がりのダリルを見るなんて初めてだ。いつもかっちりした格好だから、こんな風にラフな服装は新鮮だ。


「おい、どうしたんだ?」


 前髪をかきあげながら、ダリルが私の顔を覗きこむ。誤魔化したけど、私がダリルに見惚れてた事なんてきっとお見通しだろうな。あぁ、本当にカッコいい。


「マーガレット」


 疲れた様子でソファーに寝転がるように倒れ込んだダリルが私を手招きする。素直に近づいた私はぐいっと腕をひかれ、ソファーに引きずりこまれた。


 うきゃー!!

 

 抱き合うようにしてソファーに寝転がる私とダリル。心臓バクバクで落ちつかない。


 なのにダリルったら、私を抱きしめたまま平気な様子で、

「マーガレット、一つ言っておくが、俺は騎士団長になっても王太子のこともこの国のことも守るつもりはないぞ」

 なんて事を言っている。やっぱりこんな時でもダリルはダリルだ。


「そもそも俺はお前が騎士団長になってって言ったから、わざわざあんな面倒なもんになったんだからな」


「えっ!?」

 私、そんな事言ったっけ?


「まぁもう30年くらい昔の話だけどな」


 ということは、この巻き戻り人生が始まる前、一番最初の人生の時ね。

 16歳の私と18歳のダリルが30年前の話をしてるってのもおかしな話だ。


 ダリルが言うには、色々あってダリルが我が家に引き取られた時に、私が「騎士団長になれば馬鹿にした人間を見返せる」って言ったみたい。騎士団は完全実力主義の世界だし、階級の高い騎士、中でも騎士団長はそれなりに地位が認められているから。


 ダリルは騎士団長になったら私に求婚しようと思っていたらしい。でも団長に就任する前に私はアーサーと婚約しちゃった。私を殺して巻き戻るたびに今度こそ私の婚約成立前に求婚をっと思って頑張ったんだって。だから人生リスタートするたびに、ダリルが団長に就任するのが早くなってたってわけだ。


 今の人生では、父はすでにダリルの事を認めているし、騎士団長にならずとも私と結婚できそうなので、面倒な騎士団長になるつもりはないみたい。


「ダリルが騎士団長になるのを楽しみにしていたから、ちょっと残念だな」


「そんなに殺されたかったのかよ?」


 ダリルは冗談のつもりかもしれないけど、私は全く笑えない。


「ダリルの騎士団長就任式が見たかったの」


 私を抱きしめたまま、ダリルが何でそんなものっという顔で見ている。


「だって……就任式の時のダリル……めちゃくちゃカッコよかったんだもん」


 本人に言うのは恥ずかしくって、声が小さくなっちゃった。目の前のダリルの顔を直視できなくて、目を伏せた。


「マーガレットが!? 俺の事を?」


 半信半疑、ううん、どちらかというと疑うような声でダリルが聞き返した。 


 本当にね。なんでって私だって思うわよ。

 でも近い未来に自分を殺す男だって分かってても惹きつけられてしまうほどの魅力が、就任式の時のダリルにはあった。


「ダリルは毎回濃紺の服着てるよね? あれ、すっごく似合ってて……皆の前で堂々としてるダリルを見るのが毎回楽しみで……んんっ」


 ダリルが噛み付くような勢いで私に口付けた。私を抱きしめるダリルの腕に力が入る。


「じゃあ今すぐにでも騎士団長になってやるよ」

 

 きつく抱きしめられていて顔は見えないけど、少し浮かれてる? いつもよりダリルの声が弾んでるような気がする。

 

 これって私がカッコよかったって言ったからよね? そもそもなんでダリルは私の事好きなんだろ? 手に入らなきゃ殺しちゃうほどまで私が愛されてる理由が分からない。


 ダリルの腕から抜け出して、ソファーにキチンと座った。ソファーに横たわったままのダリルが、物足りなさそうな顔で両腕を広げ私を求める。


 そんなダリルに向かってフルフルと首を横に振り、質問をした。


「ねぇ。ダリルって、いつから私の事を好きなの?」


「さっきも言った30年くらい前からだ」


 仕方なさそうに体を起こしたということは、ダリルも話をする気になったのかもしれない。


「どうして私の事好きになったの?」


「それは……お前が綺麗だったから……」

 

 うわぁ。嘘くさい答えね。そりゃ私はそれなりには可愛いわよ。でも殺してまでも手に入れたくなるほどの美人では絶対にない。


「私がもしクラリッサ様みたいな絶世の美女だったら信じたかもしれないけど、さすがに嘘だってバレるわよ」


「クラリッサ? あぁ、あの役立たずか」


 クラリッサに5秒微笑まれた人間は、誰もがクラリッサの奴隷になってしまうと言われているくらいの美貌の持ち主を、まさかの役立たず呼ばわり!?


 ダリルは前にクラリッサをけしかけてアーサーを誘惑させようとしたことがあるらしい。失敗したみたいだけど……


「あんなのは綺麗とは言えないだろ。綺麗ってのはお前みたいに清楚で可憐で真っ直ぐで……マーガレット、お前は本当にマーガレットの花みたいに綺麗だよ」


 やだ、嬉しい。そんな風に思ってもらえるなんて。でも照れ臭くてつい余計な事を言ってしまう。


「マーガレットの花には毒があるのよ」

 かぶれちゃうし、食べたら吐いちゃうんだから。


 ダリルがクスリと笑って私を抱き寄せた。


「お前の毒にやられるんなら幸せだな」

 耳元の囁きに、ゾクゾクとした快感が走る。


 でも待って、それだけじゃ私を殺すほどじゃなくない? ダリルは褒めてくれたけど、やっぱり私レベルの人間はたくさんいるんだから、綺麗だからっていう理由では納得できない。


 ダリルはフゥッと小さなため息をついた。

「マーガレットが笑ってくれたから、俺は救われたんだ」


「それって、どういう意味?」


「……親が殺され、世界から色が消えて全てが黒く見えていた俺には、お前の明るい笑顔だけが輝いて見えたんだ。あの時から俺はお前なしでは生きていけないんだよ」


「ダリル、それって……」


 まるで私の口を封じるかのようにダリルが私の唇に自分の唇を重ねた。


 ダリルの親が殺されてたなんて、今まで一緒に暮らしてたのに知らなかった。ダリルは私には知られたくなかったみたいだし、もうこれ以上追求するのはやめよう。


「マーガレット、愛してるよ……」


 私をきつく抱きしめるダリルの囁きが、なんだかいつもより切なく聞こえた。





     ☆      ☆      ☆


 



 有言実行、ダリルはすぐに騎士団長になった。騎士団史上最年少10代での団長就任だ。まぁ前回の人生よりも少し遅かったんだけど、それを知っているのは私とダリルだけ。


「なる」って言ったら、すぐなれちゃうなんて、ダリルったらどんだけすごいのよ。


 団長就任式は城の広場で行われる。今日は貴族だけでなく平民にも解放されているため、ダリルを一目見ようと集まった人々で大混雑だ。特に若い女の子の姿が多い。


 そりゃそうよね。これまで騎士団長っていったら、強面のおじさんだったのに、いきなり若いイケメンになったんだもの。見に行かなくちゃって思うのも当然よ。私だって見たいもの。


 なのに、何でこんな遠くの席に座らされてるの? 今までは間近で見れてたじゃん!! って、そうだった……今まではアーサーの婚約者だったんだ。今の私はただの公爵令嬢なんで、一般貴族席に座らなきゃダメなのね。


 国王陛下から騎士団長の証を胸につけられたダリルは遠く離れたこの場所から見ても

「……かっこいい」


 両隣に座っている母と兄がえらく温かな視線を向けてくるんで、自分が声に出しちゃった事に気がついた。


「そうねぇ。ダリルはとってもかっこいいわよね」


 お母様ったら、恥ずかしいからそんなに嬉しそうな顔で見ないで欲しい。お兄様もよ。微笑ましそうに「うんうん」頷いてるもんだから、照れちゃうじゃない。


 アーサーと婚約した時はあんなに気に食わない様子だったシスコン兄様も、ダリルが相手だと嬉しそうにしてるんだから不思議よね。


 大歓声を浴びるダリルを眺めながら、もう巻き戻ることのない最後の人生、こんな風にほのぼの過ごせるんなら大成功なのかもっと、なんだかほっこり気分だった。

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