高校二年の春
進級してクラス替えも終わり、クラスの委員を決めるという日に風邪を引いて欠席してしまったら、何故か図書委員に決まっていた。
「図書委員なんてなりたい奴いるだろ」
「千葉、残念ながら、このクラスには立候補がいなかったんだよ」
「文系クラスだよな、ここ」
「お前もな」
「で、なんで俺になっちゃうの?」
「推薦があった。そして満場一致だ」
「いや、卑怯だろ。撤回求む」
「無理だな。諦めろ」
納得いかないままだったが、
任期は半年間だから、とか、
どうせそんなに仕事はない、だとか押されきった。
それなのに、
週一で図書室当番なるものが回ってくる。
昼休みに図書室のカウンターに待機していなければならない。
やっぱり、図書委員って本好きな奴がなるもんだろ…。
昼休みに拘束されるなんて。
しかも、ほとんど誰も利用していない。
委員の仕事なんか、貸出がなければ特にすることもないので、予習の道具を持ち込むことにしていた。
何回か当番をやると、利用者の顔ぶれをなんとなく把握してきた。
図書室利用って、三年の受験勉強だけじゃないんだな、と今さら思う。
てか、お前ら一人くらい俺のクラスにいろよ。
静まりかえって、本の湿気たような匂いがして、
トイレが近くなるようなこの場所に好き好んで来る奴らはどういう趣味してるんだろう。
自分と同じようにノートを広げてる人もいるし、本を読んでる人もいる。
その少ない利用者の中に西野さんもいた。
彼女は本を読む派だったが、借りていくことはなく、特段の接点は何もなかった。
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図書室に籠っているなんて罪になるんじゃないか、というくらい気候のいい日に当番があった。
こんな日には誰も来ないだろ、と思うが一応居ることにする。
2限で出た宿題をこなしていると、図書室の扉が開いた。
音がした反射で見ると、西野さんである。
彼女はカウンターには目もくれず、
窓際の席に向かい、椅子をそっと引いて座り、持っていた本を読み始めた。
背中に暖かい陽射しを受け、姿勢をシャンと伸ばしている。
読書しているだけなのに、一心不乱、という言葉が似合う。
なんて本読んでんだろ。
西野さんは予鈴のなる数分前に、また椅子からそっと立ち上がり、カウンターには目もくれず出ていった。
結局、彼女しか図書室に来た人はいなかった。