神の子
男は教会へと足を運んだ。礼拝堂の掃除をしている神父を見つけて、いてもたってもいられずに神父の前へひざまずいた。
「神父様。私は大変罪深い事をしているのです」
突然現れ、悲壮な顔で訴える男を、神父は驚きつつも穏やかに迎える。その男がよくよく教会へ訪れる信者であると気がついたからだ。
「どうしました。何をしたというのです」
「実は……」
そこで男は言い淀み、顔を背けた。
「いいえ、やはり口には出来ぬ事です」
「あなたはいつも熱心に教会へ足を運んで、祈りを捧げているではありませんか。つい先日のミサにも参加されている。それがどのような罪であろうと、あなたがそれを悔いている限り、神はあなたを見捨てたりはしませんよ」
その言葉に、男ははっと目を向ける。視線の先には柔和に微笑む神父がいた。
「神父様」
「さあ、神の前で全て語りなさい」
「しかし、それでもやはりためらってしまいます」
この頑なさに、神父は戸惑いを覚えた。
「なぜですか?」
「なぜなら、私は神など全く信じていないからです! あのような像や想像の存在に祈り等ささげても全くの無意味でしょう? 何しろ、そんなものいやしないんだから! 大体、無償の愛を説く教会がお布施と称して金を集めているのは全くナンセンスです!」
「出て行け!ここはお前のような俗物がくるところではない!」
怒りに顔を真っ赤に染めた神父は、男を教会から叩きだす。男は、教会の十字を見上げ呟いた。
「やはり神はお許しにならなかった!」