第6話 エルヴァスティ王国騎士団
閻魔大王ことラージャと行動を共にする事になった。
さて、これからどうしたものか。
まぁ、イベントが起こるだろう。
俺のモテモテ人生がここからはじまるのだからな!
「おい、カズヤ。 どこまで歩けば良いのじゃ?
我は、いい加減疲れてき…… おい、無視をするな! なのじゃ」
ラージャがまた弱音を吐いてきた。
まだ、2時間程しか歩いてないのに何度も何度も、うっとおしいったらありゃしない。
「ラージャ、心配すんなって!
その内な、冒険者か商人がモンスターに襲われてるとこに出くわすハズだ!」
「貴様! また、ソレか! ホントにそうなのか? なのじゃ」
うん。
うるさいぞ、お前!
お前がな、そんな態度だからイベントが起こらないんだよ!
カズヤとラージャは、森の中を彷徨って2時間半が過ぎていたのだが、そんなイベントはおろかモンスターとの遭遇も無く森の道をただ彷徨っていた。
「カズヤ! 我は、腹が減ったのじゃ!」
もう、このお子様は!
しょうがないな。
「ラージャ、良い事を教えてやろう。
腹減った事を、忘れろ」
解決。
文句言わずに歩け。
「おい、この先に、ホントに人間がいるのか? なのじゃ」
その前にイベントがあるっていってるのに、解んない奴だな。
今は、兎に角、前進あるのみだろ!
「おい! 無視するな、なのじゃ!」
「……」
「お腹空いたのじゃ!」
「……」
ええーーい、うるさいな!
「おい、口を開けろ」
俺は、ラージャの方を向いて言ってやった。
「な、なんでじゃ?」
「もう、いいから」
俺は、ラージャの顔に手をやって持ってたガムを口の中に押し込んでやった。
これで我慢しろ。
ラージャは、カズヤから突然異物を口に入れられ驚いたのだが……
「甘いのじゃ!」
クチャクチャとガムを噛むラージャが感想を言ってきた。
「良かったな」
兎に角、これで暫く静かになるだろう。
バックにガムがあって良かった。
……さてと、俺はどこをどう歩いているのかさっぱりだぜ。
遭難?
いやいや、転移後の森で遭難するなんて、ラノベにない展開だぞ。
俺に任せとけとか言った手前、ラージャに絶賛俺が完全にテンパってるなんて現状を悟られる訳にもいかないし……
さて、どうしたものか。
「カズヤー、ガムっての美味しいぞ」
「お、おう、そうか」
ガムの味が無くなるまでもう直ぐだろう。
そしたら、コイツまた騒ぐだろうな。
俺が焦りつつそう思った時、事件が起こった!
「ラージャ、今、声が聞こえなかったか?!」
俺の耳になにやら争う声が聞こえた!
「んーー、そうか?」
うん。
コイツに聞いたのが間違いだ!
「行くぞ!」
俺は走り出した!
・
・
・
森の中――
隣国ヴァンターにつながる街道で騎士達がキラービーとの戦闘中であった。
キラービーは、肉食の体長60cmはある大型の蜂である。
性格は獰猛。
キラービーの持つ針は太く直径10cmはある。
そして、その針から出る毒は強力で刺された場合、人間でアレば、5分もあれば絶命する程である。
動きも早く、ランクの低い冒険者であれば、まず勝てない魔物であるのだ。
通常であれば森の奥に生息する魔物であるのだが、ときたま街道沿いに巣を作る場合がある。
そして、現在、エルヴァスティ王国騎士団と戦闘中のキラービーも街道沿いに巣をもつものであった。
「団長ーー! キラービーの巣から女王が!」
金色の柔らかな髪をした若き騎士ライネ・オールストレームが声を上げる!
「ライネ! 女王は、俺が対処する! その間、他の蜂を近づけるなよ!」
エルヴァスティ王国騎士団団長のボリス・ベンディクスは目の前のキラービーを斬るとライネをみやって言った。
50歳を超え筋骨隆々の彼はキラービーの女王、キラービークイーンへと向け走り出す!
「了解!」
ライネは、ボリス団長へと向かおうとしたキラービーへと剣を振るった!
「ライネ! ボリス隊長に敵を近づけさせんじゃねぇぞ!」
ライネの親友であり王国騎士団の同僚のペトリ・アルメルが走ってきた。
赤い髪の彼は、ライネと合流するとキラービーがキラービークイーンへと近づくのを阻止すべく剣を振るうのだった。
そして――
声のする方に来てみたら、騎士団がでっかい蜂と戦っていた。
「って事は?」
俺は、女騎士、それとも、ピンチになった商人の娘さんがいないかを必死で探した!
ビシッ!
「もう、いきなり走るのはヤメロ、なのじゃ!」
ラージャが俺の後ろから声をかけ、俺のケツを蹴っている。
うん、後でビンタするとして、いないのか!
俺に助けられたい女の子は?!
「……クソッ! いない!」
話が違う!
いや、誰も女の子がいるとは一言もいっちゃいないが。
「カズヤ、あいつ等なにをやっておるのじゃ?」
「さぁな、害虫駆除の最中なんじゃないの?」
男なら特に興味が無い。
「ラージャ、行くぞ」
なので、次だ。
「はっ? えっ? せっかく人に会えたのに行ってしまうって、お前は、バカなのか? なのじゃ」
ラージャの癖に俺に意見してきやがった。
「……」
あれ、男だろ?
「……」
鎧とか、馬とか、騎士団とか……
騎士団→女騎士がいるかも。
「助けるぞ!」
俺は、人道的観点から彼等を助ける事に決めた!
「は? 助け、って、おいっ! カズヤ! なのじゃ」
突然走って行ったカズヤにラージャは声をかけたが聞こえていないようだ。
「おーーい、大丈夫か?」
俺は、頑張っている彼らに、素敵な笑顔で駆け寄ってあげた。
「おっ、お前! 危ないぞ!」
「なにが?」
美形の金髪の若いのに言われた。
惜しい。
可愛いけど、男だよな。
ドスッ!
ライネにアホ面で声をかけたカズヤのこめかみにキラービーの極太の針が突き刺さった。
「ああっ!」
その光景を目にしたライネが声を上げる。
「どうした! ライネ!」
ペトリが、声のしたライネの方を確認しようとした時、戦闘中の中、女の子がこちらに歩いてくるのが見えた。
「なんで、女の子がこんなとこに? いや、そんな事よりっ!
ライネの事が気になるペトリだが、女の子を救助する為に向かう。
「おいッ! 大丈夫か、あんた!」
金髪の可愛い顔した騎士が俺に声をかけてきた。
大丈夫かって、なにが?
ブブブブブ……
耳元がうるさい。
「って、え?!」
俺のこめかみに針を突き立ててる蜂?!
「もう、うるさい」
俺は、こめかみに当たってる針を掴んで蜂を地面に叩きつけてやった。
「なっ!」
ライネは、カズヤが無事な事も、事もなげにキラービーを倒した事も、兎に角、目の前で起こった事が信じられない。
「ちょっと、びっくりしたな」
でも、地獄の針山で針なら慣れてるからな、あんなもんじゃ怪我しませんよ。
そうだ、この可愛い顔した青年にちゃんと挨拶して、女騎士が居ないか聞いてみよう。
「こんにちは、俺の名前は、カズヤ!」
俺は、爽やかに笑って、手を…
ドスッ!
ドスッ!
ドスッ!
凄い刺された。
いや、刺さって無いけど。
「もう、挨拶中になんだコイツ、えい」
俺の体に針を突き立ててる蜂の針を掴んで次々と地面に叩きつけてやった。
ほらぁ、もう挨拶中に蜂に邪魔されたから、金髪の青年が呆れてるよ。
これ以上、印象が悪くなるような真似をしないようにしないとな!
「カズヤーー、我は、虫が嫌いなのじゃ。
だから手で払ってたら、この男に手が当たって怪我させてしまったのじゃ」
ラージャが赤い髪の青年を引きづってきて言った。
「なんだよ、お前、虫が嫌いなのか?」
「当たり前じゃ、大体な虫が好きな女の子なんて少ないと思うぞ。 なのじゃ」
怖がる素振りなど微塵も見せないラージャが蜂を叩きながら教えてくれた。
「ペトリーー!」
金髪の青年が叫び声をあげたが、ペトリってラージャが引きづってる赤い髪の人の事か?
……ヤバい!
ますます印象が悪くなって、女騎士を紹介してもらえなくなる!
「あ、あの、ラージャがご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした」
俺は、金髪の青年に頭を下げて謝罪した。
うん。
謝罪してる俺の横で、蜂をバシバシ叩いてんじゃねぇ、ラージャ!
お前がはじいた蜂がガンガン俺に当たってんじゃねぇか。
「キラービーをあっさり……」
呆然とするライネ。
「そうだ! あの巣を壊しましょう! あんた達、蜂と戦ってたんでしょ?」
俺は、この金髪の青年に良いとこを見せようと、向こうにあるスズメバチの巣をデカくしたようなのに向かって歩いていく。
地獄での経験が生きた。
針なら、慣れてるから怖くない。
「は? ……あっ! そっちは!」
呆気に取られたライネが気が付くと、ボリス団長の方にズンズン歩いて行くカズヤが見えた。
優勢に戦っているボリス団長の前にカズヤが近づいてきた。
「おいっ! 貴様! 危ないぞ!」
ボリス団長が視線をカズヤにやった瞬間、キラービークイーンが、カズヤに向かって飛んだ!
「でっかいのが、こっち来たな……」
巣に向かってたら他の蜂よりデカいのがこっちに飛んでくるのが見えた。
髭面のおっさんと戦ってたのに、まぁ、俺の方が弱そうだからだろうな。
って!
「危ないッ!」
おっさんが俺を助けにこっちに走ってこようとしてコケた!
俺は、無意識におっさんに向かって走っていた。
だって、転びそうな人がいたら、助けようとするだろ普通。
「おうっ!」
完全に転ぶ前に受け止めてやった。
鎧着てるおっさん、重っ!
ドスッ!
あのでっかい蜂が俺の背中に針を突き立ててる。
お前な、両手がふさがってる俺に、ソレは無いだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
兎に角、俺の腕の中のおっさんに聞いた。
大丈夫なら、早く立ってくれ。
ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ!
さっきから連続で背中にドスドスされてるんで。
トクン……
「あ、ああ。 すまない、大丈夫だ」
おっさんが、言って俺から離れたので、両手が開いた。
「ふんッ!」
俺は、即、後ろのでっかい蜂の針を掴んで地面に叩きつけてやった。
「良かった。 そんなの着て転んだりしたら危ないですもんね」
おっさんがケガしてないようでよかった。
……てか、すげー俺を見てるし。
トクン……
「あ、ああ」
ボリスは、顔を背けぶっきらぼうにカズヤに言って立ち上がった。
恋に落ちた。
エルヴァスティ王国騎士団団長のボリス・ベンディクス 50歳。
剣の道に生きた男の初めての恋であった。
蜂と戦ってる騎士達とでくわした。
女騎士と出会うパターンだと思うのだが、居なかった。
フフフ、焦らしやがるぜ。
兎に角、髭面の強面のおっさんがこの騎士団のエライ人だろうからな、失礼のないようにしないとな。
なぜなら、女騎士と知り合う為だからだ!
って事で、次回も、乞うご期待!