第43話 挨拶が終わった
ライネのご家族と面談してたら、お父様のオスモとお兄様のミカエルが武器を手に襲いかかってきた。
流石にライネの父親と兄貴を傷つける訳にいかず、俺達は逃げ回ったのだ……
オールストレーム領の領主 オスモ・オールストレーム男爵の邸宅前――
カズヤ達が中に入っている間、ゴブリンのゴブ太郎は玄関先の庭でラージャの自転車を使って乗る練習をしていた。
チリン、チリン
「よし! 大分慣れてきたし、ラージャ様を乗せて皆のとこまで行けそうだ!」
身体能力の高いゴブ太郎は完全に自転車をマスターしたかの如く、自由自在にオールストレーム家の庭を走り回っていた。
ゴブ太郎の手にかかれば、アニメキャラクターが書かれた子供用自転車であろうと、BMX専用の自転車並みにジャンプしたりと自由自在にアクションを繰り広げる事が可能!
「なんなのかしら、あのゴブリン……」
「ライネ坊ちゃまが連れてきたから害は無いのだろうけど」
「あの乗り物は何だろう?」
ゴブ太郎から離れてオールストレーム家の使用人達がゴブ太郎の事を観察してヒソヒソと会話していた。
使用人達がそんな話をしているなどと知らないゴブ太郎は、スピードを上げる!
「でーーい!」
自転車を操るゴブ太郎が大ジャンプ!
「おおーー!」
思わずオールストレーム家の使用人達も声を上げた。
ゴブ太郎の乗る自転車が軽くバウンドして難なく着地し、少し進んだ所で停車した。
ゴブ太郎は、一息ついて屋敷の方を見る。
「大分慣れてきた! これならラージャ様をお運びするのに問題ないだろう!」
その時、トランシーバ―の電源が入り声が聞こえた。
『ゴブ太郎! 玄関に来い!』
ゴブ太郎のトランシーバーからカズヤの叫び声が聞こえた!
「カズヤ様? どうかなされましたか?」
『いいから! 早くしろよ!』
切羽詰まったカズヤの声、ゴブ太郎は、玄関を目指す!
まぁ、すぐそこなのだが。
キッ!
玄関前に到着したゴブ太郎は、カズヤに連絡すべくトランシーバーを
バァァーーン!
玄関のドアが開き、ラージャが飛び出してきた!
「ラージャ様?」
「ゴブ太郎! 我を後ろに乗せるのじゃ!」
そういってラージャが自転車の後ろに飛び乗った。
素早く、空間収納を開き、自転車を2台取り出した!
「あの、カズヤ様は?」
「アイツなら、ほら!」
ラージャが指差す玄関にカズヤとライネが走ってくるのが見えた。
「ライネ! 自転車に乗って一旦退却だ!」
「は、はい!」
屋敷から出てきたカズヤとライネは自転車に飛び乗り走り出した!
「来たのじゃ! 早く、走れ! ゴブ太郎! 早く行くのじゃ!」
「え? あ、は、はい!」
訳も解らずゴブ太郎は自転車を走らせ、カズヤ達を追った。
走り去っていったライネ坊ちゃま達を玄関先でポカンとした表情で見ていた使用人達の前に、当主のオスモを始めオールストレーム家の面々が息を切らして走ってきた。
「お前達! ライネは、どこに行った?!」
当主のオスモが使用人たちに向かって怒鳴った。
「オスモ様、ライネ坊ちゃま達なら向こうの方へ変なのに乗って行かれましたが……」
使用人達が指差す方向を睨むオスモだが、とうにカズヤ達は走り去って姿など無かった。
「ええぇーい、あのバカ息子め。
よりによって男と結婚したいなどと……」
苦虫を噛み潰したような表情で呟いたオスモ。
「父さん、ライネの事、どうするんだい?」
長男のエルモが肩で息をするオスモに聞いた。
「あんなの許される訳ないだろう! 勘当だ、勘当! あんな奴は、私の息子ではない!」
「娘でいいじゃないですか?」
「な? おま、エルモ! お前何を言い出すんだ!?」
「だって、ライネは三男だし、この家に戻っても家を継げる訳でもないでしょう?
どっちにしろ独り立ちするか私の下働きをして過ごす事になるのですから……
ライネが選んだ場所がカズヤさんの元だっただけ、ソレだけの事ですよ。
なら、僕ら家族は、家族としてライネの決定を尊重してあげましょう。
ライネが女の子になりたいのなら、娘として扱う、それで良いじゃないですか?」
空気のように存在感の無かったエルモがビシッと父親に言った事により、母親のヒルダも妹のユリアナも態度を軟化したようだった。
「エルモ兄さん! 何を言ってんだよ! ライネは、あの胡散臭いカズヤって男に騙されてんだよ!」
納得いかないミカエルが叫んだ。
「そ、そうだよ! なんだ、お前等! 物分かりの良いフリしやがって!
息子が可愛くないのか! えっ! どうなんだ?!」
ミカエルに乗っかるオスモが家族に向かって叫ぶが、
「まぁ、行っちゃったものは、仕方ないじゃないですか?
それに、父さん領内での活動、好きにしていいってご自分で言ってましたよ」
「そうね。
あなた、私は、ライネの事を信じているから、好きにさせてあげましょうよ」
「えぇぇぇ… ヒルダ、息子がああなって良いのか、お前?」
「娘が増えるんでしょ? 女の比率が上がるのは賛成ですわ!
ねぇ、ユリアナ」
「はい、お母様。
ライネお兄様がお姉様になるのですね。
ライネお兄様は喜びますわ! だって、昔からお兄様、女の子になりたがってたんですもの!」
「は?」
「え?」
発言に驚いたみんなの視線がユリアナに注がれる。
「いけない! お兄様との秘密でしたのに!」
「ユリアナ、どういう事かしら?」
母親のヒルダに詰め寄られユリアナは、ヒルダの服をライネが着ていた事を白状した。
「ははは、そっか!
父さん、ライネは昔から女の子になりたかった希望を叶えたんですよ。 だから、意固地になんないで認めてあげましょうよ。
あのカズヤっての、そんなライネを受け入れてくれたんですから」
エルモの言葉を、オスモはただジッと項垂れて聞いるようだ。
心配そうに妻と娘がオスモを見ている。
「……服装は成金趣味のセンスの無い男だったが、伴侶を選ぶセンスはあったな。
あれは、私の自慢のむす…… 娘だ!」
そう言ってオスモは屋敷の中に入って行った。
エルモ、ヒルダ、ユリアナは顔を見合わせてオスモの後を追い屋敷へと向かう。
「納得いかないよ! どうしたんだよみんな」
唇を噛みしめミカエルが呟く。
(なんで、ライネは、自由に…… 俺だって!)
女ものの下着を着用する隠れ女装家であるミカエルは、堂々とカミングアウトし家族に受け入れられたライネが妬ましかった。
そして、羨ましかった。
自分は、人にこの性癖を言う覚悟がない。
ソレが情けなかった。
・
・
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オールストレーム領の集落を目指し走る自転車が三つ――
「お父様が剣を持って追いかけてきた時は焦ったぞ!」
「ごめんなさい、カズヤさん。
父さんがあんなに怒るなんて……」
「ああ、気にすんなって! また、挨拶に行こうな、ライネ!
その内、俺達を認めてくれるさ!」
「カズヤさん……」
並走するカズヤとライネは、互いの目をみてうっとりしている。
「いや、我は巻き込まれたのじゃ! 巻き添えで怪我したらどうするのじゃ! カズヤ、我に謝るのじゃ!」
ラージャが抗議の声を上げた。
そんな些細な事に目くじらたてるなんてしょうがない奴だ。
「ああ、すまん」
ちらっとライネを見て謝ってあげた。
満足したか?
「ライネ、俺達にはやる事があるだろう?
ほらライネの、いや、俺達のお父様と約束しただろう、俺が」
ライネに視線を戻した。
「え?」
ライネがキョトンとしてる。
もう忘れたのか? しょうがないな……
「謝罪が軽いのじゃ!」
「ラージャ様に害する者が居ましたか? 暗殺しましょう!」
「いいから! 極端だろ、お前!
我はアレくらい何とも無いのじゃ! カズヤを困らせたかっただけなのじゃ!
ゴブ太郎は、その辺ちゃんと感じ取るのじゃ!」
「ご、ごめんなさい」
ゴブ太郎がラージャに怒られている。
あんなにこき使われてるのに可哀想に……
後でゴブ太郎用に自転車を買ってやろう。
うん。
そんな些細な事よりライネに言った通り、そう、俺は約束したのだ!
「だからな、ライネ。
俺は、このオールストレーム領を国一番、いや、世界で一番の土地にすっからな!」
笑顔で俺は、ライネに言った。
「……そんなの気にしないでカズヤさん。
それにカズヤさんが僕のそばに居てくれる場所なら僕にとってそこが世界一の土地だよ」
「ライネ……」
ライネが変な事言うから、涙が出そう。
「くっ、集落まで競争だ!」
俺は、ペダルを漕ぐ足に力を入れ踏み込んだ!
「あっ! カズヤさん?!」
「ズルい奴なのじゃ!
ゴブ太郎! 絶対負けるな、なのじゃ!」
「任せてくださいラージャ様!」
二人は、カズヤを追って自転車を走らせrるのだった!
ライネが嬉しい事を言ってくれてホロリときた。
ライネが女の子だったら…… いや、関係ない!
だって、大好きなんだもん! 性別など大したことないや。
そんな事より俺達の拠点の為に次に向かうのは……
って事で、次回も、乞うご期待!




