第3話 閻魔大王
死んでしまった。
これから、最後の審判を仰ぐことになるんだな……
そうか…… 我が人生、悔いしかねぇなぁ。
せめて生きてる内に彼女というものが欲しかった……
何やらデカい建物に連れてこられた。
がらんとして、静かなものだ。
俺は、サラリーマン風の男と閻魔大王に会う為に長い廊下を歩いていた。
そんなものなのか?
なんか、こう、鬼みたいなのが両サイドに立ってて亡者が順番待ちしてるイメージがあったのだが……
「今日の業務は、貴方で終わりですからね静かなものですよ」
サラリーマン風の男に言われた。
「あ、いや、ちょっと思ってたイメージと違ったもので」
慌てて言ったが、顔に出てたのかな?
「どんな風にですか?」
「もっとズラーーッて順番待ちしてるのかなって」
「ああ、昼間はそうでしたよ。
もう就業時間が過ぎてますので、職員もだいぶ帰りましたしね」
職員って鬼か?
俺のせいでこの人も残業になったんだな。
悪い事しちゃっ
いやっ、違うだろ!
「アレでしたら、死なせないって選択肢を選ばれても良かったんじゃないですかね?」
誰もあんた達に残業してまで呼んで欲しいなんて言ってない。
「そんな選択肢無いですよ」
サラリーマン風の男に冷たく言われた。
そうですか。
いいよ、もう。
どうせ、生きてても楽しい事なんてなかったし……
「はい、到着です。
後は、中に入って、閻魔大王様の御沙汰に沿って行動してください。
私は、これで行きますけど、くれぐれも失礼の無いようにお願いしますよ」
「は、はあ」
バカでかい扉を前にして俺は、気の抜けた返事をした。
この扉の向こうに、閻魔大王がいるのか。
あの恐ろしい絵とかの、あの閻魔大王だろ?
ヤバい、緊張してきた。
漏らさなければ良いが。
「あの、お名前聞いて宜しいですか?」
親切に案内してくれたサラリーマン風の男に聞いた。
もう会う事も無いだろうけど、せっかく親切にしてくれたんだもん。
「ああ、私ですか?
牛頭です。
それじゃ、藤野さん、頑張ってください」
牛頭って、あ、あの地獄の?
どう見てもサラリーマンなのに……
見た目とか本当がどうであれ、
「牛頭さん、ここまで案内してくださってありがとうございます」
「え? いや、私は、仕事帰りに閻魔大王様からお願いされて案内しただけですから、お礼なんて」
お礼を言ったら、牛頭さんが恐縮してしまった。
本来は怖い存在なんだろうけど、俺は、優しくされる事があまりなかったから嬉しかったです。
少し、牛頭のイメージが俺の中で変わった。
「……私、このまま帰りますけど、大丈夫ですか?」
「ええ、後は、この中に入って閻魔大王様の沙汰をいただきますので……」
本当は着いてきてもらいたいけど、完全に仕事外の事で俺の為に動いてもらったんだ、これ以上甘える訳にはいかない。
「そうですか。
でも、藤野さんなら、私の職場に来る事も無いでしょうから、もう会う事もないでしょうね」
職場って、地獄でしょ?!
「ええ、そうならないように、祈ってますよ」
俺は、ぎこちない笑顔で言うと、牛頭さんが、笑って行ってしまった。
さてと、
「行きますか」
俺は、このバカでかい扉を……
「……開けれるの?」
いや、普通に考えて開けれんのか? コレ?
兎に角、扉に触れてみた。
ゴゴゴゴゴ……
「は?」
デカい扉が自動的に開きだした!
ここから見える部屋の中は薄暗く、向こうの方に明かりがついている。
あそこに閻魔大王がいるのか?
生唾を飲み込み、俺は、部屋の中へと足を踏み入れた。
一歩進む毎に心臓が脈打つのが早くなっていく気がする。
あれ?
死んでるのに、脈があるのか?
感覚的な物なのか?
解らないけど、確実に緊張している。
流石に俺は、良い人間ですとは、言えないけど、地獄に落とされるくらい悪い事した記憶も無いぞ。
「大丈夫、大丈夫だ俺は。 大丈夫……」
自分に言い聞かせるように呟くが効果は無いようだ。
「早く来るのじゃ! 貴様のせいでサービス残業真っ最中なのだからな!」
ヒッ!
この低くデカい声は、閻魔大王なのか?
しょんべんチビリそうだ。
いや、それより……
「ヤバい、結構イラついてるみたいじゃん!
これ以上イラつかせて判決に影響したら大変だ!」
俺は、泣きそうになりながら走った。
もう、脈とか言ってらんない!
死ぬ気で走れ!
死んでますけどね!
タッタッタッタッ……
到着だ。
ふう、ここ数年で一番本気で走ったぜ!
「ハァ、ハァ、え、閻魔大王様、お、遅くなって、ハァ、ハァ、申し訳ございませんでした」
ひ、膝がガクガクだ。
「もう、遅いのじゃ!」
へ?
なんか、さっきと違って可愛い声だな、おい。
ハァハァ言ってる俺は、顔を上げて壇上の閻魔大王を見た。
って、えっ? あれっ?
「こ、子供?」
「子供じゃないのじゃ! 我こそは、閻魔大王なるぞ!」
ロリっ子が俺の目の前にいた。
うん。
なんか、ホッとした。
恐ろしい強面のおっさんより、気が楽だ。
しかし、ここに来てからイメージが変わる事ばかりだな。
よし、あの可愛い閻魔大王の機嫌を直して、良い判決を出してもらわねば!
「閻魔大王様、遅れてしまい申し訳ござ」
「貴様は、地獄行き!」
「って、判決早いだろ!」
そんな、大事な事を簡単に決めるんじゃない!
「だって、早く帰りたいのじゃ!」
ロリ閻魔が言った。
いや、言ったじゃないよ、ふざけてる?
「あのね、帰りたいじゃないよ! そんな理由で地獄行きになってたまるか!」
「司録と司命も帰ったし、我も早く帰りたいのじゃ!」
「なんだ、司録と司命って」
「我の補佐をしとる書記官なのじゃ」
エッヘン! みたいにしてるが、それがどうした?
部下に先に帰られたくせに。
……そうだ!
「それなら、天国行きでも良いじゃん。
サクッと決めれば、お前も早く帰れるし、俺も嬉しい。
みんな満足、円満解決じゃんな、なっ!」
お前もめんどくさいんだろ?
サクッと決めて俺を天国へと……
「ダメなのじゃ」
は?
なんで?
どうして?
「じゃあ、なんで、俺は地獄に落ちなきゃなんないんだよ!」
理不尽!
全くもって理不尽だ!
「だって、貴様は、人を殺して金を奪おうとしたからじゃ」
うん。
……そうか。
「お前、ふっざけんなよ! 俺が、いつ殺人なんてしたよ!
は? え? お前、適当な事言ってんじゃねぇーぞ!」
納得いかん!
流石に、人殺しなんてした事ないぞ、俺!
「貴様は、死ぬ前に、銀行強盗したろ?
そん時に、逃げた客の背中に鉛玉を喰らわしただろうが。
可哀想に、お前の殺した、あの男には、小さい子供もいたのにの」
腕組して、うんうんと頷きながら言われた。
……完全に、人違いだ。
「あ、あのな、それ俺じゃないぞ。
むしろ、俺もその殺された男と一緒で、殺されたほうだ」
加害者じゃなくて被害者だろ、俺!
呆れた。
もし、誰かを殺して良いって言われたら、その優先順位一位は、お前だ、閻魔。
「……違わない」
「あ?」
なんか言ったか?
呆れてそっぽを向いていた俺は、閻魔を見た。
って、なんなの、その顔。
もしかして、指摘された事に腹立ててるのか?
何? 逆切れなの?
「いや、だから、違うだろソレ。
お前、ちゃんと調べろよ、それが仕事じゃないのか?」
「違わないったら、違わないのじゃ!
司録と司命が渡してくれた資料にも、お前がしたって書いてあるし!」
「あのな……」
コイツ普段ちゃんと閻魔が務まってるのか?
……ん?
「あっ!」
思い出した!
「ほら、なんかあったろ? あの、生前の事記録したのを映すなんか、アレ!」
「浄玻璃鏡の事かえ?」
「いや、名前なんか知らんが、多分ソレ!」
そいつを確認してもらえば、俺が無実なの解るだろ。
出して。
ほら!
さあ!
おい、ロリ閻魔。
何をモジモジと……
「……あの、魔鏡は、壊れたから、修理中で……」
ん?
なんて?
「おい、ボソボソ言いやがって、ハッキリ言え! 聞こえないぞ?」
大事な事だろう? 俺は、注意してやった。
てか何やってんだロリ閻魔、プルプルして?
「なんか、お前、感じ悪いのじゃ! 地獄いくのじゃ!」
泣きながらロリ閻魔が俺に判決を下した。
は?
「ちょっと、待て! お前な」
「感じ悪いお前にぴったりなのじゃ!」
異議申し立てしようとしたら言われた。
そして、俺が最後に見たのは、ロリ閻魔が悪魔のような顔をして笑う姿だった。
足元が崩れ去る?
お、落ちるって!
「ふ、ふっざけんじゃねぇーーー!!」
叫んだ俺は、こうして地獄へと落とされた。
・
・
・
地獄行きになった。
なんだそりゃ!
冤罪だ、冤罪!
悔いてもしかたない、諦めて判決を受け入れよう。
んな事出来るか!
って事で、次回も、乞うご期待!