ツアー初日⑤
対バンの時は、基本ドラムは使い回しになる。
ライブハウスのドラムの時もあれば、トリのバンドのドラムの時もある。
時間がある場合は、ドラムセットを毎回変えることもある。
今回は、ライブハウスのドラムを借りている。
人によって、ドラムの位置も変わるし、機材を増やす人もいる。
俺はシンプルに、タム、フロアタム、バスドラム、スネアドラム、シンバル、クラッシュシンバルという、基本的なセットを使っている。
早打ちしたい時は、バスドラムにツインペダルを取り付けたりするくらいだ。
セッティング面倒くさいし、荷物増えるのも嫌だし、弘法筆を選ばずってところかな。
ステージに立つ前に、自分でセッティングすることもあれば、ライブハウスのスタッフさんがセッティングすることもある。
今回は、大きめの箱だし、事前に打ち合わせしてスタッフさんがセッティングしてくれた。
あとは、合間合間に微調整していけば、大丈夫だろ…
フロアは、ざわざわとした話声とBGMが流れていて、ステージ脇にも音が響いてくる。
「集合!」
スニップスのメンバーが集まる。
「うぉー緊張するー」
バザバサの付けまつ毛を、震わせる金髪馬場くんこと、ジョーカー。
「エース不在ですが、頼りになるキングがサポートに入ってくれました!」
しっかり者のアガリくんこと、クィーンが仕切りはじめる。
「ありがとうございます!」
「ッス!」
奈良部くんこと、ジャックは、ニコニコととても楽しそう。
「みんなの足を引っ張らないように頑張ります」
さすがに緊張してきた俺。
ドラムスティックを握りしめる。
予備のドラムスティックの準備もバッチリ。
本番に、力みすぎて、折れた経験は何度もある。
「キングの高速ドラム、楽しみにしてます!」
「いや、そんなアレンジしないからな!」
無茶振りすんなよ、馬場くん。
譜面通りにやるよ…
「っちぇ…楽しみにしたたのに」
「はいはい、ジャックは、歌詞間違えないようにしてくださいね。」
「では、お手を拝借」
メンバー全員で、円陣を組んで、
「スニップスー、全力エンジョイ!」
「「ウォーイ!」」
掛け声、、、微妙にダサくね…?
V系バンドだよな…?そこは、謎な男子校ノリ…?
フロアが暗転し、BGMも入場曲に変わる。
「キャー!!」
という黄色い声が響く。
人生初の歓声だよ。野太いオーイはどこにもない。
まずは、アガリくん、奈良部くんが進み、俺もこっそり続く。目立たず、騒がず。
「クィーン!今日も麗しい」
「ジャック、可愛いー!」
「あれ、サポートの人だよね…?」
「カッコよくない…?」
「筋肉すごー。マッチョだー」
「私はエースのが好き!」
「エース大丈夫かな…?」
意外と声聞こえるんだよー!
恥ずかしいなぁ…俺の存在なんて気にすんな!
楽器隊の準備が整った頃に、ボーカルの詐欺馬場くんが、現れる。
一番の盛大な歓声。
「ジョーカー!!」
やっぱボーカルって人気なんだな…
しみじみ。
詐欺フェイスだけどな。
騙されてんぞー!そこの女子ー!
つい、笑ってしまった。
さて、そろそろですな。
メンバーと目配せをする。
ダカダン!
始まりの合図は、俺のドラムから。
変な格好だけど、まぁ、全力エンジョイして行くか。
前奏が始まる。
ギュインギュイン、ギターがかき鳴り、
ベンベベンと、ベースがリズムを刻む。
俺は、リズムを崩さないように、力強く叩く。
いい感じ。
「DARK」
甘い声で、ボーカルが囁くように曲名を言うと、
「キャー!!」
と盛り上がる。
スゲェな。馬場くん。イケメンだよ。
そのまま、歌い出す。
声量あるから、やっぱカッコいいなぁ。
甘い声もいい。
ライブハウスに、爆音が響き渡る。
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5曲を終えて、最初のトーク。
ここまでノーミス。
頑張ってる、俺!
汗を拭き(塔さんに顔は、擦らないで、押さえるように拭いてください。指導された)、水分補給と、シンバルの位置直してると、
「今日は、スニップスのレコ発ツアーに来てくれて、ありがとうございます。先輩たちも快く対バンしてくれて、本当にありがとうございます」
アガリくんが話し始める。観客の女の子たちがキラキラした目で、頷く。
「本当にカッコイイ先輩です!あーざす!」
イケメンになったのに、話し方は変えないんだな…。
立ち方は、シュッとしてるのに、本当残念。
あと一歩なところが、面白い。
「今日は、お知らせしていたように、ドラムのエースが、椎間板ヘルニアで入院してしまい、急遽サポートに入っていただきました」
真面目なトーンで、アガリが話し、それに馬場くんが続く。
「エースのやつ、まじでバカだから。みんなには、心配かけて申し訳ない。」
「…ごめんなさい」
お、奈良部くん喋った!
「あいつさぁ、正月に実家帰って、雪かきしてる時に、グキってやっちゃって、元々、ドラムで腰痛めてたのもあってさぁ…」
確かにドラムは、腰痛との闘いだよな。
俺も整体の先生にお世話になりっぱなし。
ヘルニアになるってことは、大分酷使してたのか、元々、遺伝的に腰が弱いこともあるし…
手術しても、リハビリとかに時間かかるしなぁ…
「ツアーのキャンセルも検討したけど、エースがサポート入れてでもやって欲しい。スニップスの活動を止めないで欲しいって…」
アガリくんの辛そうな表情。
ツアー1週間前ってなると、チケットの払い戻しだったり、関係各社に迷惑かかるから、サポート入れるってのも英断だと思う。
「クィーン、頑張ってぇー!!」
「ありがとう」
ファンの子の声援、こういう時ありがたい。
いいファンいるねぇ、スニップス。
アガリくんの微笑みに、顔真っ赤になってる子いるよ!
「なので、とってもとっても頼りになる人を連れてきました!」
暗い気持ちを吹き飛ばすような、アガリくんの切り替えも良い。
すかさず、馬場くんが、合いの手を入れる。
「キングって呼んであげて!」
「「「「キングー!!」」」」
ノリいいなぁ…
ダカダカダン!っとドラムで声援に応える。
奈良部くんじゃないけど、喋らない戦法で行こう。ボロ出そうだし…
欠席の鳩くんファンにも悪いしね。
「キングのドラム重厚でカッケー!」
「エースのドラムが薄っぺらいって言ってますよね、それ?」
「クィーン、揚げ足とんなし!」
会場が笑いに包まれる。
仲良しだなぁ、二人。
「…つぎ」
うぉ!また奈良部くん喋った!ちょっと不機嫌そう?な顔してる。口とんがってるし、怒ってるようで、全く怖くない感じ。どちらかというと、拗ねてる感じ?
観客の女の子たちも、
「可愛い…ジャック.、嫉妬?嫉妬なの…?」
「2人仲良くて、ヤキモチ?」
「ヤバ可愛…」
とザワザワする。
奈良部くん、策士だな…。女の子たちの反応を分かっててやってるだろ、アレ。
「はいはい、ジャックに怒られちゃった。じゃあ、次は新曲からヤル」
「「きゃー!!」」
暗転。からの馬場くんにピンスポット。
そこから、赤や青、黄色、緑などカラフルな照明が差し込む。
照明さんファイトー。いや、眩しいなぁ…
俺もファイトー。
睡眠時間削って練習した甲斐もあり、体が迷いなく動く。
やっぱり、ドラム楽しい、ライブ楽しい!
観客との一体感、暑いエネルギー(むさくない)、女の子たちのヘドバンも決まってるし、コールも面白い。
V系バンドも悪くない。
スケタンクトップの衣装は嫌だけど…
白いから、ブラックライトだと微妙に光るし…
ちょっと怒りが入って、強く叩きすぎて、スティクにヒビ入ったー。
いかん、いかん、集中、集中。
ちょっとだけ、ドラム語ってみた。
すみません、素人です。