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ツアー初日④

結局、タンクトップを嫌々着て、ジャケットを羽織る。


ジャケットのボタンを閉めて、少しでもタンクトップ率を下げたいが、、どうにも動き辛いので、泣く泣く諦めた。


演奏第一な自分が憎い…


鏡の前には人生で初めましての自分。

顔はメイクでキリッとイケメン風に、衣装はダークなハートタンクトップ野郎…


死ねる。


大丈夫だ、ドラムなんて、座ってしまえば、ほぼ見えない。サポートだし、誰も俺のことなんて見ないだろう…


「はぁ…」


ため息とまらない。

気軽に同意した俺のせいだ。

スケタンクトップは、今日だけだ。

あと2時間の我慢だ…


「はい、みんな完成ー。うん、イケメンだねー」


メイクの塔さんの声で、思考の渦から脱して、周りを見渡すと…


「いや、お前誰だよ!?」

「俺っすよー!」


可愛いフェイスに変身した奈良部くんは分かる。

元々小顔だし、目もタレ目で愛嬌のある顔をしていた。

頬のピンクのチークに似合いすぎだし、

衣装のシルクハットが小顔効果を演出している。

親戚にいたら、甘やかしたくなるタイプだ。


ロン毛のアガリくんも、色気増し増し、ダーク増し増しだけど、三白眼の目力とシャープな顔立ちが活かされてる。

いつも一つに結んでいる髪も、複雑に編み込まれ、キラキラしたアクセサリーまで巻き付けられている。


問題は、金髪細目の馬場くん。

目が開いてるか閉じてるか、分からないくらい、あんなに細かった一重の目が、ぱっちりウルウル二重のデカ目に。

もりもり付けまつ毛に、キラキラな目元。

肌は、色白になり、ツヤツヤしている。

髪の毛もホストのように、盛られている。


「詐欺だよねぇ。ファンの子、すっぴんだと絶対気付かない」


詐欺メイクした塔さんがしみじみ言う。


「塔さん凄すぎ。あの細目が、こんなに変わるとは…」

「お褒め頂き、ありがとうございます!」


化粧って怖い….。別人になれるんだ…


3人を衣装を見てふと気づく。


馬場くんは、ダイヤのマーク。(黄色のキラキラ)

アガリくんは、スペードのマーク。(青)

奈良部くんは、クローバーのマーク。(緑)

俺は、ハートのマーク。(赤)


「あれ、トランプ?」

「今更っすか!?」


馬場くんのツッコミ。声でかいなぁ…


「先程から思っていたんですが、付合さん、私たちスニップスのホームページを見ていらっしゃない…?」

「あ、俺も思ったー。付合さん、そもそもスニップスがV系バンドって気づいてない感じだったよね?」


奈良部くんも、ジト目でコクコクと頷く。

話さないけど、表情は豊かだよな…


「申し訳ない。興味がないわけじゃない。…通信制限掛かって、画像開けないし、紹介だから変なバンドじゃないと思ったし、音源聴いた時も、カッコいいから大丈夫だと踏んで、な!」


借りた音源には、メンバーの写真もなかったし、15曲を覚えることに必死になってたのもある…


「ふはっ!付合さん、案外天然ですか?」

「俺は、憧れの付合さんと同じステージに立てるだけで、嬉しいです!」

「楽しければ良いデス」


奈良部くん喋った!


「っおい!なに爆笑してんだよ、アガリ!」


ったく、失礼な奴だなぁ…


「まぁ、なんだ、楽しければ良い。それはバンドやる上で大事だよなぁ…

よしゃーツアー初日、めいっぱい楽しもうぜ!」

「うっす!!」

「ブッハ!付合さん、本番まで、あと2時間ありますよ…」

「アガリー!」



__________________________


ツアー初日とはいえ、インディーズのスニップスは、まだまだ駆け出しのV系バンド。

対バンとして、先輩V系バンドや友人V系バンドを呼んでいる。


ツアーと銘打っていることもあり、トリを任されているので、出番はまだ先。

あまり見慣れないV系バンドの参考にステージ脇から、観覧しようと思い立つ。


本当は、この衣装で歩き回りたくないが、

そこまで大きくない箱だから、ほぼ、出演者にもスタッフにも挨拶は、終わっている。


つまりこの会場で、この衣装を見てない奴は、いない。(客席除く)


折角なら、楽しまねば!

足取りは軽く、ステージ脇に到着すると…


まず、驚くことは、客層の違い。

圧倒的な女子率の高さ。

オシャレな服装の多さ。

フローラルな香り。


前のバンドの時は、客は野郎率高いし、暑いし、汗臭いし、基本バンT。


ジャンルの違いって面白いなぁ…


V系といっても、音楽ジャンルは様々だから、シャウトする奴もいれば、日本語歌詞のバンドもある。


スニップスは、割とロックよりだから、音楽性は結構好きだ。メロディックでカッコいい。


うぉ!あれが、所謂バンギャちゃんたちのヘドバンだな。

すげー曲に合ってる!

ついつい、見入ってしまう。


「…フゴウさん!」

「っお!なんだ、アガリか…」


突然、肩を叩かれて耳元で声を掛けられれば、驚くわな。


「そろそろ、最終チェックを…」

「もう、そんな時間。悪りぃ、今行く」


段取りの再確認だな。


「戻りましたー」

「おかえりなさい」


イケメンに変身した、馬場くんがお出迎えの声を掛けてくれた。


「付合さん、お直ししますよー」

「え?」

「ファンの前では、完璧なフェイスで居なきゃいけませんからね」


最近チェックってメイクの方かい!

塔さんが、テキパキとスポンジと筆を使いお直しを始める。


「付合さんは、乾燥肌なんですね。ちょっと油分足しまーす」


どうやら、乾燥してヒビ割れのようなものがあったらしい。


「付合さんは、トークはナシでも大丈夫です。

もし、乗れるようなら、入ってきても良いです。

お任せします。基本、私とアガリが話しますので」

「はい」


まぁ、前のバンドでもほぼ話さなかったからな。

演奏に集中できるのは良い。


「そういえば、ステージ上では、私たちに呼び名があります」

「呼び名…?」

「芸名みたいなものですね。私は、クィーン」


アガリは、確かに見た目、女王様だな。

衣装もスカートっぽく、ヒラヒラしてるし。


「俺は、ジョーカー。馬場から来てます」


馬場くん、まさかの本名由来。そのまんま。


「ジャック…デス」


奈良部くんは、まぁ、そんな感じ。

ちまっとした小動物雰囲気からかな…?


「んで、鳩は、名前がハジメだから、エースだったんだけど…付合さんどうします?」


一応、メンバー全員トランプ関係の名前ってことか。


「いや、俺はサポートだし、いらなくね?」

「ダメです!紹介するんですから!」

「ツアーも一緒に回りますしね!!」


なんで、そんなノリノリなんだよ。

奈良部くんも目がキラキラしてるし…


「トランプだと、あとキングしかないですね?」

「そうだな。残りは、普通に数字だし、つまんないよな?」

「いや、普通でいいんだけど…」


キングとか何だよ。王様キャラじゃねぇし。


「はい、決まりー!今日から、付合さんは、キング」

「キング、よろしくお願いします!」

「…シマス」


奈良部くん、カタコトキャラ…?

って拒否権なしかよ!

細かいことは気にしない付合さん。

それにツボるアガリくん。


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