ツアー初日③
結局、タンクトップを嫌々着て、ジャケットを羽織る。
ジャケットのボタンを閉めて、少しでもタンクトップ率を下げたいが、、どうにも動き辛いので、泣く泣く諦めた。
演奏第一な自分が憎い…
鏡の前には人生で初めましての自分。
顔はメイクでキリッとイケメン風に、衣装はダークなハートタンクトップ野郎…
死ねる。
大丈夫だ、ドラムなんて、座ってしまえば、ほぼ見えない。サポートだし、誰も俺のことなんて見ないだろう…
「はぁ…」
ため息とまらない。
気軽に同意した俺のせいだ。
スケタンクトップは、今日だけだ。
あと2時間の我慢だ…
「はい、みんな完成ー。うん、イケメンだねー」
メイクの塔さんの声で、思考の渦から脱して、周りを見渡すと…
「いや、お前誰だよ!?」
「俺っすよー!」
可愛いフェイスに変身した奈良部くんは分かる。
元々小顔だし、目もタレ目で愛嬌のある顔をしていた。
頬のピンクのチークに似合いすぎだし、
衣装のシルクハットが小顔効果を演出している。
親戚にいたら、甘やかしたくなるタイプだ。
ロン毛のアガリくんも、色気増し増し、ダーク増し増しだけど、三白眼の目力とシャープな顔立ちが活かされてる。
いつも一つに結んでいる髪も、複雑に編み込まれ、キラキラしたアクセサリーまで巻き付けられている。
問題は、金髪細目の馬場くん。
目が開いてるか閉じてるか、分からないくらい、あんなに細かった一重の目が、ぱっちりウルウル二重のデカ目に。
もりもり付けまつ毛に、キラキラな目元。
肌は、色白になり、ツヤツヤしている。
髪の毛もホストのように、盛られている。
「詐欺だよねぇ。ファンの子、すっぴんだと絶対気付かない」
詐欺メイクした塔さんがしみじみ言う。
「塔さん凄すぎ。あの細目が、こんなに変わるとは…」
「お褒め頂き、ありがとうございます!」
化粧って怖い….。別人になれるんだ…
3人を衣装を見てふと気づく。
馬場くんは、ダイヤのマーク。(黄色のキラキラ)
アガリくんは、スペードのマーク。(青)
奈良部くんは、クローバーのマーク。(緑)
俺は、ハートのマーク。(赤)
「あれ、トランプ?」
「今更っすか!?」
馬場くんのツッコミ。声でかいなぁ…
「先程から思っていたんですが、付合さん、私たちスニップスのホームページを見ていらっしゃない…?」
「あ、俺も思ったー。付合さん、そもそもスニップスがV系バンドって気づいてない感じだったよね?」
奈良部くんも、ジト目でコクコクと頷く。
話さないけど、表情は豊かだよな…
「申し訳ない。興味がないわけじゃない。…通信制限掛かって、画像開けないし、紹介だから変なバンドじゃないと思ったし、音源聴いた時も、カッコいいから大丈夫だと踏んで、な!」
借りた音源には、メンバーの写真もなかったし、15曲を覚えることに必死になってたのもある…
「ふはっ!付合さん、案外天然ですか?」
「俺は、憧れの付合さんと同じステージに立てるだけで、嬉しいです!」
「楽しければ良いデス」
奈良部くん喋った!
「っおい!なに爆笑してんだよ、アガリ!」
ったく、失礼な奴だなぁ…
「まぁ、なんだ、楽しければ良い。それはバンドやる上で大事だよなぁ…
よしゃーツアー初日、めいっぱい楽しもうぜ!」
「うっす!!」
「ブッハ!付合さん、本番まで、あと2時間ありますよ…」
「アガリー!」