幕間・大魔女グレンとバルヴェニア。
「君はどうするんだい? バルヴェニア・ダフタ・アン・スペイサイド」
光の道の上。
暗黒の中に反転して佇むのは、黒衣のローブを纏い、黒の三角帽を被った大魔女グレン。
「消えるよ。私も。皆と一緒に」
光の道の只中に立つ者、鳥の嘴に似たガスマスクを被ったバルヴェニアは、淡々と答えた。
「死を選ぶのかい? 君には他の魔女と同様に自我を与えたのだけどね」
「その通りだ。自我がある。私には」
「なのに、死を選ぶと?」
「そうだ」
「何故だい? 生きようと思えば生きられるじゃないか。魔法が使えるだろう? 光を遮ればいい。別の世界に行ってもいい。生きる方法がいくらでもあるだろう?」
「探さないわけではなかった。生きる道を。けれどもう充分だと思った」
「飽きたのかい? 生きる事に」
「満足した」
「まるで吸血鬼のような言葉だね。感化されたのかな」
「そうだろう。きっと」
「全て終わったのかい? やるべき事は」
「終わってはいない。けれど満足した。後の事はこの世界の者に任せた」
「そうか。そうか。満足したのか。それは良かったね」
「良かった。本当に。この世界の終わりを見届ける事が出来て」
「そうかそうか。嬉しいよ。私も。この世界の新たなる始まりを眼にする事が出来て」
「どうするつもりだ? あなたは? 大魔女グレン。吸血鬼のいなくなった後も。見守ってくれるのか? この世界を」
「勿論だとも。見守り続けるよ。これまで通り」
「世界が危機に陥った時。差し伸ばしてくれるのか? 救いの手を」
「外的要因により世界に危機が迫った場合のみ。手を貸すよ。私は。かつての大戦と呼ばれるあの戦いの時のように」
「とすると。やはりこの世界の行く末は残された彼ら次第という事か」
「そうだね。そうだとも。世界はそうでなければならない。世界はそこに生きる者達で回されなければならない」
「吸血鬼の退場は願うところか」
「そうとも言える。そうとは言えない」
「どちらでもなく。どちらでもある。素直だな。大魔女グレン」
「素直だとも。好きなんだ。世界が。愛しているんだ。全ての世界を。そこに生きる者達を」
「愛しているのか」
「愛しているよ。だから私はここで見守り続けるよ。全ての世界を。この始まりの場所から」
「では世界は任せる。私にして私ではない者。大魔女グレン。あなたに」
「勿論。力を尽くすよ。私にして私ではない者。バルヴェニア・ダフタ・アン・スペイサイド」
「さようなら」
「さようなら」
バルヴェニアの姿が消えた。
初めからそこには誰もいなかったかのように。
残された大魔女グレンは、静かに、全てを見回した。
今ある世界を。
そして、これからの世界を。
「それでは約束通り戻すとしよう。この世界に。日の光を」
深い黒い色の瞳がぐるりと回った。
何かを切り替えた。
魔法が、解けた。
世界が、ゆるやかに変わり始める。




