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1−2、手紙(二枚目)

 ちなみにそのインカナ様はというと、毎日ニヤニヤしながら街の復興を眺めています。

 何も手伝ってくれません。

 人手も足りませんし、色々と大変なので、恐れ多くも一度助力をお願いしてみたのですが、


「このインカナ様に頼ってんじゃねぇ! これからはてめぇらの時代だぞっ! てめぇらが何でもてめぇの力でやってかなきゃいけねぇんだよっ!」


 との事でした。

 相変わらず口が悪いというか、思った事をそのまま口に出すタイプの御方のようですが、それはそれとしてインカナ様の言葉は一理あると思いました。

 吸血鬼の御方々はこの世界から去ってしまいます。

 私達はこの世界に残ります。

 残った私達が自分達の力であれもこれもやっていかなければならないのは当然です。

 まあそうは言いつつも、あれこれ口出ししてきたりはしていますが(本当に口だけというか、手を貸してくれない代わりにアドバイスをしてくれてるみたいです。何だかんだ言っても私達の事が心配なのでしょうね。なんだか微笑ましいです。でもインカナ様が見ているというだけで、美しさを求められているような気がして手を抜けなくなるというか……もうちょっと頑張ろうと思えるから、手伝ってくれなくても皆の力になっているのは間違いないですね。流石はインカナ様です)。


 そうそう。

 そう言えば、インカナ様が一線を退いたのでベルロゼッタの城主はアイン様になりました。

 まだ全快とはいかず包帯だらけで「体中いた〜い。もう休みたいんですけどぉ」と弱音を吐いたりしていますが(その度にインカナ様から小突かれて小さな悲鳴を上げたりしていますが)、指示は的確ですし、人々の事を思いやっている心遣いがあり、ああこの人が城主なら何もかも上手くいくだろうなという安心感を日々感じています。

 本当に、インカナ様の事を側でよく見て勉強していたのだなぁと思わされます。

 なのでベルロゼッタは大丈夫そうです。

 余談ですが、ベルロゼッタで今ルピナシウスのお茶が話題になっています。


「今ってどういう事ですか? ルピナシウスのお茶は前から人気ですよね?」と言われるのが目に見えていますが、今は以前よりも更に更に人気になっています。

 何故だと思います?

 答えは、宣伝がめちゃくちゃすごいからです。

 次期当主と噂されるクラレット・ララ・ルピナシウス様という御方がですね、ベルロゼッタを守る為にその身を犠牲にして戦った自分の姉、つまりミナレット・ルル・ルピナシウス様の活躍を涙ながらに語っているのです。

 これがもう本当にとってもとってもとーってもすごい感動するお話でして、私も何回も聞き入ってしまいました。

 ミナレット様ってとっても高潔な御方だったのですね。

 一族の繁栄の為に、いえ、この世界の人々を守る為に単身家を飛び出して様々な地を放浪し戦う力を身に付け、インカナ様の下で巨獣を倒して妹君の為に茶畑を開き、アルザギール様の下で世に蔓延る悪を颯爽と討ち滅ぼし、最後はその命を燃やし尽くして世界を支配しようとしていたロジェ様を討ち取った……。

 もう本当に毎回涙なしには聞けないお話しです。

 特に「命を奪う度に、自らが奪ったその生命の重さを感じて苦しんでいた……しかしこの世界の為に、涙は心の中でだけ流し、勇敢に剣を振り続けた……」というところが、ミナレット様の苦しみと、それでも戦わなければならなかったこの世界の在り方に問いを投げかけているようでなんだか深いです。

 ユーリさんはミナレット様と共に戦い、最後を見取られたとの事ですが、ユーリさんの口から実際のお話しを聞いてみたかったです。

 千を超える兵士をたった一人で斬り伏せたという大活躍、実際はもっと凄かったんでしょうね。

 つい流れてしまった涙で視界が曇ったが故に不意打ちを受けてしまい命を落としてしまったのが残念でなりません。

 ああ、ミナレット・ルル・ルピナシウス様。

 妹のクラレット様があそこまで熱く語っているのですから、とても素敵な御方だったのでしょう。


 何だか湿っぽい雰囲気にしてしまってすみません。

 ユーリさんもお友達を失って辛いのに……。

 話題を変えます。


 シンスカリの領主ですが、皆の総意でルドベキア様になりました。

 ルドベキア様は街の復興に力を尽くしてくれています。

 この世界にカメラが無いのが残念です。

 もしあったのなら、今のシンスカリの風景を撮影してこの手紙に同封したのに。

 少し前にユーリさんに見せた景色とはまるで違いますが、それでも、少しはあの時の素敵な景色が戻ってきたような気がします。

 私達は頑張ります。

 いつか街を元通りにします。

 吸血鬼の御方々がいなくなってしまっても、自らの力で。

 手紙なのに決意表明みたいなことを書いてしまってごめんなさい。

 ユーリさんがこの手紙を読んでどんなことを思ったのか知りたいところですが、返信はきっと無理でしょうね。

 だって、この手紙がユーリさんのところに着く頃には、日が昇る直前かもしれませんから。

 この手紙が無事にユーリさんのところに届いて、ユーリさんに読まれていれば、それで大丈夫です。

 長々と近況報告などをしてしまいましたが(ちょっとは気になっているのかなと思ったので)、この手紙で伝えたかったのは、ユーリさんへの感謝の気持ちです。

 ユーリさん、私達を救ってくださって、本当にありがとうございました。

 ユーリさんのことだから「あれはアルザギール様達、吸血鬼のお方々のお陰です」とか言いそうですけども、この御礼の気持ちはきちんと受け取ってください。

 よろしくお願いしますよー!


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