表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/101

1−1、手紙

 親愛なるユーリさんへ。


 お久しぶりです、ステラです。

 月日の流れは早いもので、あれから三ヶ月が経ちます(三ヶ月とは言ってもこちらの世界の暦と私達の世界の暦は違うようなので、私の感覚からして三ヶ月という意味ですが)。

 

 ユーリさんはお元気ですか? 

 

 如何お過ごしでしょうか?

 

 ロジェ様との戦いで酷くボロボロになっていた(それこそあの時は一人では馬にも乗れないくらいに憔悴されておられた)ので、今もまだ休養しているところでしょうか?

 それともやはり吸血鬼なので、血を飲んで元気になり、アルザギール様の為に働いている最中でしょうか?

 初めて出会った時、ユーリさんは頭を剣で貫かれていたというのにすぐ回復していたので、きっと後者なのでしょうね。

 そうであることを祈っています。

 

 ちなみに私は元気です。

 元気いっぱいに、とても忙しい毎日を送っています。

 私は毎日、街の復興の為に尽力しているのです!

 ……これは威張って言うことではなかったですね。

 困っている人がいたら助けるのは人として当たり前のことですから。

 とは言え、そういうわけで色々大変です。

 あの時、ロジェ様の軍隊が突如として攻めてきたあの日、シンスカリの街は、私の日常は、徹底的に破壊されました。

 火が爆ぜる音。

 近付いてくる炎。

 鉄と鉄がぶつかる音。

 街の人達の悲鳴。

 怒りの声。

 助けを求める声。

 数えきれない足音。

 通りに広がった血。

 今思い出しても、手が震えます。

 拙い文字になってしまうことを許してください。


 怖かったです。

 とても。

 私自身が売られそうになっていた時よりも、目の前で知っている人達が死んでいく事の方が何倍も怖かったです。

 そして、そんな死んでしまった人達を置いて、必死に走った私の心の醜さも。

 何もかもが、とてもとても怖かったです。

 それでも、私はとにかく走りました。城に向かって。

 ラエ様なら何とかしてくれる。きっとそう思っていたのだと思います。あまりにもがむしゃらだったのでよく覚えていません。

 そうして何とかたどり着いた城で、ラエ様は私達のような戦えない人達を集めてこう命令して下さいました。

「私が敵を引き付けるから、その間に逃げなさい」と。


「どこでもいい。私の事は気にするな。とにかく自分が生きる為に逃げなさい」と。


「この街の人々を守る事が、領主である私の務めだ」と。


 この時、ロジェ様が軍を率いて何の理由もないのに突然攻め込んできたという話しを聞かされました。

 私達はみんな口を揃えて言いました。

 一緒に逃げましょう、と。

 こんなことをしてくる相手に捕まればどうなるのか。

 殺されるに決まっている。

 敵を引き付けるなんていつまで出来るのか。

 吸血鬼が相手なのだ。何も出来ない、と。

 なのに、それなのに、立ち向かえば敵わないことなんてわかっていたはずなのに、ラエ様は少ない兵を率いて自ら打って出られました。

 同時に私達はルドベキア様に連れられて街から逃げました。

 たぶん街を襲った彼らはラエ様が自ら攻勢に出るとは思ってもいなかったのでしょう。

 それでこちらを追撃する余裕が無かったのだと思います。

 あるいはラエ様を討ち取ったことで満足したのか。

 とにかく、ラエ様が時間を稼いでくれたお蔭で私達は逃げ切ることが出来ました。

 その時は心底から、助かった。と思いました。

 良かった。とも思いました。

 同時に、罪悪感も浮かんできました。

 私達だけ助かってしまった。逃げてしまった。生きてしまった。

 闇の中で赤々と燃え盛る火に包まれている街を眼にすると、安堵と情けなさで涙が出ました。

 気付けば、私達は声を上げて泣いていました。

 自分の感情を抑えられませんでした。

 そんな時でした。

 ルドベキア様はこうおっしゃられました。


「戦いましょう」と。


 ルドベキア様はそれから色々と語ってくれました。

 ロジェ様が考えているであろう事について。

 街を襲った次はインカナ様やアルザギール様、その他の吸血鬼の御方々を亡き者にしようと戦争を仕掛けるであろうという事。

 もしロジェ様が他の吸血鬼の御方々を倒し、勝利を納めてしまったら、世界はこれまで以上に大きな力、恐ろしいまでの暴力によって支配されてしまうかもしれないという事。

 その時が訪れるのを指を咥えて待つのか。それとも、そのような時が訪れるのを防ぐ為に行動を起こすのか。

 ルドベキア様は私達に問いました。

 そして言いました。


「私は行きます。近くの街に助力を請いに。そして戦います」と。


 私達は勿論それに付いていきました。

 他に行く宛がなかったというのもありますが、ルドベキア様のお言葉に強く背中を押されました。

 ここで動かなかったらいつ動くんだ、って。

 悩んだりすることなく、決めました。

 そうして、近くの街に行って救援を募り、吸血鬼の御方々の下に、ユーリさんのところに駆けつけたわけです。

(今更どうでもいい話ですよね。ごめんなさい。ただ私が辛い経験を吐き出したかっただけです。お陰様で少し楽になりました。ありがとうございます)

 

 それにしても、まさかルドベキア様があのような御方だとは思ってもいませんでした。

 物静かな御方だと思っていました。

 いつも上品で、綺麗で、赤いドレスを着ていたから赤色がお好きで、お茶がお好きという事くらいしか知りませんでした。

 それが、あんな殺戮を見た後で、果敢にもそれに立ち向かおうとするなんて。

 これは聞いた話ですが、何でもルドベキア様は以前最愛の人を失っているそうなんです。

 それも相手は戦奴だったらしいんです。

 びっくりですよね。

 私はびっくりしました。

 少し前に開催されていた戦奴の大会で、優勝した景品としてその戦奴に身分を与えて正式にお付き合いされる予定だったそうですが、惜しくも決勝で敗れ命を落とされたと。

 悲しい話ですね。

 ルドベキア様も後悔されていました。


「最愛の人にあのような戦いをさせるべきではなかった」


「自分の身分など捨てて、心のままに彼を愛するべきだった」


 そのような事を口にしていました。

 そういう出来事があったからでしょうね。

 我が身可愛さでもう大事なものを失いたくない。そう思い先陣を切って馬を走らせたそうです。

 インカナ様もそうやって増援として駆けつけたルドベキア様を眼にしていたらしく、あの後大変お褒めなさっていました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ