場面転換・城塞サイドへ続く。
敵はロジェだけではなかった……?
誰だ?
いつから戦っている?
戦況は?
思い返せば、最初はあった援護の狙撃が無くなったのは何故だ?
もしその時から戦っていたのだとしたら……。
落ち着け。
あれこれ考えるよりも今は、アルザギール様の下へと馳せ参じなければならない。
「ア、アルザギール様っ!」
叫んだ。
そして、立ち上がろうとして転び、右腕と両脚を使って懸命に這った。
血を流し過ぎた。
左半身は再生していないし、頭に刺さっていた槍を抜いても、穴は空いたままだ。
ロジェの血はまだ少ししか取り込めていないない。やつは死んだのに槍は形を保って僕の体に残っている。恐るべき力だ。少し時間が経てばただの血に戻ると思うが……。
今はその少しの時間が惜しい。
敵はまだいる。
早く、血を吸わなければ……。
血の海はすぐそこだ。
地面を這う。
服が汚れてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
もう既にぼろぼろだからいいじゃないか。と人は言うだろうが、良くなどない。
心の中で謝罪の言葉をいくつも申し上げながら進む。
その時、全身が地面に触れていたので、気付いた。
「なん……だ……?」
微弱な振動。
一定のリズム。
馬の駆けるそれに似ている。
何かが、いや、誰かが来る。
それも、大勢。
「ぐ……っ!?」
咄嗟に過ったのは伏兵の可能性。
何かあった時の為に、ロジェが兵を控えさせていたのか?
だとしたら、不味い。
一刻も早く城塞の最上部まで行かなければならないというのに。
普通の兵士など普段なら恐るるに足らないが……万全でない状態で、多数の敵と果たしてどこまで戦えるか……。
とにかく、血だ。
まずはそれからだ。
焦燥感に駆られながらも、僕は着実に、這った。
頼りになる強者は死んだ。
ここには僕しかいない。
だから、進め。
戦う為に。
そして、ああ、どうか。
どうか。
僕が向かうまで。
どうかご無事でいてください。
アルザギール様……。
神のいないこの世界では、祈りを捧げる意味など無いのかもしれないが。
それでも僕は、アルザギール様がご無事である事を一心不乱に祈らずにはいられなかった。




