転章・闇
僕はどうすればいいのだろうか? ……わからない。
何をすればいいのだろうか? ……わからない。
アルザギール様をお救いするには、何をどうするべきなのだろうか? ……わからない。
自問自答。
答えはどれも、わからない。で終わる。
「いずれ、あなたの答えを聞かせてくださいね」
アルザギール様はそう言って、僕に背を向けた。
そうして僕たちは、森を去った。
まるで何事も無かったかのように……となれば、どれだけ良かっただろうか。
帰り際、ルーレスが尋ねた。
「全ての吸血鬼の同意を得る、か……アルザギール、お前は次に誰を口説き落とすつもりだ?」
「オドロアとトリフォリです」
「何? 二人同時にか?」
「はい。インカナの居城にて、会談を開く予定です」
「インカナの……すると、あいつは既に……」
「はい。彼女は私の願いに同意してくれています」
「俺様が最初ではなかったのか……」
「残念ながら」
落ち込むルーレスに、アルザギール様は小さく微笑まれておられた。
悲壮感なんて微塵も漂っていなかった。
「ラーセイタ様の居城に行くとなると、遠出になりますから準備が必要ですね。忙しくなるなぁ」
「大変だと思いますが、よろしくお願いしますね。フォエニカル」
「大変ですが、仕事はきっちりこなしますよ。お任せください。アルザギール様。……トランキノ、お前にも色々と手伝って貰うからな。覚悟しとけよー」
「出来る範囲で手伝おう」
隊長も、トランキノも、いつも通りだった。
何も変わらない。
嘘みたいに。
彼らの歩みに迷いはなかった。
たぶん、何か、確固たる信念を足がかりにして、しっかりとした足取りで歩いていた。
僕はふらついていた。
木の根に足を取られた。
雑草で滑った。
ぬかるみで靴を汚した。
ああ、くそっ……アルザギール様から頂いた靴が……。
これまでは、そんなに汚れていなかったのに、どうして……。
トランキノが「大丈夫か?」とか「気を付けろ」とか「一度軽く踏んで、足元を確認してから歩け」とか何かと色々世話を焼いてくれたが、殆ど聞き流した。
頭の中はアルザギール様でいっぱいになっていた。アルザギール様以外が入る余地など無くなっていた。
僕の思考の中で、次々と増えていく様々なアルザギール様。
アルザギール様。
アルザギール様……。
アルザギール様…………。
アルザギール様によって、心が重くなっている。
不確かになった信念。
死を望んでいるアルザギール様。
アルザギール様の死を望んでいない僕。
僕は、どうすればいいのだろうか? 再び自問した。
わからない。再び自答した。
また、わからないで終わってしまった……。
これから一体何度、この自問自答を繰り返す事になるのか……それすらもわからない。
それでも、僕は、問わずにはいられなかった。
死を望まれるアルザギール様を、お救いする方法を。
例えそれが、主の願いに反する行為だとしても。
ものとして、あるまじき想いであっても。
答えを探さずには、いられなかった。




