4、後日談
翌日、僕はミナレットと共にアネモネが育ったという孤児院へと向かった。
馬を飛ばして、半日程掛かった。途中休み休みだったが、半日もミナレットの側にいるのは、正直きつかった。変わっていく風景を楽しむ余裕すら無かったくらいだ。
そうして辿り着いた、人里離れた場所にあったそこは、表向きには普通の孤児院だった。
どんな事情があるのかは知らないが、何かあって捨てられた子供達がいつか世に出るまで、遊び、学ぶところ。
白耳長の年配の院長や、黒耳長の若々しい職員たちは、不幸な子供達に輝かしい未来を与えようと、真面目に仕事に取り組んでいた。
そういう風に見えた。
あくまで、表面上は。
僕とミナレットは誤魔化せなかった。
至る所に染み付いた血の匂い。
熟達した職員たちの所作。
子供達に残る修練の後。
そのような諸々の痕跡を、見逃さなかった。
ここは、暗殺者を育てる為の場所であった。
だから、殺した。
まずは職員たちを、続けて子供たちを。
それなりに、手強かった。
しかし、残念ながら、圧倒的に実戦経験が足りなかった。
きっとこれから、各地で任務をこなし、経験を積んでいく予定だったのだろう。
この世界で生きる為の力を、戦いの中で、日々の中で、身に付けていくつもりだったのだろう。
だが、そういう未来は訪れなかった。
彼らは死んだ。
己の弱さ故に。
ただ、僕たちにとって嬉しい誤算だったのは、彼らが仲間思いであり、激情に身を任せて玉砕覚悟で突っ込んできてくれた事だ。
仲間を守る為、とか、仲間の仇、とか……一緒に訓練していたせいで、情が沸いていたと思われる(アネモネも仕送りなどをしていたらしいし、仲間意識が強いのだろう)が、そのお陰で向かってくるやつを片っ端から斬り殺せば終わりだったので、楽々と仕事を完遂する事が出来た。
その後、僕たちは生きている者のいなくなった施設に、火を放った。
証拠隠滅……ではない。
見せしめだ。
アルザギール様に楯突く者はこうなる。という、それを知らしめる為に、火を放ったのだ。
僕は、大きくなる火を眺めながら、アネモネの言葉を思い出していた。
「美しい世界を望んでいるなら、わたしの孤児院の人たちを、どうか……」
途切れた言葉の先は何だったのか。
順当に考えれば「どうか助けてあげて」のような、そういう言葉に決まっている。
彼女の言いたかった言葉は想像は出来たのに、僕がとった行動は、これだ。
だけども、それに対して何も思うところはない。
力ある者が力の無い者を蹂躙するのは、この世界ではよくある事だ。
よくある事が、ここで起こっただけだ。
それだけの事でしか無いのだ。これは。
……そういえば、これはかなりどうでもいいことだが、ミナレットは、アネモネの双剣を持ってきており、それで施設にいた人たちを切り裂いていた。
彼女の曰く「アネモネさんが死んだと聞いて、死体を見に行ったのです。美しい顔で死んでいましたね。女性なので、顔に傷を付けずに殺してあげられて良かったのではないでしょうか。……あ、それと、どうせ捨てるのでしたら、勿体無いので、これは私が使わさせていただきます」とのことだった。
何が折角なのか全くわからなかったが、使いやすいとか、そういう実用的な理由で再利用する事にしたのだろう。
形見のつもりではない。彼女はそういう感傷を持つ者ではない。
面倒なので、突っ込んで理由を聞かなかったが、たぶんそうだと思われる。
兎にも角にも、こうして、今回の一件は、暗殺者と、それを育成していた組織を壊滅させて、一先ずのところ終わった。
背後にいる吸血鬼まで行き着く事は出来なかったが、これだけ派手にこちらが動けば、敵も何らかの行動を起こすはずである。
その時が、チャンスだ。
敵が何者なのかを突き止めて、殺す。
これは、確定事項である。
その者がどれだけの力を持っていようとも。
この世界を支配している吸血鬼であっても。
必ず、叩き潰す。
そいつを超える、更なる力で。
単純な、暴力を用いて。
力こそがこの世界の絶対のルールであるのならば、僕はそれに従おう。
己の持つ力、暴力で以って、敵を討ち滅ぼそう。
アルザギール様の為に、必ず。
燃えていく孤児院を眺めていたせいか、僕の心の中に、熱い火が灯った気がした。
殺意という名の、熱い火が。




