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5ー1、ルドベキアの招待。決勝戦、前日。

 僕が街に出る事は滅多に無い。

 今でこそ闘技場に行く為に外に出させていただいているが、普段はアルザギール様のお屋敷で戦闘訓練や警備に勤しんでいるので、街に繰り出した事はおろか、お屋敷の外に出た事も殆どない。

 けれど、外に出る事が出来なくて残念だ。と思った事は一度も無い。むしろ僕は外に出たく無い。

 理由は単純で、アルザギール様のお傍にいられないからである。


「……はぁ」


 そういう理由で外に出るのが嫌いな僕は、馭者である白耳長の男が背に乗る、馬くらいの大きさの、四足の爬虫類型の生き物に引かれる四輪の車の中で、一人重々しく溜め息を吐いた。

 様々な種類の、木造や煉瓦造りの店が立ち並び、様々な職に付いている白耳長や黒耳長が石畳の道を闊歩し、奇妙な姿をした獣人の奴隷が荷を引いていたりする、魔界の活気の溢れる通りを見ても、気分は晴れず、落ち着かない。

 アルザギール様の傍を離れているから。というのは勿論そうだが、やはり奴隷商の店が眼に入ってしまうからだろう。


「……」


 郊外にあるアルザギール様のお屋敷から出て、少ししたところにあるこの街には、奴隷を扱っている店が多く並んでいる。

 この街に限らず、商人などに代表される、稼ぎの多い者の比率が高い街ならば、そこには数多くの奴隷を扱う店があると聞く。

 そんな金持ち連中御用達の店先に置かれた、頑丈そうな檻に入れられているのは、それなりに大きめの狼やライオンに似た獣に、飼育しやすそうな小型の竜だ。

 別の店では、戦闘用や荷物運び用に生み出された動物部分の割合が多い力強そうな獣人の男と、愛玩用の猫耳や尻尾が生えている人間部分の割合が多い獣人の女を取り扱っている。

 その隣の店は人間専用の店らしく、他種族配合用の人間の成人女性とか、食用の人間の子供とか、そういう者達が売られている。

 獣人も人間も、目がうつろだ。

 薬物でも使われているのか、それとも、絶望しているのか。そこにどんな理由があるかはわからない。だが、この光景を目にすると、自分も何かが一つでも間違っていれば、こんな風に店先で売られて、どこの馬の骨とも知らない下衆の下で飼い殺されてしまっていただろうな。という思いが過る。


「アルザギール様の言う通り、ここは、醜い世界だ……」


 かつての大戦で、勝利を手にした者たちが、その勝利に浸り、酔ってしまっている世界。

 異常な世界だ。

 正常な者など、殆どいない。

 ……僕は、本当に運が良かった。

 もし運悪く、アルザギール様と出会わなかったら……というのは、想像したくも無い。想像したくも無いから、外に出たく無い。


「はぁ……」


 奴隷店から目を離して、もう一度溜め息を吐いた。

 そもそもこんな思いをするはめになっている原因を作ったのは、ルドベキアだ。こんな気分になっているのは、全てルドベキアのせいなのだ。

 あれから二日経ち、決勝戦前日となった今日。アルザギール様は、最終調整をしようと訓練に励んでいた僕を部屋に呼び出して、こうおっしゃられた。


「ルドベキアがですね、良いお茶が入ったので、取りに来てれ欲しい。と言っているのです」


「はい……?」


 何故そんなお話しを僕に? と思ったのも束の間、疑問の答えは、アルザギール様の麗しいお声で語られた。


「ルドベキアは、受け取りに来る者に、あなたを指名しています」


「僕を……ですか?」


「あなたをです。ユーリ。なのでこれから、ルドベキアの下に、お茶の受け取りに行って来てはくれませんか?」


「……承知いたしました」


 そういうわけで、僕はルドベキアの用意した車に乗せられ、彼女の屋敷へと連れて行かれているところなのである。

 で、あるのだが、一体いつまでこんな光景を見せられなければならないのか……。


「ん? まさか……」


 嫌な気持ちが高まる中で、ふと思ったが、この車はそういう奴隷の店が多い通りを選んで、ルドベキアの屋敷まで向かっているのではないだろうか?

 すると、この光景を僕に見せる事で、心変わりを狙っているのか?


「嫌な女だ」


 正直に思った事を口にして、僕は目を閉じた。

 寝たりはしない。ルドベキアの思惑に乗らない為だ。

 あいつの事などどうでもいい。

 僕にはアルザギール様がいれば、それでいいのだから。


「アルザギール様……」


 閉じた瞼の裏に、アルザギール様のお姿を思い描き、僕は車に揺られた。


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