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温まる時は一瞬で過ぎ去る。

今日でダルトが27歳となった。時の魔法の実験を始めてから、俺がこの世界にやって来てから、2年が経過していた。

この2年間、俺はダルトと共に実験を繰り返しながら、この世界の遺跡や未開の地を旅して、呪いを解く手がかりを探っていた。全く同じとはいかなくても、似たような呪いとその解呪の記録があればと思うが、好んで神の逆鱗に触れる輩などそうはいないようだ。少なくとも呪いが始まってから、この世界に至るまで、一つも見つけることはできなかった。ただ、探すという思考に至るまでは、あの二人の行動を見ていたので、全てを確認したわけではないのだが……。


今、俺はダルトと共に街の酒場にいた。街の人達がダルトの誕生日を祝ってくれたのだ。最初こそ、おめでとうと併せて飲んでいたが、今はしっちゃかめっちゃかである。あるやつは裸で躍りだし、あるやつは泣き続けている。いずれもその回りに人が集まり、笑いの輪を作っている。ダルトはダルトでお気に入りの女性と楽しそうに話していた。

俺はと言えば、酒が苦手でジュースをちびちび飲みながら、揚げ物を摘まんでいた。


「よう先生!そんなジュースじゃなくて、(こいつ)を飲まなきゃ大きくなれないぞ! 」


この酒場の向かいにある宿屋の主人が、真っ赤な顔をして俺の目の前に酒の入ったジョッキを差し出してきた。

俺は思わず顔をしかめそうになり、祝いの席だと自分に言い聞かせて笑顔でジョッキを受け取った。そして、一息に口へ流し込む。


「おお!いい飲みっぷりじゃねえか、先生! 」


いつの間にかできていたギャラリーに見せつけるように、空のジョッキをテーブルの上に奥と、屋内に歓声が鳴り響いた。すぐにアルコールが回ってきたのを感じた俺は、みんなに気づかれないよう、素早く魔法で体内のアルコールを分解する。

ちらりとダルトを見ると、しょうがないですねえといった顔でため息をついていた。その視線を見なかったことにして、俺はお返しとばかりにピッチャーに入った酒を、ジョッキへ並々と注ぎ、宿屋の主人へ返した。

宿屋の主人はやってやろうじゃねえかと、意気込んで飲み始めたものの、途中でギブアップ。そのままリバースで酒場の女将さんに強制退場させられていった。

また、俺の回りから人が離れたのを見計らい、俺は外へ涼みに出る。


外は少しだけ肌寒かった。この酒場以外は明かりがついておらず、空から降り注ぐ星明かりが際立っていた。


「……綺麗だな」


思わずそんな言葉が口に出ていた。俺も酔っていたのだろう。アルコールにではなく、あの賑やかな場の空気に。

楽しい。久しぶりにそれを感じていた。


この世界にやって来て、俺はすぐにダルトと出会った。彼は魔法使いの上流階級の人間だったが、民のために魔法を使うべきという、この世界では異質な考えを持つ人間だった。それを疎ましく思った身内に暗殺されかけていたところを、意図せず助けてしまったというのが真実だ。けれど、彼は俺がどんなにあなたを助けようとしたわけではないと説明しても無駄だった。

彼は「先生と呼ばせて下さい! 」という強烈な押し掛けで俺に付きまとうようになっていた。最初は鬱陶しいと思っていたものの、彼の魔法に関する知識、技術は卓越しており、助手として重宝していた。それに、彼の裏表のない真っ直ぐな性格に俺自身が救われていた。

今まで、他の世界でも何度か呪いの二人以外の人達とも接することはあったが、ここまで俺を慕ってくれる人はいなかったのだ。


「良いもんだな……」

「何がですか? 」


思わず口に出ていた言葉を返されて、俺は慌てて振り返った。


「主役が外に出てどうするんですか? 」


俺は誤魔化すように、あきれ混じりの口調でダルトの行動を咎めた。けれど、どこ吹く風といった調子で、俺に中へ入るよう促してきた。


「先生を探したら、いないものですから。街の皆さんも先生をお待ちしてますよ。さぁ、入りましょう」


ダルトの笑顔と言葉に、俺は温かいものかんじながら、それを表に出さないように彼の後に続く。

あと、どれくらいの時間、こうしていられるのだろうか。

この世界に来てから2年が経った。もう呪いがいつ起こってもおかしくはない。


頭を掠めた不安を悟られないように、中に入ろうとしたその時だった。遠くから何かが聞こえてくる。それはだんだんと大きくなり、目視できるところまできた。それは騎馬だった。乗っていたのは、フルフェイスの兜を被った騎士だった。

騎馬は俺たちの前で止まり、騎馬から降りぬまま、声を発した。


「貴様らが先生と呼ぶものはどこにいる? 」


その声は明らかにこちらを威圧しようという意図が感じられた。それを聞き、ダルトが俺を庇うように前へ出たが、俺はすぐさまダルトの肩を叩き構わないという素振りで騎馬に近づいた。


「不承ながら、私が先生と呼ばれているものに違いありません」


騎士の動きが把握できる程度に頭を下げ、騎士の発言を待つ。

しかし、以外なことに騎士はすぐに馬から降りて、例を返してきた。


「失礼した。貴殿がそうであったか。私は国よりこの領地の運営を任されている、ディム.ワルトだ」


挨拶をするや、彼は兜を外す。俺はその顔を見た瞬間、この世界で残された時間がわずかであることを悟った。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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