僕は何度でも・・・
私はいつも彼を探している。ずっとずっと昔、私が生まれるよりもっと前、ここじゃないどこかで私は彼と一緒にいた。幸せで、本当に幸せで私たちはずっと一緒にいようと誓った。
けれど、おかしいな。気づいたら、私はいつも一人で、いつも彼を探していた。多分、何度も彼を見つけているはず。なのに、また、探している。
でも、構わない。私は何度でも彼を見つける。だって、私たちが結ばれるのは運命だから。
大好きだよ、――。愛している。
あれ、おかしいな。まただ。また、彼が遠ざかっていく。
でも、心配しないで。そんなに悲しい顔をしないで。何度でも、会いに行くから。
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「……なん……で。なんでだよ……。なんでだよ! 」
僕は彼女が飛んだ腰の高さ程度のフェンスを掴みながら、彼女のいく先を見下ろしていた。
僕の視線の先には、真っ赤な花が咲いていた。彼女を中心に咲いたその花は今も広がり続けている。
「……嫌だ、嫌だいやだいやだいやだ!――!! 」
僕は彼女の名前を叫びながら、フェンスに乗り上げる。
一瞬の浮遊感が僕を襲った。
「……っ、何っ、やっ、てんだよ!! 」
僕は僕を引っ張った誰かと共に屋上のタイルへとぶつかる。
息を切らしながら僕をにらみつけていたのは、勝吾だった。
息が整わぬ間に、勝吾は僕の胸倉を掴みあげる。
「何やってんだよ、お前は!なんで彼女を助けなかったんだ! 」
「っ!わっかんねぇーよ、そんなの!俺だってわかんねぇんだよ!気が付いたら彼女は飛んでいたんだ!彼女が、――が、どんどん地面に近づいていくのに、僕の手は、伸ばしても伸ばしても、彼女には届かなかったんだ!――が僕に名前を教えてくれて、それで、僕は、僕は!……僕は……、どうして彼女のことを忘れていたんだ。僕は、だって、僕は彼女のことを…………えっ? 」
僕は先ほどまで掴まれていた胸のあたりが、どんどん暖かくなっていく。そこを見ると、先ほど見たものと同じ、真っ赤な花が小さく咲いていた。その中心には、一本のナイフが刺さっている。
僕はタイルへと崩れ落ち、その花を咲かせた人物の顔を見上げる。
「なん……で……、しょう……ご……」
勝吾は先ほどの焦りが嘘のように静かに佇んでいた。
「…………お前は、どこまで思い出した?――、お前はいつも全てが終わってから思い出すんだろ?なぁ、――。なんで、お前なんだ?俺なら、俺だったら、彼女をこんなにも死なせたりしない。俺がお前だったら、絶対に彼女を救って見せる!だから、次も、その次も、お前が失敗するたびに、お前を彼女のもとへ送ってやる。それが俺にできる唯一のことだ」
「……ぁ、ぁあ、あああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 」
僕は激情にかられ、胸のナイフを抜いて、勝吾の首へ突き立てた。
「かっ、こほっ、……ぅぐっ……」
「……ぼく……も、……いや、俺も……思い……出したぞ、――。お前は、……彼女が、――が好きだったもんな。けど、――は俺を選んだ!……だから!お前に彼女は渡さない!! 」
俺は勝吾から離れるように後ずさり、やがて、彼女が飛び降りたフェンスへぶつかり、そのまま、彼女と同じ場所へと向かった。
あぁ、また、君に会うよ。きっと……、きっと、また。
だって、僕らは……。
「呪われてるんだから」
そして、僕は旅に出た。
お読みいただきありがとうございました。