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新約ユークリッドの定理

作者: 鼻原種

勇者ユークリッドの出オチな話。

気晴らしに書いたため、ほぼ一発ネタで投げっぱなしで続きもありません。

 王国歴18782年、世界は魔王の侵攻によってなんか大変なことになっていた!

 事態を重く見た国王は自分の息子を勇者にでっちあげ、王国武闘会で選定された2人の戦士を用意した!ちなみに2人は年齢的に王子と同じ15歳前後である!アバウト!

 

「――では勇者ユークリッドよ!王国の選びし2人の戦士を引き連れ、魔王討伐へと赴くのだ!」

「嫌ですぅ」

「――では勇者ユークリッドよ!王国の選びし2人の戦士を引き連れ、魔王討伐へと赴くのだ!」

「全力で嫌ですぅ」

「――では勇者ユークリッドよ!王国の選びし2人の戦士を引き連れ、魔王討伐へと赴くのだ!」

「何度でも嫌ですぅ」

(いつまで続くんだこのやり取り……)


 一言一句間違わず繰り返す王様も王様だが、仮にも国王相手に全力で拒否を貫く息子も息子である。いい加減飽きてきた周囲の大臣たちが困った顔でひそひそ話をする。普通の国なら不敬だがこの国の王はノリが軽いので許されている。


「王にも困ったものだ。平民から側室に入った第39王妃の息子、ユークリッド王子を溺愛するあまりに無理やり勇者にしてしまうとは」

「第38王妃の娘ってどうなったんでしたっけ?歌姫?」

「ええと38王妃の娘は……確か王国初の国家公認アイドルになったんじゃなかったですかな?国家公認歌姫は第10王妃のお子である双子姉妹でしょ」

「子煩悩すぎてどの子供も歴史上初の何かにしたがる人ですからねぇ。第26王妃の息子が世界初の王族出身で『国境を越えたグルメ会』名誉会長になった辺りでネタ切れかと思っていましたが、とうとう息子を勇者ですか。本人ものすごく嫌がってますが」

「そりゃそうでしょ。いくら剣の腕が優秀だからって、誰が好き好んで名前も知らない2人の他人引き連れて魔王討伐なんて七面倒くさい旅に出たがりますか。お労しや第39王子……あれ、第39王妃の息子だから第39王子ではないんでしたっけ?」

「もぉ何でもいいでしょう。どーせ次期国王は決まってるんだから何番でも一緒ですよ。大体王子も姫も現在進行形で増えてますからね」


 お盛んすぎる国王のせいで現在王家の王位継承権や家系図は大変なことになっている。

 周囲からは種馬国王とか見ただけで孕まされるとか散々な事を言われているが、恐ろしい事にそれでも王家はわりと上手くいっている。一種の化け物である。


「まったく国王ときたらそろそろ60歳になろうというのに一体何人の女性とデキちゃった側室する気ですかね……第一王子って今何歳でしたっけ?」

「御年46歳だった筈です。王の節操のなさと女性関係のだらしなさに嫌気がさして16年前に家出して、噂によると魔族と結婚して子供を13人作ったとか。まぁ浮気の類はせず一途そのものらしいですが、子供の数を考えるとあの人の息子だなーと思わされますね」

「ちなみにその魔族は魔王軍には参加してませんよね?」

「参加していません。むしろ子供たちは全員魔王軍に反旗を翻して『魔禍十三混騎将』と呼ばれ、肝心の王子とその奥さんは常夏でバカンス中だとこの前国王が言ってました。文通してるらしいです」

「ひどいですな」

「ええ、色々と」


 最早王国は王位継承権を持った人間がどこの国で何をしていて何人いるのか把握しきれていない。唯一国王だけは全部把握しているらしいが、把握してるから何だよという話だ。既に王子や姫の5割程度が王位継承権を放棄しているのだが、大臣たちには誰が放棄しているのか覚えてないので意味もない。


「――では勇者ユークリッドよ!王国の選びし2人の戦士を引き連れ、魔王討伐へと赴くのだ!」

「お断りしますぅ」

「――では勇者ユークリッドよ!王国の選びし2人の戦士を引き連れ、魔王討伐へと赴くのだ!」

「全力でお断りしますぅ」

「――では勇者ユークリッドよ!王国の選びし2人の戦士を引き連れ、魔王討伐へと赴くのだ!」

「何度でもお断りしますぅ」

(しかし王子も存外に粘りますねぇ)

(ええ。これまでも駄々をこねた人は星の数ほどいましたが、筋金入りの駄々ですねぇ)

「――では勇者ユークリッドよ!王国の選びし2人の戦士を引き連れ、魔王討伐へと赴くのだ!」

「しつけーぞ王冠でハゲ隠してる分際で」

(衝撃の事実発覚ですねぇ)

(多分美容師になった第9王子にさせられた育毛実験の失敗が原因でしょうねぇ)


 第9王子は国王をしょっちゅう実験台にしているため、王の髪の毛もハゲたりフサフサになったりを繰り返していたりする。失敗のリスクを承知で毎度実験台になってしまうあたり、子煩悩が過ぎる国王である。

 そして何度目かもわからない問答の合間、とうとう王が手に持ったカンニングペーパー以外の言葉をしゃべる。


「赴いた暁にはこれから一生全力でグータラライフを送れることを国王自ら約束しよう」

「わぁい、パパ大好き!これで政治学からも帝王学からも解放だー!」

「おお、これは急転直下の大逆転」

「なるほど……王子の狙いはこの言質を取る為でしたか。策士ですねぇ」


 こうして、残りの人生を怠け通すというただそれだけの為に勇者は立ち上がった。

 頑張れ勇者、負けるな勇者!ただし頑張るのは主に勇者のお供である!



 ではここで勇者と行動を共にする2人の戦士を順々に紹介しておこう!


 戦士その一。王国筆頭聖騎士、イスマ。

 性別は男で剣やら鎧やら全身がとにかく光り輝いている。


「勇者様!我らの溢れる正義と愛を魔王にぶつけ、この世界に永久の安寧を築きましょう!!我、暗黒の時代を切り裂く光の使者とならん!!うぉぉぉぉぉ正義ぃぃぃーーーーーッ!!」

「全身が眩い光を発している上に鬱陶しくて大仰で面倒くさい!?」

「我が正義を愛する究極の心がぁ……天に認められたが故のグランドクロス!!熱く高ぶる我の正義が空に轟き闇を照らす!!正義ぃぃぃぃーーーーーッ!!」

(………お願いだから帰ってくれ)


 彼は若くして騎士団に入団してその頭角を現した正義の権化だ。常に溢れんばかりの笑顔とキラキラ輝く宝石のような瞳、そして道徳の教科書をなぞったような正義に溢れた発言で周囲を若干ヒかせていく。

 肉体は頑丈。聖騎士なので光魔法が大得意で、敵陣に突っ込んでは必殺剣「正義一直線」で敵を蹴散らし、必殺魔法「正義大爆発」で相手を殺さず無力化する人間鎮圧兵器なのでチームプレーには向かない。早い話が決して止まらない暴走鉄砲玉である。


 その頃――天界。


「イスマ……彼の目に映る人類たちは、果たして我らが守護するに値する存在なのでしょうか?」

「さぁ、どうでしょうねぇ。様々な種族と融和したりしなかったり、地上のそこかしこで戦争を行い、人心と道徳を踏みにじり、罪を犯し、後悔し、嘆き、それでもまた繰り返すような愚か者の真似形たちです」

「我等天界が始祖以外で最後に作り上げた人間のアーキタイプ、イスラ……我等4大天使は主の命の下、キミが見て、君が感じた世界を基準に裁定を下す。もし魔王討伐までにキミが欠片でも『人類に守る価値はない』と感じたのなら――」

「それを以て天による裁定、『終末の黙示録』を始める。降り注ぐメギドの灯と裁きの光槍の雨によって旧時代を浄化し、吾等はそこに新たな人類を送り込む。今度こそ地上を預けるに相応しい存在を創造せんが為に……」


 イスラは人間として育てられたた。

 だから、まだ自分自身が終末を告げるラッパである事実を知らない。

 自らが天の御使いであることも。

 代理人にして裁定者であることも。

 そして、その判断に世界の命運が掛かっていることも。


 戦士その二。秘境の魔術師、ファウスト13世。

 性別は女で、全身がとにかく黒装束で覆われている。


「か、金を積まれたから研究費が欲しくて話に乗っただけなんだからね……!大体この将来有望天才黒魔術師であるこのファウストが知性のない下民たちの前に現れること自体が稀有なんだから!!今回のこれはノリ気じゃなかったのにイスマの馬鹿が勘違いして勝手にこのファウストを武闘会に……ぺらぺら……くどくど……!!」

「話なげー………」

「うむ、しかし我はファウストにも正義の心があると信じているッ!!」

「はぁぁぁーーー!?この天才黒魔術師のわたしが正義ぃ!?黒魔術師は占いと魔術合理主義に基づいた行動とかしないっつってんでしょうが!!世の中効率と等価交換以外の行動原理は全て生物的に無駄な要素なのよ!!あーもうアンタといると疲れる!!」

「同感です。貴方とは上手くやっていけるかも……」

「は?天才黒魔術師であるこのファウストと、貴方みたいな知性も魔力量も将来性も低そうな男の思考回路を同列みたいに言わないで貰える?不愉快極まりないわ」

(お前といるのも十分疲れるっつーの……)


 彼女は魔術都市と呼ばれる独立都市で魔法を学んだエリート黒魔術師である。黒魔術的な呪いはもちろん影を魔物にしたり他の一通りの魔法を使いこなしたり薬品の知識が豊富だったりと天才で容姿もいいのだが、その高慢で話が長いところが魅力を台無しにする。

 身体能力は低いが魔法で能力を上げれば接近戦もこなせる本格的な万能ファイターなのに、他人の為に率先して動くのが嫌いなので基本的に自分しか守らないのが玉に瑕である。お金には弱いが。


 その頃――魔術都市。


「12世の孫が王家に力を貸したそうだぞ」

「12世だと!?悪魔契約で悪魔王を屈服させ、あの先代11世を呪殺して『魔導十賢』の頂点に座ったファウスト12世の、その愛娘か!?」

「ああ、娘に言い寄ったというだけの理由で散々魔導士を呪殺寸前に追い込んだほど娘に偏執してるあのイカレ魔導士だ……13世はそれに比べればまともに育ったが、もし今回の件で13世が死んだりしたら、12世はとうとう悪魔の軍勢を地上に……」

「12世だけじゃない。我ら魔術都市は仲間の死を決して許さない。死に関わったすべての存在とその一族郎党――魔導を極め、人の域を脱し、魑魅魍魎をも震え上がらせる『魔導十賢』の魔人共が世界に牙を剥くぞ!」


 ファウスト13世には全く自覚がない。

 なし崩し的にまぁいいやと受け入れたこの冒険が、世界の魔道士の7割が属すると言われる魔術都市の全世界宣戦布告が起きるか起きないかの瀬戸際で進んでいることに。もし戦争になったら魔界で支配した悪魔たちと、国家レベルの犯罪を犯して投獄された魔導士を解き放つ準備を、自分の父親が進めていることを。

 なお、本人がこの冒険に手を貸す理由の一つに「イスマが使う未知の光魔法技術を盗みたい」というものがあったりするが――幸いその辺のことはまだファウスト12世にはバレていないようである。


 かくして、勇者たちの世界存亡をかけた物語が始まる。


「……でも魔王と人類って互いにあんまり被害出したくないってことでチョビチョビとしか戦ってないんじゃなかったっけ?」

「うむ!魔王軍にも命を大切にする博愛の心が溢れているという事だな!我、悪は許さぬが対話出来るのならば応じる用意あり!!正義ぃぃぃぃーーーーッ!!」

「確実に違うわよお馬鹿。わざわざ戦争で損耗するのは嫌だけど魔王名乗ってる手前対立しない訳にもいかないってだけよ非効率で馬鹿馬鹿しい。要するに勇者ってのは藪をつついて蛇を出すような真似する馬鹿らしい勇気のある者ってコトだし。金積まれなかったら誰がこんな仕事……ぶつくさ……」

「しかしグータラ生活の為ならば、藪でも地獄の蓋でも突く所存で行くぞー!」

「おぉーーーッ!!……む、ファウスト!君も共に手を振り上げないか!恥ずかしいのなら心配するな。俺も共にやって恥を分かち合えば辛さも半分だ!」

「アンタと一緒にやったら余計に恥ずかしいでしょうがッ!!」


 ……一つ問題があるとすれば、どちらかと言えば勇者一行の方が世界にとって危険かもしれない事な訳だが、細かい事を気にしている人もいなければ事実に気付いている人もいないのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] RPGの王様並みに続く。 [気になる点] 何かあったんですか? [一言] 勇者パーティーが爆弾すぎる。
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