序章
魔法都市ケルディア、その都市は世界の中心都市とされ、特に盛んな都市になっていた。
この世界は魔法が 溢れ、魔法の利便性と共に、血族による差別化も大きく進行して行った。
魔法による警備部隊の強化は目に見えて進行して行ったが、その反面、犯罪組織等も魔法による力を手に入れてしまい、到底安定した治安など掴める事は無かった。
そしてその都市から遥か離れた場所にある村、ボックル村。
その村に住むアレンという少年も例外なくその世界に産み落とされ、理不尽な世界に憤怒の意を持った。
しかしどうにも村以外の世界を知らない少年は世界中を見るという夢を持った。
これは、その少年アレンと仲間達による冒険の、旅の物語である。
「アレン、おい!起きろよ!」
朝からイブの騒がしい声が僕を引っ掻き回す
「なんだい…まだこんな時間じゃないかイブ…」
「俺の英雄譚聞かせてやっからさっさと起きろってんだよ!」
「もういいよ…毎日よく飽きないね…」
「だぁーもう!だからほんとのほんとなんだぜ!ほんとに…」
「あんたら元気だね〜」
幼馴染のトトがなんの躊躇いもなく僕の部屋に入ってくる
「お、トトきたか!まあ座れよ」
「まあ座れよじゃないよ!なんで君たち僕の寝室に普通にズカズカと入ってくるんだよ!」
「なによ、今更」
「ほんとよ、なぁ?」
「ねぇ?」
イブとトトがさも僕が間違っているかのように進める。
「あー、もういいよ。それで?今日はなに?」
「あのさ、アレン」
トトが急に真面目な顔をして話し始める
「行くの?村の外に」
それは直接的で僕にとっては今1番胸に刺さる質問だった。
「…やっぱり…行くのか?」
「ああ…もう決めた、村のみんなには迷惑をかけるけど、やっぱり世界を変えるには世界を知らなきゃダメなんだ」
「そう、やっぱりアレンは強いなぁ、私も見習わなくっちゃ」
「そんな事!僕なんかまだまだ弱いし…それにトトは料理も上手いし回復魔法だって使えるじゃないか!いいお嫁さんになれるよ」
「ちょっ!何よ突然!おだてたって…」
「そうだ!」
イブが突然叫び出す
「俺らで旅しよう!」
「「はぁ!?」」
「だからさ!アレン!3人で旅した方が楽しいと思わねぇか!?」
思わない理由が無かった、大好きな幼馴染2人と僕とで旅だなんて、想像しただけで一生分の幸福を味わえるかのような気分だった。
でも僕は知っていたからこそ聞かずにはいられなかった
「いやいや!2人には僕と違って夢があるじゃないか!」
そう、家族想いであるイブは実家の米屋の跡継ぎをして家を支える事、影で一生懸命努力してるトトには小説家になるという、立派な夢があった。
「あー、俺はまあ、米屋の跡継ぎなんかより旅のが楽しそうだしいいけど…」
イブはちらっとトトの方を見る、するとトトはそれに気付いたように俯き、重い口を少し開き声を出した
「わ、私…」
「私!アレンと一緒に行きたい!」
「ええっ!?」
僕は今まで出した事のない大きな声を出してしまった
「私の夢って小説家じゃない?やっぱり旅とかして経験を積んだ方が、深い作品も作れるんじゃないかなーって思って! 」
「じゃあ決まりだな!」
「待ってよ!わ、わかった、3人でって言うのはいいとして、家族には説明しなくていいの?」
ふっと、我に返った僕が放った質問は2人を夢から現実に引き戻すには充分過ぎる程に彼等の考えを鋭く抉った
「あ…」
そう言うとキラキラした目で僕を見ていた2人の表情が一瞬で影をさした
イブは家族写真の入ったペンダントを握りしめ悩んだ表情を浮かべ、トトは恐らくだが厳しい母親に、男2人と自由気ままに旅をするなんて不安定要素だらけの内容を伝えるのに怯えてか、小刻みに体を震わせていた。
もちろん僕自身も例外ではなく、まだ母親には伝えていなかったから少なからず震えていた。
3人で話し合い、上手くいっても上手く行かなくても、来週の月曜日、(今日は金曜日なので3日後だ)に公園の噴水広場で集合して、昼の12時丁度に集まった面々で出発する、という事にした。
そうしてその日の会合は終わり重い足取りで2人は実家に帰っていった。
それを見送っていて僕は、2人とも来てくれるかもしれないという期待感を得たのと同時に、本当に2人を連れてっていいのか、自由を目的とした旅なのに、これでは2人の自由を奪ってしまうのではないのだろうかと不安を抱えたのも事実だった。
「母さん」
「なぁに?アレン」
母さんの優しい口調が僕の不安そうな顔を宥めるように言葉を返してくれた
「あのさ…僕…」
ここに来て僕は優しい母さんに負担を掛けてしまう申し訳なさに押し潰され、声を失ってしまった
「いいのよ、アレン、ゆっくり。ゆっくりお話なさいな」
そう言った母は、まるで包み込むように優しく、僕の事を抱きしめた
「ごめん、母さん、僕、イブとトトと旅に出たいんだ!イブとトトが来れるかはわからない、でも、外の世界を見てみたいんだ!」
「そう…アレン、少し…少し長いかもしれないけど、お母さんのお話に付き合ってくれる?」
「うん…」
この時僕は、ダメだったか…と内心決めつけていた
「あのね、アレン、2人が付いてきても来なくても、アレンは行く、という事よね?」
「うん…」
「旅先で宿を見つけるのも、食事にあたるのも、それどころか道を歩く事さえも。楽にできる事では無いかもしれないわ。それはお母さんにも知り得ない世界だもの、わかった事ではないけれど」
その言葉に僕は無言で頷く事しか出来なかった
「それでもアレンが行くというのなら応援はしてあげたい。でも、その世界はお母さんには手出しが出来ないところなのよ、知らないところでアレンが死ぬ可能性だってあるの。そんなの怖すぎて…」
そう言うと母の目からはボロボロと大粒の涙が零れだした
「ごめんね、母さん。でもね、僕…」
そう言って母の顔を見るとそれはもう、明らかに無理に作った物ではあったが恐らくだが精一杯の満面の笑みが浮かべられていた。
「お母さんはいつでも待ってる。帰ってきたならいつでもお話を聞いてあげるしご馳走だって用意してあげるわ。だから…なにがあっても命にだけは気をつけて。行ってらっしゃい。」
そう言った母さんに、母の優しさと、女の強さと、そしてなにより愛を感じ、久々に大号泣をして抱きついて、しばらくそのまま泣き通していた。
そして3日という短い日は瞬く間に過ぎ、僕は朝で眠っている母親に背を向け、家庭への未練を残さないようそそくさと家を出た。
玄関には
『いってらっしゃい、病気には気をつけて、出来ればどこか宿に行ければ手紙でも送ってくれると嬉しいです。優しくて強いあなたなら、苦労はあっても、きっとなんでも乗り越えられると信じています。頑張ってね。』
と書いた手紙と、旅をするのには充分な荷物を入れた大きめのリュックが置いてあった。
「母さん、ありがとう。いってきます。」
と小声で言うとそそくさと家から出ていった。
少し離れて家を振り返ると、窓の向こうから母が手を振ってくれているように見えた。
公園に着くと流石に朝早かった事もあり、だれもいない噴水の前で2人を待つ形になってしまった。
時計を見ると、まだ朝の4:30で、まだ7時間半も猶予がある。
僕は少し物悲しい気分に浸りながら少しだけ、浅い眠りに付いてしまった。
目が覚めると時間はもう11時で、でも周りを見ても2人はいなくて、心がぎゅうと締めつけられたかのように辛い気分だった。
やはりダメか…そう思った。
しかし、神は無情なようで、12時を回っても2人が来ることは無かった。
諦めた僕は公園から出て、村の出口に立って。決意を新たに1歩を踏み出した。
その時だった。
「おーい!アレーーーン!!」
トトの声だ!
振り向くと小さめのショルダーバッグを抱えたトトが元気よく走って追いかけてきた
「間に合った!やっぱりもう出てたんだ!…イブは…いないみたいだけど…」
「ああ、イブはダメだったみたいだな…」
トトが来れたのは嬉しかったが、そこはやはり悲しいままだった。
「そう言えばトト、トトは大丈夫だったの?」
「ううん、でもね、ダメとも言われなかったから逃げてきちゃった!」
てへっと舌を出す彼女に不覚にもドキドキしてしまい照れ顔を見せたくないので踵を返すようにまた村の外側に向かい進み出してしまった
「あ!待ってよアレンってば!なんで怒ってるの?」
「だっ、そんな!怒ってないよ!」
「あー、じゃあじゃあ、嬉しいのかなぁ?」
「うっ…うるさいなぁもう!」
こうして僕ら2人は、これからの長い長い旅のスタートラインから、ゆっくりと身を乗り出して行ったのだった。
御閲覧ありがとうございました。
投稿当時の時点でまだ書き溜めていない為、1ヶ月に約1章(もちろん増減する事はあります、なるべく意地でも減はさせないつもりですが)進めていこうと思っております。
今後仲間が出来たり敵ができたりするのか、イブはどうなるのか、2人やその周りの魔法についてなど、まだ出せてない要素がたくさんあるのでそういった部分を含めて、アレンとトトの冒険譚、お楽しみください!