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5、麗しき女豹クラウディア

「クラウディアさん!」


 見知った顔に、ミュセアは叫ぶ。

 勇者王子の付き人兼メファスティアスの宮廷魔術師。そして、ミュセアをここに連れ去ってきた張本人だった。


「イシュターラのお嬢ちゃん、無事かしら?」


 トントン、とクラウディアと呼ばれた彼女は手にした長い杖で床をつくと、ミュセアを一瞥した。


「あらン、ちゃんと無事のようね。よかったわ。嫌な雰囲気を感じて来てみたのだけれど。レイン……ああ、また例の発作が出たようね」

「はい。目が覚めたらあんな風になっていて……。封印の維持が不完全だったんでしょうか。ってあの、この前みたいに魔法で突然投げたりしないでくださいね?」

「やあね。今回は、そんなことしないわよぉ」

「よかった。じゃあ、私は何をしていたらいいですか? その辺に丸くなって、おびえていればいいですか?」

「あら、そんなの決まってるじゃないの。ちゃんと封印をしてもらわなきゃ。それがお嬢ちゃんの唯一のお仕事でしょ?」

「そうですけど、でもどうやって?」

「この前は、熱い抱擁とお姫様抱っこで封印できたのよねぇ。と、きたら」

「と、きたら?」


 おうむ返しに、ミュセアがたずねる。

 そんな彼女にクラウディアの杖をもつ人差し指が、ピッと立てられた。


「その次は、やっぱり熱烈なベーゼかしら」


 チュ、とクラウディアが立てた指先を自分の唇につけ、「ベーゼ??」と疑問符を並べまくるミュセアにそれを投げる。


「キスよ、キ・ス」

「キ……!!!?? ぜっっったい無理!!!!」


 先ほど自分が考えていたことをズバリと言い当てられた気がして、ミュセアはきっぱりと否定した。

 てか、熱くないし! なしくずしに起こった、ただの事故だし! そう心の中で反論するが、ミュセアの心臓は早鐘をうってやまなかった。


「とは言っても、それをするための時間と隙を作らないといけないけれどね」

「って、キ、キスすることは決定なんですか!?」


 ミュセアの非難をものともせず、クラウディアは杖を両手でクルクルとまわす。

 シャイスリッドがその様子に、「ああ」と合点がいったようにうなずいた。


「誰かと思えば、勇者こいつにくっついていた魔術師か」

「覚えていて頂けたようで、光栄ですわ」

「貴様なぞ眼中にはないが、俺様の邪魔をするようなら滅する」


 シャイスリッドが、クラウディアに飛びかかった。その手には、黒いオーラを剣の形にしたもの。横にながれた斬撃をクラウディアは杖ではじくと、お返しとばかりに風を集めた塊をシャイスリッドにたたきこむ。

 踊るようなステップで、シャイスリッドは身をかわすと、遠心力を使った重い一撃を斜め上からはなつ。その餌食になったのは、幾本かの黒髪の先端。

 後ろへジャンプしたクラウディアは、スッと背筋を伸ばした。


「ほお、さすがにやるじゃないか。とはいっても、この身体を傷つけるわけにはいかないだろう? 大事な大事な勇者様だろうからなあ? ハハハハハハ」


 楽しそうに笑みを浮かべていたシャイスリッドの表情が、次の瞬間苦悶にゆがんだ。


「ぐあっ!?」


 手で顔をおおい、指先の間からのぞく二つの紫の瞳が見開かれる。

 よろめいたシャイスリッドがそのまま片膝をつくと、黒の剣が消失する。


「なに? なにがおこったの?」

「さあ……わかりません」


 ミュセアが首をふると、よろよろと立ち上がったシャイスリッドが彼女をにらむ。


「女あああ、おまえかああああ!? おまえが勇者あいつを起こしたのかああ!」

「ええっ! わ、私は何もしてな……っ」


 言いつのるミュセアをしり目に、シャイスリッドがジリジリと彼女に近づいていく。「そうはさせん!」と杖で攻撃してくるクラウディアを強力な闇の波動で吹き飛ばすと、シャイスリッドがミュセアの間近にせまる。


「っ!」


 シャイスリッドの爪がミュセアに伸ばされ、彼女の胸を一気につらぬいた。

 「ミュセア!」クラウディアの叫びを遠くに感じながら、ミュセアの視界がまわる。力が抜けたように、ミュセアは床にすわりこんだ。

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