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後編

 広場の巨大なクリスマスツリーの前で、フィンはイネスが現れるのを待った。いつの間にか雪はかなり降り積もり、クリスマスツリーやイルミネーションされた木々も白く覆われていた。

──夜明け前に戻って来い。俺はちゃんとプレゼントを届けたんだからな。

 かじかんだ両手に息を吹きかけて、フィンはギターを肩にかけた。人気のない雪の広場で、ギターをつま弾きフィンは歌い始めた。寒さで声が震えそうだ。降りしきる雪に負けないように声を張り上げる。

「そんなとこに立っていたら、雪だるまになるよ」

 何曲か歌ったところで、澄んだ少年の声がした。声のする方を向くと、そこには笑顔のイネスが立っていた。

「それにしても、君が歌う歌は騒々しい歌ばかりだな」

 イネスの元気な姿を見て、フィンはホッと安心して笑った。雪は降り続いているのに、イネスの体には全く雪が積もっていない。帽子は被ってないが寒くはなさそうだ。

「どうやら、プレゼントは届けてくれたようだね」

 イネスはフィンの側にススッと近づく。

「あぁ、ホーリーは喜んでいたぜ。それから、お前にもプレゼントがある」

 フィンはホーリーに預かったイネスの帽子を差し出す。

「メリークリスマス、イネス。ホーリーからの届け物」

 雪の結晶柄の帽子を目にしたイネスは、パッと顔をほころばせる。

「ホーリーは持っていてくれたんだね! ありがとう」

 イネスはフィンから帽子を受け取ると、さっそく頭に被る。帽子の先についている丸いぼんぼんが弾んで揺れる。

「今日はクリスマス。騒々しい歌はやめて、クリスマスの歌を歌いなよ」

「クリスマスソングか……『きよしこの夜』くらいなら、お前も知っているのかな?」

 フィンはフッと笑って、静かにギターをつま弾き始める。

「その前に一つ聞いていいか?」

「何だい?」

「お前は何歳なんだ?」

「う〜ん、覚えてないな」

 イネスは頭を傾げる。

「ホーリーより一つ年上だったけど」

「へぇ……」

 クリスマスの奇跡。フィンはこの年のクリスマスを生涯忘れないだろうと思った。やけになりふてくされた気分だったのが、真っ白な雪に清められたかのように穏やかになった。 降りしきる雪の中、フィンは『きよしこの夜』を歌う。イネスは微笑みながら、フィンの歌を聴いていた。

──メリークリスマス、フィン。今年のクリスマスは最高だった。ようやくプレゼントを届けてもらえる人に巡り会えたから……。君にも僕からクリスマスプレゼントを贈ってあげるよ。

 イヴの夜が終わりを告げ、クリスマスの朝が開けた頃、イネスは雪の中に消えていった。



──冷凍庫の中で体中が凍り付いたみたいだ。アパートに帰って温かいお風呂にでも入って寝るか。

 夜が明けて、降り続いていた雪は止んだ。眩しい朝日が広場にも射し込んできて、クリスマスツリーの雪が反射する。人気のなかった広場にも、チラホラと人々の姿が現れ始めた。

 フィンが歌うのを止め、ギターをはずしていると、サクサクと雪を踏みしめる足音が聞こえ、フィンのちょうど前で誰かが立ち止まった。長いコートに身を包み大きな鞄を提げた一人の女性。

「アン……」

 フィンは驚いて彼女を見つめる。別れたばかりの恋人のアンだ。彼女は瞳を潤ませながら、じっとフィンを見ていた。

「家に帰ったんじゃなかったのかい?」

「ごめんなさい……酷いこと言って、私のこと許してくれる……?」

 アンの瞳から涙が零れる。フィンは口元を弛めて頷いた。

「フィンのことが好き。私、歌っているフィンが一番好き」

 アンはフィンの元に走り寄り、フィンの胸の中に飛び込んでいく。フィンはしっかりと彼女を抱きとめた。

「おかえり、アン。一緒にアパートに帰ろうか」

 フィンの胸の中でアンは頷いた。フィンは彼女の頭にキスする。

「そうだ……君にプレゼントがあるんだ」

 フィンはポケットの中に入れていた、木彫りのブレスレットを取り出す。雪の結晶柄のブレスレット。クリスマスの奇跡は、このブレスレットから始まった気がする。

 フィンはアンの腕にブレスレットをはめた。

「素敵なブレスレットね」

 アンは顔をあげ、ブレスレットを見つめた。

「この先、何十年も君がこのブレスレットを大切に持っていてくれたら嬉しいな」

 二人は微笑みながら見つめ合い、しっかりと抱きしめあった。

 純白の雪が日の光を浴びて、キラキラと光り輝いている。愛に溢れたクリスマスの平和な朝が、静かに始まる……。                     了











忙しくなるのを予想して、十月には書いていた作品です。^^; 「ギフト」企画だから、プレゼントをテーマにした作品じゃなきゃいけないのかな? と思ってましたが、作品が読者の方々への「ギフト」ということだったようですね。^^; クリスマスまでにはまだ一ヶ月以上ありますが、一足早くクリスマス気分に浸っていただけたらと思います〜

この作品の番外編? というか、ホーリーとイネスの幼い頃の思い出を書いた「雪の結晶」も読んでもらえると嬉しいです。(^^)

皆さんに、素晴らしいクリスマスが訪れますように……。

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