帝国にて9
サヨリ達3人は、サナトリア統一連邦共和国の兵士に案内され、シャトル内の客室に通された。
そこには、明美と幸一が苦笑しながら待っていた
「待たせちゃった?ごめんねぇ。」
サヨリが二人に、明るく片手を上げ軽く謝罪(?)した。
気配を殺した拓哉が、素早くサヨリの前に立ち、サヨリの両こめかみに両手の拳骨を当てて、
グリグリした。これにはたまらずさよりが
「痛いよぉ。やめて!」
と、泣き声を出すが拓哉は
「はぁ?この放蕩娘が!何年も連絡を寄越さないって、どういう了見だ!」
「連絡手段が無かったのよぉ。」
サヨリが涙目で訴えるが、拓哉は加減をしない。
「嘘をつくな!お前なら、どうとでも出来るだろうが!しかも、お前、国際条約で嵌めただろうが!」
さよりは、ヤバいっといった顔をして
「えっ!もうバレたの!もう少し時間がかかると思ってたのに。」
「やっぱり、嵌める気マンマンだったな!」
拓哉は、さらに力を込めてグリグリした。
「痛いよぉ。タケルさん!助けて!!」
いきなりの拓哉の行動に付いていけなかった、タケルヤマト皇太子とコンドウ近衛兵団長が、
サヨリの声で我に返り、タケルヤマト皇太子が
「そのぐらいで、許してやってくれないか?」
と懇願すると、しかたがないと言った感じで拓哉がサヨリから離れた。幸一が苦笑しながら
「ま、さよりのせいでドタバタしましたが、お座りください」
とタケルヤマト皇太子とコンドウ近衛兵団長に、席を勧め自分も席についた。
「怪我をされていた方の手当ては、先ほど終わったようで、まもなくこちらに来るでしょう。」
「ありがとうございます。」
タケルヤマト皇太子が、幸一に頭を下げるが、それを片手で制し
「このぐらいのことで、頭を下げていたら、これから大変ですよ?」
「それは、どういう事でしょうか?」
「それは、もう1人の方が来られてから話した方がいいですね。そこの爆弾娘がしでかしやがりましたから。」
幸一が、ため息混じりにこたえた。
しばらくすると、車椅子に乗ったクロダ宰相が、部屋に入って来た。
「足は、大丈夫か?」
「心配するなって。弾の摘出は終わってるし、傷の縫合も終わっているんだ。2、3日もすれば、歩けるようになるそうだ。幸一殿、傷の手当をしていただき、ありがとうございます。」
「たいしたことはしていません。さて、関係者が揃ったようなので、本題に入りましょうか?」
そう言って幸一は、壁の一画に映像を映した。
「当艦はまもなく帝国主星の、静止衛星軌道に入ります。まずは、お三方をどちらまで御送りいたしましょうか?」
いつのまにか、地表の宙港を離陸していたシャトルが写し出す映像には、恒星、惑星、静止衛星、コロニー、船の位置関係を示す略図が表示されおり、どこに何があるのか、手に取るようにわかる。
「出来れば、近衛艦隊もしくは第一首都防衛艦隊まで送ってもらえればありがたい。」
すると、航行している船の映像に注釈が付き、どこの所属かが解るようになった。
それによると、近衛艦隊も第一首都防衛艦隊も同じ宙域を、航行している。
「この艦隊ですね。」
「そうです。ここまで送って頂きたいが…」
皇太子達3人は、表示されている艦隊の運航図を見て顔を曇らせた。
「どうなさいました?」
「囲まれている」
と、タケルヤマト皇太子が呟いた。
「クソ!ミツシサキリシア第三皇太子の艦隊が、囲んでいる。これでは近づくだけでも、こちらに発砲してきてもなんら不思議じゃない!」
皇太子達3人が救援先としていた、近衛艦隊に第一首都防衛艦隊は、第三皇太子の指揮する第二砲撃艦隊と第三機動艦隊によって囲まれていた。
「タケルヤマト皇太子配下の艦隊は、この2艦隊だけなのでしょうか?」
明美が尋ねると
「第一打撃艦隊と第一機動艦隊があるが、現在かなり離れた所へ出撃している。」
画像をズームアウトさせると出てきたが、今から呼び戻しても3、4日はかかる距離だった。
この状況にクロダ宰相は宙図を見ながら
「こうなれば、首都圏防衛艦隊を盾に近衛艦隊にて、囲みが薄いこのルートから強行突破して、領地にて迎撃体制を整え、第一打撃艦隊と第一機動艦隊を領地に呼び戻して反攻戦を仕掛けるか?」
「そうですね。この場から一旦離脱を計り、領地にて艦隊の体制を整え進撃をした方が、当方の被害が少なくなるでしょう。」
と近衛兵団長が賛同し、
「それしか無いな。」
タケルヤマト皇太子が納得しかけたとき
「愚の骨頂」
帝国版図図を眺めていた明美が、吐き捨てるように言った。それに対しさよりが
「あ~ちゃん。クロダ宰相さんは軍人じゃないし、コンドウ近衛兵団長は陸兵上がりで脳筋だから。強行突破が好きなの。タケルさんは、……うん、あたしが付いていなくちゃダメね。」
「バカなのか?それは仕方ない。それにしても帝国の兵のレベルは、大した事無いな。」
呆れたように明美が呟き、それを聞いたコンドウ兵団長は
「おい!貴様等!バカにしているのか!」
怒りを込めて抗議するが明美は
「はぁ?バカを、バカにするほど、私は暇じゃない。」
心底めんどくさそうに答えた。
「なにを!この構図では、一旦守りに入らねば、反攻することができないだろうが!」
コンドウ近衛兵団長は怒りを隠そうともせず、明美を睨み付ける。
「こんなあからさまな罠に、気づかんか?」
明美は馬鹿にするように、コンドウ近衛兵団長に向かって言った。
「他人に口出しされぬでも、結構だ。我が国の事は我々で対処するのでな。」
「それが出来りゃ、私もこんなことを言う気は無いが、それが出来ない事になっているのでな。お前らを不利な条件の元には送りたくないんだよ。わかるか?わからんだろうなぁ。」
明美の言葉に違和感を感じたクロダ宰相は、
「井上元帥殿、我々を最寄りの艦隊にまで送っていただくだけでは、ダメなのですか?」
尋ねると
「そのことなら、私から説明した方がいいだろう。な、明美」
幸一をちらっと見た明美は
「そうしてくれ。私は政治的なことはめんどくさいんでな。」
「わかった。俺から説明するよ。」
幸一は、明美にそう言って、タケルヤマト皇太子とクロダ宰相に向き直った。
「まだ知らないあなた方からしたら、我々はあなた方を最寄りの艦隊にまで届けて、そのまま関わりを持たずに、祖国へと帰途につけば、これ以上の迷惑をかけないと思われるのでしょうけど、そこの爆弾娘が、そうはさせてくれなくなったんですよ。」
幸一は、苦笑しながら話し出した。
「どう言うことですか?サヨリさんが何か?」
「仕出かしてたんですよ。どえらい爆弾を投げてきたんです。」
「爆弾?」
「そ、爆弾です。我々からしたら、巧妙な詐欺にあったみたいなものです。先ほど結んだ国際条約を、今すぐにでも白紙撤回した気持ちです。それが出来りゃ、簡単なんですけどね」
「どう言うことですか?説明していただきたい。」
「もう一度確認しますが、皇太子様も宰相様も、あの条約は確認されたのですよね。」
2人は顔を見合わせてから、
「間違いなく確認をした。」
「あれほどまでに、配慮の行き届いた条約は無いと思う。それが何かあったのか?」
クロダ宰相とタケルヤマト第一皇太子は、大きくうなずき優れた条約だといった。
幸一は大きなため息をつき
「我々も騙されてましたから、そちらも騙されてたのでしょうねぇ。一見良くできた内容の国際友好条約と国際通商条約の名を借りた、集団自衛権付きの国際安全保障条約にも署名してしまっていたことに。」
と述べた。
「えっ?国際安全保障条約?そのようなものに署名をした覚えはないが?」
「でしょうねぇ。タケルヤマト第一皇太子殿。我々もです。内のスタッフと言うか妻と仲間の1人が気付きました。それがこの条文です。」
と言って、条約から抜粋した条約文をスクリーンに投影した。
そこには難しい用語で書かれた条文が表示されていた。
「なんですか!この条文は!内乱を折り込み済みで、武力行使を前提条件に、お互いの国家安全を保証するって!」
クロダ宰相が、文面を正しく読み取り唖然としていた。
「驚くのも無理はありません。巧妙に組まれた、言葉の中に隠されていたのですから。私も、指摘されるまでは、まったくわからなかったです。」
そう言って幸一は、さよりを睨みつけた。
「ありゃ、しっかりバレちゃってる。」
「バレちゃってる、じゃねぇよ。さより。おかげで、こちとら、てんやわんやになってるんだぞ!」
「幸ちゃん。この短時間で、これを見つけたってことは、サファイヤちゃん1人じゃ無理ね。かめちゃんも関わってるね?」
さよりは笑いながら聞くと
「気付いたのは、ほぼ同時だけどな。」
「うんうん、成長してるねぇ。あたしはうれしいぞ。で、かめちゃんは?」
「発進の準備で、艦橋にいるよ。後で顔を見せてやれよ。」
「ほ〜い。」
巧妙に隠されていた条約を見て
「サヨリさん。この条文は貴女が仕込んだのですけ?」
タケルヤマト第一皇太子が聞くと
「うん、そうだよ。絶対に必要になるって思ったから。」
「どうして?」
「その答えを言う前に、幸ちゃん、あ~ちゃん。どっちにつく気?」
さよりは、幸一と明美に聞いた。
幸一は諦めた様に、明美は投げやりに
「第一皇太子のいる方しか、選択肢はないだろう?」
「お前のいる陣営だ」
と言った。
「ありがとうねぇ。その気持ちには、ちゃんと報酬を払うから。」
さよりは、手を合わせて2人に拝んでいた。
「よし、これで援軍の当ては出来た。」
「と言うことは、サナトリア統一連邦共和軍が、我々の味方となって戦ってくれるということですか?」
「仕方なしですが、そうなります。」
「ありがとうございます。これで、戦局の劣勢から免れることが出来ます。」
と言って、タケルヤマト第一皇太子が、幸一と握手をしようとしたとき、
「認められません。このような女性に率いられた軍がどのようなものか!そもそも、第三皇太子の所有する艦隊の数と、我々が動員できる艦隊の数では、大きく我々が勝っております。
この様な者の手を借りずとも、簡単に勝って見せます。」
コンドウ近衛兵団長が、反対の意見を叫んだ。
「第三皇太子が動員できる艦隊は、直属の第三打撃艦隊と第二機動艦隊のみ!
我々は第一打撃艦隊と第一機動艦隊からなる、帝国最大の第一連合艦隊に近衛艦隊が居ます。
あとは、小型艦が中心の首都圏防衛艦隊も我々の陣営です。それで負けるはずがないではないですか!」
「主張するのはかまわないが、コンドウ近衛兵団長。第三皇太子の懐刀と言われている、トレーダー第七辺境艦隊をわすれておるぞ。」
「御言葉ですが、クロダ宰相殿。正義は我らにあります!そのようなものに負けるわけがございません。」
ゆら~っと明美が立ち上がり、鬱陶しそうにコンドウ近衛兵団長を見ると
「少しは黙れ。精神論で戦いをするような奴は、即刻死ね。」
「何を言うかと思えば、そんな弱弱しい身体で、勇ましいことだな!」
と言って、明美を睨みつけると
「女は、男の帰りをベットで待ってりゃいいんだ!」
その言葉に、スイッチの入った明美が
「仕方ない。タケルヤマト皇太子、ちょっとこいつを静かにさせていいか?」
タケルヤマト皇太子に許可を求めた。
「なにをなされようと、しているのですか?」
「このバカに、格の違いを教えようと思いまして。2分ほどで終わりますので。」
「明美。」
幸一が明美を見るが、一言
「死なない程度に、手加減はする。」
といって明美は、コンドウ近衛兵団長を前に立たせ
「お前のような、陸兵上がりの筋肉バカは、力を見せないと納得せんからな。これから私と勝負しようじゃないか。
お前の勝利条件は二つある。一つは、1分以内に私に触れること。もちろん、私は逃げる。
もう1つは、1分後に私が1回だけ、貴様を殴る。立てたら勝利だ。理解したか?」
「何を言うかと思えば、小賢しいまねを。それで俺が勝ったら、どうするんだ?」
「お前の言う通りにしてやる。ま、勝つのは、私だがな。」
クロダ宰相は
「幸一殿、止めさせないのですか。彼は帝国兵の中でも屈指の戦士で、格闘戦最強と言われている男なのですよ。」
と言ったが、幸一は苦笑して
「明美。だってさ。」
「少しは楽しめるか?そうだ。ハンディをやろう。」
と言うと明美は、両手をズボンのポケットに入れて向き合った。
「女。舐めているのか?」
「いいや。これでも過剰気味と思っているよ。それじゃ、始めるかい。幸一。合図をしてくれ。」
コンドウ近衛兵団長は、腰を落として構え、明美は両手をズボンのポケット入れたまま立っていた。幸一が
「はじめ!」
と声を発した。
コンドウ近衛兵団長は、明美に対し近距離からタックルするが避けられ、振り向き様に流れるようにハイキック、それも避けられ、踏み込んでからの鋭い正拳突き。
コンドウ兵団長は、己のもてるだけの最高の技量を発揮した、1分間の攻撃が始まった。
明美は、両手をズボンのポケットに入れたまま、涼しい顔で、最小限の動きで全ての攻撃を見切り、かわしていた。
1分が過ぎ、明美がすっとコンドウ近衛兵団長の懐に入って、耳元で
「期待外れだったよ。」
と小声で呟いた瞬間、コンドウ近衛兵団長の身体は背面の壁に叩きつけられ、立ち上がる事が叶わなかった。
「ま、こうなるのは、解っていたけど、コンドウさん。大丈夫?」
サヨリは、床に倒れたまま混乱しているコンドウ近衛兵団長の顔を、ペシペシ叩いて意識が有るかを確認していた。
「な、何が起きた?」
放心状態から意識を取り戻し、何が起きたか理解出来ない顔で呟いた。
「無防備に、あ~ちゃんを懐に入れちゃ、ダメだよ。発罫で吹っ飛ばされるから。」
立ち上がれないコンドウ近衛兵団長を、一瞥して明美は
「さて、うるさい奴はしばらくそこで座ってろ。お前達は、この国の将来を本気で担うつもりなのか?」
明美は、タケルヤマト皇太子とクロダ宰相を睨み付けると、真意を聞いた。
「もちろんだとも!私は、権力が欲しいわけじゃない!確かに、今の帝国は一見繁栄しているように見える。しかしそれは、虐げられた庶民の上に成り立っている。
帝国は歴史ある巨大な国だ。それ故、長年積もり積もった歪みが、制度を歪ませ、一部の階級層に便宜を謀るようになってしまっている。
それら全てを、解消できるとは言わない。ただ、虐げられた者達を少しでも多く救えるのなら、笑って明日を夢見る事の出来る国に出来るのなら、私は、私の命と引き換えに悪魔とでも契約しよう。それは、偽りの無い私の信条だ。」
「もちろん、タケルだけに蕀の道を歩かせはしない。」
熱い二人の言葉に、呆れる顔で見ていた幸一は、
「悪魔との契約?はぁ。」
ため息混じりに首を振っていた。
「幸一殿、バカになさるようだが、我々は生半可な覚悟ではない!」
「いや、そういうつもりではないのです。(あんたら、その悪魔が泣きながら許しを乞う奴と、契約しているんだけどなぁ)」
幸一は、タケルヤマト皇太子の横でニコニコ笑うさよりを見ながら、心の声を出さないように気を付けた。
「幸田殿。我々は、ここまで生半可な気持ちで来たのではありません!数年間地道に支援者を集め、政府中枢での発言権を強め、本来ならば、すでにタケルは皇帝になっていたはずなんだ!」
と、クロダ宰相が叫ぶように言ったが
「クロダ、済んだことだ。今は、この状況を打破せねばならない。明美元帥殿、改めてお聞かせ願えないだろうか?なぜ、我が領地にて反攻戦の体制を整えるのが愚の骨頂なのか?」
明美が話す前に、幸一が
「その前に、そこのクロダ宰相が発した言葉の中に、気になった部分が有ったのだが、それを聞いていいか?」
「なんのことか?」
「本来ならば、すでにタケルヤマト皇太子は皇帝になっている?どういう事だ?」
タケルヤマト皇太子はクロダ宰相を一度見てから、
「終わった事です。聞かないで頂けると…」
口ごもるタケルヤマト皇太子に代わって、さよりが
「本来は、皇帝陛下が生前にタケルヤマト皇太子に、皇帝の座を渡す予定だったんだよねぇ。
移行の手続きもほぼ終わっていて、あとは皇帝陛下が存命で勅命の書簡があれば、今頃タケルヤマト皇帝陛下になっていたはずなんだけどねぇ。皇帝の体調悪化で、日程変更してしまって。
その時の国の体制として、外交のサポートは第二皇太子、国防は第三皇太子が受け持って国を運営するはずだったんだけど、それが実現しないうちに、皇帝陛下は病死。
ま、表向きはね。実際には、暗殺されたけどねぇ。」
さらりと事情を話した。
「さ、サヨリさん!なぜ知っているのですか!」
クロダ宰相が驚き声をあげるが
「だって、あたし、皇帝陛下付きの侍女でしたから。よく、皇帝陛下とお話していましたからねぇ。」
さよりは、まるで世間話を聞いたように話すが、明美と幸一は頭を抱えて、
「なぁ、さより?いつも思うんだが、何でそんな所に居るんだ?」
さよりは
「バイトの募集が有ったからかなぁ?」
「幸一、こいつに聞くだけ無駄だ。さらに、頭痛の種を増やしたいか?」
「そういう奴だったなぁ、さよりって。」
「なんか、あたしが悪いみたいじゃない?」
「なんか、私がタケルヤマト皇太子に説明する気分じゃなくなった。さより、お前は解っているんだろ?お前が説明しろ。」
心底疲れたと言った感じで、説明役をさよりに振った明美は、椅子に座って宙域図を眺めていた。
「仕方がないなぁ。その前に聞きたいんだけど、宝物殿で神器を探していたようだけど、それが無かったら皇帝になれないの?」
「皇帝継承の為には、必要不可欠な物だ。」
「どうして?所詮儀式に必要なアイテムなだけでしょう?違うの?」
タケルヤマト皇太子はクロダ宰相と苦笑いして
「私の方が詳しいだろうから、私が説明してあげよう。」
クロダ宰相がサヨリに帝国に伝わる三種の神器の話を語った。
それは、帝国歴で約900年前にまで遡った。
当時の帝国は、今ほどの版図を持っておらず、数ある列強国の1つでしかなかった。
今日の帝国になった分岐点が、当時帝国の隣国として存在していた、グラン-ヒルビリー教国が突如として、国教の宗教布教を目的とした周辺諸国へ改宗行為を始めた為だった。
それに抵抗した国に対して、聖戦と称して出兵した事が発端となり、30年に及ぶ銀河戦乱の時代に突入。
グラン-ヒルビリー教国は、狂信者が中核の死をも恐れない死兵部隊を、最前線に投入することで、次々に周辺諸国を併呑して行った。
帝国も攻め込まれて来たが、オカハザ宙域の三ヶ月にも及ぶ戦いで、被害が甚大成れどグラン−ヒルビリー軍の全死兵部隊を壊滅させ、その勢いのまま、グラン-ヒルビリー教国へ侵攻。
死兵部隊を失ったグラン-ヒルビリー教国は脆く、帝国軍の電撃侵攻によるグラン-ヒルビリー教国の主星攻略によって、グラン-ヒルビリー教国の教皇を討ち取り、長きに亘った戦乱の世が終結した。
グラン-ヒルビリー教国が戦乱を起こした原因は、神の神託が有ったからと生き残った高司祭からの証言に、帝国軍が独自調査したところ、グラン-ヒルビリー教国が神と言っていた物の正体を突き止めた。
それは、超古代文明が遺したAIだった。それは、現在でも再現ができないシステムになっており、現在の帝国の情報インフラを全て任しても有り余る能力を備えていた。
当時の帝国皇帝、ベンケイヨリツネは、そのAIに向かって国の支配者が変わった旨を伝えると、三種の神器を手渡し、従属に成ることの承諾をしたと言われている。
それ以降帝国の主星は、旧グラン-ヒルビリー教国の主星に遷都して現在に至る。
三種の神器の使い方が明確に引き継がれているのは、『覇者の勾玉』だけで、それは古代超文明のAIの制御キーで、勾玉を持つ者がAIの全機能を制御することが出来る。
その威力は莫大で、帝国全土に影響力を与えており、例えば、命令1つで全艦隊が一点集中攻撃するとか、指定した都市のインフラを全て止める事も可能だった。
残りの『八岐の剣』『草薙の鏡』の二つの神器については、現在では儀式で使用する以外、伝承はなく、戴冠式以外で使用する事がなくなってしまっていた。
全てを聞き終わって、サヨリは
「じゃあ、本当に必要なアイテムは、『覇者の勾玉』って事ね。」
テーブルに置かれた八岐の剣を見ながら、何かを考えていた。
「その、覇者の勾玉って、どのぐらいの大きさなの?」
「大きさ?」
「そう、どのぐらいの大きさかわからないと、探しようがないじゃない?」
タケルヤマト皇太子とクロダ宰相は顔を見合わせて、
「クロダ、知っているか?」
「そう言う、お前こそ、知らないのか?」
「ちょっと待て!あなた達!現物が解らないの?よくそれで、宝物殿で探しに行ったね!」
「神器は、並べて保管されているって、聞いていたから。」
「儀式の時に、皇帝になる人物とそれらを運ぶ巫女しか見られない上に、写真や映像には記録が残って無いんだ。」
「で、実際は?」
「置き台は3つ有ったのだが、神器は、2つしかなかった。」
「誰かが持ち出したとしか、考えられない状況ではあった。だが、誰が持ち出した?」
「これ、神器でしょ?何かの中に入ってなかった?」
サヨリが、鞘にも入れずにテーブルの上におかれている剣を見ながら聞くと
「漆塗りの専用の箱に入れて有った。形は違うが、草薙の鏡も同じように専用の箱に入っていた。」
さよりが、考えながら
「誰でも入れる場所ではないから、持ち出せるとしたら、監督官庁の宮内省の儀式担当長官か、皇帝、第二皇太子になるのよねぇ。」
「なんのために?」
「そりゃ、次期皇帝を決める為に決まっているじゃない。」
「どうして、俺とミツシサキリシア第三皇太子を外した?」
「どちらも、手に入れていないから、こんだけ大騒ぎしているのでしょう?違うの?」
「確かにな。そう言えば、クロダ。宮内省の儀式担当長官は誰だ?」
儀式担当の長官は宰相が監督職権を持っているので聞くと
「ミノフス長官だったが、先月退官して現在はまだ後任が決まってない。」
さよりは不思議そうに
「あれ?どういうこと?次期皇帝が即位するまで、普通は退官しないんじゃ?」
と聞くとクロダ宰相が
「よく知っているなぁ。確かにその通りなのだが、理由は不明だが、前皇帝が解任させたみたいなんだ。」
さよりはそれを聞き、
「だったら、いつ、勾玉が持ち出されたのかが問題よ。皇帝陛下は、先月頭にはベットから起き上がるのも難しい体調だったからさぁ、皇帝陛下がそれ以降持ち出せることは出来ない。ミノフス長官も、先月に退官しているから資格が無くて宝物殿に入れない。でも第二皇太子ならばまだ可能。しかし、先月以前に持ち出したのなら、皇帝陛下でも、陛下の命を受けたミノフス長官でも可能になるのよねぇ。」
「第二皇太子が、持ち出した可能性は?」
さよりは、小首を傾げて
「あるよ。でも、そんな暇有ったかなぁ。確かアグアスカリ星系とナンハッテ自治区に、先月末まで外遊していたでしょ?婚約者がいるのに外遊中は帰って来ないで、遊びまくる癖があるからねぇ。第二皇太子は。
帰って来てからは、いろいろな顔繋ぎを精力的に行っていたし?城にあまり来なかったのよねぇ。じゃ、皇帝陛下が?」
さよりが小首を傾げて考えてみるが、何かがしっくりこない。
「さより、なんでお前が、他の皇太子のスケジュールを知っているんだ?」
幸一が聞くが
「常識だよ。」
と返された。
「しかし、サヨリさん。そうするとどうして皇帝陛下は、なぜ、後任と決めた第一皇太子のタケルヤマト皇太子に渡さなかったのでしょ?」
クロダ宰相は、気になった事を質問すると、少し考えて
「試練?」
「どういうこと?」
さよりは、タケルを見て
「3人が仲違いをしていて、誰が皇帝に即位しても、わだかまりが残る結果に成るのが見えているのに、帝国に新たな脅威が迫ってきている。
だったら、骨肉の争いを起こさせて、勝者に譲ると決めたのではないかなぁ?」
「そんな乱暴な!巻き込まれた国民は堪ったものじゃないぞ!」
「でも、脅威となる外敵の出現で、帝国を引き締めて一団となって立ち向かうためには、それが出来る人物が皇帝に即位しなければ成らない、と考えたとしたら?」
「さより、帝国の脅威となる外敵って、どこの国だ?」
「こうちゃん。あなたがそれを言う?」
「えっ!もしかしたら?」
明美が冷静に
「そうね。さよりの言う通り、サナトリア統一連邦共和国は、帝国に対し脅威となる外敵に匹敵する。」
幸一が続けて
「だよねぇ。未確認宙域から来た、同等クラスの戦力を持つ国家が現れたのなら、最悪武力衝突は考えられるものねぇ。それでなくても、小競り合いは時たまあったし、そもそも、さよりが帝国に行った原因は、帝国の軍艦に乗船していた船を、撃破さしたことだろう?」
さよりを見て言うと、少し目を泳がしたさよりが
「あ、あれは不幸な事故でしょ?」
と反論したが
「確かに書類上は、事故もしくは敵艦より攻撃による大破、ってなっているが、そうそう都合よく、動力部に掠るように被弾しないよね。」
「あれは事故だもん!証拠なんかないでしょ!」
「まぁいいか。さより、覚えておけよ。証拠が無さ過ぎて、逆に証拠になることもあるってことを。明らかにイレギュラーな動きをしているのに、そのモーション履歴が全くなかったんだよ。」
「あっそっか!今度から気を付けるね。」
「そうじゃないだろう!」
「幸ちゃん、昔のことは置いておいて、本来ならば、順当に第一皇太子のタケルヤマト皇太子が皇帝の座に付き、第二皇太子が外交、第三皇太子が軍を掌握して、3人で国を盛り立てるはずが、その3人の仲が良好じゃない。
まとまりに欠けている時に第三勢力の出現で、下手すると、第三勢力による影響を受ける前に、国内で権力争いが勃発して、国が分裂して自滅の可能性が出てきた。
だったら国を強引にでも、1つにまとめあげる強い指導者の必要性を病状の皇帝が感じて、3人を争わせた。と考えてみたら?」
さよりが1つの可能性を言うと、幸一が
「蠱毒かよ。」
と吐き捨てた。さよりが
「とも考えられるんだけど、皇帝陛下は、もうひとつの考えを言ってたんだ。」
と言うとタケルヤマト第一皇太子は不思議そうに
「もうひとつの考え?」
「そう。だからあたしは、あの友好条約と通商条約を作ったの。タケルヤマト第一皇太子を、皇帝にして守る為にね。」
「サヨリさん。それはどうゆうことですか?」
「そうだ、さより。」
「皇帝陛下が存命の時、よくあたしに言われていたのが、『この国の皇帝になるのは簡単だ。1つの物を持てばいい。お前さんでも成れるぞ。ただし続けていくには、信頼できるものに守ってもらわないと難しい。今のあの3人では、誰がなっても、そいつが皇帝を続けていく事は、かなり難しい。兄弟仲が良かったら問題がなかったのに。』ってね。」
「どうゆうことですか?」
「今なら意味がわかるんだ。皇帝の証、『覇者の勾玉』を持てば、その人がその瞬間から皇帝なんだけど、それを奪われないように、守ってくれる人や組織が必要なんだって。皇帝を守るのは、1人じゃ無理ってこと。皇帝を守る盾が必要なんだって。
だから、兄弟3人が仲が良かったら、外交と武力で皇帝を守る盾になれて、問題がなかったって言ってたんだってね。
だからあたしだけでは、貴方を守りきれない。だったら、じゃどうする?あたしが知っている帝国以外の武力を引っ張って来るしかない。ってことでサナトリア統一連邦共和国の後ろ楯をつけちゃえって、ことにしました。」
とサヨリが笑顔でタケルヤマト第一皇太子を見つめた。
驚く帝国関係者と、諦め顔のサナトリア統一連邦共和国関係者。
「でも、サヨリさん。帝国が内乱になる事は、予測できたのですか?」
クロダ宰相が確認すると
「簡単にできたよ。第二皇太子のミコト・スサノさんが、皇帝に成るための裏工作をやっているのは知っていたし、そのミコトさんに、第三皇太子のキシリアさんは弱みを握られて、小間使いのように使われて不満が爆発寸前、チャンスがあれば消す気マンマン、それのストレス発散なのか、意味もなく配下の艦隊を動かしてやりたい放題。
それを見ていた第一皇太子のタケルさんは、民の為に第三皇太子を廃籍したく、議会や官僚組織を配下にして画策。
その為、宮廷内や官僚を自由に使えなくなった第二皇太子のミコトさんは、邪魔な第一皇太子のタケルさんを陥れ失脚させようとして、さらに裏工作へ。
ほら、無限ループの出来上がり。これで内乱を予測できないって、どれだけ頭がお花畑?って聞きたいんだけど?」
呆れ顔の幸一が
「さより。いつもながら、お前さんの情報収集能力に呆れるよ。しかし、今回のサナトリア軍の必要経費は、お前持ちな。」
「わかってるって。あたし宛に請求書を送って。」
幸一とさよりが話していると、クロダ宰相が不思議そうに
「必要経費とは?」
と聞いてきたが、さよりは
「気にしないで。今回は、あたしがマジで、ムカついているから。」
とサムズアップして
「クロダ宰相殿。さよりの奴が全額出すって言っているので、気にしないでおいた方がいいです。」
と幸一が苦笑しながらこたえた。さよりはタケルヤマト第一皇太子に振り向き
「で、どうする?」
「サヨリさん。私に聞いてます?」
「そうだよ。将来の旦那様(ハート♥️)」
サヨリが、タケルヤマト皇太子の腕にしなだれるように抱きつき、上目遣いで答えた。
「いちゃつくのもいいけど、そろそろ行き先を指定して欲しいんだが?ついでに言えば、もう、シャトルは母艦に収納が終わっていて、艦内に移動して欲しいんだがな。」
幸一があきれてさよりに言うと
「んじゃ、とりあえず惑星トレーダーへ行って。どうせサナトリアへの帰り道なんだから、いいでしょ?
クロダさん、コンドウさん、麾下の艦隊に、少し寄り道、そうねぇ、アードリアン方面の惑星タムに寄ってから、軽く補給してからトレーダーへ向かうように通達してください。お願いしますね!」
その言葉に驚く3人
「サヨリさん!トレーダーは、どんな所か知っているのですか!」
クロダ宰相はサヨリに詰め寄ると、険しい顔で叫ぶが、
「知っているわよ。帝国最大の商都でしょう?なぜそんなに驚くの?」
サヨリは、何を言ってるの?という顔。その顔にイラつきを隠せず
「あそこは、ミツシサキリシア第三皇太子の片腕と言われるクスノマサツグが率いる、第七辺境艦隊が駐在していることを知って言われるのですか!」
サヨリは、小首を傾げて意味がわからない仕草で
「クロダさん、それがどうしたと言うの?」
「そんな所に行ったら、良くて門前払い、下手すれば捕縛されてしまいます!」
クロダ宰相は、そう訴えるが笑顔で手を振りながらサヨリは
「そんなことには、成らないって」
「なぜ、成らないって言えるのですか!敵陣にノコノコと行って、命乞いでもするのですか!」
「クッスンならしそうだね。ま、行って見たらわかると思うよ。」
「クッスン?」
サヨリはニコニコ笑うだけだった。幸一と明美は、ため息をついて、
「さより。お前の主戦場の商都のトレーダーで、お前の名前や、通り名が一切出なかったんだが?」
「幸一、この守銭奴が、名前を隠して暗躍していたに決まっているじゃないか。その行政官、さよりの傀儡になっているに決まっているだろう。御愁傷様としか言えん。」
「サヨリさんの主戦場?傀儡?お二人方、何かご存知なので?」
「クロダ宰相様、こいつの言う通りに、行けばわかりますよ。ただ、貴殿方が知らないさよりの一面<暗黒面>を垣間見ることになるでしょうねぇ」
「司令官。近衛艦隊に動きがあります。」
「攻撃か撤退か?」
「次々とジャンプして行きます。続いて首都圏防衛艦隊もジャンプして行きます。」
「よし!我等に対する攻撃ではなく、撤退行動か?目的地はどこだ?」
「ただいま、チェイサーにて追跡中、出ました。司令官!このポイントは!」
「どこだ?アードリアン宙域?第一皇太子の領地からは、かなり遠く離れ宙域に移動したものだな。直ぐ様ミツシサキリシア第三皇太子殿に連絡を。」
「アードリアン宙域?」
「はっ!チェイサーにて異空間航跡を辿ったところ、アードリアン宙域と判明した模様です。」
「アシヤ、どう思う?」
「領地に籠り体制を整えると考えておりましたが、それにしても、アードリアン宙域とは。」
「タケルヤマト皇太子は、何を考えてその宙域に艦隊を移動させたのでしょうか?反攻の拠点になれるような星系でもありませんし。」
不思議そうに作戦参謀官の1人が呟くが、アシヤ参謀長官は
「だが、アードリアン宙域内の惑星タムで補給は受けれる。あそこは自由貿易港で、金さえ払えば、いくらでも用意してもらえるからな。
近衛艦隊に首都圏防衛艦隊に第一打撃艦隊、第一機動艦隊全てに一度だけだろうが、完全な補給を受けることが可能だ。そこからどう動く?」
司令部付きの参謀官の1人が
「殿下は、タケルヤマト皇太子が、配下の艦隊全てに補給を受けさせるとお考えで?」
第三皇太子は、宙域図を見ながら
「間違いないだろう。しかし、奴の参謀の中でも、先見の明を持つ者が居たようだな。」
「と言われますと?」
「劣勢な時は、領地に籠り体制を整えるのが一般的な考えだが、それが愚の骨頂とわかる者が居たようだな。」
意味がわからない参謀官は
「どういうことでしょうか?まずは、体制を整えるのが最初かと思いますが?防衛衛星も有ります。此方からは攻めにくいのでは?」
なおも質問する参謀官にミツシサキリシアは
「確かに通常ならば領地に籠り、反攻戦への体制を整え、打って出る考えが大半であろうが、実際は難しい。
なぜならあの領地は、防衛に最適化されており、救援部隊が到着するまで耐えしのぐ造りになっている。そのため継続戦闘をする為の、補給路は考えらていない。
しかもあの領地内には、大型ドックに兵廠が無いんだ。修理や整備も出来ない、補給も来ない、そんな地域でどう艦隊を維持出来る?
今回のような場合、救援部隊が望めない状態で領地内で立て籠ることは、そこへ向かう補給船や輸送船を足止めにすれば、あの星系内はやがて自滅するのが落ちだ。
我々は、わざわざ攻めに行く必要は無いだろう?出て来れないようにするだけで、相手が勝手に自滅するまで、待てば良いのだから。」
ミツシサキリシア第三皇太子の考えが理解出来た参謀官は、
「確かにそうでありますな。」
納得した。
「活路を領地外に求めたことは、評価に値する。さて、次の一手は、どうでるかな?」
ミツシサキリシア第三皇太子は、航図を見ながら思考した。それを見て
「惑星タムにジャンプアウトするのは、艦隊の性能からして、早くとも帝国標準時間で2日後ですな。残念な事に、我々の息のかかった部隊が、あの宙域には不在なので、監視しかできませんな。」
そう言ってアシヤは楽しそうに、報告を聞いていた。




