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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第3章
92/144

帝国にて4

 幸一と明美は、条約締結する為に大急ぎで会見の間に戻ってきた。

皇太子のタケルヤマトはすでに側近と護衛を従えてテーブルに着いており、二人の到着を待っていた。

「遅くなりました。」

と幸一が頭を下げるが

「いや、かまわない。楽にしてくれ。こちらの方が遅れているのでな。」

確かに、会談する相手側の席は空席だった。

「私が独断先行で国交条約と通商条約を、決めてしまったからな。大臣達も慌てただろうなぁ。」

と自虐的に呟き、幸一達の方を見て

「あれから、少し調べさせた。貴様の言う通りだったよ。同姓同名の柿本さよりが584人、そこから同生年月日の柿本さよりが25人いた。しかも、584人全員、同一指紋の上、死亡情報がない。どういう事だ?」

幸一は、肩をすくめて

「そういうものです。さよりに関して聞くだけ無意味です。で、どれかひとつでも、居場所が特定出来ましたか?」

タケルヤマトは、手で顔を覆いながら

「見付かって居れば、苦労はない。」

「でしょうねぇ」

幸一は、少しだけ目の前のタケルヤマトに同情した。

(この皇太子。かなりさよりに入れ込んでいるなぁ)

「それって、犯罪になりますか?」

「国民情報の書き換えの事か?」

「はい。」

「国民情報のなりすましは、禁固30年の刑になる。国民情報の破壊は、死刑または無期懲役になる。」

幸一は、厳しい顔をしたが 

「ただ、今回の事は特殊過ぎた。さよりさんは、なりすましをしている訳じゃなく、本人の情報を増やしたに過ぎず、破壊とも言えない。しかも、原理上できない事をしてのけたことで、専門家が首を傾げている。それほどのありえないことだそうだ。その為、この事に適用出来る刑法が無いらしい。

原理的に不可能とされている事なので、罪に問えない案件になっている。

大丈夫だよ。調べさせたのは、私の信頼出来る側近で箝口令もしてある。」

ほっとする幸一だった。

「少し聞きたいのだが、さよりさんは、祖国にいられない事情が有ったのかね?」

タケルヤマト皇太子は、暗にさよりが犯罪を犯して、祖国を追われる身ではないかと示唆してきた。幸一は明るく

「いいえ。その様なことはありません。数十年来付き合って来た私達が保証します。ただあいつは、思い立ったら行動を起こすタイプなので、今回も帝国に何らかの興味を持ったから、帝国に来たのではないでしょうか?」

「そうなのか?」

タケルヤマト皇太子は、少し疑うように聞くが、幸一は肩をすくめて

「それで、周りは振り回されて苦労しております。」

疲れたように言った。その姿を見たタケルヤマト皇太子は、

「なんだか、判る」

幸一とタケルヤマト皇太子は、目を合わせるとお互い苦笑した。タケルヤマト皇太子は、

「この条約も、さよりさんが早めに結んだ方が後々帝国の為になると、さんざん聴かされていたから、この機会に締結させてもらった。」

と、条約書を手に取った。その姿を見て幸一は

「タケルヤマト皇太子様。不躾ではありますが、この国交条約と通商条約は、さよりが製作に関わっていますね。」

タケルヤマト皇太子は、少し顔をしかめたものの

「確かに原案は、さよりさんが書いて寄越したものだ。それを元に私が配下の者と議論して纏めた条約になっている。」

「やはり、さよりが関わっていたか。」

「なぜわかった?」

「私はわかりませんでしたが、我妻、サファイアと側近が、言い回しにさよりの特徴を見つけまして。」

「そう言えば、さよりさんが言ってましたね、『サファイアちゃんには、バレるかも』って」

「やはり。しかし、さよりの奴はどこで悪さしているのか?さよりを野放しにして、何もなかった事が無いので、ひどく不安なんですよ。」

「そうなのか?私は、姿を見ないのは、少し寂しくは有るが、彼女と居ると年甲斐もなく、ワクワクドキドキしていた。」

幸一は、じっと皇太子の目を見て

「タケルヤマト皇太子様に申し上げます。さよりを、どう思いでありますか?」

「さよりさんを?」

「はい。」

「そうだな。」

とつぶやき、タケルヤマト皇太子は目を瞑り、しばし瞑想した後

「そうか、これが恋という物か。」

と言って、目を開けた。

その言葉を聞いて、幸一と明美は大きく深いため息をついた。明美が挙手して

「発言をお許しいただきたい」

といって、皇太子をしっかりと見つめると

「そのような言葉は、軽々しく言ってはなりません。ましてや皇太子たるもの、他国の庶民に対していうべき御言葉じゃありません。そのことはお解りか?」

詰め寄るように言った。それを聞き

「解ったうえでの発言だ。それに、彼女はそちらの国では、貴族だろう?伯爵当主と言っておったぞ?」

幸一が

「えっ?貴族?伯爵?」

「そう言っておったのを覚えている。確かグレートブリテン及び北アイルランド連合王国国王ジョージ6世より伯爵の爵位を拝命していると。」

「あいつ、イギリスに行ってるうちに、何してきたんだ?」

「今まで立場上、色々な淑女とも会って来たが、一度たりとも女性に興味を持ったことは無かった。ある意味、憎悪していたと言っても良い。

 きつい香水の香りに、私に対し媚びる態度も気に入らなかった。さよりさんだけは私の正体を知っても、私的な場所では態度を変えることは無く、1人の友人として接してくれた。

それだからだろうか、出会った時から気になる存在感を示していたのだ。それからは、会う度に彼女の違う一面を見せられ、なんだこの女性は、と思うようになっていった。

 でも、それは決して不快なものではなく、寧ろ心地好い気持ちになれた。そして、今気づかされたよ。これは彼女に恋をしているとね。彼女は嫌がるだろうけど、正室に向かえ国中に知らしめたい。

 さよりさんのあの純真無垢な笑顔、物の真偽を見抜ける物言い、そして時々見せる獲物を狩り取る瞬間のような鋭い目、熾烈な言葉、どれもこれも愛おしい。」

皇太子はテレもせずハッキリと言い切った。明美は、砂糖菓子を口に頬張ったような顔になり

「幸一、はっきりと惚気られたような気がするのだが、お前は平気なのか?」

「明美、お前たちが俺等の前でいつもしていることだ。俺には耐性はある。しかし、よりによってさよりかぁ」

明美は絶望した顔つきになり、幸一は一度天井を見上げ、諦めた顔になり

「タケルヤマト皇太子様、一度言いましたよね。彼女との恋は諦めてくださいっと。」

「確かに聞いたような気がする。だが、」

「だが、しかし、なんって言葉はいりません!あなたに残された道は、もうこうなったら3つしかありません。さよりを拐って進む荊の道か、さよりが用意するミルキーロードか。それとも、今の地位、財産を含め全てを手放す道か。御覚悟なさいませ。」

真剣な面持ちで幸一は言い切った。

「わかっておる。生半可な覚悟では、さよりさんを正室に迎え入れることなどできないってことは。」

「そうじゃないです。さよりと最後まで添い遂げる御覚悟です。」

すると、皇太子の後ろに控えていた1人が

「発言のお許しを頂けますか?」

と皇太子に訊ねた

「かまわない。許す」

「ありがたきとうぞんじます。」

と言って一歩前に出てきた

「貴方様は?」

幸一が問うと

「私は、帝国第一陸戦近衛兵団団長、マサナリ・ナガエと申す。殿下は生半可な心構えでは、物度とを申しなさらん。すでに御覚悟をされておる。私が御主らに聞きたいのは、先ほど示した3つの道とやらだ。

 2つは解る。殿下とさより殿が婚儀を結ぶとなれば、宮廷を敵に回すこととなり、殿下が歩まれる道は荊の道となろう。皇帝を諦めるのであれば、全てを失うのもわかる。だが、わからないのは、ミルキーロードとはなんだ?。」

明美が

「幸一、勘違いしているから、正しておいた方がいいよ。」

と幸一の耳元で小声で言った

「仕方がないなぁ。私の言った3つの道は、少し誤解されているようですね。」

「誤解?」

「はい、私の言った3つの道は、1つ皇太子様がさよりの気持ちを考えず、婚姻になった場合、荊の道を歩むことになると申しました。この国の最高権力者のあなたに逆らえる者が、この国に居るのですか?まして庶民に?さよりは輿入れをするでしょう。しかし、かなりふてくされて。

 そうなると、待っているのはさよりからの凄まじい攻撃です。こちらの宮廷にの事情は関係なく、周りで見てて居た堪れないほどの攻撃を、皇太子さまが一身に受けることとなります。それに耐えて歩まれる道を荊の道と申しました。

 全てを手放すと言いましたのは、皇太子様が心変わりをして、さよりとの別れを申しだした時です。

今は心変わりなどしないと言われましょうが、人の心は移ろいやすいものです。その時、さよりはあなたから全ての物を取り上げるでしょう。命までは取らないと思いますが。

 そして、ミルキーロードとは、さよりも皇太子様の事が好きになり、添い遂げるとなれば、皇太子様の歩まれる道は、何の障害も無い約束された道となるでしょう。貴方様が気付かぬうちに、さよりが全て御膳立てしますから。順風満帆の幸せな人生を歩めると思います」

と言うと明美が続けて

「私達の中で、『さよりを本気で怒らせるな』という物が有ります。それだけは覚えていてください。」

と言った。

「わかった。」

「まぁ、さより本人に問いただすのが1番でしょうね。」

と明美は、会見の間に置かれてある、天井までの高さのあるティーセットが入れられている豪華な作りの食器棚に近寄り、1番上の引戸を勢い良く開いた。

そこには、バツの悪そうな顔をしたさよりが、横たわっていた。

「なんで、バレるかなぁ?」

皇太子に側近、護衛の近衛兵兵団長は、さよりに指を指して何か言おうとしているのか、口がぱくぱく動くが声にならなかった。

「さより。出てきなさい。」

明美が命ずると

「ちょっと待ってね。」

ごそごそ動いて、身体の向きを変え食器棚から足を出すと、

「エイ!」

と言って飛び降りてきた。

きれいに着地を決めたかったのだろうが、そこは明美に比べ、運動神経に筋力が遥かに劣るさよりなので、バランスを崩しべちゃっと顔から床に倒れ込んだ。

さよりに慌てて駆け寄るタケルヤマト皇太子

「大丈夫ですか!!」

さよりを抱き起こすと、ケガをしていないか調べだした。

「痛タタタ、もうちょっときれいに着地できるはずだったのになぁ。」

「ケガはしてないかい?」

「大丈夫、大丈夫」

と言って二ヘラと笑って立ち上がった。そして不思議そうに

「あ~ちゃん。何であたしが居るのがわかったの?」

さよりが明美に聞くと

「気配と体温を感じて、こんなところに潜む奴は、お前ぐらいだろうって思ってな。」

何でもないように言った。

「体温検知って。孝ちゃん。あ~ちゃん、ついにサイボーグ化したの?」

「してないと思うけど?その可能性は高いな。」

「お前等、失礼だな。どこも機械化などしてない!普通判るだろ?人の気配とか扉越しに何人いるかって?な。」

帝国側の近衛兵団長に理解を求めるが、無理、と言われて

「鍛練が足らないんじゃないか?で、お前の格好はなんだ?」

人外扱いされている気がした明美は、さよりの姿に強引に話を変えた。

さよりの姿は、ここで働いている侍女の格好をしていた。

「これ?昨日からここで働いているから。臨時のアルバイトだけどね。似合う?」

と言ってその場で、1回転して見せた。

「そんなことよりもお前なぁ。連絡ぐらい」

「ごめん、孝ちゃん。仕事しなきゃ。」

さよりは食器棚に近づくと、開けられていた扉を閉め気配を消した。すると、扉がノックされ部屋付きの侍女により案内されてきたのは、外務大臣と法務大臣達だった。

幸一達は、何事もなかったように決められた席に付くと、大臣達も皇太子に一礼して席に付いた。

部屋付きの侍女に混じり、さよりがお茶を給仕していく。ある意味完璧な侍女で、部屋付きの侍女に指示を出していた。

侍女達が下がると、外務大臣がおもむろに

「タケルヤマト皇太子殿下、この度の条約書、確認させていただきました。一部補足事項に理解しがたい文言が有りましたが、原文のままで調印しても問題無しと判断させていただきました。」

「そうか。サナトリアとしてはどうだろう?」

「我が国も問題有りません。」

「それでは、調印するとしよう。」

幸一とタケルヤマト皇太子は、国交樹立書と通商条約書にお互いのサインを見せて、立ち上がり握手をした。

書類を大臣達に渡すと

「すまないが、彼らとしばし個人的に話がしたいので、席を外してくれ。そうだな、クロダ宰相は残ってくれるか?それと給仕の為にそこの侍女は残れ。」

と命令すると、部屋付き侍女と共に宰相を除く大臣達は退室していった。1人残った侍女は、テーブルに出されているティーセットを片付け出した。

部屋に残ったのは、幸一、明美、皇太子、皇太子の護衛の近衛兵団長、皇太子の側近、クロダ宰相、侍女

宰相は、何かを調べている様子だったが、納得したのか皇太子に向き直ると

「で、何の御用でしょうか。皇太子殿下に依頼された事案はまだ見付かっておりませんが?」

語外に忙しいのに!といった感情がありありの言葉を発した。

そこに、先ほどテーブルのティーセットを片付けた侍女が、新たなお茶を各人に茶菓子と共に配膳しだした。

 クロダ宰相は、なかなか気が付く侍女だなと思って見ていると、ティーカップの中身が全て違う事に気付いた。

自分のもとに置かれたお茶は、好みのカルダミアンのハーブティーとそれに合う好物のハービスナイル社のハードケーキが添えてあった。皇太子殿下には、ホットグリーンティーと金平糖、近衛兵団長にはミルクティーのみ、側近にはストレートな紅茶のみ、客人たる幸一氏には珈琲、角砂糖を二つとミルクポット、チョコレートケーキ、明美嬢には、珈琲のみが置かれていた。最後に、侍女が自分用の紅茶と苺のプチケーキを持って、宰相の隣の席に付いた。

「ここで何しておる?」

クロダ宰相が、隣に座った侍女に冷たく言うと

「休憩ですが、何か?」

「ここでする必要は無いだろう。殿下の御前であるぞ!裏で休憩すればよかろう!」

クロダ宰相は侍女に叱咤するが、侍女は、どこ吹く風と言った感じで、紅茶の香りを楽しみ一口含むと

「自分で淹れたにしては、最高点。」

とお茶を楽しんでいた。クロダ宰相は、怒鳴り付けようとした時、皇太子が

「クロダ宰相、その侍女を見てもわからないか?」

と言われて、侍女を見てみると

「お前は!」

「わかったようだね。」

「タケル!なぜ彼女がここに居るんだ!」

侍女に指を指しながら、皇太子に対し名前を呼び捨てした宰相に

「クロダ宰相殿。お言葉が過ぎませんか。」

近衛兵団長が、睨み付けるが皇太子が手を上げて

「かまわない。クロダ宰相と私は幼馴染みで、従兄弟でもあるからこのようなプライベートな時は、堅苦しいことは無しにしている。」

「それでも、」

「すまない。驚いて我を忘れた。」

クロダ宰相は、近衛兵団長に詫びた。

「しかし、なぜ彼女がここに?」

「昨日から、葬儀の臨時要員としてここで働いていたらしい。」

「しかし、ここで働くには、最低中級侍女の資格がないといけないのですが?」

「あたし、特級侍女の資格持っているよ。おかげで、即採用だったよ。」

ニコッと笑うさよりに悔しそうにクロダ宰相は

「お前のおかげで、帝国中のシステムを、総点検する羽目になったんだぞ!」

「良かったじゃない!これでさらに強固なシステムに成るじゃない。」

「お前に言われたくは無い!」

憮然とした態度で、出されたハーブティーを口にすると

「旨いな」

思わず感想がこぼれた。

「ありがとうございます。」

さよりがニコニコして微笑んだ。その邪心の無い(はずがない!by明美)笑顔を見て思わず顔が火照るクロダ宰相は、誤魔化すためにハードケーキを口にした。

その瞬間なぜだか解らないが負けたと感じてしまった。

そのクロダ宰相の姿を見たさよりは、心の中でニンマリほくそ笑んだ。

そのやり取りを見ていた明美は、

「幸一、さよりの毒牙にかかった奴が、増えたんだが。」

「今さらだろ?」


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