帝国にて3
幸一と明美が戻った、サナトリア統一連邦共和国派遣艦隊旗艦バンドウの司令室は、蜂の巣をつついた状態になっていた。
「拓也!何事だ!」
電子戦スタッフの後ろで指揮をする拓也に向かって、幸一が声をかけた。
「幸一。お帰り、早かったね。ちょっと今は、手を離せないので、話は後で聞く。」
「何処からの攻撃だ?」
明美が司令席に座り、各モニターをチェックし始めた。
「明美さん、幸一さん。すいません。私がドジを踏んだばっかりに。」
かめちゃんが半泣きで謝罪してきた。
「何した?」
「さよりさんの情報を集めていたら、突然攻撃を受けて、今はなんとか防戦に成功しています。」
かめちゃんの報告を聞いて、明美が
「マズイ。かめちゃん!三番艦の侵蝕率が57%を越えている。叩き出して!」
「いつの間に!すぐに対応します。アッ!逃げた!」
「今度は、四番艦が侵蝕されている。」
「ちょこまか逃げるな!これがメインのプログラムのようです。私が対応します。他の方は防戦をお願いします。アッ!また逃げた!」
かめちゃんが、電子戦を仕掛けてくる敵のメインプログラムとの追い駆けっこを始めた。
その間に、電子戦スタッフメンバー総力をあげ、そのプログラムを守るように攻撃してくる他のハッキングプログラムとの戦いを繰り広げていた。
しかし、防戦一方でこのままでは、押しきられそうな感じになっていた。
その様子を見つめていた明美が
「ちょっと待てよ?この攻撃パターン見たことあるぞ。」
と呟いて、電子戦のログを確認すると
「ヤバい!アイツの必勝パターンにハマっている。かめちゃん!今、追いかけてるプログラム以外に、ステルスプログラムがまだ居るはず!わかる?」
「本当ですか!でも、追跡中のプログラムが、恐ろしいほど高度で、今は手がまわりません!」
かめちゃんが悲鳴に近い声をあげ、電子戦スタッフメンバーも、顔色を失くした。それを見て
「一か八かやって見るか。」
明美は、自分が座る司令席から電子戦に参戦することに。
ただし、起死回生のワンフレーズを入力するしか考えて無かった。
珍しく明美が、祈りを込め入力したワンフレーズは、瞬く間に事態を終息させていった。
あれほど攻撃してきたハッキングプログラムは、攻撃を止め次々と駆逐され、逃げ続けていたプログラムも逃げなくなり駆逐され、どこに潜んでいたのか、大量のデータを抱えていたプログラムも見つかり駆逐した。
電子戦スタッフメンバーが、基幹システムの復旧及び総点検を始めた。
早急に、抜かれたデーターが無いかをチェックした結果、最後に見つかったステルスプログラムが流出のさせようとしていて、それを阻止できたことが判明
改変されたデータも無く、一応今回の電子戦において、紙一重で勝利したと考えられた。
「はぁ~、やっぱりこれかぁ。」
明美は、復旧していくシステムを見て、脱力し安堵の息をついた。かめちゃんが
「明美さん!助かりました。でも、一体何をしたのですか?」
「あぁ、ひらがなで[ばるす]って入力しただけなんだけど。」
「ばるす?」
「そ、ばるす。」
かめちゃんは、訳がわからない顔をしていた。
「明美。その滅びの言葉。なんで効いたんだ?」
幸一が不思議そうに聞くと
「うん?今の電子戦の攻撃、前にシュミレーションで大敗した攻撃パターンだったんだよねぇ。」
「えっ!シュミレーション?」
「そ、シュミレーションの電子戦。えげつない攻撃なんだよ。」
明美は、電子戦のスタッフメンバーに向かい、
「よく耐えきった。私は、君達がスタッフメンバーであることに、誇りに思う。ありがとう。」
と言って頭を下げた。
「いえ、アケミ司令官殿。我々では撃退出来ませんでした。アケミ司令官殿の力によって、」
「いや、諸君達は優秀なスタッフだ。私が初見の時は、5分もたなかったんだ。」
「明美さん。まさかシュミレーションを作ったのは、」
「かめちゃん、予想している通りさよりの奴だよ。アイツの必勝パターンにハマってしまっていたんだよ。」
明美は、艦のメインスクリーンに今の電子戦のログを表示させ、解説することに
「まず、大量のハッキングプログラムが襲って来ただろう?それはダミープログラム。陽動プログラムと言っても良い。その隙に一つのプログラムが入り込むんだ。」
ログ画面をスクロールすると、確かに24キロバイト程度の小さなプログラムが書き込まれている。
「気付きませんでした。」
「だろうな。このプログラムは、インストラーでもウイルスでも無いから、ワクチンソフトは反応しないんだよねぇ。しかし、これがさよりの奴、最大のやらしさなんだよねぇ。」
「明美司令官殿。そのプログラムは一体何をするプログラムなのですか?」
電子戦スタッフメンバーの一人が質問をした。
「良い質問だ。このプログラムは、ビルダープログラムだ。」
明美は、聞きなれない言葉を発した。
「ビルダープログラム?」
「そうだ。このプログラム自身はシステムには何も悪さをしない。そのため、ワクチンソフトのスキャンを受けても、不正な動きをしないので、駆除対象から外されてしまう。
では、このプログラムが何をするのか?
それは、送られてくるプログラムの欠片を拾い集めて、もとのプログラムに組み立てあげて、起動させるプログラムなんだよ。」
それを聞いた電子戦スタッフの1人が首を傾げて
「プログラムを組み立てて起動?」
つぶやいた。それを見て明美は
「意味がわからない顔をしているな。説明してしている私自身も、さよりに説明されるまで意味がわからなかった。しかし、このやり方は巧妙で、決まると対処できない攻撃方法なんだ。
まず、大量に攻撃してくる駆除可能なハッキングプログラムの中に、プログラムコードの一行だけを書き込まれているテキストデータを落としていくウイルスがいる。このテキストデータに書かれているのは、たった一行のプログラムコードなので、ワクチンソフトは反応しない。」
「ワームとして処理されないのですか?」
「しない。なぜなら最初の一行は、一文字だけのテキストデータだからな。プログラムとは言えない。
しかし、このテキストデータを使ってこのビルダープログラムが稼働する。
大量に攻撃してくるハッキングプログラムが何をしているかと言うと、攻撃する振りをして実は、プログラムコマンドの一行だけを送り込む作業をしているんだ。送り込まれたその一行を、このビルダープログラムは拾い集め、先ほどのテキストデータに書き込み、二つのプログラムを完成させていく。
出来たプログラムは外部からインストールされていないので、ワクチンソフトの対象外になり、自由自在にシステム内を暴れまくる。しかも、目立つ動きをするウイルスが逃げまくる間に、ステルスウイルスが主要データを根こそぎかき集めて、全てのデータを取り終えると、このプログラムはデーターを外部に送信して、自らを消去してしまう。
この間も、囮の攻撃型ウイルスプログラムが暴れているんだ。」
「気が付かないうちに、データー送信されてしまうんですか!」
「そうだ。しかもこのプログラムが姑息なのはそれだけではなく、データーを抜き取ったシステムに対して自爆プログラムを形成して、オールクリアコマンドを実行させ、記憶装置にフォーマットをかけて、ついでに記憶装置を破壊して終わる。と言うえげつない攻撃をするプログラムなんだ。」
「そんな攻撃方法、防ぎようが無いじゃないですか!」
一人の電子戦スタッフが声をあげるが明美は、
「作った本人曰く、記録に無いテキストデータやプログラムは、即消去すれば良いだけ。って言ってたが、毎秒1万を越えるような、大量に攻撃してくるハッキングプログラムを処理しながら出来るものじゃない。本人も自覚は有ったようで、緊急解除コマンドを用意してあった。それが先ほどのコマンド[ばるす]だ。」
「しかし、さよりの奴が、緊急解除コマンドを変えていると思わなかったのか?」
幸一が明美に問うと
「一瞬過ったけど、さよりの奴は面倒くさがりなんで、多分変更してないって思った。」
「システムチェック終了、及びシステム洗浄終了しました。そう言えば、会見無事に終わったんですか?」
かめちゃんが幸一と明美に聞くと
「おっと!この騒ぎで、忘れていた。かめちゃん!サファイアを緊急回線で呼び出してくれ。それと、この条約にうちが不利になる条件が無いか、早急にチェックしてくれ!」
と幸一が持ち込んだ分厚い書類を、かめちゃんに託した。
「早急と言われましても、どのくらい時間がもらえるのですか?」
幸一は時計を見て
「1時間」
「嘘でしょう!!そもそも、条約の締結は、予定に無かったですよね!」
かめちゃんは、頭を抱える仕草をして
「サファイアちゃんが出ました。説明をしてください。私は、今からチェックを始めます。」
と言って、条約書類を読込みを始めた。
「幸一さん。どうかしたのですか?緊急回線での連絡だなんて。まさか!さよりの身に何かあったのですか!」
モニターの中のサファイアは、焦った顔をするが
「落ち着け。さよりは多分元気いっぱいに遊んでるよ。それより、帝国が突然、国交樹立と通商条約を締結するって言ってきて、書類にサインを求められた。持って帰って検証する時間がない。今すぐに検証してくれ。」
それを聞きサファイアは、落ち着きを取戻し、
「わかりました。こちらに転送してください。確認しますので。で、返事は何時までですか?」
「45分後」
しばらく、サファイアと幸一がモニター越しで、見つめ合い
「舐めてんのか!そんな短時間で、出来るわけないでしょう!あなたが居ながら、なんで時間伸ばししなかったんですか!!」
サファイアにしては珍しく、怒りが表情に現れていた。
「仕方なかったんだよ。第一皇太子のタケルヤマトが、家臣にも言わす独断専行でしたらしく、帝国の方もパニックってるよ。今、かめちゃんが読込みをしているから、相談してくれ。その結果を又報告しないといけないんだ。」
幸一が、ひたすら低姿勢で謝り続けていた。
「読込み終了しました。サファイアちゃんに送ります。」
「ありがとう、かめちゃん。」
「サファイアちゃん、この条約。ほとんど手直しの必要性が無いと思うんですけど。確認取ってもらえます?」
「かめちゃん、本当?」
「はい。」
しばらく、サファイアは送られてきた書類に没頭していた。
約30分が経過してサファイアが顔をあげると
「この条約に、我々に不利になる要素の条問は、何一つ無いです。このまま締結してもらってかまいません。」
と言い切った。
「わかった。俺が、全権代行でサインしておく。」
幸一は、そう言って書類にサインをするのを見届けたサファイアは、
「幸一さん。その書類を作成したメンバーの中心に、さよりさんがいますよ。」
とサファイアが告げた。
「サファイアちゃんもそう思いましたか。私もそう思っていました。」
「やっぱり?かめちゃんは、どこで感じた?私は、友好条約第6条第2補項の言い回しなんだけど?」
「そこもそうですね。私は、通商条約第52条第8項の言い回しです。」
「そこもそうよねぇ。」
と、間違い探しの答え合わせをするように、笑顔で話をする二人(?)
司令室に居るメンバーは、誰一人話にはいることができなかった。
「サファイアにかめちゃん、この条約にさよりが関わっている?」
幸一は戸惑った顔で聞き返した。
「そうですよ。文章の言い回しに、さよりさん独特の癖が出てます。それに、こんなに両国の事情がわかって、どちらにも恨まれない条件で纏めています。こんなことが出来るのは、両国の内情を知っている者でないと無理ですよ。これらのことから、さよりさんしか、こんな条約文言を作成出来るわけないでしょう。」
サファイアが条約を見ながら結論告げた。それを聞いた明美は、
「おかしいなぁ。」
と、呟いて考え込んだ。
「どうした?明美。」
「サファイア、それが間違い無いなら、さよりは、最近の我が国の内情を知っていることになるなぁ。どうやって知ったんだ?」
明美が疑問をサファイアに投げ掛けると、
「あ!そうですよ!さよりさんは、6年間全く連絡が無かったし、帰国した気配さえありません。どうして?」
「あいつ、こそっと帰って来ていたかな?」
幸一が考えてみるが
「それはないと思うぞ。いくらさよりが監視カメラの死角を選んでも、大丈夫なように死角を無くしたからな。そもそも、港のカウンターを通らずに市街に行く事は、出来ないだろ?」
拓哉がそれを否定する。
「じゃあ、どうやって、」
さよりについての議論になりかけたが、明美が時計を見て
「幸一。時間だ。戻らないと、ヤバくないか?」
「おっと!ちょっと、調印してくる。明美、行くぞ。」
幸一は明美を従えて、慌ただしく出ていった。
「大丈夫かな?」
サファイアは、モニター越しに幸一を見送ると、心配そうに呟いた。
「大丈夫でしょ。後は、幸一さんの本領発揮の交渉ですから。」
かめちゃんが明るく言ったが
「でも、この時点でさよりさんが、現れていないんでしょう?なのに、さよりさんのペースになっている気がしない?」
拓哉が
「サファイアちゃん、どうゆうこと?」
「なんか、慌ただしいのよ。」
「そうだな。今回の会見は、お悔やみの口実でさよりさんの、足取りの調査依頼をする予定だったからね。」
「そうじゃなくて、緊急回線を使用したのに、条約のチェックする為の時間が少なかったし。」
とサファイヤが時間の短さを追求すると、拓哉がすまなそうに
「それは、直前までさよりが作ったと思われる攻撃ソフトの対応していて、もうちょっとでこの艦のシステムが乗っ取られる所だったんだ。」
説明をしてかめちゃんが
「そうなんですよ。さよりさんが、作ったえげつないウイルスソフトのせいで、すぐに回線を使用することができなかったんです。その為に、半時間ほど連絡するのが遅くなりました。」
補足した。
「さよりさんの攻撃ソフト?」
「そうなんですよ。サファイアさん聞いてもらえます。毎秒一万近いアタックソフトに仕込まれていた、分割ソフトを組み立てて内部崩壊させる、極悪ウイルスソフトなんですよ。」
かめちゃんが事の顛末を話し始め、静かにサファイアは聞いてきた。そして確認するようにサファイアが、
「拓哉さん。ちょっと整理しても良いですか?まず、会見の場で第一皇太子タケルヤマト氏が、国交及び通商協議を議会決議を飛ばしての独断による条約締結を、タイムリミット付きで迫ったことにより、幸一さんの話術が防がれました。」
「そうだな。交渉する様子も無く、すぐに調印を迫られて、嫌なら調印しないと言ってのけたらしい。それで、幸一は内容の確認が出来ないのに調印は出来ないとして、内容の確認の為の時間を勝ち取ったようだ。」
「幸一さんの護衛が、明美さんになっていることも無視できません。」
「どうしてですか?この三人の中では一番明美さんが護衛に向いていて、さよりさんを探すのに、情報分析の長けた私と拓哉さんで、この場合に居たから、外部アタックに対応出来たのですけど?」
「でも、かめちゃん。明美さんが今回の電子戦の対応方法を知っていたんでしょ?」
「確かにな。それでも30分以上は攻防していたな。待てよ?明美の奴が言っていたな。初見では、5分もたなかったって。それ以上耐えたここのスタッフが偉い?それともさよりが手加減して、明美が帰って来るのを待っていた?でもなぜこんな時間稼ぎのようなことを?」
拓哉が考え込む前にサファイヤが
「時間稼ぎ?そう言えば、さっき分割ソフトが暴れたって言っていたわね。それってどんなソフトなの?」
「簡単に言えば、アタックソフトが一行分のプログラムコマンドをひたすら攻撃のついでに送り込み、相手のシステム内で組み立てて攻撃するソフトなんだ。」
「細切れのプログラム、相手のシステム内に入れた組み立てプログラム、組立指示書のテキスト、どれかひとつでも欠けたら、動かないんですけどね。」
「一行分のプログラムコマンド?組み立て?3つで動く?・・・・・・・・かめちゃん!もう一度条約内容の確認して!私もするから!」
サファイアが悲鳴のような声をあげ、かめちゃんに指示した。
「どうしてですか?」
「さよりさんの常套手段。時間ギリギリにすることにより、細かい条文の読み違いや解釈のミスリードを誘発させる方法よ!それに、私の考えが間違ってなかったら、この条約には裏コマンドがあるわ!もう一度条約内容を確認しましょう!」
「わかりました!」
二人は、一語一句丹念に調べ始めた。
静かな時間が過ぎて行く。先ほどとは違って3倍以上ほどの時間がたったとき二人同時に
「「有った!」」
と叫んだ。
「かめちゃん、帝国の法典を調べて!!」
「サファイアさん、サナトリア統一連邦共和国の国防に関する条文を調べてください!」
二人は、モニター越しに見つめ有って、一拍おいて
「帝国法典、第98条第七項特記項目第3」
「サナトリア統一連邦共和国憲法、第74条第6項特記項目7補記事項3」
「「今すぐ調べる(ます)」」
サナトリアは立ち上がりモニターからフレームアウトしてしまった。かめちゃんは、ネットに潜り帝国の法典を探し始めた。
「かめちゃん、どうした?」
「待ってください。今調べていますから!有った!やっぱり仕込まれていた!しかも、ここ5年の間に徐々に変更している!」
「かめちゃん、俺達にも解るように説明してくれ。」
「ちょっと待ってください。サファイアちゃんの結果も確認したいんです。」
と、かめちゃんがサファイヤが帰って来るのを待った。
しばらくして、モニターにサファイヤが映ると
「してやられたわ。流石はさよりさん、て言うべきなんでしょうね。そっちは?」
サファイヤが落胆した顔つきで、かめちゃんに意見を求めると
「そちらもでしたか。こっちも調べましたら、リンクしてました。」
「やっぱりね。」
拓哉は、訳が分からず
「なにがあったんだ?」
かめちゃんが
「拓哉さん、この国交樹立条約と通商条約は、サナトリアの法律と帝国の法律がそろうことにより、もう1つの効力を発揮する条約になるんです。」
「どうゆうこと?4つがそろって1つの効力って?」
サファイヤが
「国際安全保障条約」
拓哉を含め周りの電子戦スタッフも、首を傾げた。
「なんで、ここで安保条約が出てくるんだ?」
サファイヤはため息をつきながら
「言うならば、この条約はコンピュータウイルスで言う『トロイの木馬』の条約なの。」
それを聞いても意味が解らず拓哉は、
「ウイルスのトロイの木馬って、本体のプログラムの裏で違うプログラムが動くウイルスソフトの事だろう?条約でそんなことが出来るものなのか?」
と、首を傾げていたが
「拓哉さんが不思議がるのはもっともです。普通そんなことが出来るわけないんです。法律にしろ条約にしろ個々単独の物なので、連係が出来るわけないのです。」
かめちゃんの言葉をついでサファイヤが
「その常識を覆したのが、この国交樹立条約と通商条約です。どちらのでもいいですけど、第一条の文言を読んでください。」
と言って拓哉に読ませた
「なにもおかしいな点は無いけど?帝国は甲、サナトリアは乙とするってことが書かれてるだけだよね。」
「最後まで読みました?」
「最後まで読んだよ。そういえば、最後に、丙、と丁とするって書かれてたけど、ミスプリ?そんなわけないよね。」
「それです!なぜそこの最後の行に帝国は丙、サナトリアは丁にしないといけないのか?書かれてます?」
「そういや、書かれていない。でも、この両方の条約には甲と乙しか出てこないね。なんで丙と丁に?」
「出てきますよ。丙と丁。主に大したことのない条文の最後の追加もしくは補助文章に。」
「でも、それって、意味が無くない?あくまで補助とか特例が出来た時だけに関する項目でしょ?それがなにか?」
拓哉は、法律用語で書かれた読みにくい文章を見て、そう解釈していたが
「それがさよりさんのねらい目です。かめちゃん解析が終わった?」
そう、サファイヤが呼びかけると
「はい終わりました。とんでもない安保条約を結ばされてましたよ。」
と言って文章を表示した。拓哉はその文章を見てみると、物凄く回りくどい法律用語で書かれており、一見何が言いたいのかよくわからなかった。
「かめちゃんこれ何?」
「四つの法律書からリンク先を抜き取り並べたものです。かなり言い回しに古い言い方を用いて、見難くして有りますが要約すると、サナトリアもしくは帝国国内で内乱が発生した場合、サナトリアもしくは帝国は現政権を守るために、武力を含むあらゆる手段を友好国に対し執行する、となっています。強力な安全保障条約です。」
「えっ!なぜそんな事に?」
「国交条約締結と同時に安全保証条約も結ぶのは、そう珍しい事じゃないですしねぇ。」
「でも、今回の話し合いでは、安全保障条約を結ぶことは話をしていないはず。」
「これは、帝国の国防に関する法律の中にある文章の一つで『丙は友好国の丁に救援を依頼することが出来る』ってものがあるのですが、この法律の中に丙も丁も出てきません。只、1文国交条約参考って書かれているのです。」
「それって、この国交条約ってこと?」
「でしょうね。そうゆう変な短い条文がお互いの国家の憲法とか法律とかに、堅苦しい文にしていろいろ散りばめられていて、一つハマると『AならばCに行きFを実行する』って感じになって法律書を渡り歩く命令書みたいな感じなるんです。この国交条約書と通商条約書が無ければ、意味のない事なのですけど。」
「これって、プログラミングと同じ形式になっています。さよりさんらしいというか、よくぞここまで偽装した条約を作ったものです。」
「でも、安全保障条約は締結していないのだから、断れるはずじゃないのか?」
拓哉は、反論してみるがサファイヤが苦笑しながら
「拓哉さん。これは新たに結んだ安全保障条約ではないのです。」
「新たな条約ではないって?」
「そうなんですよ。この条約はサナトリア統一連邦共和国が出来た時に施行された安全保障条約になります。」
「どうしてそんなことに?」
「こちらの法律が早く施行されているために、仮想相手に結んでいた条約が、実態を持ったというわけで、今更破棄は出来ないというか・・・・・・・」
「じゃ、幸一に連絡して、条約締結を止めさせないとヤバいんじゃ。」
「この締結は阻止できません。なんせ、表向きの条約はお互い損をしない、ちゃんとした条約なのですから。文句を言うことが出来ません。」
「でも、何かあったら、巻き込まれるのが必至という物なんだろう?」
「そうなのですが、どうやって説明します?お宅に内乱が有りそうだから、巻き込まれたくないので、その微妙な言い回しを削除したいとでも言うのですか?よく読めば微妙に関連性を持たせているので、迂闊に消せないようになってるんですよ。しかも、こちらの法律も絡んでいるので、余計に話がややこしい事になります。」
「じゃ、どうすれば?」
「内乱が起こらないことを祈るしかないですね。」
「それに、今回は使われてなかった謎の文が、サナトリア統一連邦共和国憲法内だけでも、今わかっただけで58箇所有ったんです。」
「て、ことは?」
「わかりません。さよりさんが、あと何を仕込んで行ったか」
「サファイア、その文を消せないのか?」
「我が国サナトリア統一連邦共和国の法律、憲法の条文の削除をするためには、議会の2/3以上の賛成を得て、国民投票にて51%以上の賛成が必要です。これぐらいの事で、そんなこと出来ると思いますか?」
「無理だろうなぁ。」
サファイアが遠い目をして
「そう言えば、サナトリアの憲法制定会議の席で、さよりさん言ってましたね。使うことは無いと思うけど、保険だからって。」
「それじゃ、こうすることを考えての?」
「かめちゃん。それは無いだろう。第一、あの時点ではまだ帝国に行きたいとは、さよりの奴は考えてなかったはずだ。」
サファイヤはしばし考えて
「さよりさんは、まさか、帝国の法律も手を加えてはいませんよね?」
一同、黙り込んだがかめちゃんが
「いくらなんでも、さよりさんがそこまで出来るわけが・・・・・・・」
と言いかけたが拓哉が
「そう考えたくもなるよね。あまりにも帝国の法律の補足部が、都合よく出来過ぎている。まるで、この条約が結ばれるのを見越して作られたような?帝国の法改正には何が必要だ?」
「調べましたが、そう簡単ではないですよ。」
かめちゃんが、帝国の法改正の手順を画面に纏めて出した。
「法務省の役人が法案を作成し、帝国議会にて承認を受けて、さらに皇帝の承認を受けなければ、法改正できませんよ?」
法改正の一般的な流れが、表示されていた。
「でも、皇帝自ら法改正ができるようだな。アイツならソコをつくな。」
「でもその為には、皇帝の勅命がセットですよ?どうやって、勅命をもらうんですか?」
「それが判れば、苦労は無い。大体、こちらの法律が、まさかそんなトラップじみたことされてるって、誰が知ってた?」
「まったく!あいつを放し飼いにすると碌なことが無い。さて、連れて帰れるかな?」




