帝国にて1
帝国皇帝陛下、国葬当日
幸一と明美は、喪服に着替え迎えに来たリムジンに乗り込み葬儀式場へ向かった。
拓哉とかめちゃんは、一旦艦に戻り艦の索敵システムを転用した情報収集システムを起動させ、さよりに関する情報収集をメインに帝国に関する情報収集を全力で開始した。
帝国内の通信プロトコルの解析に時間がかかったが、ドルフィン型の4隻の索敵システムをかめちゃんがまとめて能力を上げて力業で押しきった。
後にさよりから「スマートじゃない」と批判されるのだが。
「拓哉さん。帝国内のネットワークに入りました。」
「じゃ、早速情報収集を始めてくれるかな?」
「了解です。初歩的にさよりさんの名前から検索しましょう。結構居ますね。同姓同名の方が。」
「どれどれ?わぁ結構居るな。」
表示されたのは、1,786名の下は5歳から上は785歳(!)のカキモトサヨリだった。
「とりあえず、否帝国民をピックアップ。あれ?対象者がありませんね。」
画面表示には、対象者無しと表示されていた。
「おいおい、さよりの奴、帝国民になったのか?名前を変えたのか?まさか犯罪者で処刑されたんじゃないだろうな。」
「ちなみに、柿本さよりと検索した結果、1,953名がヒットしました。読み方の違いでしょうか?増えました。」
「一応、犯罪者リストって検索できる?」
「無理ですね。プロテクトがかかっていてアクセス制限がかかっています。このセキュリティーを突破には、かなり時間がかかると思います。」
「これって、絞り込むのは一仕事だぞ。」
「年齢検索は、意味がないでしょうねぇ。さよりさん何歳設定しているのかがわかりませんから。」
「だよなぁ。そしたら、8年以内に帝国国民になった10歳以上の女性で検索してみて。」
拓哉の指示にかめちゃんは
「年齢が合いませんよ?」
「いいんだ。さよりが国籍を変えたとしたら6年前としたいところだが、ほら、サナトリアって変に1年が長かっただろう?だから念のため8年前にして、年齢は、さすがに8年前に生まれて10歳ってことは無いだろう?本当の子供は除外できるしね。」
「わかりました。おっと対象者が減りましたよ。」
モニターには、26名のカキモトサヨリが表示されていた。
「ここまで絞ったか。」
拓哉は、26名の名前を見つめて
「かめちゃんなら、ここからどう絞る?」
「そうですね。このデータの大本にアクセスして、全てのデータをぶっこ抜きますね。」
「力業だなぁ。できるの?」
「元データの場所を探して見ます。」
かめちゃんが目を瞑り瞑想しているような顔つきになった。しばらくすると、
「これはキツイ。」
と言って目を開けた。
「どうした?」
「拓哉さん。このデータベースの大元は、とんでもない役所のサーバーですよ。」
と言って画面に表示したのは、トップページには可愛い女の子のキャラクターが微笑んでいる、国家保安庁のホームページだった。
国民の安全を守るお仕事をしていまぁ~す
と、キャラクターの女の子がやたら主張していた。
「なんか、可愛いトップページだね。この役所の仕事って?」
拓哉がかめちゃんに聞くと
「この役所の主な仕事は、スパイ、テロリストの摘発です。やっていることは、昔の日本にもあった、特高警察みたいなものです。しかも国民からの評判は、最悪です。おとり捜査に別件逮捕は当たり前。一般人には、使用が禁止されているはずの自白剤に拷問も、平気で実行するようです。」
かめちゃんは、国家保安庁の評判を纏めた闇掲示板を表示しながら、嫌悪感全開で話した。
「なんでまた、そんな役所がデータベースを管理してるんだ」
拓哉も、国家保安庁の評判を見て、唖然としていた。
「多分、主に移民者の身辺調査をやっているみたいですが、移民者に化けたテロリストを探る目的でしょうか?もともと政府の暗部が、表向きの役所をやっているってことですかねぇ?さっきの犯罪者のデーターベースもここにあるみたいです。」
「だからか、身辺調査をやっているから、個人名だけで検索してみて、これだけのデータが出るのか。」
「どうも、個人名だけでは無いようですね。一般公開できるのが名前と年齢位で、サーバーには、住所、電話番号に、顔写真も有るでしょう」
「かめちゃんは、入れられないの」
拓哉は、暗にハッキング出来ないか?と、聞くと
「2、3日時間をいただけるのなら、可能です。」
「そんなに!」
「はい、ダミーで先ほどから、アタックしているのですが、まったく入れません。それどころか、カウンターアタックが始まって、今、迂闊に仕掛けるものなら、ここまで追っ手が来ますよ。」
外部からのアクセスに対し、過剰気味のセキュリティーを備えているサーバーだった。
「参ったなぁ。さよりならどうしたかな?」
「さよりさんなら、アタックしているでしょうね。」
「だよなぁ。」
「さよりさんが、こんな面白いサーバーに挑まない理由が見つからないです。ちょっと待ってください。もし、さよりさんが、既にここのサーバーに挑んで攻略しているとしたら?」
と言って、ホームページのトップページをジーっと見ていたかと思うと
「あった!」
と叫んだ。
「どうした?かめちゃん。」
「拓哉さん、ここのサーバーは既にさよりさんが攻略済みです。おかげで何とか入れそうです。」
ニコニコ顔でかめちゃんが答えた。
「さよりさんは、攻略したサーバーで、再度入るのに値するサーバーには、簡単に入れるように裏口を作っておくんですよ。ここのサーバーのは入り口は、この女の子のキャラクターの右の人差し指の爪ですね。」
と言って、キャラクターの右の人差し指の画像をアップにした。
「ほら、拓哉さん。この指の爪、他の爪と色違うでしょ?」
と言われ拓哉は、画像を見てみるが、まったくわからなかった。
「どこが違うのかな?俺には同じ黄色に見えるんだが。」
「えぇ!わかりませんか?よく見てくださいよぉ。人差し指だけが蒲公英色で、ほかの指がレモンイエローじゃないですか。」
と言われても区別がつかない。
「蒲公英色はシアン0マゼンタ17イエロー100ブラック0の配合に対して、レモンイエローは、シアン10マゼンタ20イエロー100ブラック0の配合なんですよ。わかりませんか?」
と、説明されて
「わかるか!!そんな細かい配色なんか。それで、さよりの作ったバックドアのは入り口として、どうやって入るんだ?」
思わず大声を出してしまった拓哉だが、かめちゃんは、意に介することもなく
「この爪をクリックして。」
クリックしたところ、パスワード入力画面が表示された。
「かめちゃん。パスワードわかるの?」
画面を覗き込んだ拓哉が聞くと、
「どっちかな?とりあえずやってみます。」
ど言って7つの文字を入力して、エンターキーを押しこんだ。
すると、画面が変わり国家公安局の検索画面になった。
「拓哉さん。無事は入れました。アラートは出てないようです。チェイサーのプログラムも動いていないようです。」
かめちゃんの報告を聞いて、
「これで検索できるのか?」
「たぶん、全帝国国民の個人情報が見れると思います。検索しますか?」
「やってくれ。」
「はい。先ほどの、国民になったのは8年前で現在10歳以上の女性のカキモトサヨリ、で検索をかけてみます。」
そこに表示されたのは26名のカキモトサヨリのデーターだったが
「どうして?」
「なぜだ?かめちゃんこれってちゃんと検索したんだよね。」
「してます。現に表示データー項目が、新たに20項目増えました。でも」
「じゃ、なんで、なんも表示しないんだ?」
最初の26名のデーターと同じ情報しか表示していないのだった。
「あとのデータは、表示不能?入力無?1項目だけ入力済み?なんだろう?指紋データ?これだけ使えるけど?これって!拓哉さん!全部ダミーデーターです。本当のさよりさんのデーターはありません。」
「どうゆうこと?」
「たぶんですけど、さよりさんは、地球でもやった偽戸籍を作ったのではないでしょうか?最低限の必要項目しか入っていません。指紋データーだけは同じのようですけど、年齢はバラバラです。」
「オリジナルのさよりのデーターは?」
「たぶん隠蔽しているんでしょうね。」
「誰がこんなことを?」
「当たり前ですけど、さよりさんでしょう。もしかして?」
と言って新たな検索項目を入れて、かめちゃんはいろいろ検索をかけて行った。
「拓哉さん、取りあえず犯罪者リストにはいませんでした。死亡者リストにもありませんでした。」
「どこかに生きているってことか?」
「そうですね。地球に居た時と同じように、多数の身分証明書を使って遊んでいると思いますよ。」
「あの野郎。今どこで何して居やがる!」
「とりあえず、さよりさんは生存している事がわかっただけでも良しとしましょう。」
「確かにな。しかし、指紋データが同一で、複数登録できるっておかしくない?」
「これは、帝国の個人情報データの管理に、有る意味絶対的な自信と信頼が有るからでしょうねぇ。まんまと、さよりさんにやられてますけど。」
かめちゃんがザクッと調べた結果、帝国国民には、生まれた時に手に生体チップが移植されて、そのチップのシリアルナンバーと個別生体認証(指紋等)の二つが揃って帝国国民の固有番号になる仕組みになっていた。生体チップのシリアルナンバーは、32進数の128桁で構成されており、書き換えは出来ないとされていた。
この生体チップは、身分証明はもちろん、家族構成、クレジットカードに銀行口座、納税、保険証等、生活に関わる全ての物にリンクされていて、買い物は、手をかざすだけで支払い完了すると言ったことができ、病院での診察も、手をかざすだけで、過去の病歴にアレルギーが伝えられて、診察から投薬、支払いまでをスムーズしている。この生体チップがなければ、帝国内での生活は困難に極めると言って過言ではなかった。
生体チップは、バイタルサインを感知しており、死者の手をかざしても反応はしない。生体チップを取り出して別人に移植しても、生体チップのシリアルナンバーと個別生体認証が一致しなければ、不正使用となり、全ての口座が凍結させられ、警察捜査対象になる。
よって、他人の生体チップを取り出して自分に移植しても使えないのであった。
「便利なことで。でもかめちゃん、1人に1つの生体チップをどうしてさよりの奴は、なんでこんなにも登録する事が出来る?」
「考えられるのはですね、生体チップのシリアルナンバーを、自在に変更できるんじゃないでしょうか?」
「シリアルナンバーの変更?」
「そうです。生体チップのシリアルナンバーを変更すれば、いくらでも名義が作れますよ。」
「しかし、他人の生体チップは使えないんだよな。」
「そうですよ。でも、もともと自分に移植された物ですから、違法に移植したものじゃないですから、パーソナルデータは変わりません。ただ、さよりさんはどうやってシリアルナンバーの書き換えをしているんだろう?って思います。
だって拓哉さん、使う度に生体チップのシリアルナンバーを書き換えるなんて、めんどくさいじゃないですか!それに、今どの人格?って言って良いのかわかりませんが、間違うと大変な事になりますよ。」
「それは言えるなぁ。」
「帝国は、変更出来ないと確信しているシリアルナンバーと、個別生体認証で国民を管理しています。簡単に変更できるって事になれば、帝国内の管理システムの根底を覆す事になりますよ。もし、さよりさんがしてることがバレたら、重罪は確定ですね。」
「まったく!あいつはどこでも問題を引き起こすなぁ!」
「まったく。さよりさんを放し飼いにしたら、どんどん事が大きくなります。」
「犯罪者リストに上がって無いようなら、すぐに連れ戻せばいいか。」
「そうですね。拓哉さん。このシステム。個人追跡調査が出来るみたいですよ。」
「個人追跡調査?」
「はい、どこにいるかを瞬時に表示するシステムのようです。帝国国内の主要都市に、衛星国家を対象に、生体チップの発信する信号を探し出すようです。犯罪者からしたら嫌なシステムですね。身元が判明したら、帝国国内にいる限り隠れる事が出来ません。」
「犯罪の抑止力には、最適だな。」
「でも、犯罪の発生率は、サナトリアと変わりませんけど。」
「でも、検挙率は高いんじゃないの?」
「不思議な事に、変わりません。どうも犯罪者は、生体チップを取り出して逃げるようですね。」
「でも、それじゃ何一つ買えないんじゃ?」
「いえいえ、クレジットカード決済や現金決済もできますから。ケガをしたって言って、現金決済すればいいだけなので。」
「生体チップ決済がメインって言ってなかった?」
「そうですけど、現金やクレジットカード決済も出来ますよ。帝国国内でも、僻地では、現金決済がメインの所もあるようですし。」
「便利な支払いシステムの1つって事か?」
「ま、病院とか税金の申請の時に困るか、犯罪がバレるか?って事だと思います。」
「で、かめちゃん。さよりの追跡調査は?」
「終わっていますよ。対象者無しです。1953名全て調査済です。」
「どういうわけ?」
「生体チップの追跡調査用の発信を、止めているんでしょうね。」
「そんな事、出来るの?また、さよりが勝手に機能をいじくっている?」
「出来るかどうかでいえば、出来ますよ。ただ、申請が大変ですけどね。」
「出来るんだ。どうやって?」
「国家保安庁の監督官庁である、帝国公安省の審査を通して、保護プログラムが必要と認められた場合ですけどね。」
「保護プログラム?」
「国家的犯罪の重要参考人物で、命が脅かされる場合とか、国家治安上もしくは国家保安上、保護が必要な人物の人権及び精神的肉体的迫害をうけさせない為に、国家が守らないいけないと定めた場合に、発令されるプログラムです。」
「って事は、国家的犯罪の重要参考人か?さよりは?」
拓哉は、頭を抱えた。
「あのバカ!帝国の国民管理システムに干渉しやがったからか?」
「もし、保護プログラムが必要と認められたのなら、その線が濃厚ですね。」
「見つけ次第、連れて帰ることは?」
「難しくなりましたねぇ。」
拓哉とかめちゃん二人は、高速偵察巡洋艦ゴンドウの作戦指令室で、頭を抱えるしかなかった。かめちゃんがふっと
「拓哉さん、でも、もう一つ考えられることが有りますよ。さよりさんが自分で勝手にこのシステムを発動させている場合です。」
「さよりが勝手に?」
「そうです。ここまで勝手に自分のデーターをいじれるのですから、勝手にこの保護プログラムを使っている可能性が有りますよ。」
「そっちの線が濃厚だな。でも、それはそれで、帝国にバレたらどうなるんだ?」
かめちゃんは、目を泳がせて
「えっと、その方が重罪かもしれませんね。」
結局二人して、今後の対応を思うと、頭を抱えるしかなかった。




