帝国へ
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帝国から弔問外交許可の連絡を受けて、急ピッチに4隻の高速巡洋艦が造船が開始された。
それは通常ではあり得ない、造船期間1週間と言う短期間で造船された新型高速巡洋艦は、全艦隊乗組員より選出された、少数精鋭部隊として、帝国領土の本丸とも言える首都へ向けて、あわただしく出港していった。
旗艦高速偵察巡洋艦【ドルフィン型】1番艦『バントウ』には、弔問使者として幸一、艦隊司令として明美、艦隊参謀として拓哉、艦隊調整官としてかめちゃん(?)が、搭乗していた。
「しかし、本当に1週間で4隻とは言え、新造艦による高速艦隊を造ってしまうとは。」
幸一は、まだ新しい司令室の一角に設けられた貴賓席に座りながら、落ち着かないでいた。
「私も驚いたわ。てっきりかめちゃんで乗り込むって思っていたしねぇ。」
司令長官席に座る明美も、新しい艦内に戸惑っていた。
「私にかかれば、このぐらい簡単なもんですよ。」
通信オペレーター席で、かめちゃんが得意げに笑顔で答えるが
「でもどうして、かめちゃんがこの船に乗っているのかな?」
参謀席から拓哉が、不思議そうに尋ねるとかめちゃんは、少し困った顔をして
「データリンクのシステムが、間に合わなかったんですよぉ。」
本来は、旗艦設備と電子戦システムを搭載する予定だったのだが、スペース的に無理と言うことが判明したため、かめちゃんの演算能力を使って、帝国領土の情報収集と分析をしようという方法だった。
一応、索敵システムを下ろして、旗艦設備を載せたと言うことにしてある。
「しかし、帝国は来てほしくなかったんだろうなぁ。」
幸一は、弔問案内状に書かれていた日程を思いだし、苦笑いした。拓哉が
「だろうな。案内状をもらった時にあった手持ちの船では、間に合わない日程になっていたからな。」
かめちゃんが
「それで、私だけの単艦で行こうとしたら、怒られたでしょう。護衛も付けず行くのは、相手を軽んじている行為で失礼に当たる行為だと、サファイアちゃんに。」
「まったくだ。相手のプライドをどう思っている?」
かめちゃんと明美に蒸し返しされて、恐縮する幸一。
「葬式なんだし、さっと行って、情報収集したら良いとしか考えてなかったから。」
「国葬が、すぐに終わるわけないでしょ!ましてや、招待状を持って行く参列者なのに。」
「でも、かめちゃんの艦艇データベースに、この艦が有って良かったよ。今やサナトリア統一連邦共和国で、最速の艦艇になんだし。」
「でも幸一。良かったのか?この艦の技術は、かめちゃんの元の国の技術だろう?技術的な格差があった場合、良くない結果が出ないか心配なんだが。」
「拓哉さん。多分ですけど、大丈夫だと思います。」
「どうしてだい、かめちゃん?」
「この艦に使われているフレームや装甲の素材は、つい先日開発出来ていまして、私が使ったところで問題は無いです。量産した方法は、秘密にしなければいけませんけど。あと、問題とすれば、動力炉系ですねぇ。これも、理論的な検証は済んでいます。あとは、現物を造れるかだけです。」
「それが、1番問題なんだけどなー」
この高速巡洋艦【ドルフィン型】は、部品の全てをかめちゃんこと、自立支援重巡洋艦タートルエクスプレス内の工作場にて製作され、既存のドックに運び込まれ組立られたのであった。もともと、強行偵察用の船体だった為、速度とレーダーに重点が置かれていた。
その為、通常空間での加速や異空間ジャンプにかかる時間は、他には無い速さな上、船体に似合わない大型のレーダーと解析用高処理戦術システムを搭載していたが、その為に艦隊旗艦設備を設置出来るスペースが無く、旗艦バントウには、強力な通信システムだけ残して索敵を諦め、その代わりに他の3隻からの探索データを集約及び分析をするために、かめちゃんが乗り込んできているのであった。
この高速巡洋艦【ドルフィン】を造船した理由は、帝国より送られてきた弔問案内状の日程を確認してみると、1ヶ月後に国葬を行う旨が書かれていた。
手持ちの最速艦を駆使しても、1ヶ月半も掛かってしまう距離の場所で葬儀が行われることがわかり、時間的に間に合わない日程だった。
間に合わそうとすれば、かめちゃんことタートルエクスプレスに乗り込み、最大加速に最長ジャンプをすれば5日で行ける計算だったが、護衛が付けられないと言う理由にてかめちゃんの単艦訪問は却下された。
だったら、かめちゃんが高速巡洋艦【ドルフィン型】の造船を提案
この高速巡洋艦【ドルフィン】で行けば、最短10日で行ける計算だった。
問題の造船は、かめちゃんが全ての部品を提供して組み立てると言うものだった。即刻造船許可が出され最優先で造船された。
部品の製作に3日、平行して造船が行われ7日間で組上がった。
4人で雑談はしていると、艦長が
「明美司令長官殿、間もなく最果て駐屯地に到着します。」
「了解した。駐屯地に到着し次第、全艦隊の機関整備に入れ。主計部は、消耗した物を全て補充しておけ!本艦隊は、24時間後、帝国より提供された海図に従い、帝国主星に向け出港する。それまでは、各員半舷上陸とする。以上だ。」
明美は、到着後、新造艦なので、各部異常が無いか確認の為に、機関整備の指示を出し、出港迄は、交代で休憩をするように指示した。
主星を離れて3日目、到着した最果て駐屯地は4隻の新造高速巡洋艦を、速やかにドックに誘導し各部の確認を始めた。
「明美。新造艦なのにどうして、長距離ジャンプ3回でドックに入れるんだ?」
「新造艦だからこそ、入れておかないと何があるかわからないからなぁ。」
悩ましい問題だと、
「大体なぁ。普通はドックから出た船をこんな風に、即効で使うことがないんだぞ。ましてや、新規の新造艦なんだから、まずは、試験航海して性能確認して不具合が無いかを確認してから、姉妹艦の造船に入って、乗組員の慣熟航海してと、いろいろ手順があるんだ。
テスト項目全てすっ飛ばしやがって。それにいきなり機関全力の最大長距離ジャンプなんか連続でしやがって。
かめちゃんの技術は信用しているけど、組み立てたのは馴れてない造船所だぞ?もし、組み立てミスが有って、航海中にトラブったらどうするつもりだったんだ?まったくこの航海で、性能確認に乗組員の慣熟航海に、やることが詰め込みすぎなんだ。整備出来る時に整備しないと、安心出来るか!」
「なんか、ごめん。時間が無かったから、急がせ過ぎた。」
幸一は明美に謝ったが、
「私に謝るんじゃなくて、乗組員達やドックの作業員達に労いの言葉をかけてやれ!」
と言って、出ていこうとしたので、幸一は
「明美、一緒に廻ってくれないか?」
幸一を見て明美は、
「着いてこい。」
と言って出ていった。幸一は、振り返って
「ちょっと行って来る。」
明美の後を追って出ていった。残された拓哉とかめちゃんは、顔を見合せ
「かめちゃん、どうする?」
「私は、ここにいますよ。いろいろモニターしなきゃいけないんで。拓哉さんは?」
「データの確認でもしておこうかな。でもかめちゃん、本体とのリンクは大丈夫なの?」
「そろそろ、リアルタイムでのデータリンクは難しいですね。特にここから先は、帝国領土なので、通信リレーションが途切れる事は無いでしょうけど、どうしても間延びしますから、リアルタイムでの行動は、この先難しいですね。基本、この個体の単体活用となります。」
「そっか。でも、考えたら凄い技術使っているよなぁ。」
「何がですか ?」
「だって、かめちゃんの本体と300億光年近く離れているよね。それでデータリンクできるものなんだと思ってね。」
「これが出来るのも、私の通信システムが、当時でも規格外の出力を誇っていたからなんです。なんせ、人類最大の敵を葬る為に、得た情報は銀河の裏まで届けって造られましたから。」
「そういえば、出会った時にそう言っていたね。」
「まっ、私の故郷はなくなってしまっていましたが」
「またみんなで行こう。居住可能な惑星だったし、別荘を建ててのんびりするにも良いところみたいだしな。」
「ありがとうございます。さよりさんを連れ戻したら、又行きましょう。」
帝国領土に入って3日目
最初の寄港地、帝国随一の商用惑星トレーダーに到着した幸一達は、ここで物資の補給をしていた。
「うーん、ここまで燃費が悪いとは。」
「て言うか、これ、設計おかしいでしょ!」
「明美司令長官殿。将来的に、この艦隊で強行偵察部隊を形成するには、課題が有りすぎますね。」
帝国表敬艦隊として、急遽編成された高速巡洋艦【ドルフィン型】4隻だが、ここにきて問題点が噴出しだした。それは、
「制動システムの推進剤の消耗が激しすぎる。これって、同クラスの巡洋艦の倍以上使っているよなぁ。なんで?」
「多分、通常空間での速度に対して、スラスターバーニアの出力不足で、大量に消費するからだと考えられます。」
「飲料水が日程分確保出来ないってなんなの?」
「不足した推進剤に転用したのが、最大の理由です。」
「なんでまたそんな設計しているわけ?」
「今、データベースを照合中です。」
「それと、主砲は飾りか?旋回させたら、船体と干渉するって、どうなっている!」
「それにつきましても、データベースを照合中です。」
かめちゃんは、帝国領土と言う事もあり、セキュリティーを何十にもかけた暗号通信で、本体のデータベースにアクセスしていた。
そのおかげて、いつも以上に通信速度が遅くなってしまっていた。
その結果わかった事は、仕様と言う事だった。
主砲が旋回できないのは、しても意味がないため。
本来は、ドルフィン型専用の旋回砲を搭載する予定だったが、組み立てが複雑で時間がかかる為、どうせ弔問外交なのだから、使用しないのを前提条件で、造船期間短縮と経費縮小するため、既存の旧式の主砲を載せた為、砲座サイズが若干大きく、その為旋回時に砲座と船体が干渉して、ほぼ旋回出来ず、固定砲台としてしか使用できない。
推進剤の消耗の激しさは、通常空間を機関全力で高速起動した場合、通常速度の2.5倍消耗するので残量に注意する事、との注意事項が小さく書かれていた。
推進剤の残量が規定量を下回る時、緊急制動の為に飲料タンク内の水を利用する。と別枠に書かれていた。
まるで詐欺契約書のようだった。
更に詳しく調べて見ると、公式記録ではないが覚書が見つかった。それには、
バーニアは姿勢制御のみに使用し、通常空間を高速飛行する場合は、直線飛行のみにする。静止する場合は、動力炉にて推進力反転にて止める事
と書き残されていたが、かめちゃんの註釈があり、
「慣性駆動システムの容量不足により、この方法をすると70%以上の確率で艦本体が崩壊するので、おすすめしない」
これには、明美が激怒して、かめちゃんに詰め寄って説教を始めてしまい、かめちゃんは、正座で涙ぐみ、それを見かねて幸一が声をかけると、
「だいたい、お前が試験航海をさせなかったのが原因だ!」
とかめちゃんの横に正座させて説教を始めて、艦長以下乗組員達も項垂れていた。
とは言っても、この船体の長距離ジャンプ能力は、かめちゃんに次いでの距離を誇るため、今回ばかりは、活用する他になかった。
「とりあえず、ここから先は監視されているだろうから、手の内をこれ以上晒すのを防ぐ為、帝国領土内での訓練は中止します。日程的に時間が無いから、全力で主星に向け行進するので、補給が終わり次第発進を。」
推進剤と飲料水の補給を終えると、すぐに出港して主星に向けて長距離ジャンプをしていった。
その様子を見ていた帝国軍の諜報部員は、
「なんて、足の速い船なんだ。20日でここまで来るなんて。間違いなく、式典には間に合うだろう。」
ドルフィン型の高速仕様の艦体に、驚いていた。だが別の諜報部員は、港で入手した補給リストを見て
「しかし、推進剤の消費量が多すぎる。あれでは長距離遠征には向かない。軍艦は、レーシングシップじゃ無いからな。」
「もしかしたら、今回の為にブースターを付けて来たんじゃないか?」
外見のフォルムに対して違和感のある単装砲を見て
「武装は、大口径ではないが固定砲台にしては、厚みがある。高出力ジェネレータを搭載したモデルか?」
ドルフィン型を[強襲用巡洋艦]と評価した。
4日後、
4隻の乗組員達には、第三次警戒態勢を取らせ、交代で主星上陸休暇の許可を承認していた。
帝国の主星に到着した幸一達四人は、帝国軍の案内で迎賓館へと案内され、旅の疲れを癒していた。
「明日のスケジュールを確認しておこうか。」
幸一は、テーブルに国葬のスケジュールを置いて、自分達の動きの確認を始めた。
「まずは、10時に皇太子達が先導し、皇帝陛下の御遺体を載せた車が、城から出て縁の場所を巡り、歴代皇帝陛下が祀られている蓬莱山延暦寺院にて、荼毘に臥せられる、と。我々は、この寺院にて皇帝陛下に花を手向けて別れを告げる。この後、会場を城のホールに変えて故人の冥福を祈る食事会が模様される。ここで、会見予定が無いものは自由解散になる、と。」
「人員の配置だが、幸一の護衛にかめちゃんを付けたいが、情報収集にかめちゃんを使いたい。明美。幸一の護衛を頼めるか?」
「任せろ。葬式と会食だけだろう?」
嬉しそうにしている明美だったが
「明美。飲み過ぎるなよ。」
「わかってる。護衛だしな。」
少し残念そうな顔をして、パタパタと手を振る明美。
「幸一、会見の予定は?」
「明美、あるんだよ。第一皇太子タケルヤマト殿と、国交樹立の話と、探していた女性についての報告と言う物がな。」
「おい!幸一それってさよりの事か?」
「サヨリさんの消息が分かったのですか?」
「生きてたのか?さよりの奴。」
「落ち着け、3人共。その関連の話があるので、会見します。と先ほど連絡が有って、さよりについて聞いてみたが、会見の席にてお話ししますとしか言わなかったんだよ。せめて生存しているかどうかは教えてほしかったんだがなぁ。」
「さよりの奴、生きていたとしても、犯罪者で捕まってたりしてない?」
「明美。考えられるな。」
「だから、内密で話すってことか?」
「さて、明日の会見が楽しみでもあるが、ちょっと怖いなぁ」
幸一のつぶやきに頷く3人であった。
「で、拓哉とかめちゃんは、帝国内の情報収集をするって事だけど、大丈夫か?」
「大丈夫と、思う。」
「拓哉、なんか大丈夫じゃなさそうなんだが?」
「いやぁ、かめちゃんといろいろやってはいるんだ。」
「幸一さん。帝国内の通信プロトコルの解析に時間がかかっていまして。まだネットワークに入れてないんです。」
「かめちゃんでも、すんなり行かないんだ。」
「そうなんです。シェイクハンドするときになんか嫌われて。」
「と言うことだから、明日は艦内から4隻リンクでアタックしてみるよ。」
「あんまり大事にするなよ。下手なところにハッキングして、国交を断られたくないからな。」
「わかっています。さよりさんの情報収集に徹しますから。」
「それが一番ヤバい情報かも知れないがな。」
と言って幸一は笑った。
「ですよね。」
かめちゃんをはじめ、明美も拓哉も笑って話していた。
有る意味的を得てるとは、この時は誰も思わなかった。




