対策
「富国強兵ってなぁ。一朝一夕に出来るもんじゃないんだ。」
ここは、主星から高速貨物船で1週間かかるアーニドル宙域で1番の商用都市インドリア
そこそこ客が入っている古びれた酒場で、テーブル席で4人の男が肉の串焼きを肴に、酒を飲んでいた。時刻は、まもなく日付が変わろうかとしている、深夜。
「新政府は、統合したばっかしで、貧困な星系にも同じようなサービスを約束しちまってるからなぁ」
「帝国の進出が気になって仕方ないんだろうよ」
「宇宙の涯での、鉱物の増産は帝国の奴らのせいで、滞ってるしな。」
「我が国の軍も、頑張ってくれているんだけどなぁ。」
「でも、軍隊はかなり強化されてきているって、聞いているぞ。それに関連企業も景気のいい話しか聞かんし。」
「そりゃ、強兵だ。富国には繋がらねぇなぁ。だいたい、帝国の奴らと張り合う為には、宇宙の涯は遠いからなぁ。兵站を届ける輸送船がいくらあっても足らん。」
「途中に補給基地を、作りゃいいじゃねぇか。」
「そんなもん造る場所はどうすんだい?宇宙の果てにゃ、ガス系衛星ばっかしで、まともな惑星を持った星系がありゃしねぇ。だから、わざわざコロニーを持って行って、操業してんだろうが。」
「だったらよぉ。強兵じゃなくて富国ってなんだよ。」
「国が豊かなことだ。」
「じゃ、富国ってどうすりゃいいんだい?」
「簡単さ!国中の人間が飢えないようにすればいいだけだ。」
「簡単だなぁ。農作物や畜産の生産量を増やしてやれば、」
「それだけじゃダメだ。新政府の国土は、考えられない位い広くなっちまった。必要なところに必要な量を運べなきゃ意味がねぇ。」
「そしたらよぉ、高速貨物船が要るなぁ。低速な輸送船じゃ生鮮食品を運べん。」
「冷凍したらいいじゃん。」
「冷凍船も冷蔵船も全然足らねぇよ。」
「今の船数じゃ、全然足らないからなぁ」
「そういや、造船所じゃ、高速輸送船や新型の軍艦を急ピッチに造っているようじゃないか?」
「そうだけど、造船ドックが満杯で空きがなくて、受注に対応できてないらしいぜ。」
「造船所が要るなぁ。」
「大手のトレンス重工が、年内に4ヵ所大型船用ドックを新たに稼働させるって言ってたなぁ。」
「トリプルアローズ造船の所も、作っているらしいなぁ。」
「その前に、鋼材が大量に必要だろうが。」
「製鋼所は、フル稼働させればいいんじゃないか?そのぐらいの必要量、生産出来るでしょ」
「おかげで、鉱石の価格も上がって、俺たちのような鉱山師には、いい儲けになってきたな。」
「その材料は、宇宙の涯にいくらでもある。しかしなぁ。」
宇宙の涯と呼ばれている採掘現場は、度々帝国からの邪魔が入り、思うように採掘出来ないでいた。
「最初に戻るわけだ。」
「せめて採掘の邪魔さえ、しないでくれると助かるんだがなぁ。」
「資源はいくらでも有るから、1番良いのは、お互い仲良く採掘出来る事なんだろうけど。」
「それが出来りゃな。」
「でもよぉ、最近は帝国の奴ら、遠くからの監視するだけの事が多くないか?」
「そうだな。前は、すぐに臨検に来たのになぁ。どうしたんだろうねぇ。」
すると一人の男が声を潜めて
「噂なんだが、ほら、前にグラニュールんとこの採掘船が、帝国の軍艦に撃たれた事があったろう。」
「あったあった。珍しく船を沈められたやつな。でも、帝国の奴らにも拾われた奴もいて、船員全員助かったんだろう?」
「それがよぉ。1人帰って来てねぇんだと。しかも女が。」
男たちは顔をしかめて
「どういうことだ?」
「聞いた話なんだが、臨時雇いのオペレーターの娘が、まだ帰国してないらしい。被弾してすぐに船長がスーツを着させて、最初に脱出ポットに乗せ、射出したらしいんだがなぁ。いまだに、連絡が着かないらしい。」
「その話は、俺も知っているぞ。帝国に救助されたのは、その娘を含めて7人だったらしいけど、女はその娘だけで、野郎どもは近くのベースに下ろされて、すぐに帰国出来たらしいが、その娘だけは船から降ろされなかったらしいぞ。」
「おいおい、どうゆう事だ?まさか!」
「表向きの理由は、意識不明で動かせない為ってことだったけどよう。」
「俺も聞いた話なんだが、どうも、その艦隊で慰みモノにされてたらしい。」
「軍艦の中は男ばかりで、飢えてたんだろう」
それを聞いて男たちは、顔をしかめて
「ひでぇなぁ。」
「しかもな、まだハイスクールを卒業したばかりの、娘だったらしいぞ。」
「帝国の奴らは、鬼畜な奴だなぁ」
「可哀想になぁ。」
「帝国の奴らには、マトモな奴は居ねぇのかよ!」
「それがよ。どうもその事が帝国本国に知られたらしくてな、最近、艦隊ごと更迭されたらしく、帝国の駐屯艦隊が入れ替わったらしいぞ。それで今いる艦隊は、民間船に極力関わるな、って厳命されているらしい。だから、前のようにちょっかいを出さなくなったらしいぞ。」
「で、帝国の奴らに連れられていった娘は?」
「まだ帰って来てない、ってことは?」
「ちょっと言えない姿になって、帰国にさせられないらしい」
「その娘が、俺達の安全と引き換えになってくれたって事かい?」
「結果的にはな。」
「なんか、その娘を人身御供にしたみたいだな。」
「その娘のおかげで今、安全に操業できているんだと思うとなぁ」
しんみりした空気がテーブルに漂ったが、1人が
「おい!お前ら!その娘に感謝しようじゃないか!」
男たちは、酒の入ったグラスを持ち上げると
「その娘に、感謝して。乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
「と、まぁ、巷の噂だ。真相はわからんが、さよりが失踪してから約2ヶ月半、幸一の予想通り、帝国軍からの干渉は、ほとんど無くなり、資源の採掘は順調に進んでいるねぇ。お陰で、大型高速貨物船が次々竣工しているけど、受注が多くて各造船所は目の回る忙しさだ。」
拓哉が、現時点の情報簡単にまとめて、会議机の上に資料を配って行く。
「本当に忙しい。急に増えた貨物量に対応するのに、定期便の航路設定に便数の増便、それに対応できる新港作り。すぐに出来るわけないだろう!お前等、物流を舐めてんのか!インフラを考えろ!って言いたくなる。」
資料を見ながら正がぼやくと政史が
「とりあえず。輸送船の造船は、軍艦より優先させているよ。大手造船会社が、ドック数を増やしてくれたし、鉱物の生産量は上昇してるし、製鋼の生産量も十分な量を確保出来ている。」
「兵の技量は、やっと及第点ってとこかしら?作戦の練り方は良くなってきているよ。後は、どれだけアドリブが出来るかってところね。シナリオ通りの訓練じゃ急なアクシデントには、付いていけてない。」
明美が軍の現状を報告
「流石は日本の集約農業ですね。それを応用して大規模農地で実践したところ、農産物の生産量が増えて、農民の収入が向上してきています。さらに余った農産物の加工方法を手解きして、付加価値を高めて販売することを伝えたところ、それを生業にする者も現れて、農産物が無駄無く活用されています。そのせいか国内の支持基盤は、農業従事者を中心に堅調に推移してます。まだ周辺諸国では反対勢力が残っていますが、一部の支配層なので表立って武力抗争する力は残って無いでしょう。ここまで来れば、焦らず持久戦に持ち込めば、確実に服従します。」
美由紀が、政局の現状を報告
ここは、王宮の奥に設けられた会議室。
この会議室に入れるのは、サファイア女王と側近の8人だけで、それ以外は、護衛や侍女も入ることが許されていない。
現在、国の強化についての定例会が開かれていた。
「概ね順調のようだなぁ。サファイアの方から何かある?」
幸一が、サファイアに話を振ると
「そうですね。3大国と周辺小国14国が一つの国となり、今まで有った国家間の関税を撤廃した影響か、国内物流は活発になってきており、物資の不足からややインフレ傾向ですが、問題になるようなレベルじゃないです。物流の滞りがたまに発生している箇所が有りますが、問題はないと思います。
正さんの言われるように、現在、足らないインフラを整える為に港湾拡張工事に地表開発は、公共事業として各地に発注しています。お陰で失業率は低下しています。
あと、大型高速輸送船を国の予算で造船し、各船会社にレンタル事業を始めました。政史さんの定期航路の増強になればよいのですが。
これらの事業が滞りなく推移出来ているのも、さよりさんが残してくれた、資産と資金回収システムのお陰です。本当に国家運営資金に関しては、さよりさんに頼り っぱなしです。早く自立できるようにしないといけませんね。
あと気になるのは、巷で流れている、さよりさんに関する噂です。本当に大丈夫なんでしょうか?」
国内経済の推移と一緒に、さよりの噂を気にしていた。幸一が頭を掻きながら
「あいつの事だからなぁ。実際は噂とは違うだろうねぇ。」
「どうして、そう言えるのですか?現にあの後、帝国の駐屯艦隊が入れ替わっているのは事実です。しかも、パトロール航海しているだけで、砲撃はおろか臨検すらしていません。これらをどう説明するんですか?」
サファイヤは、会議室にいるメンバー 幸一 美由紀 明美 拓哉 政史 正を見渡した。
「サファイヤちゃん、いいかな?」
拓哉が挙手して、発言を求めた。
「はい、拓哉さん、何か知ってるのですか?」
サファイヤが聞くと拓哉は、
「本来はさよりの得意分野なんだけどなぁ、この手の情報処理は。このメンバーの中では俺が一番ましだから調べたよ。
帝国駐留艦隊の入れ替えについては、単純に任務期間が終わって、交代しただけだと思うよ。今までの帝国艦隊の動きを調べてみると、1年毎に駐留艦隊が入れ替わっていることが解っている。しかも交代前になると、実績作りなのか臨検や威嚇射撃が増える傾向が有った。
ちょうどその時期と、さよりの乗った船が攻撃されたのは重なる。たぶん、さよりがわざと威嚇射撃の砲弾に、自分が乗った船を当てに行ったんじゃないかと、俺は推測している。」
「どうしてそんな真似を」
「手っ取り早く、帝国領土内に行くため。そうね拓哉。」
「その通り。明美ならすぐにわかると思ったよ。」
と言って見つめ合う2人。
「はいはい、仲がいいのは知ってるから、その甘い世界に浸るのは、二人っきりの時にしてくれる?」
美由紀が、ため息交じりに言うと、拓也は肩をすくめて話を続けた。
「さよりは帝国国内に行くタイミングを計って、この時期に採掘船のオペレーター職に就いたと思われる。
どの噂でも共通なのが、艦長がまず娘、たぶんさよりだろうけど、最初に避難させている。すなわち艦長のいる操舵室にいたわけだ、さよりは。あいつなら、そんなところに居れば、簡単に船の操作系統を乗っ取ることが出来るだろう?しかも女性なので、最初に避難させてもらえることも計算に入れてたはず。
どの噂でも、救命艇ではなく緊急脱出ポットを使用している。救命艇を持っている船なのに。おかしいと思わないか?」
「確かにおかしいな。救命艇の方が生存率が高い。」
「そうなんだ。救命艇は最低1ヶ月分の生命維持システムがある。緊急脱出ポットはせいぜい1週間分の酸素と水しか積んでいない。
しかも報告書を調べてみると、船員48名中44名が、2隻の救命艇に分乗して脱出している。もちろん船長も。救命艇の定員は、1艇30名、2艇あるので60名まで乗船が可能。
まだ収容に余裕のある船内だったので、乗りきれないわけじゃない。
じゃ、脱出する時間が少なかったのか?調べて見ると、4名は攻撃を受けた5分後、4基しかない1人用の緊急脱出ポットを利用している。
しかし砲弾を受けてから30分間、乗組員達が応急処置を試みたが、動力炉が暴走し、復旧不可の判断をして、艦を捨て救命艇にて脱出してから20分後爆発している。
この事から、救命艇には、全員が乗り込める時間も空間も余裕であった、と考えられる。
脱出ポットを利用した4人、内1人はさよりだが、全員帝国の軍艦に救助されているんだ。これも作為的じゃないか?」
「あいつ、脱出ポットに何か仕込んでたな?」
「それは他の3人を、帝国軍艦に救助されたことの証人にする為だろう。後に俺等がさよりを探しだした時に、ヒントとして残したんだろうな。」
「そして、まんまと軍艦に乗り込んださよりが、すぐに下船させられないように細工して、救助してもらった帝国軍の船に居座り、帝国に向けてまんまと無賃乗船したわけだ。
そこでの事情聴取で何かを言ったかしらんが、現在の帝国艦隊は遠くで見てる事しか、出来なくなったんだと思われる。
巷の噂は憶測で、さよりが意図したわけじゃないが、条件があまりにも当てはまったために、広まったと思う。」
と拓哉は結論つけた。しかしサファイアが
「でも、さよりさんらしくないですね。」
と反論した。美由紀が
「どうしてサファイアちゃんは、さよりらしくないって思ったの?」
「帝国に侵入する方法として、その方法は、明美さんだったらなら理解出来るのですが、さよりさんらしくないですね。だって明美さんのように、目的の為に手段を選ばない人じゃなくて、さよりさんは、手段の為に目的を選ばない人ですよ。今回のやり方って明美さんポイじゃないですか!そこが腑に落ちないんです。」
「そう言われて見れば、そうかも?」
政史が首をかしげたが、美由紀が
「そう?さよりらしいわよ。」
と事も無げに言った。幸一が首を傾げながら
「何処が?目的の為に手段を選ばない感じなんだが。」
美由紀は、資料を机に置くと
「あの子、自分のPCの性能を偽装する手段が思いついたんで、それを使いたくてウズウズしていたの、知ってた?それを試す為に、帝国の軍艦に乗り込んだに違いないわよ。そう考えると手段が先に来るでしょう?」
「どういう事ですか?」
「だって失踪前、さよりのPCが起動時に、パスワード入力の画面が表示されるようになってたから。」
「美由紀、どういう事だ?」
「あれ?幸一さん気付かなかった?さよりのPCって生体認証なんで、さより以外は操作できない事。」
「それは知ってる。内蔵カメラで、瞳の虹彩で認証しているんだろう。それがどうした?」
「だから今までは起動時に、画面にパスワード入力の画面を出す必要がなかったのよ。だって、カメラを見ればセキュリィティ解除するから。それなのに、わざわざパスワード入力画面を出すって事は、誰かにパスワード入力させたかったのよ。多分、何でもいいから入力したら、セキュリィティ解除したように見せかけて、起動するように仕組んでね。」
サファイアは困惑して
「どうしてそんな事を?」
「あの子のPCは魔改造されてて、あの大きさなのに、かめちゃんも認める超高性能じゃない、それを超低性能に見せかける為にパスワード入力させるのよ。だってパスワードを入力する人は、さより以外の人でしょう?」
「そうですけど、なぜそんな面倒な事をしたのでしょう?」
サファイアは首を傾げたが、美由紀は
「まだわからない?さよりのPCにパスワードを入れるって事は、他人がさよりのPCを機動して、中を見るときでしょう?その時、見られても良い内容の資料だけ表示して、PCの性能も低く成るようにしておけば、危害を与えような機材じゃないとして、怪しまれずにすぐに返してもらえるからね。」
説明をされてもよくわからないサファイアは、
「あのう、なんでそんな事を?」
と首をかしげると、美由紀は、
「私達じゃ、絶対さよりのPCを触ろうとしないよね。頼まれても。なんか怖いし。例えば、意識不明のふりして帝国軍の軍艦に救助されると、軍隊じゃなくても、身元確認の為に持ち物検査するよね。帝国軍にこの仕掛けを見抜けるか?って事を試したかったんでしょう。」
「それだけの為に、帝国に乗り込んだんですか!」
サファイアは声をあげたが、幸一は机に突っ伏して
「あいつなら、やりかねない。」
拓也は
「俺達にパスワードを入力させても、わかっているから、軽く流されるからなぁ。」
美由紀が
「そう言う事。ちゃんと手段の為に目的を選んでるでしょう?」
サファイアは呆れた声で
「それじゃ、さよりさんは偽装工作ソフトが出来たので、出来映えを試したくて帝国軍艦に乗り込んだって事ですか?」
「そう言う事。それと、もう一つ。救助されてもすぐに送り返されない方法として、何かを閃いたのでやって見た。ってことかな?」
「じゃあ、こっちに連絡したり帰って来る方法は?」
美由紀は肩を竦めて
「賭けてもいいけど、絶対考えて無いわ!だって、帝国に侵入するって目的なら、連絡方法とか帰還方法とかを考えて行動するけど、ただPCの仕掛けを試したかったのなら、そうじゃないもの。」
「それだけの事で、自らの命をかけて、砲弾に当たりに行きますか?」
「行くなぁ、さよりなら」
顔を真っ赤にして怒りの形相でサファイアは
「あの人は、バカですか!」
と、叫んだ
「サファイアちゃん。バカと天才は紙一重って言うからねぇ」
会議室に居るメンバー全員が、頭が痛い顔をした。
突っ伏していた幸一が、ノロノロと顔を上げて
「とりあえず、バカの事は、しばらく考えないようにしよう。」
「「「「「「了解」」」」」」
「そして、帝国がさよりのおもちゃになっている間に、国力の増強に努めて行こうと思う。」
「だねぇ。流通関係は、任してくれ。後、1年以内に物流を全土にくまなく行き届く流通網を構築して見せるから。」
「食料の増産は、軌道に乗った。宇宙の涯からの鉱物生産が、このまま帝国の干渉がなければ、他の物資の生産も大丈夫。」
「軍関係は、もうちょい鍛えておく。さよりがバックに居る帝国相手に、やりあいたくないけど、万が一に備えておく。」
「国内の勢力をもっとまとめます。」
「私は、サファイアのサポートにまわるわね。」
「俺は、引き続き情報収集しておく。」
「それじゃ、行こうか!」
そして、6年の歳月が流れた。




