決意
遅くなりました m(__)m
さよりが姿を消して1ヶ月
各地で行われた開国式典の為に、動けないサファイアと幸一は、心情は違うが焦っていた。
サファイアは、痕跡もなく姿を消したさよりの、身を案じて、信頼できる配下の者をすぐさま手配し行方を探させた。
幸一は、痕跡もなく姿を消したさよりの、行動に警戒して明美と拓哉に、非常事態宣言して警戒にあたらして、美由紀に非日常な事起きていないか調べさせていた。
2ヶ月にも及んだ、新国家樹立の式典が全て終わり、久しぶりに自宅(宮殿)に帰って来て、侍女や護衛を排して、自室で寛ぐサファイアと幸一。
「やっと終わったなぁ。」
「お疲れ様です。コーイチさん。」
と言って幸一に微笑みかけるサファイア。
「やっと休みがもらえたなぁ。何かしたいことがある?」
幸一は、だらしなくネクタイを緩め、ベッドに寝ころがった。サファイアは、幸一の横に座って
「2週間勝ち取りましたからね、何しましょうか?」
「いろいろ気になることが有るけど…。」
「さよりさんの事ですか?。」
「それもある。あいつ、何かやらかしてないか気になってなぁ。」
「もうぉ。」
サファイアは少しむくれて
「さより師匠は、大丈夫です!きっと帰って来ますって!」
と言って、プイッと横を向いた。その姿が可愛らしくなって、幸一はサファイアの腰に手を伸ばして
「ゴメン、ゴメン。あいつが消息を絶つとその後、大概大事に成って…」
幸一は、唇に柔らかく温かいものに塞がれて、最後まで言えなかった。
サファイアがキスをしてきたからである。顔を真っ赤にして俯きながら、小さな声で
「公務以外の事は、明日から考えましょう。今夜は、私の事だけ見てもらえますか?」
幸一は、優しく微笑んで
「そうしよう。おいで、俺の可愛いお嫁さん。」
自立支援型重巡洋艦タートルエキスプレスこと、かめちゃんは艦内の厨房で1人(?)ポテトチップスを食べながら考えていた。
「皆さん、忙しそうにしていますね。さよりさんの行方を、いろいろ探しているようですけど、なんで私に聞かないんでしょうか?不思議ですねぇ。さよりさんからの指示で、私からは言えないんですけど、聞かれたら答えてあげてねって言われてるのに?どうして誰も聞きに来ないんでしょうか?あ~ぁ、さよりさんが言った通りですね。でも、連絡が無いのは気になりますね。元気にしているのでしょうか?少し心配ですね。でも、このポテトチップス。もう少し塩を効かせた方が美味しいかも?」
かめちゃんは、最近入手したローレン産の新種のじゃがいもを使った、ポテトチップスの味の調整中だった。今まで艦内生産の地球産のじゃがいもを使っていたのだが、違う作物生産の為に生産調整して在庫が少なくなったので、ここで入手できるじゃがいもを数種類買い求め、味のチェックをしていたのだった。
「あれ?かめちゃん。ここにも居たんだ。」
「あっ!美味しそうな物を食べてる。少しちょうだい。」
拓哉と明美の二人が、食堂に来てかめちゃんの試食のポテトチップスをつまんだ。
「これ、芋の味が強いね。もう少し塩を効かした方が美味しいかも?」
「明美さんもそう思います?じゃ、ちょっと作りますね。」
そう言うと、厨房の奥で油の弾ける音がしてしばらくすると、
「味の補正をしてみました。塩を地球の石垣島の塩から、マナンサ共和国ソリィテェ産の物にしてみました。」
と言って、揚げたてのポテトチップスが乗った皿が、二人の前に差し出された。
「美味しい。このぐらいの塩加減がちょうどいいかも。」
「うん。これは美味しい」
「じゃ、これは今の設定で登録、っと。」
ポテトチップスを食べるかめちゃんを見ていた明美は
「しかし、いつ見ても不思議だね。」
とこぼした。
「明美さん、なにがです?」
冷たいお茶を飲みながら、かめちゃんが不思議そうな顔をすると
「かめちゃんは、そこにいるのに、勝手に調理機材が動いて、かめちゃんに頼んだ通りの物が出てくるところ。」
と、言ってみたがかめちゃんは、
「明美さん、艦内の調理機材も私の一部なのですから、別にこの体で調理しなくとも…」
「だよね。頭では、わかっているんだけど、感覚がついて行かないだけなんだけどね。さっき格納庫で会ってまたここで会ってるとね。なんか混乱して来るのよ。」
明美は笑って、ポテトチップスを食べた。
「しかし、さよりの奴。今、なにしてるんだろうねぇ。かめちゃん、なんか連絡かなかった?」
「いいえ、さよりさんからの連絡は、まだありません。」
「そっか、まだないんだ。」
明美のかめちゃんを見る目が、厳しくなった。
「何か知ってるね。かめちゃん。」
「何をですか?前に言ったように、さよりさんが今、どこに居るかは、わかりませんし、知りませんよ。」
「失踪した時も、そう言ってたわね。質問を変えるわね。そうねぇ。かめちゃん、さよりはどこに向かった?」
「それだったら、帝国です。」
普通に返答した。それを聞いた明美は
「はい?帝国?」
戸惑った顔に
「そうです。どうやって行くのかは、教えてくれませんでしたけど。」
かめちゃんは、ポテトチップスをつまみながら答えた。明美と拓也は、ポテトチップスを持ったまましばし固まって、明美が
「どうして、失踪した時に言ってくれなかったの!」
と、大声でかめちゃんに聞くと、済ました顔で
「どこに居る?とは聞かれましたけど、どこに向かった?とは聞かれなかったので。」
と返答したので二人は、一瞬絶句して
「いやいや、かめちゃん。みんなが探しているのはわかってたよね。」
「はい、わかってましたが、さよりさんの指示で、向かった先を聞かれた以外、わからないと答えてね、って言われたので、その通りに答えたんです。皆さん、さよりさんの居場所を聞きに来ましたが、向かった先を聞かれたのは、今がはじめてです。」
二人は、一度天井を見上げ、向き直ると拓也が
「さよりの奴、巧妙なロジックをかめちゃんに仕掛けやがって。」
「してやられたねぇ。あいつ、そうやって時間を稼いで、追っ手がかからないようにしたんだ。」
「そもそもどうして皆さん、さよりさんの行き先を聞かないで、居場所を聞きに来たのですか?」
かめちゃんは、不思議そうに聞いてきた
「どうしてって。そっか!あいつ、そこまで心理を読んでいたな!」
明美が気付いたように叫んだ。
「どういう事だ?」
「拓也、さよりが居なくなった時の事覚えている?」
少し考え思い出すように
「確か、早めの夕飯をショッピングモールのレストランで食べ終わって店を出た時に、さよりが『ごめん、ちょっと行って来る。』と言ってトイレの方に向かって、消えたんだよなぁ。だからトイレと思って、しばらく待っていても帰って来なかったんだよね。だから、買い忘れた物を思い出して買い物かなって。どこに居るのかな?と思ってショッピングモール内を探したんだよな」
「そう!だから私達はさよりが迷子になったか、拐われたと思ってしまった。だいたい、『ごめん、ちょっと行って来る。』この言葉が、私達に近くのトイレかショップの場所に行ったと思わせて、私達に近くの店を探させた。この星に居ると思っているから、かめちゃんにも、監視カメラをハッキングさせて、さよりの今いる場所を探させた。そう!居場所を探させたんだ。かめちゃんに行き先を聞かれた時以外、わからないと返答するように仕組んで。」
「て、事は、すでにさよりは?」
「ここから宇宙の涯迄、約276億6000万光年。そこから帝国の主星迄がどのくらいかわからないけど、同じぐらい離れているとして、更に276億6000万光年以上先に迄行きやがった!」
宇宙の涯地区の資源開発は、順調に進み高純度の貴金属鉱石に重金属鉱石が採掘できる鉱脈が次々と発見されて、山師と呼ばれる鉱山開発者達を喜ばしていた。
その為、ゴールドラッシュの賑わいを見せ、一山当てようとする人が星系中から多く集まり、その中には、反政府主義者や犯罪者達も多く集まっていた。
資源開発ベース基地となっている、スペースコロニー群の一つ、コロニー名『貧者の栄光』の港に1人の少女が降り立った。
「お嬢ちゃん、ここから先は、荒くれ者の巣窟だ。お嬢ちゃんの身の安全を考えたら、行くのはやめた方がいい。」
輸送船『ジャックポット』の船長が船を降りた少女に、親切心から声をかけた。
だが少女は、ニコッと笑って
「心配してくれて、ありがとう。でも、あたしは、ここからまだ先に、行かなきゃいけないので。」
と言って鞄を背負い、港の雑踏へ消えていった。
これが、サナトリア統一連邦共和国の知る、さより最後の足取りだった。
「結局、さよりはそこから先の足取りが途絶えたってことか。」
報告書を読んだ幸一は、しばらく目を瞑り考えこんだ。
「幸一さん。すぐにでも、捜索隊を送ります。」
サファイアが女王として軍に捜索指令を出す前に幸一が、
「サファイア。無駄だから止めておけ。この情報は、もう2ヶ月以上前の情報だ。さよりはもういないだろう。」
と声をかけ、発令を止めた。
「幸一さんは、さよりが心配じゃ無いのですか!あの宙域は、最近帝国側からの攻撃で、採掘船やサルベージ船が数隻大破して、作業員達に多数の負傷者や行方不明者が出ているのですよ!」
辺境地区の守備隊からの報告書を見せながら、サファイアは幸一に詰め寄った。そんなサファイアに、優しく笑いかけ
「サファイアは心配性だなぁ。数百名の負傷者はともかく、死者はまだ出てない。行方不明者のほとんどは、帝国側に救助されていて、あちらの採掘ベースに保護されていただろう?それも、近々引き取りに行くから。だから本当の意味の行方不明者は1人だろう?」
「そうですけど、もしその行方不明者が、…」
言い澱んだサファイアに対し幸一は、強い口調で
「さよりだよ。間違いない。」
と言い切ると、カップに残っていた珈琲を飲み干した。息を飲むサファイア。
「だったらなぜ、落ち着いているのですか?」
蒼白な顔色なサファイアに、幸一は
「仕方ないじゃん。だってあいつ、帝国軍の軍艦に乗って主星に行ったと思うよ。今は、あいつからの連絡待つしか、もう手はないんだ。」
と言って、肩を竦めた。
「だったら、直のこそ帝国に交渉して連れ戻さないと。」
焦るサファイアを宥めながら幸一は
「サファイア。落ち着け。未知のプロトコルだろうが、知らない言語で書かれたプログラムであったとしても、すぐにシステムに潜り込んで、意のままに動かす事の出来るあいつから、まだ連絡が無い。助けが欲しいのなら、今すぐにでも連絡が来るはずだ。それが無い理由は、あいつが楽しんでいるからとしか思えない。そうなると、俺の見立てでは、後2、3ヶ月もしたら、帝国からの採掘現場へのちょっかいは収まるだろう。その後、最低1年は何も起こらないはずだ。だからこの間に、サファイヤ。お前は国家党首として、この国を一つに纏め上げろ。俺達も協力する。さよりが作った時間を無駄にするな!」
と、サファイアの肩を掴んで落ち着かせた。幸一の言葉の意味が解らないサファイアは、
「えっ!さよりさんが作った時間?」
「そうだ。まぁ、副産物のようなものだけどね。相手に同情するけどね。」
「同情?」
更に首を傾げるサファイヤの肩を抱いて、幸一は微笑みながら言葉を続けた。
「サファイア。まだこの国は、脆弱だ。史上最大の国家とは言え、今はまだ複数の国が寄り集まっただけの烏合の衆にすぎない。何かあったら、すぐに内部分裂する危険を孕んでいる。与えられた時間は、1年。この時間内に一枚岩のように纏め上げない限り、帝国相手に事を起こすのは得策じゃない。限りある時間内に国内を纏め、尚且つ、帝国の情報を集めて分析、解析をして、今後は後手に回らないようにしないと。さよりの奴になんて言われるか。サファイヤ、時間が少ないのにやることが多いけど、やらんとね。」
と言って、幸一はサファイアの頭を優しく撫でた。サファイヤは一呼吸すると
「わかりました。今までよりも頑張ってこの国を、纏め上げて見せます。幸一さんもお手伝いをお願いしますね。」
「かわいい妻の言うことは、聞かないとね。うん?でも、まさか、それにはならん?」
と言って、幸一が急に深刻な顔つきで、考え込みだした。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと最悪なシナリオが頭に浮かんでね。たぶんそうはならんとは思うけど。」
と言って、しばし思考にふける幸一。
「教えてください。その最悪のシナリオって、なんなんですか。」
幸一は、サファイヤの目を見つめて真剣な口調で
「サファイヤ、最悪なシナリオを想定してこれからの国造りを始めようと思う。その為に、考えていたスケジュールでは間に合わない。前倒しで進めるために、劇薬を投入する行為もするが、いいかな?」
サファイヤは、生唾をごくりと飲み
「かまいません。この国の繁栄と国民が守れて、さよりさんが帰って来るならば、この身がどうなろうとも、幸一さんについていきます。」
「ありがとう。」
と言って抱きしめた。サファイアは、顔を赤らめて
「幸一さん、最悪のシナリオって?」
と、聞くと意外な言葉が幸一から発せられた。
「対さより戦だ。」
「え?」
「あいつは、手段の為なら目的を選ばん。それがどう転ぶか、サファイヤ考えてみろ。あいつが帝国の国力を使って、どれだけの力か調べたいって思ってみろ。こちらに攻め入ってこないという保証が無い。」
一瞬、サファイヤの顔が引き攣ったが、肩をすくめ
「これからは、長期休暇が取れませんね。」
と言って拗ねて見せた。
「いいって。さよりが戻った来たら、全ての仕事をあいつに押し付けて、二人っきりで遊びに行こう。」
と言って、サファイアに笑いかけた。




