サファイヤの心情
貴賓室に戻ったさより達は、普段着に着替えて幸一を除き、笑い転げていた。
「あーぁ可笑しい。幸一、サファイアちゃん結婚おめでとう。って言って良いのかな?」
政史は、目に涙を浮かべながら言った。サファイアが微笑みながら
「政史さん。ありがとうございます。これで無事、結婚する為の障害は大方片付いたと思われます。」
さよりがニコニコして
「だよねぇ。最大の政敵までも、感動して祝福してくれていたもんねぇ。」
美由紀も笑いながら
「いつも思うんだけど、どうしてあんな感動的なストリーが、即興で思いつくんだろうねぇ」
サファイヤも
「はい!幸一さんと私って、そうゆう仲だったんだって改めて?知りましたよ。」
1人、ソファーでふてくされている顔の幸一が
「お前ら、他人事と思って爆笑しやがつて。」
「そりゃ他人事だからな。これで妻帯者は俺だけじゃなくなった訳だ。」
と言って、拓哉が幸一に手にしていたグラスを持ち上げ、飲み干した。
「しかし、サファイアちゃん。幸一で本当に良かったの?後悔しない?」
心配そうに聞く美由紀に、サファイヤはにっこりと微笑んで
「美由紀さん。今の私が結婚するなら、幸一さんでないと駄目なんです。」
「そう、そこまで幸一君の事が好きだったのね。良かったわね。」
「いえいえ美由紀さん、肝心なことは恋愛感情抜きの政略結婚相手としてです。」
美由紀は驚きながら
「えっ!恋愛感情抜き?政略結婚相手?」
いい笑顔でサファイヤは
「はい!幸一さんには、申し訳ないんですが、私が政略結婚する相手として最高の人なんです。」
「だと思ったよ。サファイヤちゃんが幸一に惚れるなんて、おかしいもんな。」
政史が言ってにやっと笑った
「でも、幸一さんのことは好きですよ。結婚しても後悔しないぐらい。まぁ、本当にこうして結婚できるとは思ってもいませんでしたけど。」
と、顔を真っ赤にして照れるサファイヤ。それを見て明美が
「えっ!こいつのことが、本当に好きなの?ホント?冗談でしょ?こんな軟弱者が?」
その言葉に
「どうして、明美さんはそんなことを言うんですか!拓哉さんより男らしいし、何かあったら頼れるし、素敵じゃないですか!。」
なぜか必死に言い募るサファイヤ
「幸一が拓哉より男らしい?さより、サファイヤちゃんの目がおかしいぞ。」
明美が、サファイヤを指さしてさよりに同意を求めたが、さよりは
「ま、人それぞれじゃない?どこに男らしさを感じるかなんて。」
と言いながらクッキーを齧って
「ま、幸一が今の状況のサファイヤちゃんにとって、政略結婚するにも恋愛結婚するにも最良物件なのは、あたしも、認めてあげる。」
ニッカっと笑った。
耳まで真っ赤にして、サファイアはまた俯いてしまった。
「しかし、幸一が王族の仲間入りかぁ。でも御披露目とか今後の予定は、どうするんだ?」
「政史さん。それはすでに姉と母が動いているはずなので、大丈夫です。どちらにせよ、開国宣言の日に、私の伴侶となる人物を公開しないといけなかったので。」
サファイアによると、数ヵ国対等合併による、新国家樹立と言った有史以来前例の無い偉業なために、君主もしくは元首を選出には、新国家に相応しい人物でないといけなかったので新国家憲章を定めて、国民総選挙を行い選出する事になった。
その新国家憲章の第1条第1項に
選出された君主もしくは元首は、既婚者でないとならない。
選出された君主もしくは元首の伴侶は、特定の旧国家に権力及び富の集中を避けるため、同国出身以外でないといけない
(選出されたの者が既婚者の場合、伴侶が同国者の時、第二第三の二名の伴侶を持たなければならない、。独身者が選出された場合、就任の日迄に婚姻もしくは婚約者を確定しなければならない。)
と明記して有るため、独身のサファイアは就任までに伴侶を決めなければいけなかった。
そのため、独身者のサファイアが、国民総選挙を断トツでトップ当選したあと、婿選びの壮絶な戦いが始まったのである。
当選後毎日送られてくる、500通を越える婿候補者の自己アピールに推薦者からの個人情報。
しかし、サファイア自身がどの婿候補者にも魅力を感じることなく、恋愛結婚を諦め国益を考えての政略結婚と割り切っても、候補者の後ろ楯を見ると一短一長でバランスが悪い。
通常公務をこなしながら、選出に悩んでいた。
そうしている内に、いつの間にか、サファイアの婿候補者は、3人までに自然淘汰されていて、紳士協定が結ばれたのか、それ以降送られてくるメールやラブレター類はこの3人以外来なくなった。
これでゆっくり候補者を絞れると思った矢先に、探索商船が接触した初の星系国家カルダニア帝国から、到底承諾出来ない一方的な通商条件を突き付けられ、拒否したところ、調印準備の為、先行していた艦隊に向けていきなりの発砲。
同行の商船に被弾するものの大事に至らず、商船はその場を逃れて、サナトリア国際深宇宙探査用補給基地まで帰還した。
その後を追って来たであろうカルダニア帝国の小型戦闘艦3隻が、基地近くにワープアウトしてくるが、緊急出動していた基地守備艦隊を確認した為か何もせず引き返した。
サファイアは女王としてカルダニア帝国へ、国家として正式な抗議の書簡を送った。
それ以降、偵察なのか時折小編成の艦隊が、基地周辺に出没するようになった。
軽巡を旗艦とする守護艦隊にて対応し、戦闘までに至ってはいないが、偶発的戦闘によって戦乱の事態に何時成っても不思議ではなかった。
カルダニア帝国から戦乱の回避の為に、サファイア女王にカルダニア皇帝との婚儀による国交樹立を行わないか?と言う打診が届いたが、明らかに属国にする意志が明け透けなために、丁重に断り通常の通商条約を提案していた。
そんな時に、地球からの式典参加の返信を受け取り、地球での忙しくも充実していた生活を思いだし、今回の婚儀に、『合併国家から婿を選出しなければならない。』と言った文言がないことに、最初に頭に浮かんだ男性、幸一となら結婚もありかな?と漠然と考えたのである。
この時点では、サファイアにとって幸一との結婚は現状の打開策の一つでしかなかった。
しかし、忙しい公務の間に改めて幸一との結婚を考えてみれば、政略結婚として考えたら結構好条件だった。
まず、新国家樹立に関して、所属する国家との柵が一切無い。
地球での生活で、気心が知れている
金銭的な面も、さよりさんが居れば解決してしまう感じがする。
明美さんと拓哉さんコンビの戦略、戦術手腕は、今後、カルダニア帝国と事を構えることを考えると、今の保有戦力で交戦する場合、得難い人材であった。
正さんの物造りの発想は、国の変わりようを、見ていただけに今後の国造りにおいて、頼もしい存在になると思われる。
政史さんの、物流な関するプロデュースはオーケストラの指揮者のようで、複雑に入り組んだ組曲を優雅に演奏するように、国家の動脈たる、物流を整然と整える力になってくれる。
バラバラに飛び抜けた個性のメンバーを一つにまとめる、美由紀さんの調整力は姉の行政力を越える力がある。
かめちゃんの、軍艦としての武力は、軍事面でのステイタスシンボルとして相応しく、まだまとまりのない艦隊を率いるだけの力がある。
彼等が名のっていた、銀河統一地球連邦国(だったっけ?)は架空国家とはいえ、先の戦争で実体をなにも知らない近郊国家には、強力な武力を持つ一大国家として認識されている。
その国の後ろ楯があると思わせることで、他の婚約者候補に対し牽制することができるうえに、カルダニア帝国に対して、国をまとめ挙げるのに使える切り札になり得る。
そう考えて毎日過ごしている内に、楽しかったエピソードを思い出しては、懐かしく思っていた。
その事がサファイアの心の中に、淡い想いを育ってていることに、気付かぬまま数日過ごして、ついにタートルエキスプレスが入港してくるのを見て、自然と心が高鳴っているのを感じた。
公務が忙しく、晩餐会迄会えそうに無かったのだが、思ったよりも早く片付いたので、面会することができ、しばしサファイアが溜まっていた愚痴を聞いてもらい、昔話や近況報告をするだけで、楽しい時間は過ぎるのが早く、晩餐会ホストとして、準備を始める時間が迫ってきていた。
さよりが、サファイアの顔色を見て、『悩みがあるでしょう、聞くよ』と言われて、事情を説明してから、幸一に仮で良いので結婚の約束をしてもらおうと考えていたのだが、なぜだか幸一の顔を見たとたん、説明をすっ飛ばしていきなりプロポーズしてしまった自分に、頭が真っ白になりながら、サファイアは、自分自身の内なるある感情に気づく。
それは、『あっ私、幸一さんの事が本当に好きなんだ。』と言うこと。
その為、あまりにも咄嗟に出た言葉が恥ずかしくなり、その場から逃げ出すように立ち去ったのだが、私の本心は見透かされてないはず、顔が真っ赤なったのも変なこと言った言葉のせいと思ってくれる、はず。
と、思い込むようにして公務に徹する事によって徐々に冷静になれた。
しかし、サファイアが爆弾発言して立ち去った後、地球メンバーが大混乱を起こして、さよりも予想外のサファイア発言のせいで、一瞬機能障害を起こしていたが、再起動したさよりが、久しぶりに本気を出して真相を追及する事なぞ、サファイヤが気づく余地など無かった。
その為、晩餐会でさよりが廻してきたメモに動揺しながら、心の中が温かくなるのを感じていた。
『そうだ。この人達に任せれば、きっと大丈夫。』
サファイアは、政敵や婚約候補者もいる晩餐会で、幸一を婚約者として定め、開国宣言の日に全国民に向かって婚姻発表することを、宣言した。
晩餐会会場が一瞬騒然となるが、すかさず幸一が立ち上がり、自己紹介がてらにこれまでの二人が歩んできたエピソードを語りだし、いかに二人が愛を育んできたかを、少し照れながら報告した。
横で聞いていたサファイアだったが、幸一の話す甘く切ない二人のこれまでの軌跡(もちろん架空です)があまりにもな内容で、恥ずかしくなり顔を真っ赤にして頷くしかできなかった。
最後に、幸一がサファイアをエスコートして、会場を後する時に起きたスタンディングオペレーション
政敵、婚約者候補、関係なく会場全ての人達が、心から二人の結婚を祝福してくれていることを感じた。
『やっぱりこの人に任せれば、大丈夫』
エスコートされながら、安心感と至福感に包まれたサファイアだった。




