宇宙初日
上昇をして大気圏を抜け、静止衛星軌道で外宇宙に向け準備中の艦内
窓の外には、青い地球が輝いている。
「ふう、なんとか発進できたなぁ」
幸一が艦長席でホッと一息をついた
「なんか、バカスカ撃たれてたけど、被害は出てないの?」
明美が航海長席で被害状況の確認を聞いた
「大丈夫ですよ。かすり傷1つ付いていませんから。」
「さすがは、宇宙戦艦ですね。」
通信席で、さよりがニコニコとしながら言うと
「重巡洋艦ですけど。」
政史が砲撃長席から突っ込む
「とりあえず、周りに不審な動きをしている衛星は無いわよ。」
美由紀がレーダ長席に座り、全天レーダのチェックをしながら周りを警戒していた。
「海から宇宙に来たけど、エンジン類は問題なさそうだな」
機関長席に座り、計器をチェックする正が確認する声
「積み荷も問題なさそうだぞ」
拓哉が、艦内チェックをして確認する。
地球周回軌道上で、長期間宇宙空間に出てなかったので、船体の各気密ブロックに異常がないか?
各センサーはスペック通りの性能を維持しているか?
艦載機に劣化している所は出てないか?
1つ1つ念入りに確認していた。
「地球にいた時、連絡出来なかったって言っていた恒星間通信。今なら宇宙だし帝星に連絡してみたら?」
さよりが、通信席でかめちゃんに伝えると
「もうすでにしてみたんですけど、返信はないんです。もしかしたら、もう帰る所はないのかもしれません」
かめちゃんは、さみしそうにつぶやいた。
「時間が経っているから、周波数が変わっているか?暗号化が変わったか?さらに進化した通信方法に変更しているかもしれないじゃない 。
通信については、いろいろ試しながら送信してみましょう。」
明美が励ますように、努めて明るく言う
「何か手掛かりになるかもしれないから、受信は全チャンネルオープンにしておきましょうね。」
さよりが、提案して亜空間通信は受信オープンにした。
「巨大な統一国家だったんだろう?そんな国家が、いきなり消えてなくなる事も無いだろうし、帝星の場所に行けば最悪、何らかの痕跡は見つかると思うし。」
幸一が横に立つかめちゃんに対して、声をかける。
「そうでね。ここで考えてもわかりませんし、とりあえず帝星に行けばなんとかなるでしょう。」
かめちゃんも、みんなの励ましで、返事の無い故郷がどうなっていても帰る事を決めた。
各テストが終了して、全て異常なし。後は、動力システムのテストを残すのみ。
「航海の確認だけど、通常空間で火星まで航行してから、亜空間ショートジャンプ航行で冥王星軌道近くまで飛んで、各機関確認。
次にお待ちかねの、長距離ジャンプで2000光年飛びます。」
明美が楽しそうに、これからの航海の予定を説明した
「なにがお待ちかねだよ。」
「だって、ワープだよ、ワープ。世界中の物理学者が不可能って言った移動方法が体験できるんだよ。これを喜ばないのはおかしいって!」
興奮した口調で詰め寄る正
「それはそうと、かめちゃん。帝星までの距離ってどのぐらいなの?」
政史が聞いた
「地球から見た天体の観測データからすると、大体5700万光年ぐらいですね。」
「長距離ジャンプが2000光年だとして20回以上のジャンプをするのか」
幸一がふと漏らした言葉に、正が
「でもそれだと片道20日以上かかるよ」と答えた
「なんで?それじゃ、往復30日以内で帰ってこれないじゃん」
美由紀が声を上げる
「移動にかかる距離の計算してみたら、2000光年の距離を飛ぶのにだいたい地球時間で20時間かかるみたいなんだけど、再度飛ぶために通常空間でシステムの点検、エネルギーチャージで4時間、かかるみたいなんだよね。
すると、20時間足す4時間で2000光年は丸1日かかる計算になるから25回は飛ぶから、かける25で25日かかる計算になって、往復50日以上になるんだわ。」
「かめちゃん!最初の話と違うんですけど!」
「大丈夫ですよ。」
かめちゃんはにこにこして説明を始めた
「2000光年のジャンプはテストジャンプです。長距離用のエンジンが問題無く動くことが確認できたら、本当の長距離ジャンプは、私の最大到達距離、1500万光年の距離を一回のジャンプで行います。
これの体感時間は、地球時間でだいたい2日間です。これなら、3回ジャンプで6日間プラス、
システムの点検、エネルギーチャージで16時間。と もう一回飛ぶので2日見とけばいいでしょう。合計9日間となります。
地球上で7日間使ってしまったので、急がないといけないのは確かなのですけどね。」
「なぁ~んだ、びっくりした。」
ほっとしたように、さよりがつぶやいた
「じゃ、火星まではどのくらいかかるの?通常空間で移動するんでしょ?」
「3時間ぐらいですね。」
「何年もかけて火星に到着した探査衛星が、かわいそうになるなぁ」
浩一が窓の外に浮かぶ地球を見ながらしみじみ言うと
「はやぶさ2を追い抜く速さですねぇ。」
正も感慨深けに窓の外を見つめる。
「なに黄昏てんの!発進するわよ!」
明美がせっついてみんなの行動を促す
「怖い怖い」
「ほいほい、機関部発進準備完了!」
「進行方向障害物無し、オールグリーン」
「使用しないと思うけど、兵装類安全装置解除、使用可能確認」
「発進!」
重巡洋艦、タートルエクスプレスは、一万年ぶりに帝星に向け帰途の航海を開始した。
7人は、かめちゃんから亜空間航行での注意点のレクチャーを受けつつ、通信、操船、火器管制、索敵、格納機器の基本の操作方法も勉強会を開き、マニュアル操作の基本を習得しようとした。
かめちゃんは、私が全ての管理下に置いて操船から索敵までするので、そんな勉強会は開く必要性はないと説明したが、どうせ航海中は暇なので覚えていて困るものじゃないんでしょう?と押しきられ、亜空間航海中は、座学とシミュレーション機器を使った講義、通常空間航行中は、実機を使った講習することになった。
勉強会のスケジュールを組む作業をしていると、火星が大きくなってきた。
「えっ!もう火星?」
艦橋にある大型環境観測窓に火星の大地が、はっきり手に取るように見えた。
「なんか、スゴくない?」
「だよねぇ。」
「言葉に困るなぁ」
「…………」
はじめて見た、宇宙空間に浮かぶ火星のその姿。地球をはじめて飛び出した7人には、幻想的な風景だった。
「ハイハイ、みなさん。呆けていないで。亜空間ショートジャンプしますよ」
1人(1艦?)見慣れた景色に何の感慨もなく作業を促すかめちゃん。
「えぇ~、かめちゃんはこの風景に感動しないのぉ~。」
さよりは抗議の声を出した。
「感動ですか?(窓の外を見て)普通の惑星ですよね。こんな景色、星系のどこでもありますよ?なにか、感動するような事あります?」
「確かに、宇宙船のかめちゃんには、見慣れた景色だよね。」
幸一が頭を掻きながらつぶやいた。
「私達も見慣れていくのかな?」
明美もつぶやいた
いきなり亜空間長距離ジャンプせずに、亜空間ショートジャンプをするのは、恒星間エンジンの異常がないかのチェックの為で、新造艦でも毎日使っている船でも、港に停泊した後は長距離ジャンプの前に、ショートジャンプをして、機関異常がないか確認を行うのが銀河民主共和帝国での航海の安全につながる手順となっているとのこと
「なんでそんな手間がかかる手順にしてあるんです?」
「いつ頃から始まったかは定かでないのですが、まだ統一国家ができる前の時代に、恒星間エンジンの出力を上げていきなり亜空間長距離ジャンプをすることにより、大きい事故が多発して何万人の命が犠牲になったそうです。
そこで考えられた対策が、港から出て最初のジャンプはショートジャンプにしたところ、事故が激減したそうです。
以来港を出た船は、新造艦、老朽艦に関わらずショートジャンプをしてから長距離ジャンプをするようになった、と言われています。」
「面白いね。1回ショートジャンプをするだけで、次からはどんな長距離ジャンプも大丈夫だなんて。」
「最初のジャンプが、失敗するとどうなるんだ?」
正が、興味深げに質問をした
「最初のジャンプを失敗すると、なにも起こりません。」
「どういうわけ?」
「ショートジャンプが出来なかったら、亜空間にエネルギーだけ取られて亜空間に突入できないので、その場所で立ち往生しているんですよ。
そういう船は、空間に蹴らた、もしくは空間に嫌われた、と言われて港のドックで主動力系をオーバーホールが義務付けられています。」
「お金がかかりそう。」
「かかりますよ。ま、日頃から点検をしておけばいいですよ。普通の船は当たり前の事ですから。」
「いつの時代でも日時点検が、安全の要とは」
「それでは、ショートジャンプを行います。席に付いてください」
「どんな感じになるんでしょう。」
「ちょっとワクワクしちゃいます!」
「ジャンプ!」
「ジャンプ終了」
「えっ!もう終わったの?」
「はや~」
「わー景色変わってる!!」
窓の外には、火星と比べて、かなり小さく感じる惑星が窓の外に現れていた
「火星の代わりに見えるあの星は?」
「冥王星?」
「違います。マケマケと言って準惑星の1つですね。」
「なにその名前」
「結構最近になって発見された準惑星ですよ」
「しかし、ショートジャンプって本当に一瞬だったね。」
「各機関チェック!」
浩一が大きめな声を出しみんなに注意を向ける。
「そうだ、機関異常無し!」
「えっと、アウト座標誤差、X0.2 Y-0.1 Z0.15 誤差内です。」
「艦内外船体に異常無し!」
「生命維持装置、異常無し、気分のすぐれない人はいない?」
美由紀がみんなを見渡して聞いた
誰も気分が悪いとは思っていないというか、そんなもん感じる暇がないだろう!
っという短さ
「それでは、みなさまお待ちかねの、長距離ジャンプテストを行います。」
かめちゃんはまるで手品を披露するかのごとく、芝居かかった仕草で深くお辞儀をした。
「ねぇねぇ、カウントダウンして突入してしない?」
「いいねぇ、それ。やろう、やろう。」
「かめちゃん、いいかなぁ?」
浩一は困った顔をして、かめちゃんに聞いた
「いいですよ。みなさんのカウントダウンに合わせて、ジャンプします。」
かめちゃんは、微笑みながら答えた
「それじゃ、10から始めるぞ!」「ヨッシ!」「ワクワクしちゃいます!」
「10、9,8,7,6,5,4,3,2,1,」
「「「「「「「0!!!」」」」」」」
瞬間、観測窓に写っていた星が流れ、光が乱舞して消える。
亜空間内は、ほのかに明るい グレーに満たされた景色が広がっていた。
「凄い!」
「スゲー!」
「わー!」
「こんななんだ!」
「なにもない空間だと思っていたけど、けっこうなんか、あるねぇ。」
亜空間内にぽつぽつ見える惑星のような星、巨大な岩のようなもの、
なにか、巨大な機械の塊、海上を航行するような帆船、壊れた皿の形状のもろにUFOな物
「あの帆船?みたいのは、何ですか?」
「よくわからないのですが、一種の難破船だろうと言われています」
「難破船?」
「はい、宇宙を航行するように見えないので、どこかで時空間の乱れに巻き込まれ、亜空間に取り込まれたと言われています。」
「あの惑星みたいのは?」
「多分、主星が崩壊する時に亜空間に飛ばされたと思います。」
「なんか、ある意味こわいなぁ」
「ぶつからない?」
「それは、基本的に大丈夫ですよ。」
「なんで?」
「ここが亜空間だからです。」
「?????」
7人がわけわからないという顔をしていると、かめちゃんが説明をはじめた。
「あの惑星や帆船によくわからない機械みたい物は、同じ空間にあるように見えていますが、実は同じ時空間にはいないのですよ。亜空間内は、多層構造の空間が圧縮して固まっている空間なんです。
そういう空間だからこそ、通常の航法では時間がかかってしまう目的地でも、圧縮している空間なので短時間で、長距離が移動出来てしまうんですよ。
だから、同一時空間からこの亜空間に突入した場合を除き、基本的に接触できないのですよ。」
「同一時空間で突入するって?」
「解りやすく言えば、艦隊行動中の場合ですね。同じ座標から同じ座標へ移動する場合にですね、接触が可能なので、亜空間航行中はよく艦隊の補給をする時間にしていました。」
「敵に襲撃されないの?」
「襲撃されにくいんです。」
にこにこしてかめちゃんは答えた。
「亜空間と言うのは入口と出口を決めて、それに見合うエネルギーをかけて、通常空間にトンネルを掘るような事と考えたら、解りやすくなるかな?
そのトンネルを掘っているコースがわからないと、他のところから掘っても合流はできないでしょう?」
「確かに、やみくもに掘ってもたどり着けないか。」
幸一がこぼすと
「でも、100%ではない?」
政史か尋ねる
「そうです。皆さんの日常でもトンネル内で合流や分岐する場所が有るでしょ。それと同じように、亜空間内でも調整をして狙って行けば、合流もできますし分岐と言うか、離れて行くこともできます。」
「タイミングと言うか、狙ってそこを通る者に攻撃もできるってことね。」
「ま、攻撃を受けるだけじゃなく、別々の基地から少数の部隊がジャンプして、亜空間内で体勢を整え目的地に大艦隊となって攻め入る事もできますし、大艦隊で出撃するように見せかけて、亜空間内で部隊編成して各方面に散るってこともできます」
「よくSF小説とかであるでしょ、後から追っかけるとか、ワープアウトするのを防ぐとかは実際には出来ないの?」
美由紀が質問した
「できますよ」
にっこりほほ笑んでかめちゃんが答えた
「ジャンプした相手を追っかけるのは、トレーサー。追跡を振り切るための、イレイサー。ジャンプアウトしてくるものに対して座標を強制変更させる、ジャマー。強制変更させられた座標をもとに戻す、スタビライザー。ジャンプする相手をジャンプさせなくする、キャンセラー。そのキャンセラーから振り切るための、アンチキャンセラー。
後は、お互いの船の持つパワーが強い方が有効となるので、宇宙戦の序盤と終盤は、この辺りが強い艦艇が有利に進みますね。」
「色々あるんだねぇ~」
その後、食事を挟み座学、休憩就寝となり、宇宙での初日は終了した
とりあえず、ワープによる亜空間航法の説明ですね(^^;
帝星に目指す・・・・・・・・・・・・・・・はずです