サファイヤちゃんに会う前に?
王宮内の豪華な執務室
この国の頂点を君臨する若き女王が、午前中の会議が終わって自室であるこの部屋に従者と戻ってきた。
執務机に座ると控えていた執事が
「サファイア女王様、次の会議は昼食後になります。それまでに、こちらの資料に目を通しておいてください。」
と言って書類を手渡してくる。それを受け取り、表紙を見て
「わかったわ。スーパシア群星国の併合の報告書ね。」
表紙をめくり内容を確認しながら
「今日の昼食は何かしら?」
サファイア女王は、昼食に想いを寄せる。
「確か、カレーうどん定食と聞き及んでます。」
サファイア女王が留学先の異国で好んで食したと言うメニューを執事が口にする。
式典前にせねばならぬ数々の公式行事に会合で、休む間どころか寝る間さえ惜しみ執務し、
心身共に疲れているはずであろうに、少しもそのような素振りさえ見せない主君に対しての、
家臣として出来る心ばかりのやさしさに
「ありがとう。でもお昼からそんな贅沢してもいいのかしら?」
「サファイア女王様。お気にめさらぬな。確かに高価な香辛料をふんだんに使用した料理ではありますが、女王様が留学先より持ち帰って頂いた、多種の香辛料の種や苗、それとそれらの確立した栽培方法によって生産量も種類も増え、以前とは比べ物になら無いほど価格が安価になっております。女王様が昼食を少しぐらい贅沢されても、我が国の国民は非難するようなことはありますまい。」
執事は、微笑みながらそう言い切った。サファイア女王も微笑みを浮かべ
「この書類を確認したらダイニングに向かうから、あなた方はもう下がっていいわよ。」
「では、失礼いたします。」
と言って執事と侍女が頭を下げ、退出しようと扉に手をかけようとすると、扉をノックする音が。
扉を開き、招き入れると、書簡を取り出して
「サファイア女王様。ただいま緊急便でお送りした招待状の返信が届きました。」
それは、サファイア女王が待ち望んでいた返信だった。
地球から約4000光年離れたガニメダ星雲にある、バルセナ公国
幸一達を乗せたかめちゃんこと、自立支援型重巡洋艦タートルエクスプレスは、この公国の外周船溜まりに係留していた。
理由は
「幸一君。招待状の返信を出し忘れていたってどういうわけ?全員分渡してあったでしょ!」
美由紀が艦橋にて、幸一を床に正座させて説教をしていた。
「いや、仕事と言うか各方面への調整で、忙しかったと言うか。」
「あの時は、幸一君だけが忙しかった訳じゃありません。」
「美由紀さん。幸一さんだけが悪いわk。」
同じように幸一の隣で正座をしている、かめちゃんが言葉を挟もうとするが、美由紀に睨まれ
「かめちゃん。あなたもあなたです。仮にもコンピューター何ですから、スケジュール管理は出来るはずでしょう!一緒に忘れていたって?どういう事ですか!」
「「申し訳ありません」」
2人して、美由紀に土下座モードであった。
なぜこの2人(1人と1隻?)が美由紀に説教させられているのかと言うと、幸一とかめちゃんが、サファイアからの招待状の返信を出し忘れていたからである。
それに気付いたのは、ショートワープして冥王星軌道上でロングワープするために、座標設定中に美由紀が幸一に
「そう言えば、幸一君。招待状来てから忙しくしてたけど、サファイアちゃんに返信してくれたよね。」
と確認したことで、返信をしていない事が判明したのである。
この招待状、王家の発行する招待状の中でも、最も権威が高くセキュリティーも高度な要求の為、返信の方法が生体確認ができる本人が、王家指定業者を使った機密配達便を利用しなければならないため、誰かがその配達業者がいる星に行って依頼しないといけなかった。
かめちゃんだけで行ければ良かったのだが、かめちゃんはアンドロイドの為に生体確認が出来ないので、初めは美由紀が、みんなの分を取りまとめて、かめちゃんに乗って招待状の返信を出しに行く予定だったのだが、出しに行く直前に銀河社内の急用が出来て、行けなくなったので、ちょうど事務所で昼食を食べていた幸一に頼んで出掛けてしまった。幸一は、受け取った返信の書類をかめちゃんに預けて、食後のお茶を飲みながら「後でいいか」、と思っているうちに忘れてしまった。
美由紀と一緒に行く予定だったかめちゃんは、美由紀が幸一に予定変更した為、間違えてスケジュールタスクを完了としてしまっていた。
その為、美由紀が幸一に渡した招待状の返信書類はかめちゃんの艦内(艦長席)に置いたままだった。
その事に気づいた幸一とかめちゃんは、慌ててロングワープの目標地点を、一番近くに配達業者が手配できるここ、ガニメダ星雲にあるバルセナ公国に設定して、通常空間にタッチダウンすると同時に指定業者を呼び出して、先ほど手続きが終わったところだった。
返事は、日本時間で約1年遅れて届けられる事になった。
「みゅう(美由紀)もう、そのぐらいにしたら?」
明美が苦笑しながら、1時間近く説教している美由紀に声をかけた。
「でも、明美さん。」
「2人共、十分反省しているわよ。ねぇ。」
と、正座をしている2人を冷ややかな目で睨むと、
「「はい!」」
「明美さんがそう言うなら。今後は、気をつけて下さい。わかりましたね!」
「「はい!」」
ほっとする2人だが、足がしびれて立てない。
その足をさよりに、指でツンツンされて、床をのたうち回る2人。
「「さより(さん)!後で覚えておけよ(下さい)」」
アンドロイドのかめちゃんが、なぜ同じように立てなかったかは、誰も問わなかった。
一騒動が終わり、艦内食堂でまったりしていると、
「しかし、困ったなぁ。」
幸一がカレンダーを見て考え込んでいた。
「どうしたの?」
美由紀が聞くと
「俺のせいなんだが、このままの速度でサナトリアに向かうと、かめちゃんの速度の方が速いから、さっき手配した招待状の返信より先に俺達が着いてしまいそうなんだよなぁ。」
と言って、幸一は美由紀に配達控えをタブレットに表示させた画面を見せた。
「あら、本当。私達の方が1日早く着いてしまいそうねぇ」
「だろう?どうしたもんかなぁ。」
幸一と美由紀はタイムスケジュールを見ながら考えていると
「じゃ、寄り道してもいいよね。」
と、さよりが笑顔で聞いてきた。
「寄り道?」
「そう!寄り道と言うか、観光してもいいんじゃないかなぁって思ったんだけど、ダメ?」
「なんで観光なの?」
美由紀が聞くと
「だって、前に外宇宙に出たときは、かめちゃんの故郷に夏休みの期間内に行くと言う制約の中で、宇宙戦争に巻き込まれたりしたし、かめちゃんの故郷は何にもなかったしねぇ。予定外の用件で日程がオーバーしたから、夏休みが終わると思って慌てて帰ってきたから、どこも観光してないんだよぉ、あたし達。宿題さえ艦内でしたぐらいだし。地球人類として、とんでもない距離の宇宙旅行をしたのに。どこも見学してませんなんて!今回はちょっとぐらい観光したっていいんじゃないかなぁ。」
さよりの言葉に
「観光、いいんじゃないかなぁ。到着してから式典までの日程も余裕を見ているんだし、せっかくこんなところに来たんだし、」
と明美が賛同した。美由紀が
「観光って言っても、なにするの?」
「名所史跡巡りとか、温泉に浸かるとか、食べ歩きに、酒蔵巡りとか、神社仏閣巡り?」
「他には?」
「この国ならではのスポーツ体験?アクティビジョンかなぁ?」
「でも、お金はどうするの?」
美由紀の言葉にさよりが
「そんなもん大丈夫!かめちゃんの船倉にまだまだ有るから。金塊が。」
と自慢気に言った。
「そう言えば、あったなぁ。さよりがどさくさ紛れに掻っ払ったのが。」
幸一が少し遠い目をした。さよりが
「ここの入港料や停泊料だって無料じゃ無いんだからね。」
「そう言えば払ったなぁ。」
「お金は心配しなくていいから。で、何処へ行くか、決めようよ。」
と言ってさよりは何処からともなく、パンフレットを広げ出した。そこにはガニメダ星雲、バルセナ公国の絶景ポイントベスト10、おすすめ食事スポット、絶対外せないスイーツ100選、などの文字が日本語で書かれていた。
「いつの間に?」
「しかも日本語って、いつ作ったの?」
美由紀があきれて聞くとさよりが
「これ?ダウンロードしてプリントアウトしただけで、あたしは訳してないよ。」
それを聞いて、美由紀と幸一が顔を見合して、幸一が
「じゃ、これなんだよ。」
パンフレットを持ってさよりに聞くと
「うん?良く解んないけど、ここの国の公用語らしいよ。」
「はい?」
「嘘でしょう!」
「だけど、さっきの配達業者のお兄さん。日本語しゃべっていたし。」
「えっ!かめちゃんの自動翻訳機を、通して話していたんじゃ無いの!」
「いいえ、私、翻訳機を作動させていませんよ。」
全員驚き、パンフレットを手にとって、恐る恐る内容を確認した。
「読みにくいね。でも何で日本語なの?この星の言葉が偶然の一致で、偶々私達の日本と同じ語源だった訳?」
美由紀が混乱したように、呟いた。
「しかも、なんだこれ?古い言い方と新しい言い方が混ざっていて、まるで、一昔前の翻訳機を使って英語から日本語に訳した感じになっているぞ。」
幸一がパンフレットから感じた違和感の正体を看破したが、なぜ日本語なのか解らなかった。
さよりが、その間に、この国の情報を公開ネットワークで集まった情報を見て、首をひねって
「良く解んないけど、ざっくと調べてみたら、この国で20年ほど前に、政府高官用交易語として使用することが決まって、交易の通訳が必要なために、第二外国語としての必須学習項目になって、10年前に公用語に昇格、現在国民の88%は会話に不自由を感じないレベルで日常的に使っていて、それまでの母国語は、地方に残っていて、ある意味方言になってしまっているらしいよ。」
「どういう事?」
「さぁ。」
「でも、この言葉は元々ここの国の母国語じゃ無いわけでしょう。なんと呼ばれている言葉なの?まさか日本語じゃ無いでしょうね。」
「うんとねぇ、交易語、アース語、とかだけど一般的には銀河統一言語らしいよ。」
「誰が日本語を、銀河統一言語って考えたんだが。」
幸一が呆れた声を出すとネットの表示画面を見ていたさよりが、
「だいたいの、犯人は目星が付いているけどねぇ。ここまで徹底的やるとは、流石だねぇ。」
と言った。
「犯人って?」
美由紀が聞くと
「みゅう(美由紀)も少し考えてみればすぐに解るよ。当たり前だけど、一国の母国語を変えるってよほどの事なんだよ。地球でもあったことだけどねぇ。昔、ヨーロッパのある地域は、戦争で負けて領土の一部が他国の占領下となったので、母国語を捨てさせられたし、ハングル文字は、当時の国王によって創られた文字でしょ?それまで使用していた漢字と言う文字を捨てて、切り替えたわけじゃない。すなわち、一般国民が逆らえない権力によって、言葉を制定して変えさせるとかしないと、母国語が他の言葉を母国語に置き換わることなんか無いよ。」
と、さよりが言った。
「じゃあ、この国の母国語を変えさせることができるほどの権力者が、この国の母国語を日本語にしたってこと?」
「そう言うこと。ま、母国語と言うより公用語を変えさせたってことだけど。」
「一体誰が?」
美由紀は困惑した顔をしたが、
「あれ?気づかない?あたし達の知り合いだよ。たぶん。」
「えっ!誰?」
「美由紀、素で言ってる?」
「幸一君も解っているの?明美も?」
全員うなずいた。
「私だけ?解っていないのは!」
「かめちゃん、教えてあげて。」
「私も、たぶんだと思いますが、サファイアさんでしょう。理由は、招待状の中の文章に、言葉の統一したと言った文面がありましたから。」
「サファイアちゃんが!」
「だぁって、あの子、今や女王様だよ。しかも、大国を3ヵ国合併させた最高権力者なんだよねぇ。」
「でも、サファイヤちゃんはここの国の女王じゃないわよ。他国にそんな強権を執行して、よくここの国民が納得したもんよねぇ」
「あぁちゃん(明美)、それがサファイアちゃんの凄いと言うか巧妙かつ狡猾なところだよ。」
さよりは、集めた情報を元に自論を語った。
「当たり前だけど、交易語選定する3年前に、サナトリア王国とこの国が、3年間の期限付き通商条約を締結しているんだ。
条約更新の会議の中で、どれほどの優位な条件をちらつかせたのかは判らないけど、貿易する上での共通語として、日本語を共通交易語として政府高官や交易関係者に認めさせているんだよ。
その後、政府高官や交易関係者を中心に日本語学習会を開き、無償で教えているんだよ。
その見返りなのか、サナトリア王国方面の貿易量が飛躍的に増えていて、共通交易語を話せる業者とそうでない業者で、利益の格差が生まれたみたい。
その為か、この言葉を話す事の出来る事が一種のステイタスになって、政府高官とか大企業のエリートと呼ばれる人達に広まり、
言葉による格差社会が生まれたようで、話せる人達は裕福になって行き、同じ業種でも話せない人達は単価の低い仕事しかできなくなってしまったみたい。
その為、より良い仕事を得るために話せるように勉強する人々が増えて、話せる人々はよりネイティブな発音と滑らかな会話ができるようになるため、普段から使うようになり、
国家も、言葉による貧富の格差を是正する為には、話せた方がいいよね、ってことなのか、まずは第二外国語として認めてしまったみたい。
しかもその言葉を話せると、就職活動や出世に優位になれるとしたら、就職を控えた学生は覚えるよね。
子供を持つ親達も、子供の将来を考えて、塾みたいな所に通わせて習得させる風潮になって、
そうして民間に広がり、そのタイミングを狙ったように、全編日本語のドラマの数本が放映されたの。
それがこの国挙げての爆発的大ヒットによって、見てないと次の日の話題に付いていけないようになって、
ドラマを吹き替えでなく楽しみたい人が増えて、語学研修が一気に加速して、ついには公用語として認められるようになったって事だよ。」
「さより。経緯はだいたい解った。しかし、最後の全編日本語のドラマってなんだ?意味がわからん。」
拓哉が首を傾げて聞いてきた。
「調べたらねぇ、このうち一つのドラマ凄いよぉ。96話完結のドラマで、平均視聴率58%、最高視聴率なんと!88%!映画化も3回されていて、この国の外国語映画最高興行収益を記録してる、こんなにもここの国民を熱狂させるドラマの原作ってなんたと思う?」
ニヤニヤしながらさよりが、全員に聞いた。
「あのなぁ、さより。地球でもない星のドラマの原作が、俺達にわかるはずないだろう。」
呆れたように幸一が言うが、さよりは
「ところが、このドラマ原作。この艦内の、かめちゃんライブラリーに有るよ。」
「えっ!どういう事?」
「日本のコミックが原作なんだよ。ちょっと見たけど、ドタバタ青春コメディ活劇とも言うものに仕上げているの。」
「なに、気になるなぁ。」
「全話ダウンロードしてみたから、適当に再生してみようかな?」
さよりは、自分の2in1ノートパソコンにダウンロードした映像データを、食堂のメインスクリーンに流した。
それは、とある星の男子高校生が主役で、異世界から来たキュートな鬼娘に、ちょっとした勘違いから惚れられて、同居を始めるようになり、周囲を巻き込み起こるドタバタコメディ
さよりが適当に選んだ3話を見終わり
「どう?」
さよりがニヤニヤしながら全員に聞いた。
「おいおい、設定は少し変わっているけど、これって」
「しかも実写」
「クオリティー高!違和感が全然無い。」
「著作権のことで、絶対元の時代では流せない。」
「しかも、当たり前だけど面白い。」
「なんか凄いね。」
「こんなドラマが、後数十作品有るよ。とりあえず、全部落としておくね。」
「恐るべし、日本のサブカルチャー」
「日本のアニメは、国境どころか星間を越えて愛されるんだねぇ。」
「て言うか、これらを手掛けたのは、」
「「「「「「「サファイアちゃんだろう!」」」」」」」




