発進
フランスに渡った8人は、いい加減宇宙に上がらないと、夏休み中に帰って来れない気がしてきた。
とりあえず食事をしながら、これからの行程を考えることにした
「とりあえず、明日にでも上がらないと、そろそろ日程がギリギリじゃないの?」
「かめちゃんの知り合いが、濃いすぎるから」
「船は今どこにあるの?」
紙の世界地図をテーブルに広げかめちゃんに聞いた
「ここら辺を、今こちらに向かって海中を航行中です。速度をあまり上げれないので、この近くまで来るのは、後20時間後ですね。」
かめちゃんは、北極海を指さし次にドーバー海峡を指さした。
「なんでもっと早く来れないの?宇宙船なんでしょう?」
「できますけど、他の人達に見つかる可能性が飛躍的に上がるので、やめた方がいいです。それに私の最高速で水中を移動すると、陸地の側で巨大な波が打ち寄せて沿岸部にかなりの被害が予想されます。」
「最高速って、どのぐらい出るの?」
「そうですね、だいたい時速3700km/hぐらいでしょうか?」
「それって?音速超えてない?」
そんな速度であの巨大な船体が海底を走れば、沿岸部は高波どころではなく津波並みの被害が予想される
「それにしても、遅くない?」
「この星の船なんでしょうか?海中を航行している船が何隻もいて、私が動くと音波を出したり、行き先を塞いだりして、邪魔なんで最初は迂回したり、まいたりして姿を消してたんですけど、もうめんどくさくなって、追っかけて来れないように、いろいろしたら、数多く集まってしまってですね。 それらを避けながらので、よけい速度が上げられないんですよね。」
うんざりした顔をして、ため息をついた。
それを聞いて、
「アメリカ海軍にNATO軍とロシアの潜水艦にケンカを売ったな。」
6人は、疲れた顔をしたが、1人だけ
「かめちゃん、大きいもんね。目立つから仕方ないよね。」
と、同情していた。
「で、どうする?うかつにこのままドーバー海峡に入って来たら、潜水艦もそうだけど一般の船にも、かなりの影響を及ぼすぞ」
「不可視フィールドとか、光学迷彩とか装備ないの?姿を消して移動できないの?」
「光学迷彩は、メンテナンスがデリケートなんです。小惑星帯を突入する任務が有って、都合上装備されなかったんですよ。不可視フィールドは、有りますけど。」
「あるの?」
「だったら使用したらどうなの?」
「使用したら、姿、形は判別できないようになるんですけど、逆に目立ちますよ。」
「姿、形はわからないんでしょう?なんで目立つの?」
「宇宙空間だと敵から攻撃を受けにくくなるのですが、大気圏内は、フィールドに
大気や水に触れると、そこがプラズマ化してしまうので、光って目立ちますよ。」
こんな感じと言って、1枚の写真を見せた。それは葉巻形大型UFOの写真だった。
「これはダメだな。」
「宇宙人に誘拐された7人って有名になるね。」
「不可視フィールドでは、みなさんの目立たずに地球を離れる案には向かないです。」
「上からも監視されているんじゃないのかな?」
美由紀が指を上に指してつぶやいた。
「上?」
「そう監視衛星」
「海底に居れば見つかることはないんでしょう?」
「だから、潜水艦が張り付いて追っかけている」
「浮上したら、上から丸見えで逃げれない。ってとこ?」
「航路なんでしょうか?海上に、何隻か中型の船がいますけど、私とぴったり同じコースを取ってるんですけど」
「海上にも、張り付いている船がいるよ。駆逐艦かフリゲート艦かな?」
「かめちゃんの搭載している物で、私達を乗せれる小型で海を潜れる物は無いの?」
「あればこんなところまでやって来ないよ。」
確かに、あれば日本国内の海岸から目立たず旅立ちできた。
「すいません。宇宙空間用なので、搭載機は大気圏内飛行はできるんですけど、海中は設定がなくて。海中も行ける機体は作成したらある事にはあるんですけど」
「なんでそれは使えないの?」
「強襲揚陸艇で50人乗りの大型なんですよ。これでよければ、宇宙空間から海中までOKなんですけど全長20mの大きさなんで、結構目立ちますよ」
「使えない」
「とりあえず、海に行く?」
「大西洋が見える場所に行けば、いいのかな?」
「スペインかノルウェー方面?イギリスの上の方?」
「とりあえず、イギリスに渡って、北海が見える所まで移動しようか?」
ということで、フランスから飛行機を乗り継いでイギリスのスコットランド地方の
インバネス空港に降り立ち、レンタカーを借りてダーネスという町に向かった
「なんか、いいところだねぇ~」
ラス岬から見る海岸線は、雄大な景色を見せていた。
沖を見ると何隻かの船が艦隊を組んで航行しているのが見えた
「もしかして、あの下に居るの?」
「はい、そうです。」
「絶対に領海内に入っているだろう。そのうち攻撃されるぞ」
「そうなのですよ、今は人目があるからか、攻撃してこないみたいですけど、」
しばらく見ていると、何機かのヘリコプターが飛んできた。
「あれって報道ヘリっぽいけど」
ネットニュースを見ていた幸一が
「やばい!BBC放送からのニュースだけど、イギリス政府が正体不明の巨大潜水艦に向けて攻撃を開始するって放送してる!」
そのニュースによると、国防省の発表で、1週間前から北極海から北海に向けて領海をかすめるように南下して来ている、全長500mを超える正体不明の巨大潜水艦に対し、イギリス政府は各国に確認を求めたが、各国ともそのような潜水艦は所有していないとの連絡を受け当国は、所属不明の潜水艦が、警告を無視して領海内に侵入をはじめた為、祖国防衛のため攻撃を開始する事を決意した。
と報道していた。
しばらくしてお腹に響く音がして、海面が少し盛り上がり大きな水柱が立つのが見えた
イギリス海軍による攻撃が始まったようだ
「だいじょうぶなの?かめちゃん」
「この星の通常兵器で、この私が傷つくことはありません」
「でも、このままじゃ、乗り込めないぞ。」
「だよねぇ~」
イギリス海軍は、執拗に攻撃を繰り返しているが、効果が見えなくて焦りだしていた
「艦長!敵コードネーム モービー・ディックに、短魚雷全弾命中しましたが、効果が見られません。依然陸に向かって航行中です!」
「敵艦の目的は不明だが、陸に近付けてはいかん!なんとしてでも止めるのだ!」
「イエッサー!!」
イギリス空軍も各基地から対艦装備満載で飛び出した
各機から投下される誘導弾による精密爆撃による撃滅とクラスタ爆弾による広範囲の頒布による足止めを狙った攻撃も開始された。
「当たっているのか?速度が落ちてないぞ!」
「核でも落とさないと、止まらないんじゃないのか!」
「かめちゃん、このままこっちに来られても乗り込めないし、ここら辺の人達にメッチャ迷惑かけるので沖に行って、深い所で沈んでおいて」
「わかりました」
「艦長!モービー・ディックが回頭をはじめました。」
「逃がすなよ!絶対に沈める!」
3隻のフリゲート艦が、速度を上げて沖に動き出した正体不明の巨大潜水艦を追いかけ始めた。
しかし、速度が潜水艦とは思えない40ノットを超え、北海を抜けてノルウェー海溝に逃げ込まれ、さらに速度を上げて深度500mを超えさらに潜って行き、探査を続けたが、行方がわからなくなり見失ってしまった
「何という化け物だ。あの深度であの速度とは」
イギリス海軍の参謀本部では驚愕の事実を目の前にして、打つ手がなかった
「くっそ!逃がしたか!しかし、あの巨体だ、動けば絶対にわかる。周辺をくまなく探査せよ!見逃すんじゃないぞ!」
攻撃機が去り、対潜ヘリと哨戒機が付近をくまなく捜索の為低空を飛びまわっている
「で、どうすんの?あれじゃ、近くまで来て乗り込む事は出来ないじゃないの?」
8人は頭を抱えていた
「なんかかないの?」
「なんかとは?」
「このステーションワゴンを、空陸海動けるようにするとか」
「無理ですよ、さっきの強襲揚陸艇のエンジンが、一番コンパクトなんですけど、それを組み込んでも、ボンネットからはみ出しますよ。こんな風に」
といって、かめちゃんがスケッチブックにイラストを描いて見せた、
そこには、車体の半分以上を占める何かの機械が書かれたイラストだった
「これがそのエンジン?」
「はい、慣性駆動システムを組み込んだ空間制御システムです」
「ボンネットに入るようなシステムは無いの?」
「ありますけど、エネルギー供給パーツと出力パーツをこのボンネットに入る大きさのものとなると出力が小さすぎて、走らすだけか、数センチ浮かして飛ぶぐらいしかできないんです。しかも防水ができませんから、水に濡れたらすぐに壊れますよ」
「軍用じゃなくて民間の物でもないの?」
かめちゃんは、搭載されている作成リストの中から検索を懸けてみた
「民間ならなおさら、出力を押さえていますから・・・・・・・・ あれ?」
「どうしたの?」
「変な動力システムがありますね。量産機になれなかったみたいで試作品みたいですけど」
「使えそう?」
「このスペックなら、出来そうです。でもなんでこんな高出力の機関を試作品止まりで量産化しなかったのが気になるところですが、これならいけそうです!この車種をベースに作成しますね。」
「どのぐらいで出来そうなの?」
「そうですね12時間ほどで完成すると思いますので、皆さんは、この町でホテルをとって待機しておいてください。その間に私は、このレンタカーを返してきます」
7人はこの町に宿をとりかめちゃんが帰ってくるのを待つことに
海岸線を眺めると、艦艇の数が増えていた。イギリス海軍だけではなくノルウェイ海軍、フィンランド海軍も駆けつけて、哨戒ヘリが飛び廻り、巨大潜水艦の行方を躍起になって探しているようだった。
日が沈み、上空からの探索が難しくなるとヘリは帰艦してフリゲート艦が探索を行い続けた。
しかし彼らが捜す海域にはすでに、かめちゃん本体はおらず、こっそり海岸から700mの所の海底に着底していた。
次の日の朝、空港にレンタカーを返したかめちゃんが、7人の泊っているホテルに車で迎えに来た
「これって、昨日借りていた車じゃないの?」
「そっくりに作成しました」
車は昨日乗っていた、日本の藤川重工製のステーションワゴンだったが、その形をそのままで、中身を思いっきり変えて持ってきたようだ
「大丈夫なの?」
「積み込んだ動力システムは、私が造船されるより、50年前のどっかの民間会社の試作品らしいんです。記録が残って無いんですけど。名前を『試作4型全領域エンジンBS5』って言うんです。すごいスペックなんですよ。この車のボンネットに入るほど、こんなにコンパクトなのに、防水処理がしてあって、反応炉、対消滅炉、転換炉が有って、慣性駆動システムに反重力システムに標準で、生命維持システムが組み込んでいて、どこへにも行けますよ!
居住空間は、完全気密処理を施していますので、水中、宇宙空間において問題無しです。で、ベースとなった車体の鋼板を私の装甲板と同じ物を使って強度に上げてあるので、この星の携帯兵器は効きませんし、深さ100mまで潜れますよ」
「何か?これは車に見えるけど、宇宙船で潜水艦ってこと?」
「むちゃくちゃな仕様だなぁ」
「とりあえず、乗って海底に居るかめちゃんの本体に乗り換えて、地球から出発しなくちゃね」
「はい、みなさん乗ってください!行きますよ!」
かめちゃんのかけ声で、ステーションワゴンに乗り込む7人
「少し、本艦は浮上させてから乗り込みますね。それじゃ、行きます!」
全員が乗ったことを確認して、かめちゃんがステーションワゴンを発進させた。
「エンジン音が静かだなぁ。」
「そりゃ内燃エンジンじゃ無いから、エンジン音はしませんけど。」
「でも、タイヤで走っているんでしょう?変な感じ。」
車はスムーズに道を走って海岸線に出て、砂浜へと向かう道に入り砂浜を越えて、海に向かいそのまま進入させていった。
昨日から沖合で軍が攻撃している様子を見に来ていた人々が、海に向かう車に静止するように叫び、海岸を警備していた陸軍に警官達も、あわてて応援を呼び、海に行った車を追いかけたが見失ってしまった。
日の出と共に発進した哨戒ヘリが、海岸から500mの所に、昨日逃がした巨大潜水艦が航行しているのを発見。
海岸にいる人々に退避を命令。先ほどの車の件で混乱していた現場の陸軍と警官達はただちに野次馬な人々を安全な場所へと誘導させた。
それを見届けた哨戒ヘリは、攻撃開始。通常の爆弾と誘導爆弾をありったけ投下。
応援に駆けつけた哨戒ヘリに戦闘機、フリゲート艦も当海域に猛攻撃開始した。
海面は沸騰したように沸き立ち、轟音が上がるたび巨大な水柱がそそり立ち、海岸には、敵兵が上陸して来るのを警戒して侵入を阻止するように陸軍の戦車隊を中心に歩兵隊が展開を完了させていた。
海に潜った8人は快適な水中のドライブを楽しみながらあと少しで艦に到着する時に、車体に強い衝撃を感じた。
「きゃー」
「ウゲッ」
「痛い!」
「なになに今の衝撃は?」
「イギリス軍の攻撃が再開したみたいですねぇ」
「早く発進させて、逃げましょう!」
艦載機の発着ポートから艦内へ車を入れて、格納庫に駐車。
8人は車から降りて急いで艦橋へ。
あらかじめ決めていた席に座り発進シーケンスを開始。浩一の座る艦長席に、発進作業完了のサインが点灯。
幸一は、立ち上がって
「自立支援型重巡洋艦タートルエクスプレス、発進!!目的地、帝星!!」
「了解」
「了解!」
「了解した」
「はい!」
「アラホラサッサ」
「わかりました」
全員からの返事。艦長席の横で立つ、かめちゃんがうれしそうにお辞儀をしてから
「みなさん、ありがとうございます!発進します!」
船体は、ゆっくり浮上開始、海面にその姿を表した
海底から浮上してきた、巨大潜水艦にイギリス海軍は主砲による攻撃に切り替えた
「敵艦に投降を促し応じればよし、そうでなければ致し方ないが」
「艦長、敵艦が浮上して姿が判明しまします!!」
海面が盛り上がりその姿が人々の目に写った
天を突くように浮上してきた潜水艦に対し降伏勧告しようとしたが、次の瞬間、巨大な船体の半分以上で出て来て、フリゲート艦にのしかかって来るように見え、パニックに陥った砲手が砲撃を開始、周りに展開していた他の艦も次々に砲撃を開始はじめてしまった
海底から出てきた巨大な潜水艦は、集中攻撃を受けながらその全体を表し、ゆっくり上昇して行く。
「撃ち方ヤメー!!」
ことの異常さに気がついた司令官が攻撃の中止命令を発令
「あれはなんだ!」
海岸から見上げる人々、海上の艦艇から見上げる人々、戦闘機から見つめる人々。
それらの人々の視線を集めて空へ上昇する巨大な船体、
「まさか!」
「嘘だろう!」
「こんなことって!」
全長500mを超える巨体が光り輝きだし、たちまち光り輝く巨大な葉巻型の飛行物体となっていく
「俺達は、UFOを攻撃していたのか?」
唖然として見上げる人々に、どこからともなく
「お騒がせして、どうもすみませんでした!」
言う言葉を残して、葉巻型の飛行物体は飛び去って行ってしまった
やっと地球を離れました(^^;
少し書き換えました20161025