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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第2章
69/144

番外編 明美のやり過ぎ?2

 鳥取県沖30km 日本海海上


 日本帝国海軍の誇る新鋭航空母艦 飛龍 蒼龍の2隻を有する第二航空戦隊を主とする艦隊が北上を続けながら、現在艦載機の海上発着訓練中だった。航空甲板に並べられた帝国海軍航空隊の最新鋭戦闘機、零式艦上21型戦闘機が次々に発艦していく。続いて甲板に上げられてくるのは、97式艦上攻撃機。本来ならば機体に着けられている魚雷は訓練の為模擬弾になっており、機体は軽く発艦は軽やかにしていく。同じく模擬弾を装備した、99式艦上爆撃機も飛び出していく。


艦橋で双眼鏡を下げ発艦の様子を見つめる山田少将。その後ろで眺める山口総司令官

「山田君、訓練に熱が入ってるね。どの隊員も素晴らしい技量じゃないか。」

「ありがとうございます。」

「しかし、例の件、連絡はあったのかね?」

「いえ、まだありません。」

「もうすぐ舞鶴だね。その時に接触してくるのかな?」

「そうかもしれません。舞鶴にて燃料の補給を行いますので、その時かと思いますが。」

「だろうね。」


しばらく二人は訓練の様子を見ていた。その時無線室より伝令が走りこんできた。

「何事か!」

「申し上げます。山田少将殿宛に、イシイアケミと名乗る者より、当航空母艦、飛龍に着艦がしたいとの着艦許可の依頼を無線にて受信いたしました。いかがいたしましょう。」

艦橋では、何事かと注目を浴びる山田少将。


「面白いね。山田君。直接来るとは思わなかったね。着艦の許可を出してあげたらどうだろう?」

「しかし、山口総長殿。民間人が軍事行動中の船に乗り込むなどあり得ないです。」

「艦長。それもわかるが、その民間人がどうやってこの場所を特定できたんだろうね。無線も封鎖してるし、そもそも航海予定など公開してないのにだ。」

黙り込む艦長。山田少将は

「艦長、着艦許可を出してもらえないか?ちょうど訓練で艦載機は発艦して、航空甲板は空いているし、発艦させたところだから、船速はそのままで着艦体制に出来るだろう。かまわないかな?」

「しかし、着艦して来るのが素人の民間人ですよ!高度な技量がいる航空機による空母着艦作業が出来るとお思いなのですか?もし、着艦に失敗してこの艦に何かあったらどうするのですか!」

艦長の心配はもっともである、国から預かったこの最新鋭の空母を、出撃前に傷など付けられてはたまらない。

山田少将は、しばし瞑目し心を決めると

「大丈夫だ。私が全責任を取る。それに民間人の乗る飛行機だ。どうせ木と布で出来た複葉機の古い機体だろうから、ぶつかっても、この飛龍にそれほど被害が出ないと思う」

その言葉を聞き山口総司令官からも

「私も責任を負うことにしよう。だったらいいかね?」

その言葉に驚き、艦長は

「山口総長殿まで。わかりました。伝令!着艦許可を伝えろ。」

「はっ!了解いたしました!」


明美達が古い複葉機が来ると思っている連中は、ど肝を抜かされることに



「拓哉、着艦許可が来た。先に降りるから上空警戒をお願いね。」

「了解。」



「どこから来るかな?」

と言って双眼鏡で上空警戒のごとく監視していると

通信室より伝令が来て

「これより着艦体制に入る。エスコート不要 歓迎の花火無用とのことです。」


「エスコート不要?歓迎の花火?なんのことだ?」

「たぶん、上空に上がっている直衛機とかが付きまとうなということと、対空砲火するなってことだろう。」

「なんか、自信ありげな感じですね。」

「まったくだ。」


その時上空警戒をしていた直衛機から

「我が艦隊、後方6時の方角より接近する所属不明機体2機有り。距離1000 高度、えっ!高い!約5000以上!しかも早い!速度600以上!」

叫ぶように報告された

「何!」


 報告を受け、艦橋にいた者は双眼鏡を手に接近する機体を探した。

双眼鏡で見つけた接近する2機の機体は、航行中の飛龍に向け高高度から機体を反転し、急降下爆撃機のように急降下をして来た。

 そのまま1機は、海面すれすれまで降下、水平飛行に戻し飛龍に急速接近、もう一機は高度400m付近で水平飛行に移行。

 その高速機動に、直衛機は対応できず、一瞬にて防衛ラインを突破され艦隊に接近を許し、直衛機があわてて翼を翻し迎撃に向かうが間に合いそうもない。

 それを見た艦隊は大騒ぎに。すぐさま空母護衛艦艇は防空体制に入る。対空機銃に飛び付き旋回させて侵入機に照準を合わせる。

 駆逐艦の主砲も旋回を始め照準を合わす動きをするが、どちらも間に合いそうもない。

所属不明の2機はやすやすと艦隊外周部を突破、機体が飛龍の横を通過するときに、観察員から

「接近中の航空機より発光信号。こちらアケミ、着艦よろしいか?です」

それを聞き、飛龍より攻撃禁止の信号弾を打ち上げ、各艦に対し攻撃態勢を解除させると

「甲板要員、あの機体を着艦させるぞ!準備急げ!」

機体に向かって、着艦よろし、と発光信号を返した


 海面から接近してきた1機は、少し上昇し一旦空母飛龍上空を通り抜け、減速しながら旋回し後方に回り着艦体制になった。

引き込み脚を出し速度が減速していく、航空甲板に張られたワイヤーに着艦フックがかかり、綺麗な3点着艦を決めた。エレベーターにて艦内に収納すると、続けてもう1機が着艦。これもまた手本にするぐらいの完璧な着艦だった。


「山田君。見たことのない機体だな?そもそもあれが、民間人の操縦する航空機なのかな?」

「解りません。しかし、あれほどの技量。そうそう一航戦にもおりますまい。とりあえず会いに格納庫まで行きますか。」


訓練終了の信号弾が打ちあがり、次々に帰還して来る艦載機、その慌ただしくなる格納庫の片隅に異色の機体が2機鎮座していた。

赤と白の紅白迷彩(?)と言うめでたい色に塗り分けられた機体は、搭乗員はおろか、整備兵も見たことが無い機体で、金属製機体で逆ガル型の単翼。単座の搭乗席。大きさ的には97式艦上攻撃機とほぼ同じ、左右の引き込み足の横に、増装タンクのような大きさの物が左右1つずつ装着されており、機体の胴体には、魚雷よりも大きな円筒形なものが装着されていた。


 山田少将と山口総長が艦橋スタッフと共に格納庫に降りると、その機体の風防ガラスがスライドして開き、中から人物が出てきて、山田少将を見つけると

「山田少将殿。お約束の物、お持ちに上がりましたよ!」

と手を振りながら元気な女性の声がした。


「山田君、あれがそうかね?」

「はい。」

数人の艦橋付き将校を従え山田中将と山口総長が近づくと、整備兵たちは気を付けの姿勢で迎えた。遠巻きで見つめる搭乗員たち。

整備兵には楽にするように伝え、搭乗員たちは格納庫から出ていくよう指示すると、

「すいません。山田少将さん。整備兵の方に手伝ってもらっていいですかねぇ。持ってきたものを下したいんで」

と、明美から声を掛けられた。

「整備兵。手伝ってやれ。」

「ありがとうございます。整備の方。すいませんが、その翼の付け根の物と、胴体に付いてる運貨筒を外すので手伝ってください。かなり重いので、爆弾とか、魚雷を外す感じでお願いしますね。お礼に、この機の左翼の運貨筒の中身はあげるので。」

明美と拓哉の指示で、テキパキと外される運貨筒。

その一つ、明美の機体の左翼に付いていた物を、全てを外し終わり整列した整備兵達に差し出した。

「これ、こうやって開けます。」

と言ってタンクの上部を開けると、中から日本酒の一升瓶と缶詰が大量に出てきた。

「どうぞ。外してもらったお礼ですから。」

とニッコッと明美が微笑みながら、差し出すが困惑した顔で

「いえ、御心はありがたいのですが。勝手に受け取るわけには」

整備兵の上官らしき兵隊が、山田少将達の方を見ながら言うと

「かまわん。持って行け。公平に分けるように。ただし勤務中は口に付けることは禁止する。」

そう言われて、喜びを隠すこともせず運貨筒の中から物資を取り出して運んで行く。


その姿に少し羨ましそうに見ていた、搭乗員達や艦橋の将校達を無視して明美は

「山田少将。貴方様にはこの大きな運貨筒を2本持ってきました。先ほど整備の方にお渡しした物と同じものがあと3つありますので、よければ、甲板要員の方と、ここをお邪魔してしまった航空隊の方にお分けください。」

と言って笑顔を見せた。

航空魚雷搬送用のラックに乗っかっている、大きな運貨筒を見て山田少将は

「確かに慰問品を受け取った。しかし、これ1本で一体どの位の重さの運貨筒なんだい?」

と触りながら聞くと

「ザックと収納できる量は、1トンちょっとぐらい?だったかな。思ったより詰め込めたのでよかったですよ。」

「えっ!1トン!!じゃ、翼下に着けてきたあの運貨筒は?」

「あれはあんまり入らなくて、300キロ弱ぐらいしか入りませんよ。それがどうかしましたか?」


 この言葉に、作戦参謀達が声を失った。遠巻きで珍客の機体を見ていた、戦闘機隊の搭乗員も、爆撃隊の搭乗員達も先ほどの速度、機動、を思い出して唖然とした。

「1トンって言ったか?航空魚雷並みの重さだぞ。それであの速度?うそだろ?迎撃できないって」

「いやいや、それよりあの高高度からの急降下。あれだけの重さを担いで、九九艦爆で出来るか?」

「新型の攻撃機か?」

「でも単座だぞ。戦闘機かもしれん。」

にわかにざわめき出した。


 整備兵や搭乗員達が、明美の乗ってきた機体を物珍しそうに、見たり触ったりしているが

それらを無視して明美が

「すいません。慰問品の代わりと言ってはなんなんですが、少し燃料を分けてもらえませんか?」

「燃料?」

「はい、帰りは重量物が無いので、今ある燃料だけでも大阪まで帰れると思うのですけど、念のために、少し燃料を分けてほしいんですが。ダメですかぁ?」

上目づかいで山田少将に燃料をおねだりしてみる明美だった。

少し考えて、

「良いだろう。整備兵!燃料を分けてやれ。」

 先ほど荷物を外すのを手伝ってくれていた整備兵の一人が、補給にかかる時間を将校に伝言すると

「給油に時間がかかるようですから、会議室の方で待ってもらえますか?その間、少しお話も聞けたらと思いますので。」

といわれ、明美と拓哉は会議室に移動させられ、会議室では機体の性能や地図に関することの質問を受けたが、さしあたりの無いことだけ話、翌日まで引き留めようとする、山口総長はじめ将校たちを躱して、夕闇迫る中発艦していった。



夕闇にまぎれて、見えなくなっていく機体の後姿を見て、飛龍の艦橋では

「あの機体は、夜間飛行も出来るのか?」

「あの機体欲しいな。」

「そうですね。聞いている開発中の艦攻や艦爆を超える性能ですからね」

「司令部に帰ったら、伝え探しておこう」



 満天の星空の中、高度5000mを500km/hで巡航飛行する2機。

「明美、こんなに急いで帰らなくても良かったんじゃないか?今夜は空母で休ませてもらって、明日の朝一で帰っても仕事に差し支えないだろう?」

無線で拓哉が問うと

「なに言ってんの!これ以上やらかせないでしょう。あのままいたら、今頃エンジンをバラされてるよ。」

「あそこで出来るか?」

あきれた感じで拓哉が言うと

「それは解んないけど、エンジンカウルぐらいは外して写真を撮るでしょう。大体、この機体のスペック、この時代の機体としては高すぎるんだし、これから真珠湾に行く艦隊を、悩ませるわけにはいかないもん。」

「そうだな、たとえ欲しがられても、この機体のエンジン、まだ完璧ではないしね。」

「そうなのよねぇ。エンジンオイルの油温が上がり過ぎなのよね。全力運転を連続40分もしたら、たぶん軸が焼付くよ、これ。タービンが悪さしてるのかなぁ?オイルクーラの流量の増量が必要かな?」


2人が乗るその機体は後に、日本初の艦上戦闘攻撃機『蒼天』に繋がる機体だった。




照和16年12月8日

アメリカに対し宣戦布告を行い、敵の航空母艦の大部分を取り逃がしはしたが、奇襲攻撃によるハワイ真珠湾攻撃により、アメリカ太平洋艦隊の戦艦隊壊滅と、真珠湾の港湾設備を壊滅させることに成功した日本帝国海軍


そこから破竹の勢いにて南西諸島へと進み、連戦連勝の新聞記事に町は提灯行列の人だかり


日本中が勝ち戦に沸き勝利に酔いしれていた。



そんな勝ち戦が続いていた6月のある日

九州航空発動機株式会社の会議室には、朝早くから帝国海軍航空技団から3人、三菱より4人、中島航空機より3人が訪れていた。

九州航空発動機社長、渡部が会議室に入って早々に付き合いのある三菱の営業の前谷から

「渡部社長。我々に相談もなく、新型の航空機を開発してるそうじゃないですか!どうゆうことですか!」

と開口一番苦情じみた言葉が投げ掛けられた。

「新型の航空機体?そんな物は、当社は()()()()なぞしておりませんが?何かの間違いじゃないでしょうか?」

渡部社長は困惑した顔で、会議室にいる人物達を見渡した。

「何を惚けている!貴様の工場で作られた機体が、空母飛龍に着艦したのは明白な事実。その機体を見せろと言っておる!」

将校らしき軍人が大声を出しテーブルを叩いた。

「あなた様は?」

「帝国海軍横須賀航空技術研究所の藤原中尉だ。高性能な機体らしいじゃないか!」

そう名乗った将校は、渡部社長を睨みつけた。

「そうは言われましても、当社は発動機の生産会社ですから、新型の発動機の開発はいたしますが、()()()()()()()()()()()()しませんけど?ましてや軍用機の開発はお金がかかりますし、当社みたいな弱小な会社には、無理ですよ。」

と言って、肩をすくめた。

「では、この機体に見覚えはありませんか?」

と言ってもう1人の将校が数枚の写真を封筒から出した。

渡部社長が写真を確認すると

「これならわかります。明美さんの機体ですよ。発動機の試験用に組み立てた機体です。」

「やはり開発しておったじゃないか!」

「えっ?まさか!これが新型軍用機開発と思われましたか?」

「そうじゃないか!」

その言葉を聞き渡部社長が大声で笑い出した。

「何を笑っておる!」

いきり出す将校達を

「いや~。笑ってすいません。この機体ならば確かに当社で組み立てました。見ますか?」

と言う提案に、全員が顔を見合せ

「渡部社長、良いのか?見せてもらおうと押し掛けた我々だけど、御社の企業秘密を見せろと言っているのだが。」

と困惑する前谷

「かまいませんよ。機体ならば。当社は発動機の会社ですから、発動機はお見せ出来ませんが機体だったらいくらでもどうぞ。」

と、にこやかに微笑んだ。

「明美さんからも、機体だけならば見せてもかまわないってずいぶん前に許可を頂いていますから。」

渡部社長は、社屋を出て工場の外の道を歩き奥にある格納庫へと案内した。

案内されたメンバーは、工場に併設された広い格納庫にも驚いたが、併設されている2500m級滑走路には唖然とするしかなかった。


「なんなんだ?貴様の工場は」

「なんなんだと言われましても、普通じゃないでしょうか?飛行機に関する工場で、出来た物を試験するのに、滑走路はいるでしょう?」

それを聞き三菱の3人は苦笑した。 零戦を工場から台車に載せて、牛に引かれて滑走路に運んだとこは有名な話だから。


格納庫の奥に、エンジンを外した状態の1機の機体と、邪魔にならないように、翼折り曲げた状態の2機の機体があった。

「あれでしょ?その写真に写っている機体って。ゆっくり見てくださってけっこうですよ。」

と渡部社長が指差したのは、エンジンの無い機体だった。

「この機体の発動機は?」

中島から来た内の1人が質問すると、

「不具合がありましてね。今改修中なんです。ですから、その機体は壊さない程度ならば、どうぞご自由に見てください。」

とにこやかに渡部社長が答えた。

「これでは、飛ばせられないではないか!発動機を付けて、今すぐ飛ぶ状態にしろ!」

中尉が大声をあげ怒鳴り出すが、渡部社長は落ち着いて

「なぜ飛ばす必要があるのですか?あなた方は、いきなり訪問して機体を見せろ、と言ってきただけじゃないですか。機体を見て帰れば良いじゃないですか。違いますか?それに、今から発動機を組み立てたところで、今日中に飛ばすことは無理ですよ。技研の方ならご存知でしょ?」

この言葉に反論しにくく、一団は静かになった。

三菱から来ていた1人が機体を見て

「社長さん、この機体に鋲を使った形跡がないんですが、どうやって組み立てました?」

「溶接ですよ。」

「えっ!溶接?それで強度的に大丈夫なのですか!空を飛べるのですか!」

驚いたように声を出し渡部社長に詰め寄った。同じように中島から来た1人も軍から来た1人も、機体を調べ出した。

「この機体の素材は、アルミじゃないのか?」

「たかが発動機の試験機体に、そんな高い素材を使えるわけないでしょうが。全て鋼板ですよ。」

「鋼板としたら、重量がかなりな物となるが。」

「別に飛行機の性能を確認するためじゃないですし、我が社としては、発動機が動けばいいので、機体の重さよりも、壊れないことが重要なので。」

「この方法だと、かなりの空気抵抗が減ることが予想されますね。」

「それに工程がかなり簡略できるぞ。量産するならいい方法だな。」

「ジュラルミンにしたら、かなり軽量化が出来るが、強度をどうする。」

「ジュラルミンの溶接か。ドイツに打診してみるか?」

と、発動機の無い機体を前に、各社の技術者達は企業の垣根を越え話あっていた。

「でもこの機内、外した機材が多々あるようだな。」

「一体何を付けていたんだろう?」

操縦席の前には基本的なメーター類以外に、何かを付けていた痕跡が残る機内。外された機材に付いてあったであろうかなりの配線の束が乱雑に残っていた。


「この機体に着いてた、発動機は見せてもらえないのでしょうか?」

ある程度機体を調べ確認していた技術者の1人が、渡部社長に質問してきた。

「私の一存では、無理ですよ。開発中の発動機は明美さんの許可がないと、この会社の社員でも、限られた社員しか触らせるどころか、見せることも出来ませんので。」

「そこをなんとかなりませんか?」

「無理です。契約上明美さんの許可が無いと、お見せすることは出来ません。あなた方が契約違約金として、100万円を今すぐ払ってくれるのならかまいませんが?」

「100万円!!そんな大金」

「でしたら、明美さんに連絡して許可をもらうしかないでしょうね。」

と言うと、藤原中尉が

「今すぐにその明美とやらに、連絡をとれ!」

と怒鳴った。しかめ面をして

「大きな声を出さなくとも聞こえますって。じゃ、連絡は取ってみますが、すぐに返事が帰って来るとは限りませんが、よろしいですか?」

「どうゆうことです?」

渡部社長は、あきれた顔をして、

「当たり前でしょう。あなた方は、面会の約束も無しに急に来られたので、こちらの準備が出来るわけないからですよ。確かに行く日を前もって言って、見たいものが隠されては困ると考えたのでしょうけど、明美さんが言ってましたよ。飛龍に降りたから、そのうちに視察と言って機体を調べに来る連中がいるだろうって。その時は、隠す必要性が無いから、機体は見せてもかまわないと。だいたい、あのお方は忙しい身でね。絶えず日本中のどこかに出かけているんですよ。ですからたとえ電話に出たとしても、ここにすぐに来れるかわかりませんが、よろしいですね。」

といって、渡部社長は電話をしに事務所に戻って行った。

残された技術者たちは、渡部社長が戻ってくるまで、再度機体を調べ出したが、横に置いてあった翼をたたんだ、エンジンの付いている2機の機体も調べ出した。


30分ほどで渡部社長が格納庫に帰ってきた。

「どうだった。」

ちらっと藤原中尉を一瞥してから、

「良かったですね。捉まりましたよ。今大阪にいるので、今からそちらに向かうって言ってくださいました。」

その言葉を聞いて、

「では、明日の午後に来ればいいですかね。」

と再度来社の時間を聞いてきたので、渡部社長が笑いながら

「帰らなくても大丈夫ですよ。あと2,3時間もしたら、来ると思いますよ。」

と言った。その言葉で驚く藤原中尉

「今大阪だろ!なぜ2,3時間で九州に来ることが出来るんだ!そんな速い列車なぞあるわけないだろう」

「ここの工場に何があるか、もうお忘れですか?」

と言って、滑走路を見る渡部社長

「まさか?」

「飛行機で来るに決まってるじゃないですか。」

唖然とした顔になる技術者たち


待つこと3時間

その間に昼食も終え格納庫の横で待つ視察団

「まだ来ないのか?本当に飛行機で来るんだろうな。」

そこへ、事務員の女性が走りながらやってきた

「社長!明美さんから入電。到着まで後約20分。オイル吹いた。消火用意頼む。です!」

それを聞いた渡部社長は、格納庫にいた従業員に向かって

「消防車をまわせ!オイルを吹き出しているらしいから、薬剤はAで!放水は泡で対応しろ!急げ!」

それを聞き社員達が一斉に走りだし、格納庫横に駐車してあった1台の消防車と、2台のタンクローリーのうち大きく[A]と書かれたタンクローリーに取りつき、滑走路に向かって走りだした。

社屋からも消防車とトラックが滑走路に向かっている。

しばらくすると、青空に黒い染みが浮き出しだんだんと、飛行機のシルエットなっていく。エンジン部から何か黒い物を吹き出しているらしい。それを見て

「まだ火は噴いてない。いつも通り落ち着いて行け!」

脚を出し、着陸体制に入る飛行機の風防は、オイルに汚れ真っ黒になって前が見えているのかわからない。

エンジン付近からは、黒煙が吹き出していてエンジン音は聞こえない

「焼き付いたか!」

タンクローリーと消防車が止まりホースを繋ぎ消火準備が整えられていく。

社屋の方から来た消防車は、滑走路を挟んだ向かい側に止まり、滑走路横に埋め込まれていた消火栓にホースを繋ぎ消火準備が整えられていく。

機体は、滑走路を3回ほど跳ねたが転倒せず減速し、狙ったように2台の消防車に挟まれるように停止。

すかさず、タンクローリーと接続された消防車から泡が放出され、みるみるうちに機体が泡に包まれていく。

泡で機体が見えなくなってようやく放水を止めた。エンジン付近からの黒煙も、いつの間にかおさまっていた。

するともう1台の消防車から水が放水され、泡が洗い流されていく。操縦席の周りの泡が完全に洗い流され放水をやめると、

風防がスライドして、搭乗員が出てくるとトラックに乗り込み格納庫へとやって来た。

飛行服を身につけた美女が視察団の前に歩み寄ると、

「あんたらが、私のエンジンを調べたいって言っている人等か?」

と言って一同を見渡すと、

「まっ、ええか。私の乗って来た機体を、見たかったら見てええよ。エンジンは、焼き付いたから動かんけどなぁ。社長!着替えるから更衣室借りるね。1時間後会議室で。」

と言うと視察団が声をかけられぬまま、社屋の方へ歩いていった。

そこに、消防車に牽引されて件の機体が、格納庫に到着した。

渡部社長が

「どうぞ、明美さんの許可が出ましたので、とりあえず2時間ですが存分にお調べください。それ以上は、会議室にて協議しましょう。」

「あの女性が、明美と言う方ですよね。でも、1時間後って言っていましたが、2時間後で良いのですか?」

明美が向かった社屋の方を見て、技術者の1人が質問してきたが

「大丈夫ですよ。明美さんが着替えに1時間、私が明美さんに約1時間、これまでの経過を説明しますから。説明が終わり次第皆様を呼びにきますから、その時は素直に来て下さい。それが守れないのなら、帰ってください。」

渡部社長が、面倒くさそうに視察団に向かい機体の調査を許可すると、格納庫にいる社員達になにかを指示をして社屋へ帰っていった。

視察団は2時間とはいえ、目的の機体の調査ができる時間をもらえたので、外観の写真を撮ったり、配管や部品の寸法測定をしたり手分けして、機体のデータを取ることにした。


2時間後、女性社員が一同を迎えに来たので、名残惜しいがこの後の会議室での打ち合わせで、エンジン、できれば設計図も譲ってもらえるように交渉するつもりだった。

そんな気持ちで会議室に入ると、スーツ姿の女が1人座り書類を見ていた。

「あなた様は?」

その声で書類から顔を上げ視察団の方に向けられた顔は、絶世の美女だった。

「さっき会ったでしょ?そっか、自己紹介がまだだったか。有限会社銀河社の外商部長の井上明美です。今から、我社がここ九州航空発動機に投資して開発中のエンジンについて、あなた方に忠告する為、急ですが、この場で会合を開きます。とりあえず、席に付いてください。」

うながされ席に着く視察団


着席早々に、三菱の営業 前谷から

「そちらで開発した新型の発動機を、我々に渡してもらえないか」

藤原中尉も

「お国の為に成るのだから、光栄なことだろう。こんな田舎の工場で開発するより、大手に任した方がいい。さっさと、図面を渡していただこうか。」

同行していた技師も

「あの焼き付き方からすると、耐久性に問題があると思われます。当社で分析して高耐久の物にすれば、すぐにでも使える物に成るでしょう。ここから先は我々が完成させますので。」

と、口々にエンジンの図面と本体を寄こせとの発言ばかりをしだし、それを聞いていた明美は

「社長、あいつら、なんか言ってるけど、あいつらに作れると思う?」

うんざりとした顔で、横に座っていた渡部社長に話しかけると、ため息をついて

「無理でしょうね。」

「だよねぇ。」

それを聞いて

「お前のところに出している、注文を取りやめてもいいんだぞ。今まで納品された物も返品して、代金を払わなくしてもいいんだぞ」

前谷が渡部社長に、エンジンの製作注文のキャンセルをチラつかせると、渡部社長は

「別にかまいません。なんなら、今すぐ出荷停止をしましょうか?」

と切り返した。

「お前!会社が倒産してもいいのか!」

「別に、三菱さんとこと契約が切られたぐらいで、我が社は倒産しませんが?」

「うちだけじゃないぞ!中島も、川崎からも注文を受けれなくしてやる!」

「かまいません。あのエンジンを渡すぐらいなら」

「言ったな!倒産してから、ゆっくり図面をいただく事もできるんだぞ」

屈辱なのか怒りなのかわからない感情を爆発させて、顔を真っ赤にして叫んだ前谷に

「出来るわけないじゃん。この会社私の物だし。」

と明美があきれた顔で答えた。

「そもそも、この会社、私のエンジンを作ってもらうだけにあるような会社なんだから。ま、今は各社のエンジンの製作もしているけどね」

「どうゆうことだ?」

「軍人さんには関係の無い話なんだけど、工場の余剰資産で、他社のエンジンを作ってるだけだから、

ここの会社の経費のほとんどは、私が払っているんだよ。今急に注文が無くなっても、この会社は倒産することはない。私の希望するエンジンが出来るまではね。」

明美は一旦言葉を切って、一同を見渡して大声で

「まったくうるさいガキが!ちょっといい玩具を見つけたからって、親に言って人様の物を取り上げよう何ぞ、盗人猛々しいわ!そもそも、あの、レカ16カ型のエンジン、お前らのところで出来るか!

まっ、NK9誉を作った中島さんところだと、いい線いくかも知れんけど」

「だったら、その発動機がまともに動かないのなら、我々に任すのも手だと思わないのか?」

中島の技術者が言うと

「対策はもう施しである。次期試作の発動機には、軸の口径変更、軸受けの素材変更、潤滑油の流量変更、とりあえずこの三点を重点的に対策をしている。」

「しかし…」

「そんなに気になるんだったら、ちょっとした試験をしましょう。ここにある評価が終わったエンジンがあるので、そのエンジンを図面通りに仕上げられたら、開発中のレカ16カ型エンジンの図面をお渡ししましょう。」

「あの発動機以外に、高性能な発動機が有ると言うのか?」

明美は、今まで発言をしていない軍服姿の二人に向かって

「あなた達、テストパイロットでしょ?ここに連れて来られたと言うことは、プロトタイプが有れば

スペックチェックの為に来たんだよね。しゃぁないなぁ、手ぶらで帰ってもらうのもなんだから、明日朝5時に来なさい。ちょっとテストフライトさせてあげるから。」

と明美が言ったが、言われた二人が、きょとんとした顔をして我々のことか?と首を傾げていると、

明美は一瞬天井を見上げ目をつぶると

「敵性用語だからわからない?仕方ない。あなた達は試験搭乗員なんでしょ?乗れる機体が有れば性能確認の為来たんだよね。明日5時までに来なさい。試験飛行させてあげるから。わかった?」

「あの発動機を使った機体がまだ有るのか?」

「はぁ?有るわけ無いじゃない。最後の1基を、たった今私が焼き付かしたばっかりなのに。」

と、なに言ってんだ?と言う顔をして、視察団を見つめる明美。

「じゃ、なにを?」

「そこのエンジニア、エンジンに付随していたパーツが気になるんだろ?で、そこの軍人。お前も気になるんだろ?あの排気タービンが。」

その言葉に視察団の目付きが変わり、明美や渡部社長を忘れたように議論が始まった。

「なんだって!発動機の横についていた見慣れぬ部品は、欧米で開発中と言われる排気過吸器なのか!」

(ターボって言わないか)

「しかし、吸気圧が上がらないのでは?」

「だから2基じゃないのか?」

(1基でも使えるけど、さらにパワーアップしたかったし、アメリカのよりブースト圧は揚げているけどね。)

「じゃ、途中に付随していたのは、中間冷却器か?」

(中間冷却器?…インタークーラのことかな。)

「あの発動機は、栄型だよな。どのくらい馬力が揚がるんだ?」

(栄型?確かに形と排気量はほぼ同じだけど、でもあれはすでに別物だけどね。)

勝手に始まった議論に、明美は心の中でツッコミしていた。

「なんか盛り上がってる中、悪いんだけど乗るの?乗らないの?」

の言葉に、二人のパイロットは

「「乗らさせていただきます‼️」」

声を揃えて返事

「じゃ、明朝5時にここに集合。操作説明をしますから、遅刻は厳禁です」

技術者達は、まだ実機に触って調べたかったが、本日の営業は終了しました。と言われ工場が手配したハイヤーに乗せられ工場を追い出された。

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