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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第2章
68/144

番外編 明美のやり過ぎ?1

遅くなりました!番外編?外伝?というかなんだろう?(ーー;)

しかし長くなってしまって、これだけでも本編でいいんじゃないか?と思ってしまった

明美も、さよりも同じです

「キサマ!痛い目にあいたいのか!」

「ご託はいいから、かかってこいよ!」

「この野郎!」

「野郎じゃない!私は、女だよ!」

夜の博多、繁華街によくある、ケンカ。

ただ少し違っていたのは、殴られて地に伏せられたのが2人の軍人で、殴って仁王立ちしているのが細身の女性だということだった



 事の起こりは少し遡って、一日働いた仕事の疲れを癒す飲み屋だった。明日は日曜日で休みということもあり、店内は明るくにぎやかな雰囲気で満ちていた。

その一卓に女性1人男性5人、合計6人で楽しげに飲んでいた所に、酔った2人の兵隊が

「おっ、こんな場末の飲み屋にはもったいないほどの、美人がいるじゃないか。」

「おい!女、俺等にも酌をしろ!」

と絡んできた。

「兵隊さん方、すいませんがそうゆうことは、やめてもらえませんか?私の妻なので。」

拓哉が立ち上がりやんわり断ると、酔って焦点の合わない目で睨み付けて

「なにおぅ?お前には勿体ない、女!俺等に付き合え!」

連れだってきたもう1人の兵隊が

「酌ぐらい、かまわんだろうが!減るもんじゃ無し。女!こっちへこい!」

明美の肩を掴み立たせて、自分達が飲んでいる卓に無理やり連れて行こうとした。

拓哉が一瞬で顔を怒りに染め上げ、腰を落とし拳を固めたが、明美は視線で拓哉を黙らせると、

兵隊達のいる卓へ連れて行かれた。


 明美を連れてきた兵隊が、自慢そうに仲間内に話して、空になったコップを手に持ち酌を待った。

明美は、栓を抜いたばかりのビール瓶を持って、コップを持った兵隊の頭の上で、ビール瓶を逆さまにしてビールをぶっかけた。ビールを掛けられた兵隊は

「なにしやがる!」

と立ち上がって睨むが、明美は冷ややかな視線で兵隊を見て

「はぁ?酌してやっただけじゃないか。まっ、コップじゃないけど?」

「な、なんだと!こんなことをして許されると思っているのか!」

明美は、うんざりした顔になり

「何様?頭を冷やしてこい!」

と、近くにあったコップに入ってた水を顔に掛けた。

「この(アマ)!」

頭からビールをかけられた兵隊は、立ち上がり明美に殴りかかった。

が、かわされ体が宙を游いだ瞬間、明美の腰の入った重い右拳が、兵隊の腹部にえぐるよに捉えた。

「グェ!」

白目を剥き、崩れ落ちそうな兵隊の後ろ襟を左手で掴み

「ここで倒れるな。店に迷惑だ。」

そのまま、片手で店の外に投げ飛ばした。酔ったもう1人の兵隊が立ち上がり

「女!我等を帝国海軍の軍人と知っての狼藉か!」

チラリと襟章の階級を見て明美は

「うるさいんだけど。帝国軍人がなに?酒場では英雄気分なの?はん!伍長ごときが偉そうに吠えるな!あっ、そうか!弱い犬ほどよく吠えるっていうことか。それじゃ仕方ないか。」

と言って笑い出した。

「もう勘弁ならん!女だとて、その根性を叩き治してやる!覚悟せい!お前ら、やるぞ。」

と言って同じ卓にいた3人に声をかけ、明美に掴みかかろうとしたが、明美は軽くいなして

「もう、お店に迷惑がかかるでしょうが!表に出なさい!相手してあげるから。」

と先に外へと出ていく。

「川端伍長、落ち着いてください。ほらみんなも。」

「濱中一等兵!ワシに指図する気か?」

「違いますよ。他のお客にも迷惑がかかりますし」

「心配するな。川端伍長と俺達で、あの生意気な女に軽くお灸をすえてやるだけだから、騒ぎになる前にすぐに終わる。心配性のお前はそこに座って待ってろ」

「安藤さん。そうじゃなくて、もう騒ぎになっているというか、騒ぎになるといろいろ問題が」

何とか、騒ぎにしたくない濱中一等兵は、場を押さえようとするが、酔いが周り馬鹿にされて頭に血が上っているため自制心が効かなくなった川端伍長は

「うるさい!安藤一等兵、さっさと終わらして、お詫びとしていろいろ楽しましてもらおうじゃないか。」

と下卑た笑いをしながら、安藤一等兵と共に店の外に出て行った。店内に残された二人の兵隊は困った顔になり

「二人とも。あぁ、濱中一等兵殿どうしましょう。」

「艦長から騒ぎは起こすな。って言われているのに。竹山二等兵、港までひとっ走りして、誰でもいいから上官を呼んでこい!」

「わかりました。濱中一等兵殿は?」

「騒ぎがこれ以上大きくしないように努力する。早く行け!」

「はっ」

二人が後を追うように店の外に出てみれば、すでに安藤一等兵も地面に転がっており、川端伍長が睨みあっているところだった。


「何があった?」

近くにいた野次馬に声をかけると

「あの兵隊は、こっちの綺麗な姉さんに一発顔面を殴られて、起き上がってこないぜ。」

野次馬の男性がこたえてくれたが、濱中一等兵は理解が追い付かない。路上に転がされている二人は、川端伍長が向き合っている女性よりも大柄で、柔道の段持ちだったはず。しかも安藤一等兵は空手の師範代と聞いていたが?

川端伍長が奇声をあげて挑発しているが、女性は自然体の構えで笑ってさえいる。

そこに

「お前ら!!何しとる!」

と大声が響いた。将校姿の二人がこちらに向かい走ってくる姿が見えた。

濱中一等兵は走ってくる将校を見て、川端伍長の腕を掴み

「川端伍長殿、お止めください。勝見艦長殿が走って来られました。」

「なんだと。」

走ってきた将校は、息も切らず川端伍長に詰め寄ると

「川端!貴様等、市中で騒ぎを起こすなと厳命したはずだが、この騒ぎはなんだ!」

勝見艦長の一喝で、川端伍長と濱中一等兵は、気を付けの姿勢になり、ことの顛末の説明をするが

保身に走る川端伍長と、忠実に話す濱中一等兵では、話が食い違った。竹山二等兵の介抱で、倒れていた安藤一等兵と安田二等兵の二名も起き上がり、店の前で五人が整列した。

もう一人の将校が、この騒ぎの当事者の女性にも説明を聞こうと顔を見ると、左頬が殴られたような痣が出来たみたいで、頬が青くなっていて、左の口元に赤いものが滲んでいた。

「貴様、民間人の女性に怪我をさせてどう言うつもりだ!酔っても、やっていいことと悪いことぐらい区別つかんのか!」

と、鉄拳が飛ぶ

「えっ、あの、それは、」

殴った記憶のない川端伍長は、しどろもどろになり、勝見艦長が騒ぎを起こした兵隊達に説教を始め

後から駆けつけた2人の将校も、明美の顔を見て美人の顔を傷付けたことに、こいつら厄介なことを起こしやがって、と苦虫を噛んだような顔になった。

そこへ

「そこの兵隊さん達。被害者はうちの妻なんですけど。何か一言忘れてませんかねぇ?私達はただ楽しく飲んでいただけなのに、私の大事な美人妻の顔に、怪我までさせられて、どうしてくれるんです?出るとこ出ましょうか!」

拓哉は、将校達相手にわざとらしい、三下のチンピラが言うような口調で詰め寄った。

それを見て、多少の金を握らせれば大人しくなる連中か、と思った1人の将校が

「いくら欲しいんだ?」

と懐から財布を出そうとした時、殺気を越えたプレッシャーで体が動かせなくなった。

明美が、ペッと赤い唾を吐き

「拓哉、あの兵隊、なんか勘違いしてるような気がするんだけど?叩きのめしていいかなぁ」

殺気の発生源の主の発する、冷ややかな声に拓哉は、冷や汗をかきながら

「明美、ちょっと落ち着こうかな。怒気を越えて殺気になってるからね。ちょっと落ち着こう。」

焦って、明美の肩をゆすって言うが

「あら?拓哉。私は、落ち着いているわよ。まだ、動いてないもの(殺してないもの)。」

「それは、ヤバいでしょ!さすがに捕まるって!」

明美の顔が整ってるが故、冷淡な目つきになればなるほど、頬の青さと口元の赤い筋と相まって、ホラーじみた顔になり、睨まれた者は精神的な恐怖を増大されて行く


「海軍さんは、陸軍さんより紳士だと思ったけど、間違いだったかな?」

睨みつける先には、件の将校が懐に手を入れたまま動けず、大量の冷や汗をかいている。訓練されている兵隊でさえ、竦みあがり萎縮してしまう明美の殺気。誰も動けない中、1人将校が明美の前に立ち

「お嬢さん。部下がご迷惑をおかけして、誠に申し訳ない。」

と、頭を深々と明美に下げた。


「山田少将!あなた様のような方が、軽々しく頭を下げないでください。」

それを見て呪縛が解けた様に、勝見艦長があわてて、頭を下げた将校に近寄るが

「何を言っとる!お前達は、そこの伍長にしか話を聞かず、被害者の女性を蔑ろにしてたのだぞ。女性の顔に怪我を負わして!どう見ても非はこちら側だろ。まずは、謝罪しないと。話はそれからだ!」

「しかし山田少将殿、どう見ても三下とその娼婦に頭を下げる必要はありますでしょうか?」

「君の意見は、聞いておらん。」

「ですが」

「山田少将?もしかして、人切り多聞丸?」

明美は、謝罪をしてきた将校の顔をしげしげと顔を見て、何かに気付いたように顔中に喜色を浮かべ、その場で飛び跳ね、そのまま拓哉に飛び付き

「拓哉!この人、多聞丸だよ!やっぱり多聞丸だ!スゴい!スゴい!」

謝罪してきた将校に指をさすは、肩をたたくはと、大はしゃぎ。その急転したテンションに付いていけなくて

「明美?別の意味で落ち着こう。何がスゴいんだ?」

「だって、あの多聞丸さんだよ!」


明美はその為人を拓哉に説明すると

「そうか、この時代で明美が会いたい有名人に挙げていた人か!逢えて良かったなぁ。」

と言って、拓哉は、胸に顔を摺り寄せている明美の頭を撫ぜた。

「うん!」

さっきまでの殺気の満ちた殺伐とした空気は何処へ行った?と言うぐらいじゃれあう二人

周りは砂糖を口から吐きそうなぐらい、二人だけの甘い世界に浸る明美と拓哉。


「まさか、こんなところで、空母飛龍乗艦の二航戦指揮官、人切り多聞丸さんに逢うなんてねぇ!」

その言葉を聞いた将校達は、顔色を変えた。二航戦の司令官に任命されたのが、つい先日。空母飛龍のことなぞ、軍機内容に近い話をするこの女はなんだ?

「お嬢さん。少しこの騒ぎについて、お話をさせて頂いてよろしいかな?」

山田少将は、明美に声をかけると

「うん?私ちょっとまずいこと言ったかな?そこの店の個室で良ければ、話をしましょうか。」

山田少将が頷くのを確認すると、先ほどまで呑んでいた店に戻り

「大将!奥の個室空いてる?ちょっと貸して。」

「いいよ。もう終わったのかい?おや?顔、ケガしてるじゃないか!大丈夫か?」

「ありがとう!大丈夫だから。奥の部屋借りるね。あと、私が呼ぶまで誰も近づけないでね!」

と言い残し、店の奥の個室に将校達と騒ぎを起こした兵隊達が、明美と拓哉共に入って行った。


 中庭の見える部屋の中は、襖を閉めると表の店の喧騒が嘘のように静かで、趣のある部屋だった


 全員が部屋に入り、上座に明美と拓哉が座り、向かい合うように山田少将、艦長、従卒の将校が座り、伍長以下五人は、その後ろに休めの体勢で立っていた。



「さて、こちらから自己紹介でもしましょうか。私は、有限会社銀河社の外商部長という役職になっている石井明美と言います。」

「同じく銀河社で、警備部長という役職になっている藤川拓哉と言います。」

と言って二人は、名刺を4人の将校に配った。

「私は、山田多聞と言う。あいにく名刺を持っておらんので、役職ではないが、海軍での階級は少将だ。しかし噂の銀河社の部長さん達か。また厄介な会社が出てきたもんだ。」

もらった名刺を見ながら苦虫を噛んだような顔になる。従卒の将校が

「山田少将殿、何かお知りなのですか?」

名刺と二人を見ながら

「山口総長殿に銀河社の知り合いがいてな、総長殿が直々に上級将校だけを集め、銀河社の連中とだけは揉め事を起こすな、とつい最近厳命されていたのだよ。」

「そんなことが、あったのですか!」

と言って、勝見艦長が後ろに振り向いて、整列している兵隊達に何か言おうとしたが

「そうなんですか?山口総長って方は知りませんが、まっ、まだ揉め事になってないですから、大丈夫じゃないですか?とりあえず話合いましょ。」

と拓哉が笑顔で止めると、もう1人の将校が

「しかし、この二人は軍機に触れる内容の話をしてましたが、どういたします?」

「軍機って言われても、たかが階級と所属艦だけじゃない。大したことないでしょ?違う?」

明美が、山田の目を見て微笑むと、山田は苦笑するしかなかった。

「確かに、階級や乗艦する船を言い当てられたぐらいで、敵国のスパイとは言えんしな。総長殿から言われていることもあり、今回はこちらが引き下がった方がいいだろう。この度の騒ぎは、こちら非を認めよう。申し訳なかった。改めて治療費をお支払いするので、許していただけないだろうか?」

と言って、頭を下げた。つられて将校と後ろの兵隊達も頭を下げた。

「どうする明美。」

拓哉が目くばせすると

「私も加減せず殴ったからねぇ、喧嘩両成敗ということでお互いの非を不問にしましょうか。お酒一杯で。」

と言ってウィンクした。

そのウィンクした顔を見てドッキとした山田少将は

「それで良いのか?なんだ、その、貴女の綺麗な顔に怪我をさせてのだから、治療費はこちらが、ちゃんと払うが」

困惑した顔になり確認をするが、明美は笑顔のまま

「いいって。お酒を飲めばアルコール消毒になるから、それで十分。」

と言ってニカッと笑う明美を見て、拓哉も戸惑いながら

「嫁がこう言っていますから、今回はそれでいいということで。」

兵隊達は顔を見合せ、将校達も考えたが了承することに。

「じゃ、お酒用意するね。」

と明美が立ち上がり、襖を開け店の方に

「大将!預けてある青い瓶のお酒を持って来て!まだ、封を切ってなかったやつ有ったでしょ!コップは、10個でお願いね!」

しばらくして、店主が青いガラスの洋酒瓶1本と、ガラスコップ10個をお盆に乗せて持って部屋に入って来た。

「明美ちゃん。この酒でよかったんだよね。」

酒瓶を見せて確認すると

「そうそう、間違いないよ。ありがとね」

「それとこれ、冷やしたタオルを持ってきた。これで顔に当てておきな。」

氷水で冷やしたであろう冷たいタオルを明美に渡し、拓哉にお盆を渡すと、用が有ったら呼んで、

と言って店の方に戻って行く大将。


 明美はコップを並べて、そこに封を切ったばかりの酒瓶から、透明な酒がなみなみに注がれる。

拓哉を除く全員にグラスが行き渡ると、明美が立ち上がり、続いて将校達も立ち上がると

「僭越ながら、(わたくし)、石井明美が仲直りの乾杯の音頭を、取らさしていただきます。では、帝国海軍の栄光と我々の平和に、乾杯!!」

と言って一気にコップ酒を煽った。

それに続いて全員がコップ酒を煽ったが、

「くぅぅぅ!」

「なんだ!この酒は!」

「きつい」

「喉が焼ける!」

「げほっ、げほっ」

兵隊達はおもいっきり咽た。将校達は気合いで飲み干した。それを見て

「せっかくのお酒が勿体ない。」

「明美、初心者にはきつい酒を飲ましたねぇ。」

瓶のラベルを見ながら拓哉が呆れた声を出した。


  座り直し、咽て咳き込む兵達達を見てニヤつく明美。将校達も座り直し、グラスを卓におくと

「明美さん。この酒はなにかな?こんなきつい酒を飲んだことがないのだが。」

「ウォッカっていうロシアのお酒。ほら、私、口の中切ったから、アルコール消毒しないといけないからね。アルコール度数の高めのお酒でないとね。もう一杯いっとく?」

と言って瓶を持ち上げた。

兵隊達はおろか将校達まで飲むのは辛い顔をしたのを感じとり、山田少将は

「お付き合いしたいが、この後職務がありますので、残念ですがこの一杯でけっこうです。」

「わかった。今日のことは、私は忘れることにするから。こんな騒ぎを今後起こさないでね。」

と言って、コップにまた酒をなみなみに注ぎ、くいっと飲んだ。

「では、我々はこれで失礼する。」

「足に酔いが来るから、帰り道気をつけて」



 店から兵隊達を見送った明美と拓哉

「明美、顔のキズ。早く冷やして治療した方が、後に残るといけないから、」

明美の顔を見ながら気遣う拓哉だが

「あっ!これ?大丈夫よ。私、殴られてなんかいないし。」

と言ってさっき貰ったタオルで顔を拭くと、青かった頬の痣が綺麗に消え失せた。拓哉が驚き

「どうゆこと?」

明美は頬をかきながら

「いやねぇ。これってさよりが、もしもの時用に作ってくれた、偽装工作用傷メイクなんだよねぇ。」

と言って、ポケットの中から、青いシート状の物と小さな赤いカプセルを取り出した。拓哉はそれを手に取り見つめて

「なんでこんな物を?」

明美を見るとあらぬ方向を見ながら

「さよりがね、なんかあった時に、不利にならないようにって、作ってくれたのよ。私が強すぎるから、相手に過剰防衛って訴えられないようにって。女性で美人な私の顔に、キズ付けられたって言って、相手を黙らせなさいってね。美人は得だって言われて、瞬間メイクの仕方をめっちゃ特訓させられたんだから。」

「あの口元の血はこれ?」

赤いカプセルをつまみ上げ

「そう、この血糊カプセルを口に入れて噛んで出しただけで、口の中は切れてないわよ。これもさよりのしつこい指導されたんだよ。いかに自然に血糊が口元に垂れさすかって。」

あの見た目はホラー映画に出てきそうな、あの時の明美の顔を思い出し、ちょっと遠い目になりながら拓哉は

「確かに、美人の顔を傷付けたってことになったら、賠償金が跳ね上がるからなぁ」

「でしょ?」

と言って、明美は拓哉にしなだれて、甘えた声で

「呑みなおそうよぉ」

「そうだな。」

と言って店に戻って朝まで呑むのであった。




 それから1週間後


山田少将の元に一通の手紙と、二枚の大きなハワイ島の詳細地図が届けられた。

送り主は、明美。一緒に酒を付き合ってくれたお礼として届けられたものだった。


この地図で、帝国海軍が震撼することに。


というのも、海軍はここまで詳細な地図を入手することが叶わず、尋常小学校の社会の授業で教える地図よりはマシ程度の地図しか持ち合わせてなかったのである。


 すぐさまその地図を携えて、海軍省に赴き山口五十六総司令官以下主だった作戦参謀達の前で地図を公開した。


 地図はすぐさま作戦担当の参謀官たちが検証を始めたが、うめき声しか上がってこない。それほどまでに詳細だったのである。


 山の標高はもちろんのこと、海底の深さに周囲の潮の流れ。ドック、兵舎、燃料タンク、火薬庫の所在地はおろか、防空用のレーザーサイトの場所、その測量距離。湾内で貯蔵している重油量、ガソリン量の明細、それらの量で動かせる艦隊や、島内の航空隊の日数、大破した戦艦を湾内から引き上げて、ドックで修理した場合に係るおよその日程、島内で消費した物資の本土からの補給航路及び日程迄もが、詳細に書き込まれた地図だったのである。


地図の真偽の確認を現地捜査員にさせて、そこからもたらせる情報から、次に行う予定だった大規模作戦に大幅な変更が加わり、ついに作戦決行前、本土での最終会議が行われた。その会議終了間際


 「山田君、この地図のおかげで、アメリカさんをしばらくは、太平洋に出てこれない作戦が出来たよ。しかし、この地図はどうしたのかね。」

会議の冒頭から、衝撃的な詳細地図を元に示された大胆な作戦で、静寂だが熱意が高まった会議室で山口総司令官が口を開いた

「は、知り合った女性から送られたものであります。」

探る目付きで

「すごい知り合いがいたものだね。軍の情報部の連中が悔しがっていたよ。これだけの情報をどうやって集めることが出来たのかって。敵の艦隊にダメージを与えるだけの作戦から、アメリカ海軍を、

アメリカ本土封殺への大幅な作戦変更を余儀なくされたぐらいだ。ぜひともその女性とどこで知り合ったのか、知りたいもんだね。」

少し言いにくかったが、正直に

「それは、博多の飲み屋街で、配下の者とちょっとしたトラブルがありまして、その仲裁に入ったところ、私の応援者(ファン)と言われまして。その女性は、山口総長殿が以前おっしゃっていた、銀河社の関係者だったわけです。」

その言葉で、山田少将を探る目つきで見ていた山口総司令官がぼそりと

「さよりさんか?」

とつぶやいた言葉を聞き

「さより?いえ、女性の方は石井明美と名乗っておりました。」

と答えると、一旦目を瞑り何か考えをまとめた顔つきになると、

「そうか。私の面識のない女性だな。まったく銀河社は何人ものすごい人材がいるもんだ。ところで山田少将、その女性とは会えないかな?」

その言葉で会議室がざわついたが、山口総司令官は頭をかきながら

「なに、私直々にお礼がしたいだけだよ。この銀河社ってところに赴いても、お目当ての人物に会うことが出来ないんだよ。何かと理由をつけて呼び出しにも応じないからね。本人たちは絶えずどこかに出かけてることが多くて、捉まらないんでね。何とか出来ないもんかねぇ」

しばし山田少将が考え

「山口総長殿、もしかしたら会えるかもしれません。」

「本当かね?」

「はい、地図と一緒に貰った手紙に、日本海を空母で航海することが有れば、連絡を社にすれば慰問品を持っていくと書かれていたので、その時でよければ会えると思いますが。」

「山田君、君の二航戦は今どこ?」

「はい。佐世保にて最終整備が終わり、私が戻り次第、日本海を北上する予定となっております。」

日本地図を見ながら

「どこまで、こちらの手の内を知られてるんだろうね。良いだろう。出航しだい銀河社に連絡したまえ。私は、あとから連絡機で、飛龍に直接乗りつけることにする。」



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