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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第2章
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アメリカで


照和4年10月19日土曜日 


ニューヨークに向かう大陸横断鉄道の食堂車で一人の少女が

「さてもうすぐニューヨークに着くけど、みんな元気?」

と声をかけていた


もちろん少女はさよりで、その前には渡辺投機投資会社の社員を全てを集合させていた。

「今まで学習してきましたね?これからが本番ですよぉ。」

と言ってる顔はにこにこしている。


「さてみんなに、資金としてこれから1000ドル渡します。それを元金にして勉強してきたことを十分に発揮してくださいねぇ。」

と言って一人一人に100ドル札を10枚づつ渡していく。

「アメリカを出立日する10月30日が研修の終了日です。その日に1000ドルを回収します。

それ以上稼いだ場合は個人の自由とします。しかし期日までに1000ドルが無かった場合、お給料から天引きしますので、お給料が少なくならないように最低でも1000ドルは残すよう、気を付けてくださいね。では、締めは橋野部長、任した。」

と言ってさよりは、部長の橋野に場を譲った。

「さよりさんからの言葉を聞いたな?我々は一端の投資家として、アメリカの株式市場を視察する。

ついでと言ってはなんだが、さよりさんから資金をいただいたので、己の腕を試してみようじゃないか!儲けても損をしても、それは今後の力となると考えている。各人健闘を祈る」

「「「「「「はい!」」」」」」


 渡辺投資投機株式会社の社員一同は、ウォール街にある高級ホテルにチェックインして、この日は

旅の疲れをいやすため早めに就寝した。


 明けて日曜日、ニューヨーク、ウォール街を歩く集団。渡辺投資投機株式会社の社員一同だった。

 午前中は明日からの行動を考えての、株式市場施設までの場所とホテルからの道順を確認をしていた。

午後からは各自自由行動となっており、明日からの戦いに備えて各自思い思いの時間を過ごしていた



10月21日 月曜日


 株式市場が開くと同時に株の売買を始める渡辺投資投機株式会社の社員一同


 慣れない英語を使い悪戦苦闘をしている者もいる中、さよりはさっさと午前の売買を終え、橋野部長を連れてレストランで優雅に昼食。午後からの売買も夕方市場が閉まる寸前に、売買する

だけで結果を確認しようともせず、宿泊先のホテルに帰還しレストランで夕食


この行動を水曜日まで繰り返すこととなる。


10月23日 水曜日


 夕食時、さよりはこの日も朝から連れまわした橋本部長を前に、レストランでの食事を楽しんでいると賑やかな団体、もちろん渡辺投資投機株式会社の社員一同だった。この日までにかなり株の売買で稼いだようで、どの社員も笑顔で歓談していた。


「ねぇ橋本部長。あの中でどれだけの人数が、明日の夕方笑顔でいれると思う?」

と、社員の方を向いていたさよりが橋野に向き直って聞いてきた。

「全員大丈夫じゃないでしょうか?結構いい商売して、全員稼いでいるようですよ。」

明るく明日の売買に意見を出し合い攻略を語り合う社員を温かな目で見つめる橋野。

「そうか。それだったら良いねぇ。ちなみにあたしは、株券をすべて換金済なんだよね。これってどういうことかな?」

とにやりと嗤うさより。その顔を見た橋野は背中に冷たい物が流れるのを感じた。

「さよりさん。まさか、何か仕組んでいるんじゃないでしょうね。」

「あたしは何も仕組んでないよ。橋野部長は今株券持ってるの?」

「いいえ、私も持てません。今日の夕方に全て換金済です。さよりさんの行動を見てましたから。」

おや?っという顔付をしたさよりは、

「ふ~ん。しっかり見ていたのね。流石部長となると違うねぇ。」

と言うと、したり顔で

「いえいえ、さよりさんがこの好景気のアメリカで、市場が閉まる寸前に毎回手持ちの全ての株券を売り、すぐに買い戻す行動が、今日の夕方に限って手持ちの株券を売るだけで、買わなかったことに感じるものがありまして、真似をさせていただいただけですよ。」

さよりは橋野に顔を近づけて小声で

「いくら稼いだ?」

と聞くと橋野は同じように小声で

「さよりさんに比べて手持ちの資金が少なかったですので、大したことはないと思いますよ。そうですね、日本に帰ってから会社を辞めて、田舎の方に新築の家を買って、しばらくは嫁と2人で悠々自適に暮らせる程度ですよ。」

と言って、ウィンクした。さよりは、椅子に深く寄りかかると

「そんなもんなの?大したことはないわね。あたしが直々に教えて何年株の売買してきたの?」

と、つまらなさそうに言ってから

「そういうあたしも、時間が少なかったから大したことはないけどね。ほんの最新装備の1個大隊艦隊分が買えるぐらいだから。」

ぶふぉ~っと盛大に橋野が口に含んだ水を噴き出した。

「きったないなぁ。一応これでもレディだよ、あたしは。」

と言って、ハンカチで濡れたドレスを拭いていた。

「失礼しました。でもなんですかその金額。本当に稼いだんですか?」

橋野は声を潜めてさよりに聞いた。

「そうだよ。だって、上げ幅の一番大きな株銘柄に朝、持ってきていた資金を、突っ込めるだけ突っ込んで、株価が上昇した夕方に売り払って、すぐさま買戻しすることを繰り返したからね。気が付いたらそのぐらいの金額が銀行口座に入ってた。」

としれっと答えた。

「さすがは国際市場で、東洋の魔女って言われるだけはありますね。しかし、一銘柄にいくら投資したのか、聞くのが怖いですね」



「お前、明日は何の銘柄を買う予定だ?」

「そうだな、鉄鋼関係いい感じだとおもうんだけどな。おまえは?」

「俺は、辞めておくよ。返す分の金額も回収できて、しばらくは遊ぶのに困らないだけの資金も出来たし、ちょうど見たいと思っていたブロードウェイミュージカルのチケットが手に入ったので、のんびり観劇鑑賞する予定だから。」

「いいなぁ。俺も明日はちょっと観光しようかな?結構稼がせてもらったし、休憩がてらに観光もいいかもしれないなぁ。」

「お前ら、投資家としては稼げるうちに稼がないといかんだろう!」

「うるさいなぁ。そんなもの各自の自由だろう?儲けを確定させて手を引くのも投資家としてはありだと思うぞ。」

「そんな腰抜けは!さっさと帰れ!」

「なに!」



「うん?橋野部長。何やらうちの社員が揉めてるね。ちょっと見てきて。株の売買が原因なら各自に無理強いするなって言ってきて。」

「わかりました」


 橋野部長が仲裁に入って、株の売買は個人の裁量に任している今回の研修だから、個人の意見を押し付けないように注意してその場を収めた。


「ご苦労様。で、どうなった?」

「明日は中休みで観光する者と、株の売買に勤しむ者と、半々に分かれました。」

「天国と地獄が見れるわけだね。楽しみ楽しみ。」

と言って、革の表紙がされている、手帳のような物を見ながら笑っていた。

「さよりさん、何か知ってるでしょう?あなたは昔からその不思議な手帳を見るとき、決まって何かが起きているんです。」

「おっ!そこまで観察されてましたか!でも、教えてあげない。明日の夕方になればわかるから。」

と言ってさよりは、ほくそ笑んだ。その顔を見て橋野は、地獄行は誰か知らんが、成仏せいよ。と心の中で社員に手を合わせた。


10月24日 木曜日

 市場が開きしばらくして、ゼネラルモーターズの株が下がったのを皮切りに、お昼までに株価の大暴落が始まった。ウォール街では警戒のための警官隊が出動し町は騒然となっていた。

自殺者も出す騒ぎとなり、のちに暗黒の木曜日と言われる日となった。


 その日の夕食の時間は、渡辺投資投機株式会社の社員一同は明暗がはっきりする日だった。

手持ち株が少なかった者は損害が少なかったが、市場に熱を上げ過ぎていた者、大量の株を保有していた者がほとんどで、積み上げていた儲けが大幅に減っていた。


 しかしこの日からは、投資家や銀行家が仲裁に入り、株の買い戻し等もあり、株価は夕方には落ち着きを見せ、金曜日には若干だが上向いていた。


 渡辺投資投機株式会社の社員達は株の動きが急変することを目のあたりにして、利益の確保に走る者、週明けの市場で株価の反発で上昇を期待する者、社員の中でも夕食会での討論はもめにもめた。

 気分を変えるために、渡辺投資投機株式会社の社員達は休息日として街に繰り出し、観光や買い物を楽しみ月曜日から損した分を取り返す為の鋭気を養った。

 さよりは、引き際が肝心だよぉっと社員に軽く忠告はしたが、損金を少しでも回収しようとする社員達には、その言葉が耳に入っていない様子だった。



10月28日 月曜日


 新聞に木曜日からの暴落の記事が載ると、投資家たちは資金の確定を図り、市場は売り一色に。株価は下がり続け


10月29日 火曜日になると、銀行家も一部の富裕層の投資家も株の暴落を支えきれず、投資家達が一気に市場から資金の引き上げを開始した。


その為に市場はさらに混乱し、その混乱が各国に波及し世界恐慌と発展していくのであった


「嘘だろう?こんなことがあるのかよ。一瞬にして山のように有った財産が消えちゃったよ。」

「俺もそうさ。まだ上がると思って売ってなかった株が全て紙屑のようなもんさ。」

「俺なんか、数万ドルの資産があったんだぜ。それが一瞬にして数十ドルだよ」


 この日の夕食会場の雰囲気は、お通夜状態の渡辺投資投機株式会社の社員一同だった。

その社員達を見ながらさよりは、自分のお金で稼いだわけでもないのに、そこまで落ち込むかねぇって思っていた。

「どうします?さよりさん。あいつ等を見てたら居た堪れなくて。」

橋野は、意気消沈の部下を見て慰めてやってもいいだろうと考えていた。仕方がないなぁと

「慰めてきてあげて。」

と言って、さよりはハンドバックから札束で膨らんだ財布を取り出すと、財布ごと橋野に手渡した。

 橋野はその財布を見て、こんなにはいらないし私が出すと言って固辞したが、上司であるさよりに命令され財布を受け取ると、禁酒法下のアメリカでは、レストラン内では大ぴらに酒が飲めないため、橋野はホテルの支配人にチップをはずみ、比較的安全な酒場を紹介してもらい、項垂れている何人かを連れて、夜の街に出かけて行った。


10月30日 水曜日


「さて、アメリカも今日でお別れです。あとはヨーロッパ各国をのんびり周遊して日本に戻ります。

この研修慰安旅行で、得たもの失ったもの学んだものが各自あるでしょう。それを忘れないで日本での活躍を期待します。」

さよりは、アメリカからロンドンに向かう船上で、社員に対しアメリカでの総括を伝えると後始末を橋野に任せ大西洋クルーズを楽しむことにした。


 渡辺投資投機株式会社の社員一同は、アメリカからイギリスに渡り、ロンドンとパリを見学した後、鉄道でイタリアへ抜け、ピザやパスタなどに舌鼓を打ちつつローマや地中海沿岸を観光し、スエズ運河を抜け紅海からインド洋へ。

途中インドに寄港し、イギリスで出来た伝手でインド領事館を見学したり、インドネシアでは圀松商店の油田を視察したりして、45日かけて日本への帰途の航海に着いたのであった。

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