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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第2章
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異変!?

照和4年9月20日


 「幸一さん、木津川造船から今期の決算書が、届きました。それと、来期の造船計画書、予算計画書も届きました。確認しておいてくださいね。」

と言って、美由紀が大量の書類を幸一の執務机に置いていった。その書類を見た幸一は、

「サファイアに廻して!大阪精錬所となにわ汽船の決算書で手一杯で無理!!」

執務机にはすでに上期決算を迎えて、各社から届けられ積み上げられた書類と格闘中の幸一が、サファイヤに回してもらうように美由紀に頼むが

「サファイアちゃんは、かめちゃんと播磨製鋼所加古川に新合金の視察に行きましたよ。その後大阪精密電気に寄って、ダイオード素子の開発状況を見てから帰って来る予定なので夜遅くなりますよ。」

「明美か拓哉は?」

「昨日、二人で九州に行ったわよ?」

「何しに?新婚旅行か?」


2人はこの年の6月に結婚式を挙げて籍を入れたばっかしだった。


「そうかも?まっ、行き先は九州航空発動機で、投資した新型のエンジンが完成したから、テストを兼ねた御披露目に参加して来るらしいけど?」


新婚旅行じゃなく、視察を兼ねた出張だった二人だが、甘いのは変わらない。


「じゃ、さよりに廻して!」

「さよりちゃんも、3日前から社員旅行に出掛けてていませんよ。」

さよりの不在を伝えると

「もうすぐ帰って来るだろ?有馬温泉への社員旅行なんだから、」

それを聞いた美由紀はあきれた顔をして

「幸一君。さよりちゃんは、有馬温泉になんか行ってないよ。アメリカへ社員を連れて3ヶ月ぐらい行ってくる。って言ってたよ。」

幸一は、驚いたように格闘していた書類から顔を上げ

「ウッソ!あいつ、会社どうする気だ?借入金が山のように有るだろ?返済のために自転車操業してるって言ってたんだけど?」

と言ったが、美由紀の

「そのさよりちゃんの借入金の事で、渡辺銀行の頭取さんが早急に幸一君かサファイアちゃんに話が

したいからって、面談依頼が来てるんだけど?いつにするか返事しなきゃいけないんだけど?」

言葉を聞いて嫌な予感がした幸一は、驚きの顔から疑惑の顔つきになって

「あいつ、何した?」

と言って美由紀を見た。美由紀は、肩を竦めて

「さよりちゃんたら、渡辺銀行からの借入金を全額一括返済したらしいよ。渡辺銀行の頭取さん、

私達に見切られたって思ったみたいで、

『当銀行になにか至らない事が有ったでしょうか!』って真っ青な顔をして、この私に土下座する

勢いで詰め寄って、頭を下げてきましたからね。」

「借入金を全額?おいおい、3千万は下らないかなりの金額じゃないか!そりゃ渡辺銀行からしたら、

もう我々からの援助はしないって思われて大騒ぎになるよなぁ。で、肝心のさより本人は連絡が取りようのない海外に逃げたってことか」

書類の一つを片付け、冷めたお茶を飲みながら美由紀に向き合う幸一。美由紀は

「さよりちゃん曰く、社員福祉の一環と溜まってしまった年間有給休暇の消化、社員教育のための研修及び慰安旅行でアメリカに行くって」

肩をすくめながら答えると

「なんだそりゃ?この時代は社員慰安旅行がまだメジャーじゃないだろう?そもそも海外旅行って?

しかも年休消化ってどうなの?旅行のために有給休暇を取ること自体珍しかったこのご時世に、社員の年休消化のために、普通会社が休ませるわけないだろう?」

訳が分からないと言った顔で美由紀を見ると

「しかも全社員、と言っても8人だけど連れて行っちゃて、事務所はもぬけの殻状態だったって。」

と補足情報も来た。

「そりゃ、頭取さん慌てるなぁ。何考えてる?さよりの奴は?」

「さぁ?何考えてるんだろうねぇ。」

そう言って美由紀は、窓ガラスに写った自分の顔を見た。それを見て幸一が

「気になる?」

ため息一つついて美由紀が

「気にならない訳じゃないけれど、どうしようもないんだよね」

ガラスに映る10代のままの自分の顔を見てため息をつく美由紀だった



 幸一達が気づいた異変が、自分達の身体が老化していないってことだった


 有限会社 銀河社を設立してサファイヤの国家経済学習という名のもとに、各企業の買収、運営をしてきた彼等だったが

10年目にして何とか手掛けた企業が、安定して企業経営ができるようになると、長年付き合った社長達から

「銀河社の皆さんは若いですね。」「若さを保つ秘訣ってなんですか?」と聞かれることが多くなってきた。

 周りの人は年相応に歳を重ねていくのに対して、幸一達の外見は、まったく変わってないことが解ったのであった。

まだ20代後半だった頃は、「まだ二十歳代ですから、そう見えるんですよ。」

と言って笑っていたが、流石にコンサル業を始めて15年も経っても、会社創業の時に撮った写真と

比べても全くと言っていいほど変わってない自分たちの姿を見て、おかしいと気付くと、銀河社初緊急会議が開かれた。


議題は『身体老化』について


 サファイアを除いた地球組が、かめちゃんの船内医療システムで受診した精密検査の結果は、遺伝子情報における細部まで異状なし。

身体的年齢が17歳前後ということ以外は。

いろいろな仮説が飛び出したが、一番説得力があったのは、さよりの出した時間流の流れから、剥離したという仮説だった


さより曰く、

「時間は大河のように流れているが、自分たちはその時間流の大河から、切り離された状態になっているのではないか?」

という物だった。

 時間というものは、光と同じように波の性質と粒子の性質を持ち合わせていて、それは時間の波が

過去から未来に向けて大河のように流れていて、普通は波の性質しか感じ無い物で、時間の経過に

伴う物質の劣化(老化)現象は、時間粒子が物質内部を通過することで起こる現象と仮定すると説明が付くと言った。

時間の波が止まったりループしてると、お腹も空かないし(エネルギーが消費されない)日付も変わらず毎日同じ1日を過ごしているはずだが、それは起きてはいない。

 お腹がすいたり(エネルギーが消費されたり)世の中の流れに置いて行かれない(同じ日を繰り返さない)のは、大河に浮かぶ泡の中というか、閉じ込められた状態で時間本流の波とは、離れず同じように波に流されて(過去から未来へ)はいるが、閉鎖空間内で時間粒子がループもしくは遅延している為なのでは?と言う仮説だった。


「わかりやすく言うと、川の水面に出来た水滴の中から、外をみている感じかな?」

「水面の水滴?」

「そう。水を入れたコップの上から、スポイトで水をぽたぽた落とすと、大体がコップの水の中に

取り込まれるけど、中には水面で弾けて水面に浮かぶ水滴に成ることがあるよね。

 あれは水と水の間に空気の層が出来て、表面張力によって水の上に水滴が浮く現象なんだけど、

あたし達は、その水滴の中に閉じ込められたって感じかな?

 仮定として、時間粒子と言うものがあるとして、時間粒子が通り抜けた分だけ人体や物質に老化劣化が起こるとか仮定したら、あたしたちは、時間粒子の流れから切り離されたのだけど、大きな時間の流れの波からは抜け出せなくて、水滴の中でぐるぐる回っている時間粒子のおかげで活動できるし、大きな時間の流れの波からは離れていないので、時代の流れとともに生きていくことが出来ている。

 けど、身体は新しい時間粒子に晒されないので、老化や劣化が起きないのだと思う。

 元のように歳を取って老人になるには、この閉鎖空間から出ないといけないけど、出方がわからないし、この閉鎖空間を作っている被膜?のようなものが突然割れて、元の時間流に戻るかもしれない。最悪閉鎖空間内の時間粒子が加速して、急激に歳取るかもしれないねぇ」

と説明した

「でも水滴なら、すぐに潰れてコップの水と同化するぞ?こんなに長い時間保てるか?」

「悠久の流れの時間の流れからしたら、水滴が弾けるまでの時間って、10年や100年って刹那の時間だと思うの。」

「じゃ、さより。私達はいつ剥離したと考えられるの?」

「たぶんねぇ。地球を飛び出して最後の跳躍の時、かめちゃんが躓いたでしょ?そん時と思うよ。」

「躓いた?」

「あの跳躍中の亜空間での衝撃事故ですか?」

「そう!かめちゃん。躓いて一瞬、本当に測定できるかどうかの時間、時間の本流から浮いたんだと思う。で、普通ならば本流の中に飛び込んで同化しちゃうんだけど、躓いたのもが中途半端なものだったでしょ?」

「そういえば、亜空間内に出来た宇宙の卵みたいなものでした。」

「そのせいで、微妙な薄さの被膜みたいなものが出来て、その上に乗っちゃたんじゃないかな?水滴の下に出来た空気の層のように、時間という水の上に空間という被膜に浮かんだ、水滴と言う時間の中に閉じ込められたあたし達ってとこかな?」

とさよりは説明した。


「どうして、さよりはそう推論したんだ?」

幸一がその推論にたどり着いた経緯を聞くと

「うん?それはねぇ。サファイヤちゃんとあたしの腕時計の劣化が違いすぎるんだよ。」

と言ってさよりは、と言って腕時計を見せた。サファイヤも自分がしている腕時計を見ると

「そんなに変わっては見えませんが?」

「見た目はね。かめちゃんの測定機に乗せたらすぐにわかるよ。」

「かめちゃん、そうなのですか?」

「そうですね。先ほど身体測定している間に行った腕時計の劣化測定の結果は、さよりさんの方が劣化が少ないです。」

「どうしてわかるのですか?」

不思議そうに、サファイヤが自分の腕時計を見つめていると、さよりが

「サファイヤちゃん。この腕時計の材質でね、わかるんだよ。だってこの腕時計、ミスチルとオリハルコンで出来てるんだよ。だからわずかな時間粒子の流れも感じるわけ。」

と説明した。

「なんてもの(素材)で作っているのですか!」

サファイヤが驚いて腕時計を見るが、美由紀が

「そもそも、なんでそんな測定が出来るものを作ったの?」

聞くと

「ほら、亜空間でかめちゃんが躓いたでしょう。見えない石で。そん時思っちゃったの。これって時間を狂わしてないかな?って。亜空間て、時間と空間が織り交ざっているところじゃない?そこで躓いたんだよ。何かが起きてもおかしくないって思わない?そんで、その測定に好い物が無いかな?って考えてかめちゃんに製作を依頼してたの。で、サファイヤちゃんに腕時計をあげたのは偶々なんだけど、待ち合わせ時間合わせのこともそうなんだけど、あたしとサファイヤちゃんはもとももと違う場所にいたから、比較測定にはちょうどいいかなって思って。でも実際は時間が狂ったというより、体内に流れる時間の流れそのものが、おかしくなってしまったことを、見つけちゃったんだけどね」

と言って、外してた腕時計を自分の左手首に戻した。

 腕時計の素材に驚くみんなをさっくっと無視してさよりが言うことには、ミスチルとオリハルコンの素材の特性として、皮膚に金属アレルギーを起こしにくいのと、時間経過環境を正確に測ることが出来ると言われているらしい。


 精密測定の結果は、表面の劣化が誤差とは言いにくいレベルで差異があったことと、サファイヤが身に着けている腕時計は、3週間に一度は時間を合わせないと3分ほどズレてしまうのに対し、さよりが身に着けている腕時計は、10年以上一度も時間のズレが起きなかったのである

ちなみに腕時計は、自動巻きの機械式だった。



 そんな不老についての緊急会議を行い、今後の身の振り方として


1、顔を知る人を極力減らすため、社長クラス以上の人とは会わない。

2、経営コンサルを受けていることもトップシークレットとする。

3、企業経営、運営の指示は出来るだけ手紙にと電話によるやり取りで進めることとする

4、どうしても直接指示をせざる場合は、極力素顔を見せないようにする

以上を守れない会社からは、手を引き今後その企業の援助を行わないこととする


と定めた。


 ただし例外はある。


 さよりのように平気で社内をうろうろして、知らない人が見たら定年間近な橋野部長が、会社に孫を連れてきていると思われていた。

 さよりは、社員達からはある種の畏怖の念を持って崇められていたりしたが。




「しかし、みゅう(美由紀)は気にしてるな」

書類を処理していた手を休めて幸一が聞いた。

「そりゃ気にするでしょう、幸一君も少しは気にしてるんでしょう?」

近くにあった椅子に座り、美由紀が幸一に訊ねかえすと、伸びをしながら

「そりゃ多少はね。まったく気にしてないのは、本当にさよりを筆頭に明美と拓哉の3人だよ。

さよりなんかは、永遠の17歳!ってはしゃいで喜んでるし、明美と拓哉の二人は何を目指すのか、修行し鍛錬する時間が出来たって喜んでたしな。

政史にしろ正にしろ、俺と同じぐらいは気にしてる。出来ればさよりの言ったことが仮説のままで、

実際はタイムスリップしたせいで、老化が遅いぐらいと思いたいんだから。ま、唯一救いなのは、

不死じゃない可能性が高いってことだよなぁ。」

と言って、机に置かれた次の書類を手に取り、目を通し始めた。

「確かにそうよね。これで不死だったら、この先いつまで生きていけばいいのか。ふ~う。ヤダヤダ、

気分を変えようっと。コーヒー淹れるけど、幸一君もいる?」

美由紀は、気分を変えるためにコーヒーを淹れることを幸一に言って誘うと

「そうだな。貰おうかな?」

「淹れてくるね。」

と言って美由紀が部屋を出ようとしたとき、幸一が

「さよりは、アメリカかぁ。ハワイに行きたいなぁ。なぁみゅう(美由紀)今度みんなでさよりみたいに休みとってさぁ。海外行かない?」

と声をかけてきたので、振り返って

「それいいね!みんなもここんとこ、まともな長期休みとってなかったでしょう?手掛けてることも一段落ついてきた頃だし、休みとってもいいんじゃない?」

と笑顔で答えると

「だよなぁ!ま、さよりみたいに海外は長期になるから調整は大変だけど、最悪短期の国内旅行なら

行ってもかまわないだろう。」

「いいかも!今度のお正月休みなんかどう?どうせどこの会社も休むし。気兼ねなく旅行に行けると思うよ。」

「それいいねぇ!そうと決まったら、今度みんなが集まったら話してみるか?」

「お正月って言ったらスキーって思っちゃったけど、この時代スキー場ってあったっけ?」

「どうだろう?調べてみるか。でもこの時期にさよりが休みを取ってまで、アメリカに行ったのかな?」

カレンダーを見て考え出す幸一。確かに変な時期だった。夏のお盆休みのついでに長期休暇に入るのならわかるが、9月に入ってすぐに長期休暇を取るのは何かおかしい。投資の方もアメリカが好景気で株価も上昇し続けている状態というのにその投資を休んでまでも休暇を取る理由が解らなかった。

「そうよねぇ。しかも社員全員連れていく必要性があったのかな?海外研修ならば、出来のいい人だけでいいと思うのだけど?」

美由紀もカレンダーを見て、タイミングが微妙におかしいことが気になりだした。幸一が

「なんかこの時期に、アメリカでなんかイベントあったけ?」

と言って、資料を探し出すがよくわからず、美由紀が

「アメリカと言えば、先の世界大戦のおかげで、戦需戦後景気で賃金が上がり、国民の購買力が出て消費増加で、好景気が続いて株価も上昇しているけど?」

と首をひねってみるが、幸一の

「だから、稼ぐのはいい時期なのに、それを辞めてまでアメリカに行く理由が無いんだよなぁ。

あいつ行く前になんか言ってなかった?」

と言った言葉で、美由紀は小首をかしげて、思い出してみたところ

「そういえば、『社員に投資家の天国と地獄を見せに行ってくる』って笑ってたけどねぇ」

と、さよりが出かけしなに美由紀に言った言葉を思い出した。

「投資家の天国と地獄?なんだろう?投資家と言えばニューヨークのウォール街かな?天国と地獄?

今儲かってるよなぁ。株価は毎日上昇しているから天国?じゃ、地獄ってなんだろう?株価にも上下があるから、株価が下がると儲けが減るけど、それは地獄とは言わないよなぁ。でも、この好景気の時期に株価が下がる?なんだ、なんか引っかかるなぁ。」

仕事の書類を置いて悩みだした幸一に、熱いコーヒーを入れてあげるか、と思い美由紀が部屋を出ようとすると、突然大きな声で

「嗚呼!!!!思い出した!!やばい!みゅう(美由紀)!至急みんなを集めてくれ!緊急対策会議を招集する!」

と幸一に呼び止められた。それは普段冷静な幸一からは想像できない尋常じゃない慌て方で

「どうしたの?なにかあったの?」

美由紀が問いただすと

「世界大恐慌が起きる。しかも起きるまでもう時間が無い!」

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