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帰るまでが任務です(仮)  作者: ねむり亀
第2章
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マジシャン さより?

 そこは、大きな屋敷だった

明美、美由紀、さよりの三人が連れて来られたのは、勝山組屋敷の奥座敷だった。

「ちょっとこの部屋、すごいねぇ。」

と、勧められた座蒲団に座ってキョロキョロしているさより。

 磨きあげられた床柱がある床の間には、竜虎の掛け軸が飾られ、その下には刀が大小二振り飾られ、部屋の欄間も明らかにお金のかかった細かな装飾がされており、

心地好い風が入る開けはなられた障子の向こうには、手入れの行き届いた品のいい中庭あり、時折猪 威しの『かぽーん』といった音が響き

池には大きな鯉が数十匹ゆったり泳ぐ姿が見える。

「ちょっと、この部屋と私達の服装って、かなり場違いな感じよね。」

美由紀が着ている服装(町娘用の着物)を見てため息をついた。

明美は自然体で、座蒲団に正座していて

みゅう(美由紀)、気にしないでもいいと思うよ。勝手に連れてきた人が悪いんだから。あと、さより。あんまりキョロキョロしない。」


三人は、出されたお茶には口も付けず、待つこと20分。

さよりが待つことに飽きてそわそわしだした頃、廊下側の襖が開き、銀二が顔を出した。

「すまんな、かなり待ったやろ。」

「ほんまに、めっちゃ待ったわ」

「こら!さより。すいません。」

さよりの言葉を嗜めて銀二に頭下げる美由紀

「いや、ええって。」

銀二の後ろから部屋に入ってき初老の男性が

「銀二。この娘さん達か?お前の言ってた、凄腕の奇術士って」

と声をかけた。

「はい、そうです。」

床の間を背に上座に、ドカッと胡座をかいて座ったその男性が、値踏みするような鋭い目付きで、三人を見た。

美由紀はその眼光にすくみ、ヒャッといった小さい悲鳴をあげたが、さよりは、ニコッと微笑んで左手をふった。

明美は、興味なさげに見つめ返した。

「お父さん、そんな怖い目で娘さん達を睨んじゃあきまへん。」

と、初老の男性の横に座る若い女性。

「ふん。しのぶ。見てみぃ。怖がってんのは、1人だけや。おい、銀二。この娘さんら、ほんまに堅気の人間か?」

「たぶん。」

銀二は、頭を掻きながら答えた。

「たぶんってなんや?素性知らんのかいな。」

「銀二さん。このおっちゃん、誰?」

さよりが、初老の男性に指を指して銀二に聞くと、明美が

「勝山組二代目組長、勝山文太だ。あと、さより。あまり人を指で指すのはやめた方がいいと思うよ。」

と注意した。

「そこの娘、ワイのこと知ってんか?」

と明美を睨むと、明美は

「さよりが、勝山組の人にマジックを披露したって言ってたから、ちょこっと調べたぐらいですけど。」

と、しっかり勝山文太の目を見て言い返した。二人ともしばしにらみ合い、文太の方が

「えぇ目をしとる。女にはもったいない目や。うちに来るか?」

「お断りします。」

「即答かいな。しゃあない。で、銀二が惚れ込んだ奇術士って、お前さんか?」

と、言って美由紀を見た。

「いえいえ。私じゃありません。」「あたしだよぉ」

美由紀は、首を横に振り、さよりが、両手を上げて振っていた。

「この小娘かいな。ほなちょっと、やってみぃ。」

さよりを見た文太は、と言って顎をしゃくった。

「うわ~。偉そうに」

さよりは、嫌そうにしかめっ面して唇を尖らせるが美由紀が

「さより。親分さんは、偉いの。」

「さよりさん。すいまへん。披露してくれまへんか?」

ちょっと、拗ねかけたさよりだが、銀二が拝むように手を合わせて頼むと、二人の顔を見たさよりが

「しゃあないか。ほな、準備するね。」

と言って、腕を着物の袖に入れ袂から出して、着物の上半身を脱ぎ両肩があらわになった。

「な、な、何してますの!着物なんか脱いで。」

しのぶが声をあげ、文太が唖然とした顔をし、銀二が絶句した。

着物を脱いださよりは、きょとんとした顔をして、

「どうしたん?」

「お前!裸にならんでも!」

「いやいや、いくら暑くても人前では裸にならないよ。」

と言ったさよりを見ると、着物下には白いノースリーブシャツ着ていて、その下には薄いピンクのブラジャーも付けていたので、

胸とかは見えていなかったが、この時代的には、上半身ほぼ裸のようなものだった。

「サラシ?じゃないなぁ。紛らわしことすんな。」

「ごめん、ごめん。でも、今からするマジックは、この格好しとかないと、難癖付けられやすいからね。」

と言って、さよりは持って来ていた小物入れから、金貨を1枚出すと

「じゃ、準備運動するね。親分さん、この金貨良く調べて下さいな。」

金貨を文太に渡すと、文太は、娘のしのぶ、銀二の三人で触ったり振ったりして、おかしなところがないか調べると、さよりに返す。

さよりは、三人が良く見えるように近づき

「いい?じゃ、始めるね。」

と言って右手で受け取った金貨を握って右手を開くと、金貨が消えていた。

「「「えぇ?」」」

手をひねると、二枚の金貨が指に挟まってできた。

さよりは、ニッコリ微笑んで

「組長さんは、お金持ちなはずよね。こんなところにもお金が、」

と言って文太の目の前で、左手の手のひらを見せて、目の前で握り文太の前で開くと、そこには1枚の金貨が現れた。

「ここにもあるよ。あっここにも」

と、さよりは左手で文太の周りで次々に金貨を取り出して合計10枚にもなった。

するとさよりが、急に天井を見て頷くと

「これは、ここにおわす福の神の金貨だったみたい。神さんが返せって言っているので、返します。」

と言って、右手で1枚持っては、左手に渡して握るという行為を10回繰り返すと金貨全てなくなった。

「しまった!あたしの金貨も神さんにあげちゃった!1枚返して!」

と天井に向かって言ったら、『ゴトン』と音がして卓の上に1枚の金貨が現れた。

文太達は、金貨を凝視した。文太は、現れた金貨を手に取り、

叩いたり振ったりして金貨を調べていたが、結局、首を傾げるしかできなかった。

その金貨をさよりが受け取り、右手から左手に移る間に、金貨と銀貨の2枚になり、その2枚を左手から右手に移すと金貨が3枚になった。

さらに3枚の金貨を右手から左手に移すと、2周り大きな金貨1枚になった。

「銀二。流石だな。お前が惚れ込んだのもわかる。これだけの奇術ならば、お前が絶対に観るべきって言っておったのは納得できるわ。」

文太は笑顔で銀二を褒めて、銀二が照れていた。

「そんなに、銀二さんがあたしの事を褒めていたん?」

「そうよ。外から帰ってくるなり、凄い奇術を見た。目の前でやってて、まったくわからん。あれは奇跡か魔術のようだった。とか言って。もううるさくて。私達は、眉唾物じゃないのって言ったら、見つけたら絶対連れてくるから、その時は驚くなや!ってね」

しのぶが、笑いながら話てくれた。

「さよりさんだったかな。なかなか見応えがあった。今日の」

と言って、文太が懐に手を入れ祝儀袋を出そとした時、さよりが

「じゃ、指も温まったので、本番。いきます。」

と高らかに宣言した。それを聞いて銀二が

「えっ!今のは前座すらではなくて、準備運動だと!」

「そうだよ。だって言ったじゃん。準備運動を始めるって。もしよかったら観客を増やしてもいいよ。

どこから見られても大丈夫だから。」

そこからはさよりの独壇場だった。

目の前で行われているにも関わらず、用意した湯飲みの中のコインが勝手に別の湯飲みに移動したとしか思えない。

文太、しのぶ、銀二。途中からは組の重鎮のような人物が3人、お付きの人6人計9人ほど観客が増えたが、

さよりの周りが人口密度が高くなったこと以外変わりなく、次々とコインマジックを披露していく。

さよりが最も得意とする、トランプを使ったマジックになるころには、観客達から聞こえてくるのは、感嘆詞がついた単語だけとなっていた。

そもそも、さよりの手元を間近で見ていてもまったくタネが解らず見えない。

次々と繰り広げられる魔法としかいいようのないマジック。

トランプに至っては、文太自ら引いたカードに署名しトランプの山にさよりに見えないように入れたものが、

まったく別のところから出てくるのは当たり前で、しのぶの着物の胸元から出てきたときは一同絶句。

瞬く間に2時間が過ぎていった。



「これで、テーブルマジックショーを終わりたいと思います。」

と言ってさよりが、深々と頭を下げて、お辞儀をした。

一同から盛大な拍手が沸き起こり賞賛の声が飛んだ。

「すごいもんやな。銀二。」

興奮が収まらない文太

「はい、御頭。前にうどん屋で見た以上の奇術です。うどん屋でこの奇術を見せられた時は、情けないことに驚きすぎて一瞬声が出ぇへんかったんです。でも、今日はそれ以上で、御頭。いかがでしたか?」

「長いこと生きてきたけど。大したもんだ。」

と、感心していた。

さよりは、ショーが終わったので着物をいそいそと着直して、出したネタの後片付けをしていた。そこへ

「さよりさんでしたかしら」

しのぶが声をかけた。

「そうです。」

「素晴らしかったわ。でもどうして、着物を始める前に脱いだの?脱がなくてもできるんじゃない?」

しのぶが、着付け直したさよりに、疑問を口にした

「出来ますよ。そのほうが簡単ですし。」

と一旦区切ると、まだ信じられないものを見た感じでさよりを見ている男性陣を見て

「でも、そうするとね、着物の袂に隠してるやろとか、胸元に隠したに違いないって思い込んで、身体に触ろうとしてきたり、いちゃもんつけてくるお人がいますから。

こんな姿で堂々と隠す場所が無いように見せておけば、より不思議に思ってくれるし、そんな人もいちゃもん言えまへんやろ。」

さよりは笑いながらしのぶの疑問に答えた。

「確かにそうやね。そんな姿では、隠すところがないものね。おおきに、今日は楽しかったわ。

お連れの皆さんも、お昼用意させるから、食べて行ってね」

「おおきに」

さよりは、屈託のない笑顔を見せた。


仕出し屋で用意させたであろう豪華な懐石料理が、さより達の前に置かれた。

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