拠点造り
その夜は、銀行の支店長に教えてもらった手ごろな宿に泊まることに。
寝る前に一つの部屋に集まり明日からの行動を確認して就寝
翌朝、宿で朝食をとった後、幸一、サファイヤ、かめちゃんの3人は拠点となる住居を紹介してもらうために、昨日行った銀行へ
残りのメンバーは大阪の街を探索したいさより、美由紀、明美の女性チームと、自分たちの未来へとつながっている過去なのかを検証したい政史、正、拓哉の男性チームに分かれて自由行動としたが、
注意事項として明らかにこの時代からしてオーバーテクノロジーを見せることと、大道芸もどきは禁止とした。
さより曰く、お金があったら目立つ真似はしないということなので、全員に適当な金額のお金を渡すことで、ある意味安心して幸一は出かけることができた。
もちろん、美由紀にさよりを見張ることをしっかり頼んではいたが。
昼過ぎに銀行に着いた幸一達は、銀行から物件案内の不動産屋1人を紹介してもらい、今すぐに中を見れる物件を紹介してもらうことに。
不動産屋と幸一達を合わせた4人が、銀行が呼んでくれた2台の人力車に分乗して物件の見学に出かけた
人力車がしばらく走って着いたのは、川口にある外国人居留地
なんでも、神戸に移って行った外国人の洋風屋敷が残っているということだった
最初に案内された家は、風格十分な大きな3階建ての洋館だった
しかし、1階のリビングがレンガ造りの暖炉が備え付けられている立派で大きいだけが印象に残る屋敷で、屋敷全体的な部屋のレイアウトがおかしく、人の歩く動線を考えてない造りになっており、
階段も急こう配で、見栄で住むならいいけど、長期にわたっての暮しには困るだろうなぁと思い、却下
次に見せてもらったのは、庭が整備されていて、こじんまりとした感じの2階建ての洋館で、中に入るとゆったりとした造りで、デザインも品良く1部屋の大きさも十分でなかなか良かったが
残念なことに部屋数がキッチンとリビングを除くと3部屋しかなく、小家族で住むにはいいんだけど9人で住むとなると狭いとなり却下してしまい
家族を持ったらこう言う家に住みたいと、思わせる造りだっただけに後ろ髪を引かれる思いだった。
それに、川口だと市内の中心に出るには交通の便がいまいちなので、交通の便が良く買い物がしやすい、いい物件がないのか?と聞くと
洋館ではなく少し古い平屋の商家ならば北浜に1件あるということなので、見に行くことに
紹介された商家というのは、間口が5間、奥行き22間の約100坪の土地にロの字作られた建物で、
真ん中に中庭があり、正面の玄関のガラス引戸の入口から通り土間を通って、小振りな造りの倉の前まで踏み固められた道のようになっており、その周りに桜や楓等の植木を配置していて、その中庭を囲むように作られた廊下がガラス引き戸で仕切られていて、部屋の障子を開けると中庭が一望でき、部屋に居ながら花見に、紅葉狩りが楽しめる造りになっていた。
ガラス引き戸は、開け放つと隅に一つに纏る様に作られており、夏の暑い日には、風が家中に入り涼しさを感じられた
各部屋も畳の和室ながら、関西間の箪笥置きは別に作ってある6畳間が正面から見て、左右に4部屋、それ以外に玄関入口の左側に、接客用だったであろう応接家具が置かれた応接間、右に仕事場であっただろう帳場、右の蔵の横に従業員用の寝床だったと思われる大きな押入れだけがある8畳間が2部屋、左の蔵の横には土間ながら調理場の竈場あり、大きな釜が3つ備え付けられてあり、その横には焼きもの用の竈も用意されてあった
不思議なことに各部屋には、中が空っぽの箪笥やちゃぶ台などが数点有った。
不動産屋いわく、部屋にある家具は、前の持ち主が使っていた物で、気に入れば使ってもいいし、
邪魔なら捨ててしまっても構わないとのことだった。
調理場の隣に、三人で入っても大丈夫な広い洗い場のある大きめの浴室が有り、便所も二つあった。
「なんか大きな商家ですね。これ。どうしてこの地の利の良い、この屋敷が売りに出てるんですか?
ここならいくらでも買い手がいるでしょうに。」
幸一は、造りがしっかりしている屋敷を見て、なぜこの屋敷が今まで買い手がつかなかったが不思議だった。
「なんか、訳ありの物件じゃないですか?」
と聞いてみたところ
「やっぱりそこが気になりますかぁ。」
不動産屋は、バレましたかって顔をすると
「実は、この前の主人が一家共々、夜逃げした屋敷なんですわ」
「一家そろって夜逃げ?それは何でですか?」
「隠す内容やおまへんからな、言いますけど、前の店主が株で大損こきましてな。借金を山のようにこさえて、返せんようになりましてなぁ」
と、不動屋さんが苦笑いしながら答えてくれた。
「だから、持って行けなかった家具類が残っているのか。でも、ここって場所がいいところですよね。
すぐにでも買い手が付きそうなんですけど?」
「いやぁ。それがですなぁ、ここら界隈、株で勝負している相場師が多いんですけど、株で失敗した者がが住んでた家でしゃろ、
そんな一度ケチのついた家になんか住めるか、ゲンが悪いって言いましてな。誰も買いませんのや。
と言って他の商売人は、ちょっと場所が不便なんですわ。荷揚げする大川からも少し遠いし、京都や
神戸につながる街道からも少し離れてるよって、商品を運び込む距離が微妙に中途半端やさかいなぁ。
建物自体も、もう少し普通の造りか、土地が小さかったら普通に屋敷として使えますけど。
お宅から見てもこの造り、屋敷とするには建て方が変でしゃろ。そうゆうて、1回建て壊してから
新しく建て直しするには、家自体の造りはしっかりしとるし、建具とかが結構金をかけてて、
エエもん使こうとるさかい、そこまで金をかけて建て替えるのにはもったいないしな。
しかし商売するには、逆にもっと大きければよかったんやけど。
ほれ、あの蔵を見てみぃ。小さすぎますやろ?あれでは、大量の商品が入れへん。といって、大きな蔵を立てようにも土地もないしなぁ
住むにしろ商売するにしろ、どっちつかずの大きさなんですわ。だから引き合いはありましたけど、
見に来たら誰も買いよりまへんでしたんや。」
不動産屋のぼやきとも言える言葉に、納得する幸一達だった。
「ここ、何を商売していたんですか?」
「両替商ですわ。小商いでそこそこ稼いでおったんやけど、維新以降、財閥系の銀行が幅をきかしましてな、一発株で当てて店を大きくしようとしてですな。」
と、苦笑いする不動産屋。
「で、どないします?他の物件を見るなら、明日でもよかったら紹介しますけど?」
と言われ幸一は、かめちゃんとサファイアに相談しようと、二人の顔を見ると、二人ともなぜだか目がキラキラ輝いていて、この家に決めて欲しそうな感じだった。そこで
「ちょっと待ってもらえますか?。二人と相談したいので。」
と言って、二人を庭のすみに連れていき意見を聞くことに。
「この家は、どう?」
するとサファイアが興奮したように
「この家にしましょう!こんなに自然と一体化している家屋は初めてです!家屋の素材も天然素材で造られているなんて!どうしましょう!しかも、植物素材だけで構築された家屋だなんて!夢のようです!それに、部屋に有った家具って付いているのでしょう!あんなアンティークな家具。素敵です」
と、えらくお気に入りの様子。かめちゃんも興奮した口調で
「幸一さん、あの台所は、私への挑戦ですね。あの竈に釜。えぇ、受けてたとうじゃないですか!」
いやいやあなたアンドロイドだったよね?そもそも、かめちゃん。宇宙巡洋艦だったよね。誰と戦うの
と突っ込みたくなる斜め右上の意見をしてきた。その様子を見て
「この家が二人とも気に入ったってことでいいね。」
と聞くと、二人が揃って頷くのを見て、二人をそこに置き、幸一は不動産屋に近づき
「ここは、いくらですか?」
と値段を聞くと
「ほう、ここ買いまんのか?ここやったら、1580円ってとこですけど?」
と笑顔で値段を口にした不動産屋。幸一は、訳有り物件だから値切ってもいいなと思って
「もう少し安くなりませんか?」
と、軽く値引きできるか聞いてみたら
「ま、あの支店長さんの紹介やさかいなぁ。異国のべっぴんさんのお姫様やし、ほな、端数を切って1550円ってことで、どないや?」
それを聞いて幸一は、今までの口調(関東方面の言葉)から関西弁の口調に変えて
「不動産屋はん、それ、端数切ってないやん。端数切ったら1000円やろ」
と笑って金額の大幅な訂正をすると、幸一の言葉を聞いて不動産屋が笑顔を消し目を細めて
「にいちゃん、大阪の人間か?」
「どうやろなぁ?」
幸一がニヤリと笑いながら不動産屋を見る。
「さっきまでの言葉が、東京者の言葉やったからなぁ。普通、東京者は、あのぐらいの値引きで喜んで買いよるのに。
なんかだまされた感じやわ。しかも、東京者が大阪の言葉しゃべっても、すぐにわかるおかしな感じがあるんやけど、兄ちゃんの言葉にはないなぁ。こりゃ気ぃいれなあかんな。」
と不動産屋もニヤリと笑った。
そこから、幸一と不動産屋の値段の激しい駆け引きが始まり、最終的に不動産屋が
「もう、わしの負けや!984円1銭や!もう、これ以上は知らん!もう1銭も値引かん!」
と言って算盤を、畳の上に置いて幸一を睨み付けた。
「なんで、この値段なん?」
と幸一が聞くと
「あんさんに負けて、くやしいや!」
と言って笑った。幸一が
「じゃ、商談成立ってことで、休戦ですな。」
と言って笑顔で、算盤に9銭を足して、984円10銭とした。算盤を見て不動産屋は
「あんさん、おもろいなぁ。」
幸一は頭をかきながら
「それほどでもないんやけどねぇ。支払いは、銀行でもええかな?」
「それでかまいまへん。こちらで登記上の書き替えしますよって、3日後、午前中に銀行でお会いしまひょ。」
「お願いいたします。」
幸一の後ろで二人が手を取り合って喜んで跳ね回っていたのには、苦笑するしかなかった。
北浜の街を歩いていると、結構古い家屋が残ってたりするんですよね




