説得?
どこからとも現れたここの施設の管理人と名乗る美少女の案内の元、艦内の貴賓室に
連れてこられて、一通りの説明を受けた七人は、温かい紅茶とケーキのもてなしを
受けていた
「えっと、まずこの宇宙船?は、銀河民主共和帝国というこの銀河を統一した
国家に所属する軍艦で、戦闘終了で帰還命令を受けて航海中に事故に遭って、
損傷が激しく、乗員たちは無事全員脱出させたけど、あなたはこの惑星というか地球に
緊急着陸して今まで修理をしていたってことね?」
石井明美が胡散臭そうに、艦内AIという目の前に居る、美少女とも言っていい
少女の話を用意してもらったメモ用紙に書いた内容を要約して確認するように聞いた
「はい、そうです。ただ私だけでは、この船を動かす上官たる乗務員がいないという
条件不足なので、申し訳ないのですが、本国まで帰るまでの期間でだけでいいので、
乗務員として搭乗をお願いできないかしら?」
小首をかしげて、にっこりと微笑んだ
「本国から、救援を依頼するとか、応援を呼ぶとかできないの?」
少女は悲しそうに俯いて
「それが出来たらしているのですけど、通信が届かないのか返事がないのです。」
と答えた。
「拘束期間はそんなにかかるものじゃないと思います。私の計算では、5回のジャンプで時間にして、この惑星の自転周期で10回転か長くても13回転以内には、本国の帝星の近くにたどり着くと思われます。
それから、あなた達を送り返す手続きしてここまで帰ってくるのに、さらに13回転か15回転あれば十分と思いますし、それ相応の報奨をもって報いる用意もあります。」
と言って、彼女の背丈ほどの高さに積み上げた、金塊を示した。
「どうか皆様のお力で、この私を故郷に帰還させてください!よろしくお願いします。」
少女は、顔を上げ七人にうっすら、瞳を潤ませ真摯な眼差しで、訴えた。
「あなた方にとっても、そんなに悪い話じゃないと思うのです。この艦の操船は、全てこの私が行いますし、食事も三食付けます。なんでしたら、デザートも食べ放題。
皆様には、この惑星の自転周期で21から30回転の時間を、私と共に航海を、お付き合いしていただけるだけで、こちらにあります、重さにして約1トンの金塊を手に入れることができるのですよ。」
さらにテーブルに身を乗り出して、
「今、契約書にサインしていただければ、航海中の皆様の身の安全及び健康管理もこの私が万全の配慮を払います!」
と言って契約書を差し出してきた
7人は顔を見渡した
「ちょっと質問、いいかな?」
藤川拓哉が、すっかり冷めてしまった紅茶を口につけてから、気になっている事を、聞くことにした
「はい、なんでしょう!私にできるご説明は何でもお答えします!」
満面の笑顔を見せながら答える美少女
「二つあるんだけど、」
「はい、はい!!なんでしょう!」
「君の後ろに立って銃器をこちらに向けている人達は、なにをしているのかな? それと、その契約書にサインしなかったら、どうなるのかな?」
美少女の後ろに、7体の白兵戦用アンドロイドが銃器の安全装置をはずして構えていた。
「えっと、この人達は私のまっ、ボディーガード?みたいなもんですから、それほど気になさらないでください。」
にこっと屈託のない笑顔を見せ
「契約書にサインがいただけないのなら、仕方がありませんが情報漏洩防止のために」
屈託のない笑顔が底冷えのする冷笑に変わった
「後ろの人達が、何かすると思いますけど?」
「ちょ、ちょっと待った!!」
橋本正が叫んだ
「君達には、ロボット三原則が登録されてないのか!」
「はいぃ?なんですか、その三原則って?」
きょとんとされた顔で聞き返されたので、橋本正は
「ロボット三原則とは
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
という言葉、しらないのか?」
美少女は、きょとんとした顔をして、
「面白い、言葉ですわねぇ~。はじめて聞きましたわ。そんな言葉もあるのですね。」
美少女は、人差し指で自分の頬をつつきながら
「しかし残念ですね。肝心なことをお忘れですかぁ?この私が軍艦であるという事を」
冷笑から背筋が凍るような笑顔に変わる
「軍艦たる私は敵に対して、もてる武器を最大限使い、敵対する者を完膚なきまで撃破してもいいという攻撃権を持っているのですよ?その私に、人間に危害を及ぼしてはならない?お笑いですね。」
肩をすくめ、両手を上げる仕草をして
「敵性の人物、そう、例えばスパイ行為をしている者に対して、即刻殺害してもよいというぐらいの権利は、私にはあるのですよ」
嬉しそうに語る、美少女が言い放った。後ろに控えている、重装備のアンドロイドが、一斉に銃を構えた。
「「ひぃぃぃぃ~」」
仲野美由紀と柿本さよりは、お互いを抱きしめて、悲鳴を上げるしかなかった。
7人を見渡し
「その敵性って言うことを認めるのは、この私」
橋本正は、返す言葉が無かった。村山政史は頭を抱えて唸ることしかできなかった。藤川拓哉と石井明美は、見せられた契約書を睨みつけていた。
緊迫した空気の中
「話し中にすいませんけど、かめちゃん ケーキと紅茶のお代わりもらえますか?」
津田幸一は、のほほんとした感じで、ケーキと紅茶のお代わりを求めた。
この!空気読め!っていう周りの視線を一身に浴びているが気にするでもなく
「お代わりですか?いいですよ」
今まで笑顔で人を殺す事ができる顔をしていた少女が、戸惑った感じで紅茶をポットからカップに注ぎ、ケーキケースから新しいケーキを出しながら
「あの、かめちゃんって誰ですか?」
と聞いた
「うん?君の事だけど?」
なんで聞くの?って感じで津田幸一は答えた
「だって、君を重巡洋艦タートルエクスプレスのAIって長くて言いにくいでしょう?だから、かめちゃん」
と言ってにこって笑った
「はぁ~タートルだから、かめちゃんね」
明美が、ため息と共につぶやいた
「で、かめちゃん、俺たちがその乗員契約をしたら、その銃を構えている、後ろのおっかない人たちはどっかに行ってくれるのかな?」
幸一はフォークで、かめちゃんの後ろを示した。
「それはもちろんですわ!乗務員に銃を向けるなんて、できませんもの」
銃を下げさせる、かめちゃん
「明美に拓哉、俺は契約してもいいと思うけど、何か契約の中身で変えてほしい事や追加してほしい事があったら、今のうちに相談した方がいいんじゃないかな?」
契約書を睨んでいた明美が、
「そうねぇ、期間内の艦内での待遇面では、このままでも私は、問題ないと思うよ」
何か考え事をしていた拓哉は
「これだけ怖い思いもしたし、脅されてサインさせられるような感じなので報奨は上乗せを求めるけどいいかな? そこの金塊1トンだったけ?それじゃ足りないので、ここのドックというか、今の時点で施設にある物の一切合財、我々が使用するための全指揮権を譲るってことも入れてほしいなぁ」
クラブでも交渉事はいつもこの3人が引き受けて、有利な条件で交渉を成立させてきていたので、あとの4人は黙ってみているだけだった。
かめちゃんは契約条件について変更や追加条件が矛盾していないかを精査後、契約内容として不整合の点が見つからなかったので
「あなた方の追加、変更条件を認めます。こちらに変更いたしました契約書があります。
ご確認ください。契約は、サインした時点で効力を発揮します。よろしいですか?」
7人と1艦は契約書の内容を再度確認して、サインをして契約の締結を行った
その時、幸一、拓哉、明美の3人がニヤリと悪い顔で笑った事に、かめちゃんは気付かなかった